機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

55 / 164
第五十四話 荒海の刃 ―紅の閃光―

 第五十四話 荒海の刃 ―紅の閃光―

 

 ミネルバの主砲タンホイザーが轟音を立て、青白い閃光が海を貫いた。

 ビームはザムザザーの甲殻を正確に撃ち抜いた――が、次の瞬間、眩い反射光が海面を照り返した。

 弾いた。

 装甲ではなく、ビームを弾いたのだ。

 

 「……なんだと!?」

 艦橋に響いたアーサーの叫びが沈黙を裂く。

 再び放たれたザムザザーのビームが被弾した衝撃で、ミネルバの甲板が軋み艦体を包む波飛沫が視界を白く染める。

 

 『反射だと? あれは装甲ではないのか!』

 『違います! あれは――反射装置です!』

 

 ニコルの声が即座に飛ぶ。

 彼は、あの禍々しい輝きを知っていた。かつて自分の敵であり、今は仲間のシャニ・アンドラスのフォビドゥンガンダムが持っていたあの装備。

 ――ビーム兵器を無効化する鏡の盾。

 ゲシュマイディッヒ・パンツァー。

 

 『艦長、ビーム兵器は通用しません。シンをソードシルエットに。接近戦で斬るしかありません!』

 『近接戦闘ですって? あの巨体を!?』

 『やるしかありません。シンの接近戦に、全員の運命を賭けます』

 

 タリアが短い沈黙の後、「了解」とだけ返る。

 同時にデッキが振動し、カタパルトからソードシルエットが射出される。

 空中でドッキングしたソードインパルス――シン・アスカが、嵐の空へと駆け上がる。

 

 「でりゃああああっ!!」

 

 紅い残光が海を切り裂いた。

 シンの対艦刀が一閃し、迫るミサイルを両断。爆風が周囲を包む。

 連合の駆逐艦群から雨のようにミサイルが放たれた。

 しかしそれらは、ルナマリアのセイバーとレイのカオスが次々と迎撃していった。

 

 「シンの背中は――私が守る!!」

 ルナマリアのセイバーが翻り、赤い残光が嵐の海に舞う。

 ウィンダム隊の間を縫い、セイバーのビームが正確に敵を貫いた。

 同時にレイのカオスからの連射が爆光を生み、三機が連鎖的に沈む。

 

 レイは無言で歯を食いしばった。

 (愛する者を守る力……これが、ルナマリアを強くしているのか)

 

 レイの胸の奥に、冷たい痛みと淡い羨望が交錯した。

 

 ミネルバ艦橋では制御盤が赤く点滅し続けていた。

 艦を揺らす衝撃のたびにタリアの髪が乱れる。

 「被弾個所修復急げ! 防御フィールド最大! タンホイザー再充填開始!」

 「了解っ! タンホイザー充填!」

 アーサーの声が悲鳴に近い。

 

 その時、通信が開かれた。

 

 『ニコル。もう一人、接近戦が得意な子を忘れてない?』

 アグネスの声だ。

 背後で雷鳴が轟き、海風に乗って彼女の声が不敵に笑うように聞こえた。

 

 『……ガイアで海上の接近戦は無謀だ』

 『あなた、さっき“信頼してる”って言ったわよね。それ、嘘?』

 短い沈黙。

 『……わかった。アグネス、自由に暴れてくれ。僕が全力でサポートする』

 『ふふ、言ったわね。私達、いいコンビになれるかも』

 

 通信が切れ、アビスは海を割って進む。背に乗るガイアが水飛沫を上げて浮上。

 嵐の中、二機の青と黒が弧を描くように敵陣へ突入した。

 

 暴風と波濤。

 荒天でレーダーは狂い、光学センサーも使い物にならない。

 だがシンの瞳は、ノイズの中に一本の“道”を見た。

 背にはルナ、右にはレイ。下にはニコルとアグネス。

 ミネルバがいる。みんなが、いる。

 

 「インパルス、前へ出る! レイ、右から回り込め! 誘う!」

 「了解。撃ち込みの合図は任せた」

 

 ザムザザーが砲口をこちらに向けた。

 空気が焼ける。

 シンは操舵ペダルを踏み抜いた。紅の閃光が閃き、海面が爆ぜる。

 機体が爆風で翻るが、シンは歯を食いしばり制御を戻す。

 

 「くっ……近づけない……!」

 『シン、任せろ!』

 

 レイのカオスが横合いからビームを放つ。狙いはザムザザーの脚部。

 爆発。巨体がバランスを崩し、脚を引っ込めた。

 その一瞬――。

 

 「今だッ!」

 

 ソードインパルスが突進。

 対艦刀が稲妻を裂き、甲殻を貫いた。

 硬質な破壊音と共に、ザムザザーが真っ二つに裂ける。

 爆発と同時に海面が白く泡立ち、黒煙が上がった。

 

 地球連合艦隊の司令旗艦。

 ディケンズ提督は椅子から立ち上がり、震える指でモニターを指した。

 「……ば、馬鹿な……ザムザザーが一撃で……!」

 

 その瞬間、艦橋のオペレーターが叫ぶ。

 「敵艦――ミネルバ、主砲チャージ完了!!撃ってきます!!」

 

 空気が震えた。

 タンホイザー、発射。

 青白い閃光が、戦場の闇を一直線に貫く。

 狙いはザムザザーではない。――その後方、地球艦隊の空母ディクソン。

 

 防御に回った駆逐艦が次々と蒸発し、タンホイザーは空母の腹部に突き刺さる。

 光が収束し、次の瞬間、空母が炎と共に爆散した。

 

 「空母ディクソン、撃沈っ!!」

 悲痛な叫びが艦橋にこだまする。

 ディケンズ少将は、唇を震わせながら崩れ落ちた。

 「十倍の戦力だぞ……何故だ……!何故沈められん!」

 

 海面を蹴って飛ぶガイアが着水する場所にアビスが浮上する。

 雷鳴の閃光に照らされ、ニコルの顔は静かに研ぎ澄まされていた。

 常にアビスが足場になってくれるから、ガイアは海上でも自在に動ける。

 

 『アグネス、次だ! 二機目を仕留める!』

 『了解っ! ニコル、ちゃんと見てなさいよ!』

 

 ガイアが海中から飛び上がり、MSに変形。

 ビームサーベルを両手に構え、ザムザザーへと急接近。

 対するザムザザーも砲門を向けるが、その射線をニコルのアビスが横から遮る。

 反射光を予測し、角度をずらして射撃――ビームが敵の視線を潰した。

 

 その刹那、アグネスのガイアが宙を舞う。

 雷光の中を駆け抜け、一直線に胴を薙ぎ払った。

 切断線が紅に光り、爆煙が広がる。

 

 『二機目、撃破!』

 

 ガイアのシルエットが光に包まれながら降下してくる。

 通信越しに聞こえる彼女の笑い声は、嵐の中でも確かに届いた。

 

 だが戦闘はまだ終わっていなかった。

 三機目のザムザザーがミネルバに向けて突進を開始。

 護衛のウィンダム隊が盾となり、ビームとミサイルの雨を降らせる。

 ミネルバ艦内の警報が赤く点滅し、メイリンが悲鳴を上げた。

 

 「至近弾! 回避不能です!!」

 

 ミネルバに多数の至近弾が命中し、艦体を激しく揺さぶる。

 海面が泡立ち、水中で爆発するミサイルの残弾が、激しい水しぶきを上げた。

 

 その時――赤い閃光が滑り込む。

 「こんのおおおおっ!!」

 

 ルナマリアのセイバーが真横から突っ込み、ザムザザーの胴体を後ろからビームサーベルで斬り裂いた。

 爆発が艦首を照らし、炎が夜空を赤く染める。

 

 「セイバー、敵大型機撃破!」

 歓声が艦内に弾けた。

 

 「あと一機だ!」

 レイの声が響く。

 カオスが高空から降下。

 無言のままビームサーベルを抜き放ち、最後のザムザザーの関節部から胴体を切り裂いた。

 誘爆。ザムザザーがのけぞった瞬間、レイは冷静にビームサーベルで貫き止めをさした。

 

 「これで終わりだ――」

 

 青白い閃光が走り、四機目のザムザザーが爆散。

 最後のザムザザーを撃墜した事で戦力の過半を失った地球艦隊は撤退を開始する。

 

 『艦長、追撃はしないほうがよいのでは?』

 

 『そうねやめておきましょう。今は一刻も早くカーペンタリアに入る事よ』

 

 副長のアーサーの問いにタリア艦長は追撃を断念。

 嵐の中に、ついに静寂が戻る。

 

 ミネルバ艦橋。

 沈黙の中、メイリンが小さく呟いた。

 

 「……勝ったの?」

 

 タリア艦長が深く息を吐き、椅子にもたれた。

 「ミネルバ全艦、戦闘停止。損傷中破。――よくやってくれたわ」

 

 通信回線の向こうで、シンの息が荒い。

 『ふぅ……終わった、のか……』

 『終わったわよ、シン。あなたのおかげで』

 ルナマリアの声が優しく響き、シンは微かに笑った。

 

 ニコルのアビスの上では、アグネスが肩で息をしていた。

 「ふぅ……あんた、意外と頼れるじゃない」

 「君もね。無茶はするけど、完璧だった」

 アグネスは笑みを浮かべ、ヘルメット越しに目を細めた。

 「じゃあ、次も一緒に無茶しましょう。相棒さん」

 「……ああ、喜んで」

 

 海上には、まだ雷雲が残っていた。

 だが雲間から一筋の光が差し込み、ミネルバの甲板を照らした。

 その光は、勝利の証のように静かで――どこまでも清らかだった。

 

 次回予告

 

 ――嵐の海で砕け散った閃光は、戦士たちの胸にも深い影を落とした。

 守りたいもののために刃を振るい、ただ生き延びるために走り抜けた一夜。

 だが、勝利は静寂と共に訪れ、心には答えのない痛みだけが残る。

 傷ついた機体と疲れ切った仲間たち。

 それでも、雲間から差した一筋の光は、小さな希望を告げていた。

 戦いの最中には気づけなかった想いが、誰かの胸に静かに芽生えていく。

 迷いも羨望も、誰もが抱えたまま、それでも未来へと歩みを進める。

 そして、雨上がりの艦影が照らすのは――新たな“心の物語”だった。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第五十五話 雨上がりの艦影 ―心に差す光―

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。