機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
【第6章開幕】第六十二話 孤島の影 ―救われぬ声の先に―
第六十二話 孤島の影 ―救われぬ声の先に―
インド洋南東部――海図にも載らない小島。
太陽は容赦なく雲を突き抜け、
岩肌と蒼い海面を鋭く切り裂いていた。
その空を――
紅い機影が鋭く走る。
ルナマリア・ホークのセイバーが、
海風すれすれに高度を落とし、島を舐めるように旋回した。
「……異常なし。って言いたいんだけど」
カメラ越しに映る景色は、海鳥が歩く静かな海岸。
だが――センサーの数値が怪しく震えた。
『ルナマリア、状況を。雑音が入っている』
レイの声はいつも通り、冷たく淡々としている。
「この島……変よ。Nジャマーの濃度が局地的におかしい」
『座標を送れ』
ルナは操作キーを叩き込み、データをミネルバへ送信。
薄暗い崖の下――
わずかに揺らぐ熱源反応。
「隠してるわね……これ。絶対何かある」
『分析完了。地下に空間がある。遮蔽と偽装の基地だ』
「連合……ここに基地なんて造ってんの……?」
ルナの胸に、戦場の影が落ちる。
(せっかく……ステラの歌でみんな少し元気になったのに)
重さが押し寄せる間もなく、セイバーは旋回し発艦位置へ戻った。
ミネルバ艦橋。
「連合の前線基地……?位置は?」
タリア艦長の声に、アーサー副長が端的に応じる。
「カーペンタリア攻略のための補給・侵攻拠点。放置すべきではありません」
ニコルは淡々と言い足す。
「住民の避難報告はありません。不自然です」
タリア艦長の眉がわずかに動く。
「……全機、出撃準備」
アーサーが慌てながらも指示を飛ばす。
「MSデッキへ! 戦闘だ!」
格納庫では、
すでにパイロットたちが駆け出していた。
「ったく……休む暇くらい欲しいもんだよなあ!」
ヴィーノが文句を言い、ヨウランが苦笑する。
その横を、シンが真剣な顔で通り過ぎていく。
「ルナ!行くぞ!」
「わかってる!急がないと!」
その声にルナは頷き、シンを見つめた。
けれどその背中は、戦場へ向かう兵士のそれで――やはり遠い。
(……無茶だけはしないでよ)
そんな祈りを胸に押し込み、
ルナもコクピットへ飛び込んだ。
◆◆◆
「コアスプレンダー、システムオールグリーン!いきます!」
シンの声とともに、
格納庫からコアスプレンダーが飛び出し、空中で合体しソードインパルスになる。
続いてレイのカオス、アグネスのガイア、ニコルのアビス、ルナのセイバー
五つの光が、嵐を切り裂き孤島へ向かった。
『こちらニコル。作戦を開始する。
セイバーとカオスは上空制圧。
ガイアとインパルスは地上掃討。
アビスは海側から退路を潰す』
『了解♪ さ、暴れるわよ!?』
アグネスは楽しげに笑い、
シンが低く言い返す。
「遊びじゃないんだ。……行くぞ!」
『了解』
レイは短く返すのみ。
その瞬間、崖が爆ぜ、擬装されたゲートが弾け飛ぶ。
コンクリ片と鉄骨が投げ出され、
奥からウィンダムの影が現れる。
「やっぱり……!」
シンは対艦刀を抜き、突撃する。
「ここで――止める!!」
『熱くなるなシン!隊列を――』
レイの制止は届かず、
インパルスの刀が敵を切り裂き、火柱が立つ。
『……やれやれ。ほんとに犬みたいな奴』
アグネスが肩をすくめながらも、標的を撃ち抜いた。
毒づきながらも声が弾んでいる――緊張の裏返しだなとニコルは思った。
◆◆◆
爆煙の中――
シンの目に映ったもの。
崩れた壁の隙間――
震える影。
(……人……?)
「シン、何してんの!?」
ルナの声が鋭く刺さるが、
けれどその先を見たシンは――息を呑んだ。
ボロ布のような服。
栄養失調で痩せた身体。
連合兵が後ろから銃を向けている。
それは――現地人。
強制労働させられた民間人だった。
『……住民を……使ってる?』
ニコルが分析していた不自然さが合致する。
その瞬間、
シンの手は勝手に動いていた。
「――ふざけんなよ!!」
『シン!?』
『位置に戻れ!』
制止など聞こえない。
インパルスが踏み込み、
機関砲が連合兵を叩き伏せた。
「逃げろ!早く!!」
外部スピーカーが怒鳴る。
『シン!そこは危険よ!戻って!』
ルナの必死な声。
シンの暴れている場所に連合のMSの攻撃が集中する。
だが――
崩落の音。
叫び。
震える腕。
(放っとけるわけ、ないだろ……!)
「くそっ……子供まで……!」
彼らの顔に――
故郷で殺された人々の影が重なった。
(守れなかった命は、もう……嫌だ)
タラップから逃げ出そうとする女性が転び、
子供が泣き叫ぶ。
連合兵が再び銃口を向ける。
「させるかぁぁ!!」
インパルスの盾が火花を散らし、その銃弾を弾いた。
『シン!冷静に行動しろ!命令違反になる!』
レイの声は鋭いが――
わずかに焦りが混じっていた。
『シン!無茶よ!って言ってる場合じゃないか!!』
ルナの声は涙が滲む。
シンに襲い掛かるMSをセイバーが狙撃していく。
シンは噛み締めた歯越しに言い返した。
「命令違反!?人を……見殺しにする方が、悪いだろ!!」
『でも一人で突っ走って、アンタが死んだら意味ないでしょ!』
「俺なら大丈夫だ!」
その言葉は強がり。
けれど、どうしても譲れない場所があった。
「俺は……イヤなんだよ!
目の前で……また誰かが死ぬのを――!」
ニコルの視界にも、
救われる民間人の姿が映る。
彼は短く息を吐いた。
『アビス、海側制圧完了……シン。続け』
『ニコル!?』
レイが驚き、ルナが安堵を吐く。
ニコルの声は、淡々としていた。
『助けられる命は助ける――それが“僕らの戦い”だよ』
その言葉に、
シンの胸が熱くなる。
『……甘いやつ』
アグネスの声が、不機嫌そうに震えた。
救出が進む中、
シンは最後の一人を抱えた母親に声をかける。
「もう大丈夫だ。海岸まで走れ!」
「……ありがとう……ありがとう……!」
泣きながらの礼。
その声が、
シンの心を鋭く抉りながらも救っていく。
「守れて……よかった……」
だが――
孤島の防衛装置が作動し、
地下の巨大砲が展開を始める。
『敵の本命はそれか!ルナマリア!上を!』
『了解』
レイのカオスが高空からビームを放ち、
巨大砲の中枢回路を断ち切る。
爆風。
崩落。
作戦区域に、
ようやく静寂が訪れる――。
海岸線。
シンは深く息を吐いた。
「……終わった、か」
『シン……』
ルナの声はどこか震えていた。
『よかった……ほんと、よかった……』
シンは微笑んだ。
「ありがとな。ルナ」
だけど、
その微笑みは――
嵐の前触れだった。
(……軍規。命令違反)
シンも理解している。
「……覚悟しておかないと、な」
だが――
空を飛ぶ五機のMSの心には、
それぞれに別の痛みと安堵が芽生えていた。
ニコルは迷いを抱えながらも、
弱き者を救う術を掴みつつあり。
ルナは――
シンの行動に危うさを覚え。
レイは――
自分には無い熱さを、羨むように睨み。
アグネスは――
胸のざわめきの正体を、認めたくなくて胸を押さえ。
そしてシンは――
救った命の温もりだけを握りしめた。
「俺は……間違えてない」
その声は
風に消えるには、あまりにも強かった。
次回予告
――孤島に残された、救われぬ声。
シンはただ、その叫びに応えたかった。
だが、揺らいだのは敵陣ではなく、仲間との距離。
軍規と正義の狭間で、心は深く傷ついていく。
守りたい命。守るべき規律。
どちらも正しく、どちらも重い。
問いかけられるのは、ただひとつ。
“それでも、あなたは迷わずにいられるのですか?”
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第六十三話『軍規と正義の狭間で ―救いたかった命―』
戦場の静寂が、胸を刺す。