機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH 運命の再生――運命に抗う少年と、崩れゆく世界―― 作:屠龍
第九話 崩れた楽園
ブルーコスモスとの戦いが終わって、まだ数日しか経っていない。
ザフトの艦隊はほとんど壊滅していた。
残ったのは、タリア艦長の『ウルージ』だけ。
動かせるMSは、二機。
報告書の“勝利”の文字を見て、ルナマリアは思わず息をついた。
「これで勝ったって言うの……無理があるよね」
艦内には、負傷者の呻き声。
軍医たちは休む間もなく動き回り、医務室の前にはストレッチャーが並んでいる。
生き残ったこと。
それだけが今の現実だった。
ウルージの医務室だけでは処置が追いつかず、ルナマリアや他の負傷者を送るためのシャトルに乗り込む。
窓の外に広がるハーバーコロニー。
光を受けた外壁は、どこか鈍く見えた。
前よりも冷たく、傷ついているようだった。
(守ったはず、なのに……)
降下が終わり、シャトルがゆっくりと港に着く。
扉が開くと、焼けた匂いが押し寄せた。
空気の中に鉄と灰の苦い匂いが混じっている。
足を踏み出した瞬間、息を飲んだ。
建物は崩れ、道は裂け、あちこちから黒い煙。
焦げた壁に、ひしゃげた看板。
風が吹くたびに、瓦礫の粉が頬に当たった。
遠くから、子どもの泣き声が聞こえる。
その隣では、誰かが金属を叩いていた。
――静けさなんて、どこにもない。
「これが……守った場所?」
声が勝手に漏れた。
目の前の街は、かつての姿を残していない。
商店街は焼け落ち、ショーウィンドウの中ではマネキンが黒く焦げている。
笑っていたはずの顔が、今は歪んで見えた。
崩れた壁の向こうで、人々が遺体を運んでいた。
母親の影に隠れて、怯えた目でこちらを見る子ども。
ルナマリアは、ただ立ち尽くした。
(……あの子にとって、私は“守ってくれた人”じゃなくて、“戦争を連れてきた人”なんだ)
喉の奥が焼けつくように痛んだ。
「……勝利、ね。何それ……」
誰に言うでもなく、呟く。
風が答えもなく通り過ぎていった。
視線の先で、オレンジ色のMSが動いている。
瓦礫を持ち上げ、慎重に運び出しているその姿。
工事用アストレイ。けれど、あの動きには見覚えがあった。
「……シン?」
胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなった。
彼の機体だった。
ボロボロの外装、剥がれた塗装。
それでも、その動きは真っ直ぐで、彼らしかった。
「ほんと……休むって言葉、知らないよね」
口元が、自然に緩んだ。
(……私、何やってるんだろ。こんな時に“会いたい”なんて)
そう思いながらも、目が離せなかった。
汚れたアストレイが、陽に照らされて輝いて見えた。
綺麗とか、かっこいいとか、そんな単語じゃない。
ただ――胸が熱くなった。
病院に着くと、若い看護師が声をかけてくれた。
「ザフトの方ですよね? ありがとうございます。助かった人、たくさんいるんです」
その笑顔は疲れていて、でも優しかった。
「……そんな、私なんて何も」
うまく返せずに、視線を落とす。
包帯を巻く看護師の手が震えている。
それでも止まらないその動きに、胸が締めつけられた。
(この人のほうが、ずっと強い)
医師に診察され、全身打撲と告げられる。
「動いちゃダメですよ」と言われても、頭の中は落ち着かなかった。
夜になっても眠れず、窓を開ける。
外には、小さな灯りがいくつも見えた。
港のクレーン、ビルの屋上、テントの中――
誰かがまだ働いている。
「……星みたい」
小さく呟いた。
その中に、シンもいるような気がした。
胸の奥がじんわり温かくなる。
涙が頬を伝った。
「泣いてる場合じゃないでしょ、ルナマリア・ホーク」
笑いながら、手の甲で涙をぬぐった。
(身体が治ったら、私も手伝おう。復興の戦いなら、私にもできる)
窓の外の光が、星座みたいに繋がって見えた。
ひとつひとつが、誰かの力で、誰かの希望だった。
(……きっと、シンもあの中にいる)
“守りたいものがある”――あの言葉が蘇る。
戦いのためじゃなくて、生きるために。
「私も……シンの隣に立ちたい」
その言葉を口にした瞬間、不思議と力が湧いた。
翌朝。
まだ足はふらついていたけれど、窓際に立つ。
外で動く赤い作業服の人影が見えた。
――きっと、あれはシンだ。
ガラス越しに、そっと手を伸ばした。
届かない距離。
でも、もう怖くなかった。
「……よし、立とう。私も」
朝の光が、崩れた街を照らしていた。
焦げた壁にも、光は落ちていく。
小さく、けれど確かに――それは再生の光だった。
「シン……今度は私が、あなたを支える」
風が頬を撫でた。
涙の跡を乾かすように。
――崩れた楽園の中にも、希望は息をしている。
それを信じられる限り、きっと、前へ進める。
シン✕ステ強すぎて、このままでは負けヒロインになってしまうルナマリア。
彼女の話を数話続けます。
ルナマリアらしい快活で前向きな所が書けていればよいのですが。