機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第六十一話 夕映えの岸辺 ―支え合う翼―

 第六十一話 夕映えの岸辺 ―支え合う翼―

 

 ステラのコンサートが終わる頃、空には薄く雲が広がり、

 沈みゆく夕陽が海面を赤く染めていた。

 

 ミネルバの艦体もその光を受けて朱に染まり、

 長く伸びた影がゆっくりと揺れている。

 

 やがて、発進準備を告げるサイレンが遠くで鳴りはじめた。

 

 シンはステラとマユを伴い、桟橋へと歩く。

 潮風は冷たく、戦場へ戻る現実を思わせた。

 

 ステラの髪がそっと揺れ、彼女はシンの袖をきゅっとつまむ。

 

 「……シン、もう……行っちゃうの?」

 

 声は小さく震えていた。

 強い子でも、別れは怖い。

 ステラの瞳に宿った不安を、シンは静かに受け止めた。

 

 「すぐに、また会える。……絶対に」

 

 シンはステラの手を包み込み、指を絡めるように握る。

 その手は温かいのに、どこか頼りなくて、切なくて――

 ステラは泣きそうな顔で、それでも笑った。

 

 「ずっと……待ってる。でも、また今日みたいに……会いに行くかも」

 

 強がりのようで、泣き言のようでもあった。

 シンは胸がきゅっと締めつけられ、ステラを抱きしめる。

 

 「俺が会いに行く。どんな距離だって、必ず戻るから」

 

 ステラの小さな肩が震える。

 彼女は力いっぱい腕を回し、うなずいた。

 

 「……うん」

 

 その少し後ろでは、マユとニコルが向かい合っていた。

 

 「……ニコルも、行っちゃうんだよね」

 

 声は沈んでいたが、泣き出しまいと必死にこらえている。

 ニコルはマユの頭をそっと撫で、眼差しに迷いを浮かべた。

 

 「うん。でも……必ず戻る。マユに会いに」

 

 その一言に、マユは耐えきれず抱きついた。

 

 「絶対だからね……! 約束だから……!」

 

 ニコルは小さく笑い、マユを包み込んだ。

 

 「うん、約束だ」

 

 そのやりとりを横目に、アグネスはわずかに視線をそらした。

 胸に小さな波紋が広がる。

 

 (……また。あの子にだけ向ける笑顔)

 

 棘のような痛みが胸の奥に沈む。

 気づかないふりをして海を見たが、夕陽の赤がやけに胸にしみた。

 

 ***

 

 シンとニコルが発進準備のためタラップへ向かったあと、

 ステラとルナは自然と隣り合って立っていた。

 

 潮風がふたりの髪を揺らす。

 しばらく、どちらも口を開かない。

 言葉より先に、胸の痛みが互いの空気に伝わってしまう気がしたからだ。

 

 やがて、ステラが静かに口を開く。

 

 「……ルナ。シンね、ときどきすごく怖い顔するの。戦うときの顔」

 

 「……知ってる。あれ、見てると……胸がぎゅっとして、苦しくなるよね」

 

 ルナの声は弱く震え、彼女自身が驚いたように息を飲んだ。

 

 ステラはその“揺れ”を感じ取って、優しく微笑んだ。

 

 だけどその笑みは、聖母のように全てを抱きしめる笑みではない。

 ステラ自身も、嫉妬や不安を抱えている――そんなかすかな影がある。

 

 「……ルナは、シンのこと……すごく好き」

 

 「……うん。ずっと、好き。でも……言えなかった。

  言ったら、全部壊れちゃいそうで……。

 ステラの事傷つけたいわけじゃないの。

 シンとステラを見て……嬉しくて……でも、すごく苦しくて。

 私どうしたらいいのかわからないよ」

 

 ルナは涙目でそっと笑った。

 諦めではなく、苦しい恋をずっと抱えてきた子の、静かな微笑みだった。

 

 ステラは視線を下げ、小さく続ける。

 

 「ステラね……ルナのこと、好き。大好き。

  だから……ルナが苦しいと、ステラも苦しいの」

 

 「……ステラ?」

 

 「シンの隣にいると、嬉しい。でも、ルナが悲しい顔をすると……

  胸が、きゅって……痛くなるの」

 

 ステラは必死に言葉を選び、正直に気持ちを伝える。

 迷いと嫉妬と優しさが混ざった、等身大の少女の表情だった。

 

 ルナは息をのみ、目を伏せる。

 

 (……どうしてこの子は、こんなに真っ直ぐなんだろう)

 

 ステラはルナの手をそっと握った。

 震える指が、互いの温度を確かめ合う。

 

 「……シンね、ひとりで背負っちゃう。

  ステラだけじゃ……守りきれない時がある。

  だから……ふたりで支えたほうが、きっと前へ行ける」

 

 「ふたりで……?」

 

 ルナの瞳が揺れた。

 

 ステラは迷いなくうなずく。

 

 「うん。ステラもルナも、シンが大切。

  だったら……いっしょにシンを支えたい。

  ルナを排除したくない。ルナが泣くの……いやなの」

 

 ルナの胸が熱くなり、息が震えた。

 

 「……ずるいよ、ステラ。そんな風に言われたら……

  私、怒れなくなるじゃない……」

 

 ステラは首をかしげた。

 

 「怒っていいよ。ステラもね……時々、ルナに嫉妬する。

  ルナは強くて、綺麗で……シンを笑わせるの上手だから」

 

 その告白に、ルナは思わず涙をこぼす。

 

 「……ほんと、ずるい子」

 

 涙をぬぐい、静かに微笑んだ。

 

 「ねえ、ステラ。

  私も……あなたのこと、好きよ。

  恋のライバルとしてじゃなくて、親友として」

 

 ステラの目がぱっと輝く。

 

 「ルナ……!」

 

 「シンのことも、あなたのことも……私なりに守る。

  戦う場所は違ってもね」

 

 ふたりはそっと抱きしめ合った。

 恋のライバルではなく――

 同じ男を愛し、同じ痛みを知り、

 それでも互いを大切に思う“対等な親友”として。

 

 その姿を、少し離れた位置からアグネスがちらりと見た。

 

 ステラとルナの抱擁。

 そして、少し前に見たマユとニコルの抱擁。

 

 (……なんなのよ。胸が……)

 

 言葉にならないざわめき。

 夕陽の赤は温かいのに、胸は少し冷たかった。

 

 ***

 

 夕焼けの中、ミネルバは発進する。

 巨大な艦体が海風を割り、低い推進音が桟橋に響く。

 

 岸壁ではステラとマユが、大きく両手を振っていた。

 隣でアグネスも無言のまま、そっと手を上げる。

 

 タラップの影から、シンとニコルが小さく振り返す。

 

 離れても、心は側にある。

 その想いを胸に刻みながら、ミネルバは静かに海へ滑り出した。

 

 次回予告

 

 戦火に揺れた海で、彼らはまた一つ、帰る場所を確かめた。

 激戦の果てに残ったのは、守りたいと願う人の温もり。

 

 砕けた大地が告げるのは、終わらぬ戦いの現実。

 それでも、差し伸べられた手が、心の傷をそっと癒していく。

 

 カーペンタリアの夕陽は、

 シンとステラ、ルナの胸に揺れる想いを照らし、

 再会の奇跡と別れの痛みを刻んだ。

 

 だが、彼らの歩みは止まらない。

 想いを抱えたまま、ミネルバは新たな戦場へと向かう。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第六十二話 『孤島の影 ―救われぬ声の先に―』

 

 揺れる心――交わる願い。

 それぞれの運命が、静かに動きはじめていた。

 

 

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