超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた   作:ニクニク

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一 超成長しただけの一般通過ゴリラ

 俺は自身のチートが「超成長」であると知った時、勝ちを確信した。

 ある時不意に死んでしまったと思ったら、赤ん坊に生まれ変わっていたのだ。

 そして自身のチートが「超成長」であるということを直感的に理解したのである。

 超成長スキルの効果はこうだ。

 

『このスキルの所有者の生命力、魔力、そして身体を超成長させる』

 

 IQが低いそんな効果、しかしわかりやすく端的で優秀だ。

 これならどんな異世界でもやっていけるだろう――と。

 

 そう、思っていた。

 

 俺の生まれた家が、現代日本のありふれた一般家庭であることを理解するまでは。

 いやもう、本当にごくごく普通の家系だった。

 両親が居て、姉が居て、俺が生まれて数年後には妹も生まれた。

 そんなわけで、俺の異世界チート物語は頓挫したのである。

 

 だって、普通は転生といえば異世界じゃん。

 もし現代だったとしても、何か退魔の家系とかそんな感じの家に転生しててもおかしくない。

 だけど俺は一般人で、ちょっと人より超成長するだけのゴリラだった。

 面白いくらいに成長していく肉体は、なかなか強くするのが楽しかったけど、残念ながらそれは完全な宝の持ち腐れ。

 このまま、肉体がすごい以外は特にこれといって特徴のないオタクとして、二回目の人生を送るのか。

 

 そんなことを考えていたある時。

 俺はついに、この世界の裏側で起こっている戦いに巻き込まれた。

 不謹慎ながら、ちょっとテンションが上がってしまったことを覚えている。

 しかし、それにもまた問題があったのだ。

 それは――この世界の超常的なエネルギーが「魔力」ではなく「霊力」であることだった。

 

 

 ◇

 

 

 夜、俺はどこか雰囲気の違う人気のない街にいた。

 夜だというのに明かりがなくても周囲がぼんやりと明るく、視界が常に確保されている状態だ。

 そんな明かりがなくとも、俺の夜目は光がなくとも周囲を見渡せるくらい利くのだが、あって困ることはない。

 異界、と表現するのが最も順当な、そんな場所をひとり歩く。

 この世界の裏側で戦っている連中は、概ねこの異界で戦闘を行うのだ。

 呼び名はそのまま「異界」である。

 覚えやすくて助かるね。

 

 そんな場所に、本来一般人であるはずの俺が巻き込まれていた。

 まぁ、流石に今の俺を一般人というのは無理があるのだが。

 当時は間違いなく一般人だったのだ。

 そんな俺だが、現在はあるものを探していた。

 それは一言で言うと、この世界の核である。

 異界を形成する核。

 同時に、世界の裏側にいる「妖魔」が表側にやってくるための扉でもある。

 それを見つけて破壊しないと、この異界はなくならない。

 普通の方法では異界を出られない俺がここを脱出するには、この核を破壊しないといけないのだ。

 

「――あった」

 

 それは、町中の公園にぼんやりと浮かんでいた。

 まるでその場所だけを切り取って破壊したかのように、空間が歪んでいる。

 歪んだ空間は、ここではないどこかにつながっていて、妖魔はここを通ってやってくるわけだ。

 周囲に妖魔の存在は見られない。

 ()()()()()()()()()()()()()のだ。

 しんと、静まり返った空気がそこには広がっている。

 よし、誰も居ないならさっさと壊そう。

 いい加減俺も帰って寝たいしな。

 

 というわけで俺がその核に近づいた時、そこから現れる者が居た。

 それは――鬼だ。

 上半身裸で、腰巻きだけを巻いたオーソドックスすぎる鬼。

 狭い核の中から、のっそりと現れる――巨大な鬼。

 珍しく俺よりも背丈の高い鬼が、そこにいた。

 

『――ほぉ、今宵の封魔師はまた随分と面妖な様相をしておるな』

「俺は封魔師じゃないよ。悪いけど今からその核を破壊するんだ、悪いことは言わんから帰ってくれ」

『……クハハ、面白い』

 

 いやいや面白がらなくてもいいんだって。

 俺は眠いからさっさとその核を破壊したいんだ。

 お前がいると、核を破壊できないだろ?

 ちなみに封魔師ってのは、この世界の人類側の戦士。

 退魔師とだいたいイコール。

 

『封魔師に死ねと言われたことはあっても、帰れと言われたことはなかったものでなぁ。貴様、名は?』

「……ナリヒト、曽田ナリヒトだ」

『くく、覚えておこう――これから俺が殺す者の名前としてな』

 

 鬼が、そう言いながら俺に迫ってくる。

 呑気にそれを見ている俺を、素人かなにかだと思っているのだろう。

 まぁ実際、あんまり格闘技とかの経験はないんだけど。

 だってまぁ、人を殴るとやばいことになるからな。

 具体的には――

 

 

『――――お?』

 

 

 ()()()()()

 眼の前で、下半身が吹き飛ばされた鬼が不思議そうにそれを見下ろす。

 そのまま、どさりと地面に倒れ込み、ゆっくりとその姿が塵に消えていった。

 

『な、ぜ――』

「悪いな、お前がそんなに強くなかったんだ」

『ば、バカをいうなよ……! 俺は上級鬼だぞ! 誇り高き大江山の一員だぞ! それを、貴様が……ただの封魔師ごときが……このような……!』

「そして、もう一つすまん。――俺は封魔師じゃない」

『は――』

 

 いいながら、消えゆく鬼に背を向けて、俺は核へと歩み寄る。

 さて、さっさとこの核を壊そう。

 

『おい、待て、何をするつもりだ――それは、封魔師ごときに破壊できるものでは――』

 

 全力を込めて、俺が拳を核に振るうと――

 核は、いとも容易く飴細工みたいに壊れた。

 

『ばか、な――』

 

 やがて、鬼はそれを断末魔に消滅する。

 同時に異界も、ゆっくりと元の街へと戻っていくのだった。

 

 

 ◇

 

 

「やーっと見つけた! アンタ、またやったわね!」

「ん、ああ、ヒツギ。どうしたんだ?」

「どうした、じゃない! アンタまた勝手に異界を破壊したでしょ! いや、別に悪いことじゃないんだけど……破壊したでしょ!」

「悪いことじゃないならいいだろ……」

 

 夜、元の街にもどっても既に人の気配はない時間帯。

 街灯が辺りを照らす公園に、一人の少女がやってきた。

 黒髪に赤いインナーが入った独特な髪型の少女。

 ポニーテールで、如何にも勝ち気な雰囲気を醸し出すソシャゲみたいな巫女服を身にまとった少女。

 名を朱銀(あかがね)ヒツギ。

 ヒツギとは火を継ぐと書いてヒツギである、けっして棺ではない。

 

「いいけど、後処理が大変なのよ! アンタは霊力がないからそれができないんだし、破壊するならもうちょっと丁寧に壊してよね!」

「それはすまん……ただどうにも加減が利かなくてな。加減して殴ると壊れないだろ、アレ」

「そもそも壊すもんじゃないのよ! とりあえずお疲れ様! 助かったわよ!」

 

 見ての通り、なんとなくツンツンしている雰囲気は在るが、優しくていい子だ。

 年は俺の一つ下、今年で高一になるらしい。

 まぁ、学校が違うので先輩後輩って感じでは接してくれないけど。

 そんなわけで、俺は後をヒツギにまかせて帰宅するのだった。

 

 

 ◇

 

 

 ――ナリヒトが帰った後、ヒツギはその”痕”をみてひとり零す。

 

「今回もまた、あいつやってくれたわね……」

 

 ヒツギには、ナリヒトが破壊の限りを尽くした痕が見えていた。

 異界が消えても、そこにいた妖魔の痕跡までは消えない。

 核の側には一体の鬼しかいない、これはすなわち核の防衛戦力が()()ナリヒト迎撃のために持ち場を離れざるを得ない事態が発生したということ。

 

 すなわち――()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 一体残らず、全て。

 結果、核を守る妖魔すらいなくなり。

 ナリヒトが核にたどり着いたタイミングで運悪く異界に顔を出した上級鬼が犠牲となった。

 

「……ほんと、何者なのよあいつ」

 

 曽田ナリヒト。

 本人曰く、少し特殊な才能を持つだけの一般人。

 実際、その経歴には何一つ特殊なところなどない。

 ちょっと妹が生まれつきこっち側の存在かも知れない以外は、本当にごくごく普通の青年だ。

 だというのに――存在そのものは理不尽と不可思議で構成されている。

 

 まず、なんといってもその恵体。

 身長は二メートルに届くかというほどで、体つきは非常にがっしりとしている。

 服の上からでは少ししか垣間見えないが、明らかに常人ならざる筋肉を有する男だった。

 

 そんな彼が、突如として封魔師の前に現れたのは今から一年ほど前のこと。

 一般人が時折こちらの世界に迷い込むことは稀にあることで、運よく封魔師に見つからなければ犠牲となってしまうことがほとんどだ。

 かくいうナリヒトも、封魔師が異界を発見する数時間前に異界へ放り込まれた。

 普通に考えれば、助からないだろう。

 しかし、彼は違った。

 

 

 中にいた全ての妖魔を鏖殺し、異界を破壊して、中からでてきたのである。

 

 

 それを最初に発見したのが、ヒツギだったのだ。

 以来、ヒツギはナリヒト案件の対応を任されるようになってしまった。

 またの名をナリヒト係。

 そしてそんなナリヒトは、それから多くの不条理を成し遂げてきた。

 異界を破壊し、妖魔をボコボコにし、封魔師を助け、人々を守る。

 そんなふうにして、封魔師に関わるようになったのだ。

 

 はっきりいって、封魔師はナリヒトをどうするべきか未だに決めあぐねている。

 

 普通、生き残った一般人には記憶処理をして表の世界に送り返すのだが、ナリヒトは何故か記憶処理が効かない。

 そもそも善良なうえにめちゃくちゃ強いのだから、手を借りられるなら借りたい。

 でも家格もへったくれもあったもんじゃないよそ者に力を借りるのは封魔師のプライドが許さない。

 そんなアレヤコレヤを抱えた結果、今日までナリヒトは封魔師に関わり続けていた。

 

 だが、そんな封魔師において、もっともナリヒトを畏れる理由は理不尽さと強さだけではない。

 ()()()()()()()ことだ。

 なぜなら、霊力を持たないと人は妖魔に対し強い恐怖感を抱いて、まともに動けなくなってしまう。

 なのにナリヒトは霊力を持たないにもかかわらず、普通に振る舞っている。

 

 だからこそ、誰もがナリヒトに対して思うのだ。

 

 

 ――こいつほんま、一体何なの……と。

 

 

 かくして、今日もナリヒトは魔力を使えない世界で、肉体だけで事件を解決していく。

 世界と、妖魔と、封魔師に多大なメンタルダメージを与えながら。

 それでも、大切な人を守りたいという、至極真っ当な純朴さでもって――




筋肉で全てを解決するタイプの亜種です。
対戦よろしくお願いします。
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