機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第七十一話 議長の問い――戦争は、なぜ終わらないのか――

  第七十一話 議長の問い――戦争は、なぜ終わらないのか――

 

 タリア艦長の先導で、ニコル、シン、ルナマリア、レイ、アグネスはホテルに用意された席へと通された。

 白い大理石の回廊を抜けると、視界の先には黒海の濃い青が広がり、潮風が庭園の木々を静かに揺らしている。

 異国情緒の強い尖塔が夕焼けに染まり、その足元では人々の生活が続いている。

 ――だが、その平穏は、要所に立つ武骨なザフトの新型MSグフの姿によって、戦時下であることを否応なく思い出させた。

 

 彼らの到着を待っていたギルバート・デュランダル最高評議会議長は、穏やかな笑みを浮かべて両腕を広げた。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 

 タリアを先頭に、ニコル、アグネス、レイ、ルナマリア、シンが一斉に敬礼する。

 一糸乱れぬ動きだったが、シンだけはわずかに呼吸が早くなっていた。

 ――最高評議会議長。プラントそのものを代表する人物。

 その“偉い人”を、真正面から見るのは初めてだった。

 

「やあ、よく来てくれたね。ミネルバの活躍は聞いているよ。ユニウスセブン落下以来、ずっと戦い続けだ。疲れただろう」

 

 議長は一人ひとりと順に握手を交わしていく。その手つきは意外なほど柔らかく、視線も穏やかだった。

 

 タリアは慣れた様子で応じ、ニコルは完璧な笑みを浮かべる。

 ルナマリアとシンは緊張と感激が入り混じった表情で手を握り返し、レイは普段にはないほど柔らかな笑みを見せた。

 シンはその手の温もりに、思わず背筋を伸ばした。

 だが同時に、なぜか胸の奥がわずかにざわついた。

 アグネスだけは、評価されることを当然とするような自信に満ちた態度だ。

 

 シンはその一瞬を、まるで“自分が戦士として認められた証”のように感じていた。

 オーブでは、カガリのように気さくで、感情を隠さない政治家しか知らなかった。

 だが、この人は違う。

 どこまでも物腰は柔らかいのに、触れれば切れそうな鋭さを、奥に秘めている。

 

「地球軍に占領されていた市民のために戦えるのは、名誉ですから」

 

「ありがとう。市民のため、プラントのために戦ってくれている君たちに、心から感謝しよう」

 

 タリアが「恐縮です」と応じると、デュランダルは席に着き、タリアたちもそれに続いた。

 

「すぐに会えると思っていたのだが、なかなか予定が合わなくてね。ミネルバはしばらく休暇になるだろう。休める時に、しっかり休みたまえ。――それと、シン・アスカくん」

 

「は、はい!」

 

「君の活躍は報告で聞いている。大したものだ。叙勲の申請も来ていたよ。結果は、もうすぐ届くだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 シンの胸の奥で、熱いものが弾けた。

 シンは思わず拳を強く握りしめた。

 アーモリーワンでの被災者救助、ユニウスセブン落下時の混乱、太平洋での死闘――すべてが、無駄ではなかったのだと思えた。

 その横で、レイは何も言わず、ただ静かに微笑みを浮かべた。

 親友がギルに評価されている。

 レイは自分の事のように嬉しく思う。

 

 ルナマリアはその横顔を、少し誇らしげに見つめる。

 レイは静かに頷き、アグネスだけが小さく舌打ちするように視線を逸らした。

 ニコルは、デュランダル議長の“ひとたらし”の一面に感心していた。

 

 やがて会食の料理が運ばれてくる。

 キャビアの黒い粒が硝子の器に盛られ、香辛料の効いた料理の香りが漂った。戦場で死と隣り合わせなシンにとって、それはあまりにも現実味のない“平和の匂い”だった。

 

「たいしたもてなしはできないが、君たちの話を聞きたくてね。前線で戦っている者の意見は、何よりも貴重だ」

 

 デュランダルの視線がタリアに向く。

 

「宇宙での戦闘は激しかったと聞いています。本国の情勢は?」

 

 タリアの質問に、デュランダル議長は沈痛な面持ちで答える。

 手にしていたカップを置くと、腕を軽く組んだ。

 

「楽観はできない。地球軍の先制攻撃で核を撃たれ、撃退はできたが、多くの犠牲が出た。戦争とは、そういうものだと言ってしまえばそれまでだがね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シンの指先が、無意識に強く握り込まれた。

 また核攻撃を行った地球連合に対する怒りが蘇る。

 

 デュランダル議長はそう言いながら、わずかに目を伏せた。

 だがニコルには、それが“本心からの痛み”には見えなかった。

 

「停戦の目途は立っているのでしょうか?」

 

「打診はしている。だが返ってくるのは、無条件降伏に近い条件ばかりだ。あれではどうにもならない」

 

 そのため息の“正確さ”に、ニコルは微かな違和感を覚える。

 ――まるで、観客の感情を計算した演出のようだ、と。

 ミーアの一件以来、ニコルはデュランダル議長を危険な人物だと認識して警戒している。

 

「地球に降りてみると、この街のように我々に助けを求める地域もある」

 

 黒海沿岸地域はユーラシア連邦に属していたが、独立の意志が固く、ザフトの支援を受けて地球連合の支配に抵抗している。

 オーブ出身者のシンは、この地域の人々が、先日のレジスタンスで知り合ったコニールの気持ちと重なって見えた。

 誰だって自由は欲しいし、それは当然のことだ。

 シン自身、先年のオーブ侵攻作戦で、多くの友達を失い、自分と家族も死にかけた。

 もし隣にいるニコルが助けてくれなかったら、マユたち家族もシンも、間違いなく死んでいたはずだ。

 

 地球連合はいつもそうだ。

 平和に暮らしていたオーブが、マスドライバーとモルゲンレーテ社を持っているからという理由だけで攻め込んできた。

 ナチュラルとコーディネイターの戦争と言いながら、平気でナチュラル同士で殺し合いするような連中だ。

 そしてシンが今ここにいるのも、自分とマユとステラが平和に暮らしていたコロニーを、ブルーコスモスの艦隊が襲ったからだ。

 なぜ、そこまでして戦争がしたいのか。シンには理解できなかった。

 

「我々は戦いを望んでいない。だが――“戦わない”という選択のほうが、時として遥かに難しい」

 

 シンの喉が、きゅっと鳴った。

 それ以上、何も考えずに――声が漏れた。

 

「でも!」

 

 思わず声が漏れ、シンは慌てて頭を下げた。

 

「す、すみません……!」

 

 だが議長は、優しく笑った。

 

「かまわないよ。続けたまえ。今日は前線にいる君たちの意見が聞きたくて来てもらったのだからね」

 

 シンは、デュランダル議長が怒っていないことに安堵して続ける。

 

「確かに、みんな戦いたくないって思ってます。でも、敵が銃を撃ってくるなら戦わないと、自分も仲間も守れません。その時は仕方ないと思います」

 

 ハーバーコロニーを攻撃された時、シンは無力を痛感した。

 ステラに深々と突き刺さった鋭利なガラス片。

 溢れ出す血。それでも子供たちを心配したステラの優しさ。

 あんなに優しいステラが、どうして傷つかなければならない?

 

 ステラはブルーコスモスと同じナチュラルで、シンたちコーディネイターと平和に暮らしていただけだ。

 シンもステラも、何も悪いことなどしていないのに。

 犠牲になった人たちにも、何の罪もなかったのに。

 自分たちの平和を容赦なく破壊したブルーコスモスが、どうしても許せなかった。

 

「普通に平和に暮らしている人たちは、守られるべきです」

 

 シンは思わず、グラスの縁を強く掴んでいた。

 その指先が、かすかに震えているのを、ルナだけが気づいた。

 

 デュランダルは、深く頷いた。

 

「わたしもその通りだと思う。みな、自由に平等に暮らしたいと願っている。古来から、戦争は嫌だと人々は叫び続けている。では――なぜ戦争は終わらないのだろうね?」

 

 デュランダル議長の問いに、シンは驚く。

 シンは戦うこと自体に怒りは覚えていたが、その“理由”には思い至っていなかった。

 その問いに、シンだけでなく誰もすぐに答えられなかった。

 波の音だけが、夜の庭園に静かに響いていた。

 

 

 次回予告

 

 守るために戦ってきた。

 ステラの歌も、ルナの想いも――

 全部、誰かを生かすためのものだと信じていた。

 

 それなのに。

 その願いさえ、金に換えられると言われた時、

 シンの胸の奥で、何かが決定的に壊れた。

 

 命は、作れない。

 歌も、祈りも、涙も――売り物じゃない。

 

 それでも世界は、

 それらすべてを「利益」に変える。

 

 次回――機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第七十二話

『戦争という産業――命は、作れないのに――』

 

 希望は、利用される。

 正義は、商品に変えられる。

 ――それでも、守るために戦えるか。

 

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