機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界――   作:屠龍

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第八十八話 届いた声――平和の食卓――

 第八十八話 届いた声――平和の食卓――

 

 南太平洋に浮かぶオーブ連合首長国。

 首都オロファトからヘリで一時間の場所にあるアスハ家所有の別邸が、カガリ、キラ、アスラン、ラクスが共同で暮らす家だった。

 ここにはヤマト夫妻と、現役を引退したウズミ・ナラ・アスハも暮らしており、近隣にはマルキオ導師の運営する孤児院もある。

 先日のラクス暗殺未遂事件を受け、警備はアスランが指揮しており、万全の態勢が敷かれていた。

 

 物々しい警備を抜けると、そこには家族の温かな営みがあった。

 近く結婚を控えたキラとラクス、カガリとアスランは、ここで共に暮らすことを選んでいる。

 政情が安定すれば、ラクスの父シーゲルにも同居を提案する予定だった。

 現在拘束されているパトリック・ザラについても、釈放された場合は共に暮らすことを提案するつもりでいる。

 もっとも、彼がどのような判決を受けるのかは、まだ分からなかった。

 

 テーブルの上には、ラクスが作った唐揚げや、オーブの魚介類を使ったパスタ、南国のフルーツが並んでいる。

 政務に追われるカガリと、その補佐官であるアスランも、朝食と夕食はできる限りここで取るようにしていた。

 機械工学を学ぶキラと、歌姫としての活動と政治活動を中断しているラクスも、日中はこの家で過ごしている。

 

 「キラとラクスの結婚式は、盛大にやらないとな。私の弟と義妹の門出だし、国民も喜ぶ」

 

 「カガリ、僕は質素にやりたいんだけど」

 

 「そうはいくか。代表の弟の結婚式を、質素に済ませるわけにはいかないだろ」

 

 そう言って、挙式を控えた二人の結婚式の演出に力を入れるカガリに対し、当の本人は終始控えめだ。

 堅苦しいのが苦手なキラの性格を思えば、意向をもう少し汲んであげてもいいのかもしれない。

 

 「でも、ラクスも華やかなドレスを着たいんじゃないか? ラクスは美人だから、何を着ても似合うぞ」

 

 「もぅ、カガリさん。からかわないでください」

 

 政略結婚の話が出てからというもの、カガリは以前にも増してラクスに過保護だった。

 

 アスランは苦笑しつつ、結婚式当日の警備体制について頭を巡らせている。

 世界中から報道陣が集まるのは確実で、そこに紛れてテロリストが潜入する可能性も高い。

 警戒しすぎるということはない。

 

 食事は、いつもより少しだけゆっくり進んだ。

 特別な料理が並んでいるわけではない。だが、誰もが自然と席に着き、言葉を交わしながら箸を伸ばしていた。

 

 「この唐揚げ、前より下味がしっかりしてるね」

 

 キラの何気ない一言に、ラクスが少しだけ胸を張る。

 

 「研究しましたの。冷めても美味しいように」

 

 「研究って……普通そこまでやるか?」

 

 カガリが笑うと、ラクスは少し照れたように視線を逸らした。

 

 アスランは黙って食事を口に運びながら、ふとテーブルを見渡す。

 戦争の話も、政治の話もない。

 ただ、同じ屋根の下で食卓を囲む――それだけの時間。

 

 (……守れている、か)

 

 そんな感覚が、一瞬だけ胸をよぎった。

 

 キラはグラスに注がれた水を口にし、窓の外をちらりと見る。

 警備の光が遠くに瞬き、夜は穏やかだった。

 

 「静かだね」

 

 ぽつりと漏れた言葉に、誰も否定しなかった。

 

 それが当たり前であることを、

 当たり前として受け取れる時間。

 

 ――それが、どれほど貴重なものなのかを。

 この時の彼らは、まだ深く考えてはいなかった。

 

 この日、オーブの夜は静かだった。

 だが――一通の電文が、その平穏を突如として切り裂いた。

 

 厳重な警戒網の内側にある屋敷のリビングで、四人は同じ空間に集まっていた。

 夕食後の、ほんの短い時間。

 戦争でも政治でもない、“家族”としての時間だった。

 

 カガリはソファに無造作に腰掛け、アスランは壁際で腕を組む。

 ラクスは窓辺に立ち、夜景を眺めていた。

 キラは、テーブルの上に置かれた端末をぼんやりと見つめている。

 

 その端末が、静かに振動した。

 

 「……通信?」

 

 画面を開いたキラは、すぐに異変を察した。

 送信元は不明。

 経路は複数回分岐し、途中の記録は意図的に欠落している。

 

 ――これは、見つけてほしい通信だ。

 

 画面に表示されたのは、短い文章だけだった。

 余計な説明はない。

 それでいて、強い圧があった。

 

 キラは内容を素早く確認し、三人にも見せる。

 

 ◇◇◇

 

 最愛の親友たちへ

 

 僕は、直接会うことができません。

 この通信を受け取ってくれることを祈っています。

 今の僕は、常に監視下にあります。

 

 まず伝えたいことがあります。

 プラントの歌姫、ミーア・キャンベルの立場は極めて危険です。

 

 彼女は、ラクス様に代わる「象徴」として利用されています。

 それ以上に、切り捨て可能な駒でもある。

 時間はあまり残っていません。

 用済みとなれば、デュランダル議長は容赦なく切り捨てるでしょう。

 

 僕は彼女を守るため、議長の意向に従い、恋人役を演じています。

 それ以外に、懐へ入る手段がありませんでした。

 

 デュランダル議長は、何か計画を動かしています。

 まだ名前は掴めていません。

 ですが、人を選ぶ思想に基づく計画である可能性が高いです。

 

 証拠は不十分です。

 憶測で動けば、こちらが切られます。

 詳細が分かり次第、また連絡します。

 その際、送信者はメイリン・ホークと名乗るでしょう。

 彼女は、信頼できる人物です。

 

 今は、“知っている人”が必要な段階です。

 

 もう一つ。

 マユとステラの安全も確保してください。

 シンと、僕の恋人である彼女たちも、無関係ではいられません。

 

 僕にできるのは、プラント内部の情報をあなたたちに託すことだけです。

 みなさんを、僕は信じています。

 

 ニコル・アマルフィ

 

 ◇◇◇

 

 ───キラは、しばらく端末を見つめたまま動かなかった。

 

 短い文章。

 だが、そこに込められた情報量は、あまりにも重い。

 

 「……ミーアさんが、危険?」

 

 ラクスが低く呟く。

 

 アスランは黙ったまま、視線をキラの手元に向けている。

 

 ラクスはそっとキラの隣に立ち、画面を見つめてから、静かに息を吸った。

 

 「……ニコルさんが助けを求めている通信ですわね」

 

 キラは小さく頷いた。

 

 「うん。

 それと同時に……覚悟の表明でもある」

 

 ――もう、戻れない場所にいる。

 

 文面の行間から、それが伝わってきた。

 

 「……ニコルは、一人で背負うつもりだ」

 

 「相変わらず、無茶な奴だな」

 

 カガリが拳を握る。

 

 「……厄介なことを引き受けたもんだ」

 

 アスランが短く息を吐いた。

 

 「でも、無視はできない」

 

 キラは端末を伏せ、皆の顔を見回す。

 プラントの歌姫としてラクスの歌を歌うミーア。

 その存在が“象徴”として利用されているという言葉に、なぜ自分が狙われたのかが繋がった。

 

 ――デュランダル議長は、神話を作ろうとしている。

 

 カガリの瞳に力が宿る。

 代表首長としての責任と、ニコルの親友としての想いが、そこにあった。

 

 「危険な場所から送られてきたメッセージだ。

 無視なんて、できない」

 

 キラは端末を握り締める。

 そこに刻まれていたニコルの言葉には、確固たる意志と覚悟が滲んでいた。

 

 次回予告

 

 波は、すべてを等しく消していく。

 足跡も、迷いも、語られなかった言葉さえも。

 

 だが――

 消えたからといって、

 決意まで失われるわけではない。

 

 歌うことで世界を動かしてきた少女は、

 この日、あえて歌わないことを選んだ。

 

 守るために動かない。

 壊さないために、待つ。

 

 それは逃げではなく、

 誰かが背負った時間を、無駄にしないための選択。

 

 静かな海の下で、

 世界は確かに、次の問いへと進み始めていた。

 

 次回。機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生

 

 第八十九話

 『波に消える決意――歌姫が“今は歌わない”と決めた日――』

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