機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第六十七話 裂け目を抜けて ―救いの刃―
地上戦艦デズモンドより、ラドル司令官の低い指令が響いた。
「――作戦を開始する」
その瞬間、ミネルバ艦内の照明が戦闘態勢に切り替わる。
警報の赤が壁に滲み、甲板がわずかに揺れた。
シンは深く息を吸い込み、正面のモニターを見据えた。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!!」
カタパルトが開き、コアスプレンダーが白煙を曳いて射出される。
急加速で視界が震え、シンは背もたれへ叩きつけられるようなGを感じた。
その後方で、チェストフライヤーとレッグフライヤーが鋭く発進。
自動制御でコアスプレンダーを追尾する。
砂混じりの風が褐色の地表を舞い上げる。
陽炎の揺らぎが、戦場の景色を歪めていた。
「ルナマリア・ホーク、セイバー出るわ!」
セイバーは上昇し、ルナマリアは操縦桿を握りながら追うように視線を前に向ける。
だが、胸の奥でざわつく不安は消えなかった。
口では強めに言える。
でも本当は、シンの優しさと衝動の危うさを何度も見てきた。
信じたい。
けれど怖い。
その二つが、胸の中でぶつかり合って苦しくなる。
シンの光点がレーダーから遠ざかるたび、手のひらが汗ばむ。
「大丈夫、きっと……うまくいく。シンなら」
そう言い聞かせながら、視界の端に消えるまで目を離せなかった。
そのとき――
『ルナマリア、信じて』
ニコルの声が通信に響いた。
驚きで一瞬肩が跳ねる。
『シンはきっとやってくれる。僕も信じてる。君も、信じてあげて』
「あ……ありがとうございます、隊長」
喉が震え、言葉が遅れた。
(信じてる。信じてるけど……)
胸の奥にずっと渦巻いていたものが、少しだけ溶ける。
同時に、別の感情がふつふつと湧いてきた。
(私ばっかり心配しているみたいじゃない……
だったら、あたしだって信じなきゃ)
気持ちを切り替えるように、ルナマリアは視線を前に戻す。
ルナは息を整え、セイバーをMA形態へ変形させた。
機体前方の二門ビーム砲が、獰猛な光を宿す。
ミネルバからは次々と仲間が出撃する。
レイのカオス、アグネスのガイア、ニコルのアビス。
それぞれの役目と想いを抱え、砂漠の空へ躍りかかる。
ミネルバは正面から敵を引き付け、シンの奇襲を成立させる――
彼一人の成功に、部隊の命運が乗っていた。
◆◆◆
(……絶対に失敗できない)
坑道に入った途端、闇がすべてを覆った。
岩肌が触れそうなほど狭く、金属と石が擦れる音がコックピットに響く。
視界は皆無。頼れるのはデータのみ。
手のひらに汗が滲む。心臓が速く脈打つ。
(ニコルが俺を信じて任せてくれたんだ……!
仲間を二度と危険に晒したりしない!)
操縦レバーを慎重かつ大胆に捌き、コアスプレンダーは狭路を滑り抜ける。
わずかな判断ミスが即墜落――極限の緊張。
(レイ……アグネス……ルナ……見てろよ)
その瞬間――
視界の先に、巨大な岩が道を塞ぐ。
「くっ……突破する!」
ミサイル発射。
光が闇を裂き、爆炎が岩を粉砕していく。
吹き抜ける砂交じりの風。
空が一気に広がり――
「抜けたッ!!」
そこは要塞の裏手。
奇襲成功。
『こちらインパルス!作戦通り合流します!』
コアスプレンダーにチェストとレッグが接合され、
白い光を纏ってフォースインパルスが姿を現した。
通信に流れ込んだ声に、ルナマリアの心臓が跳ねた。
『ルナ、遅れてごめん』
「大丈夫よ――信じてたから!」
本当は何度も怖かった。
でもこの一瞬のために、全部押し殺してきた。
シンは信頼にこたえてくれた。
◆◆◆
対空砲台が慌てて旋回し始めた。
「シン、右から来るわ!」
セイバーが流星のように急降下する。
熱線が空を焼き、敵砲台が爆ぜる。
「助かった、ルナ!」
「まだまだよ!」
六脚の巨大MA――ゲルズゲーが吠え立つ。
先日のザムザザーと同型、ビームを反射する厄介な敵。
ルナマリアは叫ぶ。
「シン! ビームじゃ効かない!
上半身のコアを――一緒に仕留める!」
『了解! 任せろ!』
その声は迷いがなかった。
それが何より嬉しい。
(そうよ、その調子)
セイバーのビームサーベルが閃き、
インパルスのビームサーベルと重なる。
爆炎が空へ舞う。
その火の粉の中、ルナマリアは確信する。
(あたしだけじゃない。
ニコル隊長も、レイも、アグネスも。
みんながシンを支えてる)
安堵で、熱が胸に広がる。
(だから戦えるのよ。
あんたは――もう、一人じゃないから)
「シン!上半身接合部、あそこが弱点!」
「いくぞおおお!!」
二機が息を合わせ突撃。
ビームサーベルが甲殻を裂き、火花が舞う。
インパルスとセイバーを背中から撃とうとしたダガーLをレイのカオスが撃墜する。
「シンとルナマリアの邪魔はさせない!」
ガイアが砂を蹴り、バクゥを従えてMS群を分断する。
カオスの遠距離砲撃が無駄なく敵の足を断ち、
アビスが水柱のような高出力砲を叩き込む。
ミネルバの主砲トリスタンが雷鳴のような光を放ち――
空の支配権は完全に奪われた。
『敵、後退を開始!』
「逃さないわよ!!」
◆◆◆
「な、何がおこっている!?」
連合司令部は混乱していた。
優勢だった戦況が、いつの間にか崩壊している。
「ローエングリン収納!急げ!」
だが、その命令は間に合わなかった――
「ルナ!」
「シン!」
二条の光が重なり、ゲルズゲーの接合部を貫通。
爆発の衝撃が要塞の地盤を揺るがす。
崩れ落ちるローエングリン砲台。
火柱が空へ伸びる。
敵指揮官は歯噛みし、白旗を掲げるしかなかった。
◆◆◆
要塞陥落と共に、ガルナハンの街は解放された。
興奮と歓喜が広場を包む。
「シン!!」
涙で顔を濡らしたコニールが勢いよく抱き着いた。
小さな体が震えている。
「ありがとうっ……! 本当に……!!」
シンは驚きながらも、その背をやさしく叩いた。
「俺一人じゃないさ。
ミネルバのみんなと、一緒だったからな」
コニールは涙を拭い、強く頷く。
「……もう、負けない!
私も、この街も!」
その目には恐怖よりも強い炎が灯っていた。
◆◆◆
翌日。
陽が昇ると、ミネルバ周辺では戦勝祝いの準備が進んでいた。
ガルナハンのバザールから届けられた香辛料や野菜の匂いが、
食堂いっぱいに広がっている。
「街を解放してくれたお礼です。どうか受け取ってください」
「ありがとう。本当に助かるよ」
住民たちがミネルバに感謝を伝える。
その温もりが、兵士たちの疲労を一瞬忘れさせた。
ニコルは食堂の中央を見つめる。
そこで仲間に囲まれ、照れ笑いを浮かべているシンがいた。
(……よくやってくれた、シン)
あの背中はまだ小さい。
だが――確かに強さを掴み始めている。
そして仲間たちの視線が、
シンの胸の内に新しい「重さ」を与えていた。
――救うと決めた命の重さ。
――背負うと決めた仲間の期待。
それを抱えたまま、シンはまた前を向く。
(俺は……もっと強くなれる)
ミネルバの翼は、次なる戦場へ。
救いを求める声がある限り――止まることはできない。
次回予告
勝利の朝が訪れ、ミネルバには久しぶりの温もりが戻っていた。
仲間たちの笑い声、漂う食事の匂い――
その何気ない光景が、ニコルには何よりの報いに思えた。
シンはよくやり遂げた。
危険を恐れず、期待に応え、迷いを超えてみせた。
レイも、アグネスも、ルナマリアも――
それぞれが支え合いながら戦った結果が、この勝利だ。
だが指揮官は、歓声の中でも次の影を見る。
戦いが終わっても、戦場が消えるわけではない。
胸の奥には、微かな違和だけが残っていた。
理由はまだ形を持たない。
ただ、何かが静かに動き始めている――
そんな感覚だけが、ニコルの心をかすめた。
それでも今は、仲間の笑顔を信じたい。
シンの成長、ルナの安堵、レイの微笑み、アグネスの不器用な優しさ。
守りたいと思える背中が、確かにここにある。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第六十八話『偶像―本能が告げる違和と理性が見抜く真相―』
戦火よりも静かな波が、ミネルバへ忍び寄る。
その影に最初に気づくのは、
きっと――この少年たちの中でもっとも“眼の良い”ニコルだった。