機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第八十五話 祝福の歌姫――その歌は、誰の犠牲の上に響いているのか――
屋内ステージで満員の観客の歓声を浴びながら、ミーア・キャンベルが歌う。
無数のペンライトが星のように揺れ、歓声と拍手が天井を震わせていた。
ステージの照明がリズムに合わせて色を変え、その中心でミーアは全身を使って歌い、踊る。
ニコルと恋人になれた事を祝福して、ギルバート・デュランダルから贈られた初めての新曲『Sacrifice』だ。
ユニウスセブン落下以来続く戦争で散った全ての人の為に歌う曲。
ともすれば暗くなりがちな歌詞も、ミーアが歌えば途端に元気なテンポで、前向きな力を帯び、たちまちヒットした。
暗い時代だからこそ、明るい歌を。
悲しみを否定せず、それでも前を向くための歌。
人々の心を癒す、明るくて幸せな気持ちになれる歌姫。
(もう私は、ラクスさんの代わりじゃない)
その想いが、胸の奥で静かに、しかし確かな形を持っていた。
今日のライブも成功だった。
ギルバート・デュランダルから新曲を貰えるようになって以来、ミーアの曲は毎日のようにSNSでトレンド入りしている。
ステージを降りた後も、楽屋に戻るまで歓声が途切れなかった。
ニコルと一緒に過ごした数日が、どうしても忘れられない。
生まれて初めて与えられた、誰かに守られるだけの優しい時間。
私を愛してくれる男。
デュランダル議長の期待に応えなくても、歌姫でいなくても、ただの私として見てくれる人。
ニコルと別れて以来、彼と再会した時の妄想ばかりしてしまう。
次はいつ会えるのだろう。
その問いに答えはなくても、不安よりも楽しみの方が勝っていた。
ミーアはマネージャーに呼ばれた。
コンサートは終わり、次の予定が入っている。
今度は慈善団体のチャリティーイベントのため、市街へ移動する予定だ。
そこでもミーアの楽曲が披露される。
『Sacrifice』
その歌詞は、ニコルと共に、ミーア自身の希望でもあった。
ユニウスセブン落下の悲劇により、大勢の人々の未来が奪われた。
戦争による犠牲は、今なお増大し続けている。
この世界の平和のために、幾多の命が犠牲となった。
その重みを、忘れてはいけない。
でも、泣いてばかりいても始まらない。
歌を歌おう。
祈りを込めて、愛を込めて。
私は歌姫なのだから。
もう、わたしはラクスじゃない。
移動する車内で、ミーアはニコルの事ばかり思い浮かべていた。
窓の外を流れていく街並みが、やけに明るく見える。
時折、口元が緩んでしまうのを自覚して、慌てて表情を引き締めた。
彼の事を想うと、胸の奥がじんわりと温かくなる。
私の歌を、私自身を、最初から認めてくれた人。
しかもプラントの著名な音楽家だ。
ミーアが落選したコンクールで、唯一高得点を付けてくれていたニコル。
今ならわかる。
ニコルの目は、最初から正しかったのだ。
今日の慈善団体のチャリティーイベントでも、ニコルが「似合っている」と言ってくれた衣装を選んだ。
それだけで、少し勇気が湧く気がした。
「ミーアさん、次の会場に到着しました」
「ありがとうございます。では、会場に行きますね」
車が停止し、スタッフがドアを開けてくれた。
ここからはカメラマンやマネージャーも同行する。
ミーアは歌姫なので、プライベートを撮られることには慣れている。
今回の慈善団体のチャリティーイベントは孤児院で行われる。
子供達と遊び、歌を届ける時間だ。
どんな子供達がいるのだろう。
楽しみだった。
ミーアが乗る車は孤児院に到着した。
車を降りると、待ちきれない様子の子供達が一斉に集まってくる。
ここ最近、ミーアがチャリティー活動を続けていることもあり、プラント各地の孤児院の子供達とも交流が深まっていた。
年長の子は歌姫のミーアと握手し、歌を聴けることを誇らしげに喜んでいる。
孤児院の中庭は芝生が青々としており、いくつかの花壇も丁寧に整備されていた。
敷地内には小さなプールや遊具もあり、子供たちが走り回っている。
だが、ここにいる子供達の多くは、戦争で親を失っている。
いつものコンサート会場の観客とは違う。
だからこそ、楽しくなれる歌を歌おう。
プラントの歌姫ミーア・キャンベルの毎日は忙しく、楽しく、幸せで、
恋人と少しだけ距離があることも、今は小さなスパイスに過ぎなかった。
孤児たちの中から、大人しそうな女の子が、おずおずと花束を抱えて歩いてくる。
「ミーアさん、来てくれてありがとう」
そう言って、女の子は恥ずかしそうに俯いた。
ミーアは膝を折り、背を屈めて女の子を抱きしめる。
最初は戸惑っていた女の子が、次第に笑顔になっていった。
「お花、ありがとう。大切にしますね」
「はいっ!」
孤児院の職員から子供達にお菓子が配られ、場の空気がさらに和らぐ。
ミーアは歌う前に、子供達と一人ひとり言葉を交わし、名前を覚えようと懸命だった。
子供達はミーアの歌声で元気になろうとしている。
その純粋な期待が、ミーアの胸を強く打った。
やがて、チャリティーイベントのメインとなるミーアの歌唱が始まる。
曲は『Sacrifice』から。
流れてくるイントロに合わせ、子供達も自然と手拍子を打ち始めた。
「今日も、頑張ります」
スタッフが配置につき、ミーアはマイクを握り締め、子供達のために歌い始めた。
歌声が響くにつれ、子供達がミーアの周りに集まり、一緒に手拍子を打ち、口ずさむ。
子供達のために歌うミーアの表情は、楽しそうで、幸せそうで、
本当に歌が好きなのだと誰の目にも明らかだった。
いつのまにか泣いている子供もいて、それを見つけたミーアがそっと微笑む。
その光景を見守る大人たちも、同じ感動を共有していた。
終盤になると、大人も子供も一緒になって盛り上がる。
歌い終わった瞬間、大きな拍手が起こり、子供達は満足そうに笑顔を浮かべた。
その光景は、プラントだけでなく、地球全土へと中継されていた。
(ニコル。あなたが戦っているように、私も平和のために戦うわ。
次は、いつ会えるのかしら)
───中継されるミーアの姿を、執務室で見つめながら、
ギルバート・デュランダル議長は満足そうに微笑んだ。
駒は、計画通りに動いている。
残る障害は――。
デュランダル議長は、地図上に示された小さな国へと視線を移した。
そこには、危険分子であるカガリ、キラ、アスラン、そしてラクス・クラインが揃っている。
(……排除しなくてはならないな)
指で執務机を軽く叩きながら、デュランダル議長は次の一手を思案する。
ここまでは計画通りだ。
だが、オーブの出方次第では――。
次回予告
名を持たぬ計画は、最も危険だ。
それはまだ思想であり、理念であり、
形を持たないがゆえに、誰の罪にもならない。
疑った瞬間、敵となる。
踏み込んだ瞬間、監視される。
正しさを問うことさえ、
この世界では“選別”の対象になる。
それでも――
疑うことをやめた者から、静かに消えていく。
この戦いに、英雄はいない。
生き残るのは、
最後まで“考えること”を捨てなかった者だけだ。
次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生
第八十六話
『名前のない計画――疑念を抱いた者だけが、生き残る――』