機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第八十話 偽りの恋人――きらめきの中で、信じ切った嘘――

 第八十話 偽りの恋人――きらめきの中で、信じ切った嘘――

 

 昨夜のニコルとの一夜を思い出して、ミーアは終始満面の笑顔だった。

 終始微笑んでくれて、ミーアの事を聞いてくれた。

 どんな想いで歌ってきたのか。

 何を言っても肯定してくれたから、安心して話せたし、彼も色々な事を話してくれた。

 

 「ニコルさん……ううん、ニコル。わたしは貴方が好き」

 

 改めて思い出す優しい微笑みとぎこちない優しさ。

 ミーアが出会った事がない、安心できる人。

 誠実で真面目で温かな人。

 極めて健全な一夜だったが、デュランダル議長が認めた期待のフェイス。

 その彼の隣に立てる事が、喜ばしく誇らしくもある。

 

 いままでラクス・クラインの代わりの歌姫としか見られなかったが、皆が自分を見る目も変わるだろう。

 ミーアはずっと劣等感を抱いていた。

 歌手になりたくて、幼いころから何度もオーディションを受け、落選続き。

 何度も道を諦めかけた。

 

 「それも、もう終わり」

 

 デュランダル議長に朝の報告と挨拶を済ませた後、ミーアはニコルの部屋に電話をかける。

 今日はニコルもミーアも予定は空いている。

 この機会に親しくなっておかなければ。

 自分とニコルは、デュランダル議長公認の恋人なのだから。

 

 彼が電話に出る時間すら愛しい。

 ずっと待ち続けていたいほどの幸せ。

 

 「はい、ニコルです」

 

 「ニコルさん、ミーアです。今日は私もニコルさんもオフですし、デートしませんか?」

 

 「………っ」

 

 少しの沈黙。

 彼が息をのむのが伝わる。

 ふふ、緊張しちゃってかわいい。

 そういえばニコルは年下の彼氏になるのだから、お姉さんの私がリードしてあげないと。

 

 「わかりました。ホテルのロビーで待ち合わせしましょう」

 

 「はい。それでは楽しみにしていますわ」

 

 電話をおくと、ミーアはデートの準備を始めた。

 今日は護衛さんを少なくして貰わないと。

 何かあったらニコルが守ってくれるけど、折角デュランダル議長が私の安全の為につけてくれたんですもの。

 白と淡いピンクのワンピース、ウエストに細いリボン。

 歩きやすいヒール低めのパンプス。

 髪型は少しだけ巻いてみる。

 服装を整えて、ホテルのロビーへ降りていく。

 

 ホテルのロビーは、朝の光が大理石の床に反射して、やけに眩しかった。

 ミーアは淡い桃色のワンピースの裾を、何度も指で整える。

 胸の奥が、少しだけ早鐘を打っていた。

 

(まだ……かしら)

 

 柱の影に隠れるように立ち、視線だけで入口を追う。

 その瞬間――

 

 白いシャツに黒のスラックス。

 いつもの軍服とは違う、少しだけ不慣れな私服姿のニコルが、ロビーへと入ってきた。

 

 その姿を見た瞬間、ミーアの胸がきゅっと締めつけられる。

 

(……やっぱり、素敵)

 

 ニコルは人を探すように視線を巡らせ――

 そして、ミーアを見つけると、わずかに目を見開いてから、静かに歩み寄ってきた。

 

 「お待たせしました、ミーアさん」

 

 その声を聞いただけで、胸の奥に温かなものが広がった。

 

 「いいえ。今、来たところですわ」

 

 そう言って微笑む自分の声が、少しだけ震えていることに、ミーアは気づかなかった。

 ニコルの手が少し震えているのは、デートとかに不慣れなせいだろうか。

 やっぱりここは、お姉さんがリードしてあげないと。

 

 「ニコルさんって言うの、変ですよね。私達、恋人ですし、ニコルって呼んでいいですか?」

 

 「はい。僕も……ミーアって呼んでも構いませんか?」

 

 「ふふ、勿論。いきましょう、ニコル」

 

 そう言ってニコルに手を伸ばすと、ニコルは一瞬迷った様子を見せたけど、受け取った。

 意外と女の子慣れしてないのかしら?

 きっと真面目すぎて、色恋とは無縁だったのね。

 もしかして、彼にとって私は初めての恋人なのかしら。

 

 ホテルを出ると、護衛の人が数人出迎えてくれた。

 デュランダル議長が手配してくれたとはいえ、少し邪魔。

 そう思っていたら、私達から離れて人ごみに混じっていく。

 きっと気を利かせてくれたのね。

 

 「それじゃ、ニコル。行きましょう」

 

 「……はい、ミーア」

 

 「も~、緊張するのはわかるけど、もう少し喜んでくれないと、不安になるからね」

 

 「わかりました」

 

 そう言って、ぎこちなく手を繋ぐニコル。

 そうそう、やればできるじゃない。

 

 人ごみに紛れると、街の音が一気に近くなった。

 笑い声、呼び込みの声、車のクラクション。

 すべてが今日は、少しだけ柔らかく聞こえる。

 

 ニコルの手はまだ少し強張っていて、けれどその温もりがはっきりと伝わってくる。

 それだけで、胸がいっぱいになる。

 

 「どこに行きたいですか、ミーア」

 

 「そうですね……せっかくですから、甘いものが食べたいです」

 

 そう言うと、ニコルは一瞬考えるように視線を上に向け、それから小さくうなずいた。

 

 「……わかりました」

 

 その返事すら、どこか真面目で可笑しくて、ミーアは思わず笑ってしまう。

 

 通りの角にある小さなカフェに入ると、甘い焼き菓子の匂いがふわりと鼻先をくすぐった。

 窓際の席に向かい合って腰を下ろすと、ニコルはどこか落ち着かない様子で、背筋を伸ばしている。

 

 「ニコル、緊張しすぎですよ」

 

 「す、すみません……」

 

 「もう。デートなんですから、そんなに硬くならなくてもいいんです」

 

 そう言って微笑むと、ニコルは少し困ったように視線を逸らした。

 その仕草すら、今のミーアには愛おしい。

 

 運ばれてきたケーキと紅茶。

 フォークを入れると、ふわりと柔らかい感触が伝わってくる。

 

 「……おいしい」

 

 小さく呟くと、ニコルは少し驚いたようにこちらを見た。

 

 「よかったです」

 

 それだけなのに、まるで自分のことのように安心した顔をするから、胸がくすぐったくなる。

 

 「ニコルは、こういうお店、あまり来ないでしょう?」

 

 「……はい。ほとんど……」

 

 「でしょうね。きっと軍の人たちと訓練ばかりだったんでしょう?」

 

 「ええ……」

 

 そう言って少しだけ苦笑いする横顔を、ミーアはそっと見つめる。

 

(この人は……本当に、何も知らないまま大人になったんだわ)

 

 だからこそ、自分が隣にいられることが、少しだけ誇らしい。

 

 「ニコルは、休みの日は何をするんですか?」

 

 「……本を読んだり、散歩をしたり……それくらいです」

 

 「それって、とても素敵だと思います」

 

 「そうですか?」

 

 「はい。静かで、優しくて……ニコルらしいです」

 

 その言葉に、ニコルはほんの一瞬だけ目を伏せた。

 何か言いかけて、けれど結局、何も言わずに紅茶へと視線を落とす。

 

 ミーアはそれを、照れているのだと勝手に解釈した。

 

 店を出ると、街路樹の間を抜ける風が心地よかった。

 手をつないだまま歩きながら、ミーアはふと足を止める。

 

 「ニコル、あそこ見てください。噴水です」

 

 小さな広場の中央で、水がきらきらと弾いている。

 子供たちが周りを走り回り、笑い声が青空に溶けていく。

 

 「……綺麗ですね」

 

 「でしょう? なんだか、今日の私たちみたい」

 

 そう言うと、ニコルは少し戸惑ったあと、小さくうなずいた。

 

 「……そう、かもしれません」

 

 その控えめな肯定が、胸の奥にすっと染み込んでくる。

 

 ミーアは、そっとニコルの手を見下ろした。

 逃げないことを確かめるように、指先に力を込める。

 

(本当に……恋人なんだわ)

 

 そう信じ切ったまま、

 ミーアは噴水のきらめきの中で、満ち足りた時間に身を委ねていた。

 

 次回予告 

 

 きらめく噴水の下で、少女は恋を信じきった。

 差し出された手の温もりを、運命だと疑わなかった。

 

 だがその恋は、守るための嘘。

 選ばれた者たちが演じる、優しい檻。

 

 見つめる者は気づき、

 疑う者は沈黙し、

 そして――選ばれなかった者の胸にだけ、

 確かな痛みが刻まれていく。

 

 平和な午後の光の下、

 いくつもの想いが、静かに――すれ違い始めていた。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 第八十一話 噴水の下の視線――平和の中で、選ばれなかった者――

 

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