機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第五十三話 紅の海――開戦の火は、海を染めて

 第五十三話 紅の海――開戦の火は、海を染めて

 

 灰色の雲が低く垂れこめ、海面は荒れ狂うように波打っていた。

 その重たい空気を裂くように、無数の閃光が走る。

 ――地球連合艦隊、先制攻撃。

 白い航跡を引いてミサイル群が飛来し、轟音と共に海上を震わせた。

 

 タリア艦長の指令が艦内に響き渡る。

 

 「ミサイルは迎撃! ルナマリアのセイバーにMS発進援護を! MS部隊発進。対艦・対空ミサイル発射、主砲は正面の敵旗艦を狙うわ!!」

 

 つまり、強行突破。

 退路を断ち、敵のど真ん中を突き抜けるという、絶望的な決断だった。

 

 「えぇぇぇっ!? そんなの無茶ですよ!!」

 副官アーサーが悲鳴のような声を上げる。

 だがタリアは表情を変えず、淡々と答えた。

 「無茶じゃないわ。ミネルバにはセカンドステージのMSがいる。それに――逃げ切れると思う?」

 

 敵艦隊は、空母四隻に駆逐艦含むおよそ三十隻。

 空母を中心に輪形陣を展開する大艦隊。

 搭載されたMSが一斉に離艦すれば、ミネルバを包囲するのに数分もかからない。

 逃げるという選択肢は、最初から存在していなかった。

 

 「やるしかありませんね!」

 アーサーが歯を食いしばる。

 「トリスタン、イゾルデ、正面の敵艦隊に照準! 撃て!」

 

 轟音。

 ミネルバの主砲トリスタンと副砲イゾルデが青白い閃光を放ち、敵艦の一角を薙ぎ払う。

 その衝撃波に、海面が爆ぜた。

 

 「ミネルバをやらせはしないわ!」

 そう言ってルナマリアのセイバーが赤い翼を羽ばたかせて、敵機の群れに襲い掛かる。

 セイバーの圧倒的な機動力の違いに、敵MS部隊は翻弄された。

 その隙にミネルバはカタパルトを開いてMSを発進させる。

 

 「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!」

 ハッチが開き、炎を巻き上げながら機体が射出される。

 シンの視界に広がるのは、灰色の空と赤い閃光。

 “必ず帰ってこい”――カガリの声が脳裏に蘇る。

 そして、ステラの無垢な笑顔。

 絶対に、死ねない。

 

 「レイ・ザ・バレル、カオス、出る」

 緑色のランプが点滅し、レイのカオスが続く。

 金属の軋む音と共に、二機は炎を引きながら発進した。

 「行くぞ、シン」

 「了解!」

 シンのコアスプレンダーが空中で合体しインパルスとなる。

 二つの光が、曇天を裂いた。

 

 そして――異形の影がカタパルトに乗る。

 ニコルのアビス。

 そして黒き獣、アグネスのガイア。

 「アグネス」

 通信が入る。

 「なによ。振り落とされるなって言いたいの?」

 「違う。君を信頼している。一緒に頑張ろう」

 「……言うまでもないわ。そっちこそ、あっさりやられないでよね」

 「努力するよ」

 

 短いやり取りの後、通信が切れた。

 注意でも慰めでもない。信頼している。

 その一言が、彼女の胸を締めつけた。

 

 「信頼している……? ずるいわね、あなた。そんなこと言われたら、墜とされるわけにいかないじゃない」

 操縦桿を握る手に力がこもる。

 「アグネス・ギーベンラート、ガイア発進!」

 

 ガイアが跳躍し、アビスがMA形態へ変形して着水。

 その上に黒き獣が滑る。まるで波を駆けるサーファーのように。

 海上を走る二機の姿に、艦橋のクルーたちが息を呑んだ。

 

 「このっ、落ちろォォッ!!」

 空中ではルナマリアのセイバーが、シンたちの発艦を援護していた。

 無数のウィンダムとダガーLが取り囲む。

 だが、彼女の操縦はかつてとは違っていた。

 「シン、見てなさい……!」

 MA形態のセイバーが急旋回。ビームが空を裂き、敵機を一撃で焼き切る。

 苦手だった射撃はニコルの指導とルナの努力で克服していた。

 紅の軌跡が、戦場に花を咲かせた。

 

 「敵機、第二波接近!」

 メイリンが艦橋で叫ぶ。

 「迎撃ミサイル、射程に入ります!」

 「ディスバール発射!」

 副長アーサーが迎撃ミサイル発射を命じる。

 ミネルバから放たれたミサイル群が空中で爆ぜ、夜空に浮かぶような花火を描く。

 爆光の中、敵MSが次々と炎を上げて墜ちていく。

 

 「行けるか、シン」

 レイの声が通信を走る。

 「もちろん。俺たちの力、見せてやろう!」

 インパルスがビームライフルを放つと敵機がまとめてビームに貫かれた。

 カオスの大型ビームがインパルスを支援する。

 緑と白の光が空を切り裂いた。

 

 インパルスとカオス――息の合った連携が次々と敵機を撃墜していく。

 インパルスの放つビームが敵陣を切り裂き、カオスの追撃弾が残党を正確に撃ち抜く。

 「行けぇぇぇぇ!!」

 シンの叫びと共に、敵編隊が爆散した。

 「やらせはしない」

 レイの冷静な声が重なる。

 背中を守り合う二機の姿は、まるで双翼。

 火線が交錯し、白と蒼の残光が空を彩った。

 

 戦場の熱風の中で、シンは思った。

 一人ではない。

 戦う理由も、支える仲間も、今は確かにここにある。

 

 その頃、海面すれすれを滑るガイアとアビスが、敵艦隊へと突っ込んでいた。

 「沈みなさい!」

 ガイアのビームが駆逐艦の艦橋を貫き、炎が噴き上がる。

 直後、アビスの魚雷が命中。爆風が海を割った。

 

 「次、行くわよ!」

 「了解!」

 二機が波を蹴り、駆逐艦の側面を疾走する。

 ガイアが跳んだ。

 すれ違いざまにビームブレードが閃き、艦橋が一刀両断された。

 アグネスのガイアが跳び上がり、着水する地点には――既にアビスが待っていた。

 「やるじゃない」

 「信頼しているからね」

 その短い言葉の裏に、アグネスは言葉を詰まらせる。

 アグネスならやれるとニコルは信じている。

 今まで自分に釣り合うような男を探し求めてきたが、媚びずに対等に接してくれる男は少なかった。

 

 空はますます暗くなり、雷鳴が遠くで唸る。

 燃え上がる海と、硝煙の匂い。

 その中で、シンたちは次々と敵機を撃ち落としていく。

 しかし――。

 

 「敵艦より大型機体の反応! ……複数です!」

 メイリンの報告に、艦橋が一瞬静まり返った。

 「映像を映して!」

 モニターに映し出されたのは、半円形の異形。

 装甲板に覆われたヤシガニに似た巨大な機体が、ゆっくりと姿を現す。

 

 「……あれは……MA?」

 アーサーが声を失う。

 

 外見は巨大な甲殻類を思わせる。全長四十七メートル。

 四機の怪物が、空母群のデッキから浮上していた。

 

 YMAF-X6BDザムザザー

 連合が誇る新型MA。プラントとの決戦兵器として極秘開発されたものだ。

 

 その砲口がゆっくりとミネルバへ向く。

 光が収束する。

 「来るぞ!」

 次の瞬間、紅い閃光が海を貫いた。

 

 海面が爆ぜ、波が燃える。

 衝撃波がミネルバを襲い、艦が大きく傾いた。

 「被弾、左舷外装に損傷! 損害大!」

 メイリンの声が震える。

 「敵MA、エネルギー砲を再充填中!」

 

 「全機回避! MS部隊は散開! ミネルバ、主砲照準を合わせなさい!」

 タリアの声が冷徹に響く。

 

 曇天の下、閃光が交錯する。

 紅い光線が海を薙ぎ払い、轟音が世界を震わせた。

 灰色の海が炎に染まり、空からは黒い雨が降り始める。

 

 ――戦争は、もう止まらない。

 誰の心にも、もはや迷いはなかった。

 

 ミネルバの主砲が再び唸りを上げ、ザムザザーの影へと向けて放たれる。

 その閃光が、灰色の空を紅に染めた。

 

 

 次回予告

 

 ――荒れ狂う海は、まるで世界の悲鳴のように吼えていた。

 降りしきる雨は、誰の涙か。

 守りたい人の名を胸に刻むたび、少年たちはまた剣を取る。

 

 紅い閃光は、ただの光ではない。

 後悔と誓いが燃え上がり、運命を切り開く“炎”となる。

 

 鋼鉄が悲鳴を上げ、巨躯が影を落とし、嵐は容赦なく牙を剥く。

 力だけでも、想いだけでも届かない場所がある。

 

 それでも――彼らは進む。

 いつかこの海が静まる日を信じて、荒海の向こうにある“明日”へと。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第五十四話 荒海の刃 ―紅の閃光―

 

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