超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
朱銀ヒツギは、どこまでも真面目な少女だ。
どれくらい真面目かと言えば、俺の無茶に一年付き合ってもツッコミを諦めないところ。
自分でも自分がやらかしている自覚があるのだが、それでもやらかしてしまうのが俺だ。
そんな俺に根気強く封魔師の常識を教え込もうとしてくれているのだから、頭が上がらない。
しかし、そんな如何にも真面目でしっかりしているヒツギだが、だからといって普通かと言えばそんなことはないと俺は思う。
何しろヒツギは、どんな時でも真面目なのだ。
それは時に、端から見ていて「おかしいな?」と思わされることもある。
……まぁ、原因は俺のせいなんだけど。
「じゃ、今日はこないだのやらかしの罰として、
ある日、俺を鬼之木学園に呼び出したヒツギはそんなことを言い出した。
「といっても、アンタにとっても悪い話じゃないわ。ちゃんとお駄賃は出るし、何より運ぶのは……このクソ重い機材よ!」
「こ、これを運んでいいのか……!?」
そういってヒツギが指さしたのは、如何にも学校っぽさと封魔師っぽさを併せ持つ錆びた金属の機材。
なんか陰陽図が描かれているカカシみたいなものや、遊具みたいな機材などなど。
どう見ても重そうな
「普通の人にとってはあまりに重くて拷問呼ばわりされるこいつらを運ぶのも、あんたにとってはいい筋トレでしょ?」
「ああ、こんな重そうなもの、運ばせてもらっていいのか!?」
「いーのよ。今回はそのついでに鬼之木の校舎を回って、封魔師と半魔の普段の生活を見てもらおうと思ったの。それで、私たちの苦労を少しでも理解してちょうだい」
「精進させていただく!」
ふんす。
俺は気合いを込めて、置かれている機材を
「うわすっご、これ全部で一トン近くあるのに……じゃない! ……危ないでしょ!?」
「このくらいなら軽いもんだが」
「そういう問題じゃなーい!」
ううむ、残念。
そもそも一度に同じ場所へ片付けるわけではないから、まとめて持っても意味はないらしい。
学園中を回るのだから、それが自然か。
「というわけで、運んでいくわよ」
「それにしても、鬼之木を見て回るのは以前ヒツギに案内してもらって以来だな」
「そういえばそうね……アレから一年か。うちもまぁ、結構様変わりしたわね」
一年前、ヒツギと学園を回った時。
なんというか、当時はもう少し俺に対する警戒の視線が強かったと思う。
今では普通に挨拶をしてくれる生徒もいるから、俺も馴染んだということだろう。
とはいえ、中の雰囲気については
具体的には――
「えーと、アレはなんだ?」
「アレは肝練りよ。最近半魔の男子の間で流行ってるの」
荷物を運びながら旧校舎を歩いていると、何やら「チェスト」とか「死ぬやつは運が悪い」とか聞こえてきた。
何事かと思ったら肝練りをしているらしい。
教室の一室で、くるくる回る鉄砲を前に複数の男子が半裸で集まっていた。
チラチラヒツギが視線を向けている。
そっかあ、肝練りかあ。
「いやちょっと待てよ!?」
「何よ、別に半魔だからそう簡単には死なないわよ、弾丸もゴム弾だし……」
と、そこまでヒツギが言ったところで、甲高い銃声が響き渡った。
迫り来る弾丸、俺は慌ててそれを掴んだ。
ヒツギに当たりそうだったからだ。
「大丈夫か?」
「ありがと……って、これ実弾じゃない! ちょっとあんたたち! 実弾は使うなっていったわよね!」
「げえ! ヒツギの姉御だ!」
「散れ! 散れ!」
男子たちは、ヒツギに怒られるとあっという間に教室から逃げ出していった。
凄まじい逃走力だ。
「えーと、ヒツギさん?」
「何よ、いきなり畏まって。……というか、そもそもあいつらが肝練りしてるのはアンタのせいなのよ!?」
「俺!?」
そうなの!?
「アンタの筋肉に憧れを持ってしまった愚かな男子共が、筋肉を手に入れるためまずは精神を鍛えてるのよ」
「いや肉体を鍛えろよ」
「そこはアタシもそう思う」
肝練り自体を止めたほうがいいんじゃないかなぁ……
俺が原因だっていうなら、俺は止められないけどさ。
でもヒツギは止めても良いんじゃないかなぁ!?
「んじゃ、あっち行くわよ」
「……はいよ」
とはいえ、俺から言えることはないので、黙って校内をうろつくしかない。
だってだいたい俺のせいだし……
そうこうしていると、ふと今度は半魔の少女達が目についた。
なにやら、取り巻きを連れたハイソな少女が、どことなく地味めな少女のネクタイを直しているのだ。
なんか……アレだな?
「――タイが曲がっていてよ」
……塔が立ちそうだな!?
百合の気配がすごい。
そしてなんとなく古めかしい匂いもする。
肝練りもそうだけど、旧校舎の一昔前感がそうさせるのだろうか。
とりあえず、何事もなく横を通り過ぎようとしているヒツギに問いかける。
「ええと、アレは……?」
「アンタが生命力を霊脈に流し込んでから、なんか女子同士でああいう感じの耽美な雰囲気が広がってるのよ。男子は肝練りだのチェストだの薩摩臭いし、どれもこれもアンタのせいなんだからね」
「ええ……」
いやまぁ、俺のせいと言われたらそうなんだろうけどさ。
だからそのせいで鬼之木学園の旧校舎がおかしな空気になってしまったとしても、俺は何も言えない。
というか、正座して申し訳ありませんと頭を地面にこすりつけるしか無い。
……やるか? やめておこう(ヒツギの無言の圧を感じつつ)。
だがしかし、一つだけ言いたいことがあるのだ。
俺のせいといえば俺のせいなのだろうが、それにしたってこう……
「なんというか、ヒツギは動じてなさすぎだろ!」
「いや、だって」
俺が思わず言葉に出すと、ヒツギは何を言ってるんだこいつ、みたいな視線をこちらに向けて――
「――アンタのやらかしと比べたら、別にどれもそう大したことじゃないし」
そう言った。
――そう、ヒツギは真面目だ。
真面目に俺のやらかしに付き合い続けた結果、基準が壊れてしまったのだ。
一年前、俺のやることなすことに気絶していたヒツギは、もういない。
今のヒツギは、強くなりすぎてしまった。
まぁ、それもまた成長なのだろう。
ただソレ以外にも歪んでしまったことがあるのだが、それは一旦置いておいて。
「……なんというか、大変申し訳ない、ヒツギ」
「いきなりどうしたのよ」
「いやその……君の感覚を壊してしまって」
「別に今更よ。それに、昔と比べて最近の旧校舎って空気がいいのよ。皆があまりいがみ合ってないから」
一年前、俺は周囲からもっと警戒されていた。
それは単純に俺がやばいからとか、そういう理由ではなく、よそ者だからだ。
当時の旧校舎は半魔と封魔師の関係が微妙で、何とも危うい空気が漂っていた。
「――結果的に、滅茶苦茶すぎるアンタがソレを破壊して、アタシは良かったと思ってる」
「ヒツギ……」
「ただし、もう十分破壊して空気も緩んだんだから、これ以上おかしなことにしないでちょうだい?」
「それは……善処します」
できるかなぁ……できるといいなぁ……いやでもやっぱ無茶じゃないかなぁ。
溢れ出るパッションって、抑えることの出来ない情熱みたいなものだし……同じコト言ってる?
ところで――
「それはそれとして、やっぱ肝練りに実弾使うのを怒るだけで済ますのはおかしいって!」
「いや、絶対アンタの方がおかしいわよ」
そうかなぁ!?
そうかも……いやそうかなぁ!?
おいたわしやヒツ上……