機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第五十四話 荒海の刃 ―紅の閃光―
ミネルバの主砲タンホイザーが轟音を立て、青白い閃光が海を貫いた。
ビームはザムザザーの甲殻を正確に撃ち抜いた――が、次の瞬間、眩い反射光が海面を照り返した。
弾いた。
装甲ではなく、ビームを弾いたのだ。
「……なんだと!?」
艦橋に響いたアーサーの叫びが沈黙を裂く。
再び放たれたザムザザーのビームが被弾した衝撃で、ミネルバの甲板が軋み艦体を包む波飛沫が視界を白く染める。
『反射だと? あれは装甲ではないのか!』
『違います! あれは――反射装置です!』
ニコルの声が即座に飛ぶ。
彼は、あの禍々しい輝きを知っていた。かつて自分の敵であり、今は仲間のシャニ・アンドラスのフォビドゥンガンダムが持っていたあの装備。
――ビーム兵器を無効化する鏡の盾。
ゲシュマイディッヒ・パンツァー。
『艦長、ビーム兵器は通用しません。シンをソードシルエットに。接近戦で斬るしかありません!』
『近接戦闘ですって? あの巨体を!?』
『やるしかありません。シンの接近戦に、全員の運命を賭けます』
タリアが短い沈黙の後、「了解」とだけ返る。
同時にデッキが振動し、カタパルトからソードシルエットが射出される。
空中でドッキングしたソードインパルス――シン・アスカが、嵐の空へと駆け上がる。
「でりゃああああっ!!」
紅い残光が海を切り裂いた。
シンの対艦刀が一閃し、迫るミサイルを両断。爆風が周囲を包む。
連合の駆逐艦群から雨のようにミサイルが放たれた。
しかしそれらは、ルナマリアのセイバーとレイのカオスが次々と迎撃していった。
「シンの背中は――私が守る!!」
ルナマリアのセイバーが翻り、赤い残光が嵐の海に舞う。
ウィンダム隊の間を縫い、セイバーのビームが正確に敵を貫いた。
同時にレイのカオスからの連射が爆光を生み、三機が連鎖的に沈む。
レイは無言で歯を食いしばった。
(愛する者を守る力……これが、ルナマリアを強くしているのか)
レイの胸の奥に、冷たい痛みと淡い羨望が交錯した。
ミネルバ艦橋では制御盤が赤く点滅し続けていた。
艦を揺らす衝撃のたびにタリアの髪が乱れる。
「被弾個所修復急げ! 防御フィールド最大! タンホイザー再充填開始!」
「了解っ! タンホイザー充填!」
アーサーの声が悲鳴に近い。
その時、通信が開かれた。
『ニコル。もう一人、接近戦が得意な子を忘れてない?』
アグネスの声だ。
背後で雷鳴が轟き、海風に乗って彼女の声が不敵に笑うように聞こえた。
『……ガイアで海上の接近戦は無謀だ』
『あなた、さっき“信頼してる”って言ったわよね。それ、嘘?』
短い沈黙。
『……わかった。アグネス、自由に暴れてくれ。僕が全力でサポートする』
『ふふ、言ったわね。私達、いいコンビになれるかも』
通信が切れ、アビスは海を割って進む。背に乗るガイアが水飛沫を上げて浮上。
嵐の中、二機の青と黒が弧を描くように敵陣へ突入した。
暴風と波濤。
荒天でレーダーは狂い、光学センサーも使い物にならない。
だがシンの瞳は、ノイズの中に一本の“道”を見た。
背にはルナ、右にはレイ。下にはニコルとアグネス。
ミネルバがいる。みんなが、いる。
「インパルス、前へ出る! レイ、右から回り込め! 誘う!」
「了解。撃ち込みの合図は任せた」
ザムザザーが砲口をこちらに向けた。
空気が焼ける。
シンは操舵ペダルを踏み抜いた。紅の閃光が閃き、海面が爆ぜる。
機体が爆風で翻るが、シンは歯を食いしばり制御を戻す。
「くっ……近づけない……!」
『シン、任せろ!』
レイのカオスが横合いからビームを放つ。狙いはザムザザーの脚部。
爆発。巨体がバランスを崩し、脚を引っ込めた。
その一瞬――。
「今だッ!」
ソードインパルスが突進。
対艦刀が稲妻を裂き、甲殻を貫いた。
硬質な破壊音と共に、ザムザザーが真っ二つに裂ける。
爆発と同時に海面が白く泡立ち、黒煙が上がった。
地球連合艦隊の司令旗艦。
ディケンズ提督は椅子から立ち上がり、震える指でモニターを指した。
「……ば、馬鹿な……ザムザザーが一撃で……!」
その瞬間、艦橋のオペレーターが叫ぶ。
「敵艦――ミネルバ、主砲チャージ完了!!撃ってきます!!」
空気が震えた。
タンホイザー、発射。
青白い閃光が、戦場の闇を一直線に貫く。
狙いはザムザザーではない。――その後方、地球艦隊の空母ディクソン。
防御に回った駆逐艦が次々と蒸発し、タンホイザーは空母の腹部に突き刺さる。
光が収束し、次の瞬間、空母が炎と共に爆散した。
「空母ディクソン、撃沈っ!!」
悲痛な叫びが艦橋にこだまする。
ディケンズ少将は、唇を震わせながら崩れ落ちた。
「十倍の戦力だぞ……何故だ……!何故沈められん!」
海面を蹴って飛ぶガイアが着水する場所にアビスが浮上する。
雷鳴の閃光に照らされ、ニコルの顔は静かに研ぎ澄まされていた。
常にアビスが足場になってくれるから、ガイアは海上でも自在に動ける。
『アグネス、次だ! 二機目を仕留める!』
『了解っ! ニコル、ちゃんと見てなさいよ!』
ガイアが海中から飛び上がり、MSに変形。
ビームサーベルを両手に構え、ザムザザーへと急接近。
対するザムザザーも砲門を向けるが、その射線をニコルのアビスが横から遮る。
反射光を予測し、角度をずらして射撃――ビームが敵の視線を潰した。
その刹那、アグネスのガイアが宙を舞う。
雷光の中を駆け抜け、一直線に胴を薙ぎ払った。
切断線が紅に光り、爆煙が広がる。
『二機目、撃破!』
ガイアのシルエットが光に包まれながら降下してくる。
通信越しに聞こえる彼女の笑い声は、嵐の中でも確かに届いた。
だが戦闘はまだ終わっていなかった。
三機目のザムザザーがミネルバに向けて突進を開始。
護衛のウィンダム隊が盾となり、ビームとミサイルの雨を降らせる。
ミネルバ艦内の警報が赤く点滅し、メイリンが悲鳴を上げた。
「至近弾! 回避不能です!!」
ミネルバに多数の至近弾が命中し、艦体を激しく揺さぶる。
海面が泡立ち、水中で爆発するミサイルの残弾が、激しい水しぶきを上げた。
その時――赤い閃光が滑り込む。
「こんのおおおおっ!!」
ルナマリアのセイバーが真横から突っ込み、ザムザザーの胴体を後ろからビームサーベルで斬り裂いた。
爆発が艦首を照らし、炎が夜空を赤く染める。
「セイバー、敵大型機撃破!」
歓声が艦内に弾けた。
「あと一機だ!」
レイの声が響く。
カオスが高空から降下。
無言のままビームサーベルを抜き放ち、最後のザムザザーの関節部から胴体を切り裂いた。
誘爆。ザムザザーがのけぞった瞬間、レイは冷静にビームサーベルで貫き止めをさした。
「これで終わりだ――」
青白い閃光が走り、四機目のザムザザーが爆散。
最後のザムザザーを撃墜した事で戦力の過半を失った地球艦隊は撤退を開始する。
『艦長、追撃はしないほうがよいのでは?』
『そうねやめておきましょう。今は一刻も早くカーペンタリアに入る事よ』
副長のアーサーの問いにタリア艦長は追撃を断念。
嵐の中に、ついに静寂が戻る。
ミネルバ艦橋。
沈黙の中、メイリンが小さく呟いた。
「……勝ったの?」
タリア艦長が深く息を吐き、椅子にもたれた。
「ミネルバ全艦、戦闘停止。損傷中破。――よくやってくれたわ」
通信回線の向こうで、シンの息が荒い。
『ふぅ……終わった、のか……』
『終わったわよ、シン。あなたのおかげで』
ルナマリアの声が優しく響き、シンは微かに笑った。
ニコルのアビスの上では、アグネスが肩で息をしていた。
「ふぅ……あんた、意外と頼れるじゃない」
「君もね。無茶はするけど、完璧だった」
アグネスは笑みを浮かべ、ヘルメット越しに目を細めた。
「じゃあ、次も一緒に無茶しましょう。相棒さん」
「……ああ、喜んで」
海上には、まだ雷雲が残っていた。
だが雲間から一筋の光が差し込み、ミネルバの甲板を照らした。
その光は、勝利の証のように静かで――どこまでも清らかだった。
次回予告
――嵐の海で砕け散った閃光は、戦士たちの胸にも深い影を落とした。
守りたいもののために刃を振るい、ただ生き延びるために走り抜けた一夜。
だが、勝利は静寂と共に訪れ、心には答えのない痛みだけが残る。
傷ついた機体と疲れ切った仲間たち。
それでも、雲間から差した一筋の光は、小さな希望を告げていた。
戦いの最中には気づけなかった想いが、誰かの胸に静かに芽生えていく。
迷いも羨望も、誰もが抱えたまま、それでも未来へと歩みを進める。
そして、雨上がりの艦影が照らすのは――新たな“心の物語”だった。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第五十五話 雨上がりの艦影 ―心に差す光―