機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第七十二話 戦争という産業――命は、作れないのに――

 第七十二話 戦争という産業――命は、作れないのに――

 

 言葉を探すシンを見つめながら、ニコルはテーブルに置かれたナイフを手に取った。

 磨き込まれた刃が、夕陽を受けて静かに光る。

 

「……利益になるから、です。経済的だけでなく、精神的にも」

 

 その言葉に、議長の唇が、わずかに吊り上がった。

 シンは思わずニコルの横顔を見る。

 言葉の意味はわかる。だが、それを“納得”することはできなかった。

 自分たちの戦いが、誰かの利益の上に乗っているなど、考えたくもなかった。

 

 ニコルの言葉に、デュランダル議長は興味深そうに続きを促す。

 

「このナイフは、武器にもなれば、肉を切る便利な道具にもなります。戦争は常に利害がぶつかって起こってきました。人種、宗教、政治、そして経済。うまく使えば有用なナイフも、使い方を間違えれば武器になります」

 

「なるほど。人は自分と違う価値観を持つ者――ナチュラルとコーディネイターという存在以前から、戦い続けてきたからね」

 

 デュランダル議長の答えに、ニコルは静かに頭を下げた。

 

「そんな身勝手で馬鹿な理由で、私たちは戦ってるの?」

 

 ルナマリアの呟きに、アグネスが即座に口を挟む。

 

「馬鹿なこと、なんて理解できるほど人間が賢ければ、戦争なんてとっくの昔に終わってるわよ。誰かを妬み、見下し、足りないものを欲し、持てるものから奪う。あいつは自分とは違う。憎い、怖い。だから殺してもいい。殺されたから殺す。簡単な話じゃない?」

 

 張りつめた空気の中で、その言葉は妙に現実的だった。

 ルナマリアは息を呑み、シンは歯を噛みしめる。

 

 アグネスの発言に、デュランダル議長は満足そうに頷き、話を続けた。

 

「その意見も正しい。だが、戦争にはもっと救いがたい一面もあるのだ。それこそ、ニコル君が言ったように――戦争は利益になるからね」

 

 そして、デュランダル議長は静かに立ち上がる。

 誰も、すぐに言葉を継げなかった。

 波の音だけが、庭園に微かに響いていた。

 

 テラスに出たその背中は、夕陽に照らされ、あまりにも“憂国の政治家”として完成されていた。

 だが、ニコルの目には、その姿が――

 人心を操る者の背中として、はっきりと映っていた。

 

「たとえば、あの機体――ZGMFグフイグナイテッド。先ほど軍事工場からロールアウトした機体だが、戦争中だからこそ、量産が続けられる」

 

 シンは話の流れがつかめず、戸惑いながら会話を聞いていた。

 自分の感情を爆発させた結果、ここまで深い議論になるとは思っていなかったのだ。

 今までは、難しいことはカガリやニコルが考えてくれていた。

 だが今、シンは自分が“当事者”なのだと痛感していた。

 

 だから今は、わからなくてもいい。

 ただ、デュランダル議長の言葉を聞き逃さないよう、必死に耳を澄ませた。

 

「戦場ではミサイルが撃たれ、MSが撃墜され、多くのものが破壊される。だから工場では様々な兵器が量産され、戦場へ送られる。両軍とも生産ラインは要求に追われ、生産が追いつかないほどだ。グフ一機の価格を考えてみたまえ」

 

 そう言って、デュランダル議長はニコルでもタリアでもなく、まっすぐにシンを見つめた。

 その眼差しは、まるで“答えを試す”ようだった。

 理性のニコルではなく、感情で世界を理解するシンに向けられた視線。

 

 シンは、自分が何を期待されているのかわからなかった。

 だが、この会話を聞き逃してはいけないと、本能が告げていた。

 もう、ニコルに頼るだけの立場ではないのだ。

 

 デュランダル議長は、静かに続ける。

 

「これを“産業として”考えるなら、これほど回転が良く、利益が上がるものは他にない。大量に生産し、大量に消費するのだからね」

 

 シンは、戦争を“産業”などと考えたことは一度もなかった。

 経済活動と戦争は、まったく別のものだと思っていた。

 

 タリアが、制止するように一歩踏み出しかける。

 だが、デュランダル議長はシンだけを見続けていた。

 

 ニコルは既に答えを知っていたが、黙っていた。

 これはシンが考える事だからだ。

 ルナマリアは不安げに二人を見つめ、レイはシンが答えを出すまで静かに待つ。

 アグネスは、試験官のような笑みを浮かべ、シンの反応を面白がるように眺めていた。

 

「でも、それは……戦争だから。でも――それじゃ俺たち兵隊は、金儲けの道具ってことですか? MSみたいな機械なら作れるけど……命は、作れないんですよ?」

 

 命は作れない。

 その言葉に、タリアの肩が小さく震えた。

 子を望み愛からを去った彼女にとって、それはあまりに鋭い言葉だった。

 

 シンの言葉に、デュランダル議長は静かに頷く。

 

「彼らにとっては、かけがえのない命さえ、金儲けの道具でしかないのだよ。人の涙、悲しみ、怒り、憎しみ――すべてが、彼らにとっては利益に変わる。戦争が続くほど兵器は売れ、戦争が終われば兵器は売れなくなる。だから、憎しみ合えば、それだけ儲かる」

 

 その言葉に、シンは露骨に不快感を滲ませる。

 胸の奥で、怒りが焼けつくように燃え上がった。

 自分たちの戦いが、誰かの懐を温めるためのものだなど、どうしても許せなかった。

 

「人類の歴史には、戦争を“産業”として考え、実行してきた者たちがいるのだよ。すべては、自分たちの利益のためにね」

 

 デュランダル議長は、深くため息をついた。

 

 シンは、怒りに手を震わせる。

 自分たちの利益のために、オーブを焼き、ステラを傷つけ、シンたちに戦闘を強いた。

 何千、何万という命が失われていくのを、笑いながら眺める者がいるなど、到底許せなかった。

 金儲けのために他人の血を搾り取る――そんな行為が許されていいはずがない。

 

 それなら、コーディネイターだからと銃を向けられる方が、まだ理解できる。

 

「今回の戦争の裏にも、彼ら――“ロゴス”がいるだろう。彼らこそ、ブルーコスモスの母体なのだ」

 

「ロゴス……?」

 

 シン、ルナマリア、アグネスは、初めて耳にする言葉に戸惑う。

 レイは、すでに察していたかのように、小さく頷いた。

 

 プラント最大のMS生産・開発コロニー群『マイウス市』出身で、父が市長を務めるニコルは、その名を以前から知っていた。

 ロゴスは、父と自分が排除すべきと考えてきた組織だった。

 

「彼らはブルーコスモスを操り、憎しみを拡大させ、戦争を続けさせている。もし今回の戦争が終結しても、すぐにまた新たな戦争を始めるだろう。今回のように、プラントに無理難題を要求してね」

 

 ブルーコスモスに扇動され、銃を手にする人々。

 その背後で、糸を引いているのがロゴスなのだ。

 

「彼らに踊らされている限り、プラントと地球は、これからも戦い続けるだろう。私も、なんとかしたいのだが……それこそが、最も難しい」

 

 デュランダル議長は、憂慮のため息をついた。

 シンは、拳を強く握りしめ、怒りに震える。

 

 ニコルは、目を閉じ、そっと空を仰いだ。

 ロゴスは強敵だ。世界中の企業の集合体。

 軍事、農業、工業、金融――ありとあらゆる産業が、彼らと無関係ではいられない。

 人の経済活動すべてが、ロゴスを形作っている。

 

 仮に今、ロゴスの中枢を排除できたとしても、

 ――新たなロゴスが、必ず生まれる。

 

 次回予告

 

 戦争は、産業だと告げられた。

 命も、涙も、そして――

 ステラの歌さえ、金に換えられるのだと。

 

 守りたいと願った心が、

 誰かの利益にすり替えられる世界で、

 シンの中の“正しさ”が、初めて音を立てて揺れ始める。

 

 その一方で――

 ニコルは、真実に近づくために、

 最も危険な場所へと足を踏み入れる。

 

 選ばれることは、

 進むことか。

 縛られることか。

 

 次回――機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第七十三話

『フェイス ――選ばれた者の、重み――』

 

 栄光の裏で、

 新たな運命の歯車が、静かに噛み合い始める。

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