機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第六十話 慈風の歌声 ―離れても、心は―

 第六十話 慈風の歌声 ―離れても、心は―

 

 天使の歌声――ステラ・ルーシェ。

 その名を知らぬ者は、もはや地球にもプラントにもほとんどいない。

 

 ラクス・クラインから直接指導を受けたナチュラルの少女。

 その存在は、戦争という深い断絶の時代にあって「架け橋」と呼ばれていた。

 

 カーペンタリアのホールには、今日の慰問コンサートを聞こうとザフト兵や市民が押し寄せていた。

 入場できない者は屋外の中継に集まり、誰もがこの“癒し”を求めていた。

 

 ――ユニウスセブン落下と開戦。

 重たい現実の中で、ステラの歌は希望となる。

 

 舞台裏の空気は張りつめていたが、ステラだけは静かだった。

 “戦場で傷ついた人の心に寄り添いたい”

 その思いが、彼女の背筋をまっすぐにしていた。

 

 ステラの隣で、マユは緊張で肩を震わせていた。

 

 (ステラさん……すごい。私だったら絶対声が出ないよ……)

 

 そんなマユの頭を、ステラはそっと撫でた。

 

 「……大丈夫、だよ」

 

 「ステラさん、怖くないの?」

 

 「ん……怖くない。マユや、みんなが聞いてくれるから」

 

 その言葉に、マユの強張った表情がわずかにほぐれた。

 

 そこへ、シンとルナマリアがこっそり顔を出した。

 

 「ステラ」

 

 「シン……! ルナ……!」

 

 ステラの瞳がぱっと花が咲くように輝いた。

 短い時間だったが、四人は肩を寄せ合うようにして雑談した。

 

 「綺麗なドレスね」

 

 「ありがとう……ルナも、赤いドレス似合う。きっと、素敵」

 

 「そんなわけないでしょ、私なんて……ステラみたいに綺麗じゃないし」

 

 「そんな事、ないよ。シンも、そう思うよね?」

 

 ふいに話を振られたシンは少し考え、正直に答えた。

 

 「うん。ルナには赤いドレスが似合うと思うよ」

 

 その何気ない言葉にマユは思わず肘でシンを小突いた。

 

 「シンお兄ちゃん、今すごく恵まれてるのに気付いてないでしょ?」

 

 「わかってるよ。こんな可愛い彼女と、美人の友達がいて……俺は本当に幸せ者だ」

 

 その一言を聞いた瞬間――

 ルナマリアの胸に小さな痛みが走った。

 

 嬉しい。

 でも、少しだけ苦しい。

 

 それでも彼女は笑顔を作って返した。

 

 「も、もう……シンったら」

 

 ステラはそんな二人を優しく見守り、マユの頭を撫でた。

 マユにとってステラは、まるで本当の姉のようだった。

 

 そこへ係員の声。

 

 「ステラ・ルーシェさん、お願いします」

 

 ステラは深く頷いた。

 

 「……行ってくる。みんなも、聞いてね」

 

 シンたちは客席へと向かう。

 

 ステラが舞台に立つ。

 その瞬間、ホールの空気がふわりと震えた。

 

 包帯を巻いた兵士。

 家族を失った者。

 未来に怯える若者たち。

 

 そこに積もっていた重たい影が、少しだけ薄くなるような空気の変化。

 

 (ステラ……)

 

 シンは舞台の中央に立つ彼女を、食い入るように見つめた。

 

 場内の照明が落ちる。

 静寂――。

 

 ステラがそっと息を吸った。

 

 そして――声が放たれた。

 

 それは、歌ではなく“風”だった。

 痛みを包み込み、抱きしめるような柔らかい風が、会場全体を撫でていった。

 

 ざわついていた兵士の肩が落ちる。

 誰かが鼻をすする音。

 嗚咽を堪える音。

 

 シンの胸が熱くなる。

 

 (……優しいな。ステラの声って)

 

 あの戦場の轟音とは違う。

 ただまっすぐで、澄んでいて……シンの心を撫でたあの手のように温かい。

 

 一方、少し後ろの席ではマユが息を呑んでいた。

 気づけば、隣のニコルの手をぎゅっと握っていた。

 

 「……すごい、ステラさん……」

 

 ニコルは驚いたように目を瞬き、優しくその手を握り返した。

 

 アグネスはその光景を横目に見て、胸がきゅ、と痛んだ。

 

 (また……その顔)

 

 ニコルが“マユにだけ向ける安心の笑顔”。

 それを目にした瞬間、心に小さな棘が刺さったようにざわつく。

 

 理由は――わからない。

 

 目をそらしても、ステラの歌声は胸の奥まで染み込んでくる。

 

 (……なんなのよ、この感じ)

 

 胸に手をあて、小さく息を吸う。

 

 一方でルナマリアは――

 隣でステラに心を委ねるシンの横顔を見ていた。

 

 (ほんと……シンって、ステラの歌が好きなんだね)

 

 その背中が遠く感じた。

 嬉しいのに、苦しい。

 

 胸が締めつけられる。

 

 そんなルナの耳に、次の歌がふわりと触れた。

 先ほどよりも優しく、暖かな旋律。

 

 その瞬間、涙が頬を伝った。

 

 「あれ……なんで、私……?」

 

 心をほどくようなステラの声。

 その温かさに、ルナは息を震わせる。

 

 (……ステラ。あなたって……こんな歌が歌えるんだ)

 

 癒す力。

 支える力。

 シンの心に寄り添う力。

 

 自分にはないと思っていたものを、ステラは持っている。

 

 その事実が痛くて、でも――不思議と温かい。

 

 (……私、やっぱり……シンが好きなんだ)

 

 ステラは心から“誰かを救いたい”と願う表情で歌っていた。

 そのひたむきさが、ホール全体を優しく照らす。

 

 終曲の光が落ちる。

 最後の一音が消えた瞬間――

 

 嵐のような拍手がホールを包んだ。

 

 涙を流す兵士たち。

 肩を震わせる女性。

 誰かの手を握る青年。

 

 ステラは驚いたように両手を胸に当て、照れたように笑った。

 

 (……シン、見てくれた?)

 

 客席の奥で、シンはまっすぐ彼女を見つめていた。

 その目は「ありがとう」を伝えていた。

 

 ステラはそっと微笑み返す。

 

 ――この一瞬、確かに心が結ばれていた。

 

 次回予告

 

 ひとつの歌が、心の奥に触れたとき。

 抑えてきた想いは、静かに輪郭を帯びはじめる。

 

 誰かの痛みを癒す声。

 誰かを想い続けた涙。

 そして――届かない恋を抱えた少女の震える胸。

 

 ステラの歌は、優しく世界を包みながら、

 ルナの心にも“答えのない問い”を落としていく。

 

 シンを想う気持ちは同じ。

 けれど、その形は誰ひとり同じではない。

 

 揺れる想いは、やがて重なり、ぶつかり、

 新たな絆へと姿を変えていくのだろうか。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第六十一話

「夕映えの岸辺 ―支え合う翼―」

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