機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第四十八話 フェイク ―嘘が真実を覆う時―
ミネルバの食堂に、重苦しい空気が漂っていた。
壁のスクリーンには、世界中に拡散された「ユニウスセブン落下の真実」と題された映像。
ミネルバがタンホイザーを発射し、地球連合艦隊を撃沈――
ザフトMSがユニウスの破片にブースターを取り付け、地球へと落とす。
あまりにも精巧で、まるで現場の記録映像そのもの。
世界中のニュース番組が同時に報じ、SNSでは〈#ザフトの裏切り〉〈#ミネルバの罪〉が瞬く間にトレンドを独占した。
怒りと悲嘆、そして憎悪の渦。
――その中心に、彼らの船があった。
「何よあれ! 全部偽物じゃない!!」
ルナマリアがテーブルを叩き、椅子を蹴り飛ばすように立ち上がった。
「私たちが命懸けで砕いたのに、これじゃ全部嘘にされるじゃない!」
ヴィーノとヨウランは呆然と画面を見つめていた。
「マジかよ……」「冗談だろ……俺たち、あの時死ぬ思いで――」
「こんなの認めたら……!」
ルナマリアの声が震える。
「私たちは……世界中の人たちから憎まれるのよ!」
シンが拳を握りしめ、歯を食いしばった。
「誰がこんなことを……ッ! ふざけるなよ!」
その背後で、アグネスがため息をつくように言った。
「これじゃイメージダウンもいいところね。……私の経歴に傷がついたわ」
軽口のように聞こえたが、握った拳は白く、血が滲むほど強く力がこもっていた。
「こんな屈辱、初めてよ」
ルナマリアが振り返り、噛みつくように叫ぶ。
「そんなこと言ってる場合!? これじゃ、ザフト全体が敵扱いよ!」
アグネスは肩をすくめ、「冷静になりなさい」とでも言いたげに目を逸らす。
その時、レイが立ち上がった。
「みんな、落ち着け」
静かだが、重みのある声。
「これはフェイクだ。いずれプラントが真実を明らかにしてくれる」
レイの瞳は揺らがない。
「こんなフェイクを認めたら、プラントが一方的な悪者にされる。
――ギルバート・デュランダル議長が、そのような状態を放置しているはずがない」
その確信に満ちた口調に、全員が一瞬言葉を失った。
「議長が……?」ルナマリアが不安げに問う。
「そうだ。議長は必ず動く。俺は、あの人の信念を信じている」
その信頼の響きは、鋼のように強く、艦内の空気を少しずつ鎮めていった。
シンが息を吐く。「……信じるしかない、か」
ヴィーノが腕を組み、ヨウランも無言でうなずいた。
アグネスは小さく笑って、「信仰心が強いのね」と皮肉を言うが、声に力はなかった。
ニコルはそんな彼らを見回し、静かに言葉を継ぐ。
「レイの言う通りだよ。真実は時間がかかっても必ず浮かび上がる。……僕はキラとアスランを信じてる。彼らなら、この嘘を暴いてくれる」
アグネスが視線を向ける。「顔がいいだけの優男だと思ってたけど……少し見直したわ」
ニコルは微笑みながら答える。
「信じることは簡単じゃない。でも、信じないと何も変わらないからね」
レイが締めくくるように低く言った。
「デュランダル議長は必ず動く。……俺はそう信じている」
――だが、その頃、オーブでは。
議会は修羅場だった。
映像を前に、カガリ・ユラ・アスハは議員席に立たされていた。
「代表! この映像について説明を!」
「ミネルバが地球軍艦隊を撃沈したのは事実ではないのですか!?」
「これでもまだ、プラントとの中立を続けると!?」
怒号と罵声。
議場の空気は、もはや理性を失っていた。
「そんな真偽の分からない映像一つで、世界をまた二つに分ける気か!」
カガリが叫ぶ。
「オーブは中立だ! 誰の憎しみにも加担しない!」
しかし、その声はかき消された。
「代表の発言こそ火に油です!」
「中立などと綺麗事を言っているから、オーブは舐められるんだ!」
「あなたの理想は、現実を見ない夢想にすぎない!」
マイクが何本も突き出され、光が閃く。
「オーブはどちらの味方をするのか!?」「このままでは地球全体を敵に回すぞ!」
「説明を!」「責任を!」「どちらにつくのか!」
声が、罵声と怒号の境界を越えた。
記者も議員も、まるで血を求める獣の群れのようだった。
(こんなにも……誰も、話を聞こうとしないのか……)
カガリは唇を噛み、拳を握った。
それでも退かない。
「……オーブは、戦争を望まない! 私たちは、再び人が人を殺す世界を作らせはしない!」
しかし、その声にはもう誰も耳を傾けていなかった。
議場は怒号に覆われ、閃光が乱れ飛ぶ。
孤立したカガリの姿は、まるで嵐の中に立つ一人の少女のようだった。
彼女の叫びは、かき消されていく。
(アスラン……あなたが、ここにいてくれたら……)
――そして、遠く離れたミネルバの食堂では。
スクリーンに映るその光景を見つめながら、ニコルが静かに呟いた。
「……どうか、間に合って」
レイは無言で頷き、シンが拳を握る。
アグネスは黙って髪をかき上げ、ルナマリアは震える声で言った。
「……カガリ代表、あんなに……一人で戦ってるのね」
ニコルはその言葉に応えるように呟く。
「誰かが、彼女を助けに行く。きっと」
――そして、その「誰か」が現れるのは、もうすぐだった。
――世界を動かすのは、事実ではない。信じたい“物語”だ。
偽りの映像が拡散し、ザフトは裏切りの象徴と化した。
信じる者、疑う者。
そして――誰かを信じることでしか立てない者。
次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH
「第四十九話 ―嘘の海に立つ者たち―」
真実は、まだ沈黙の中にある――。