超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
封魔師ってのは面倒な連中だ。
家の格ってやつが絶対で、実力があっても家格が足りないんじゃ相手にされないなんてこともザラ。
とは言えまあ、それも昔の体質を引きずってるってことだから俺がどうこう口出しすることじゃない。
だけど、そんな家柄社会で育ったからか、大半の封魔師は封魔師以外を見下している。
その影響は俺……というか鬼之木学園にも結構影響してくるんだよな。
「んじゃ、次はこの術の練習に使う人形よ」
「術の練習ってことは、封魔師がいる区画に入るわけか」
「なによ、今更じゃない。アンタのせいで鬼之木の封魔師はめちゃくちゃになっちゃったんだから」
「俺のせいかなあ」
鬼之木学園にも封魔師はそれなりにいる。
といっても鬼之木は半魔のための学校なので、通っている封魔師は最低限だ。
そして半魔のための学校に通っている封魔師には二つの意味がある。
一つは半魔の監視、これは前にも話した気がするが、要するにこれと封魔師の他を見下す性質のせいで半魔と封魔師は仲が悪い。
そしてもう一つは、家柄が低い。
家柄の高い封魔師は、わざわざ半魔のいる学園に通ったりしないのだ。
おかげで鬼之木学園は俺が来る以前、空気が悪かった。
しかし妹の通う学校の空気が悪いのはアレだし、俺もお世話になるわけだから鬼之木学園に関しては空気の改善をしようと俺は頑張ったわけ。
結果は、
「押忍! 兄貴!! お疲れ様です!!」
俺が通りかかると、ザッと左右に避けて直立不動で九十度の礼をする封魔師の皆さんなんだけど。
なんというか、封魔師は古い風土だからか、任侠とか義理とかが大事なんだよな。
そこで俺が色々と覚悟(複数の意味)を見せたら、こうなった。
「……慣れない」
「慣れなさいよ、もう一年近くこうなんだから」
「いやそうだけどさぁ」
そして隣では、相変わらず自然体のヒツギさん。
ただこれに関しては、俺のせいで感覚がおかしくなったわけではなくて、もともとヒツギも封魔師だからだ。
これが普通だと思っている。
半魔組から「姐さん」と呼ばれても気にしてないし。
いや、極端ではあるらしいけどね?
めちゃくちゃになった、とはさっきも言ってるし。
それはそれとして、慣れない。
「気になるなら、さっさと済ませましょ」
「うーんまぁ、そうね」
そもそも俺は普段ヒツギ以外の封魔師とはあまり絡まないのだ。
あまり絡んでも認識を壊してしまうだけだし、第二のヒツギは生み出してはならない。
その点、半魔の子たちは元が一般人だったからか、俺に影響されまくってるのはともかく、対応は普通だ。
良くも悪くも根底の価値観は、封魔師ほど俺に崩されることはない。
まぁ、他にも俺と交流のある封魔師はいるんだけどね。
例えば、
「やあやあヒツギくん、ナリヒトさん! 元気にしているかい!」
そんな時だった。
一人の少女が声をかけてきたのは。
ウェーブがかった紫髪に、女子としてはそこそこの背丈。
自信に満ちた笑みと、力強い吊り目はなんというか“王子様”と言った印象だ。
その上で、長い髪や髪留めから、王子様系でありながらガーリッシュというなかなかない印象を受ける少女。
名前は、
「セナ会長、どうしたんですか?」
「お久しぶり、セナさん」
黒羽セナ。
この鬼之木学園の二年生で生徒会長だ。
今、俺たちがいるのは封魔寮鬼之木支部である旧校舎だが、表向きにもきちんと生徒会長である。
封魔師が目立っていいのか? と思うが、本人の気質なので仕方がない。
「いやなに、ナリヒトさんが珍しく封魔師の区画にきたからねえ。挨拶でもしようと思ったんだ」
「それはどうも、普段からもう少し顔を出した方が良かったか?」
「いや大丈夫。ヒツギくんがちゃんとなにがあったか報告してくれるからね。……報告してくれるからね」
「言っておきますけど会長、私は事実しか報告してないですよ」
はい。
「じゃあ、私達は片付けの最中なので、これで失礼しますね」
「いやいや待ち給えよヒツギくん! この片付けはナリヒトさんを案内するためのものだろう? ワタシも参加しようじゃないか!」
「いえいえ、生徒会長には生徒会長の仕事があるでしょうし、そのお手を煩わせるまでもありません」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
そして、ヒツギとセナさんはなんというか、相性が悪い。
というのも、そもそもセナさんは鬼之木学園で最も家格の高い封魔師で、ヒツギはかなり格下の封魔師なんだよな。
普通だったら、そもそも話もしないような立場の存在なのだ。
だけどヒツギは真面目で仕事に熱心なタイプだし、セナさんも如何にも自分がリーダーですってタイプ。
何かとライバル関係になりやすいらしい。
ただまぁ嫌い合ってるわけではないし、家柄を気にせずぶつかりあえるなら悪い関係ではないんだろう。
しかし会うとすぐ言い合いになるので俺としては少しハラハラしてしまう。
とはいえ、そんな二人のいがみ合いを一発で何とかする方法が俺にはある。
ある……のだが…………あまりやりたくないんだよな。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
「いえいえいえいえいえいえいえいえ」
ああ! 俺が悩んでいる間に二人が無限ループに入ってしまった。
以前このループに発展した時は一時間そのままだったことがあるのだ。
なんなら途中で俺が離脱して、3人分の飲み物買ってきてもなお続けてたからな。
俺の話なのに、俺が離脱しても続けてちゃ意味ない気がするんだけど。
ええい、しょうがない。
俺は周囲を確認して、人が居ないことを確かめてから――
「落ち着けふたりとも、ほーら、腹筋だぞー」
自分の服をめくって、鍛え上げられた腹筋を二人に見せた。
「腹筋!!!!!!!!!!!!!」
勢いよく反応したのは、セナさんの方だ。
さっきまでの凛々しい雰囲気はどこえやら、俺の腹筋に飛びついてくる。
ここで抱きつかれると大変なことになるので、慌てて俺は回避した。
べちょ、みたいな音とともにセナさんが崩れ落ちる。
「うへ、うへへへへ、腹筋、腹筋、鍛え上げられた筋肉の匂いい、うへへへ」
――そう、セナさんは筋肉フェチなのだ。
俺に声をかけてくるのも、全ては自分の欲望を満たしたいがため。
特に匂いが好きらしく、仮に抱きつかれると嗅がれるわ舐められるわで大変な目に遭う。
流石にそれは避けなくてはならない。
人前で腹筋晒してるだけでアレなのに、そこまでされたらお嫁に行けなくなっちゃう。
「…………」
対して、無言を貫くのはヒツギだ。
じいいいっと、俺の腹筋を眺めては何やら思案げである。
「ヒツギ?」
「はっ! あ、いや、べ、べっつにぃ!? 私は変態の生徒会長と違って、腹筋につられたりなんかしないわよ!?」
「いや、別に何も言ってないが……」
対するヒツギは、見ての通りむっつりだ。
絶対に自分が筋肉好きとは認めないし、もっというと俺以外の筋肉には興味がない。
というか、ヒツギは筋肉じゃなくて腹筋が好きらしい。
なんでも「ナリヒトの腹筋には、何か惹きつけられる魔性の気配がする」とのこと。
なにそれ怖い……
「というか、二人が落ち着いたならこれ以上見せる意味ないからもう腹筋は見せないぞ」
「殺生な! その腹筋は世界を救う奇跡の腹筋だ! もっと嗅がせて舐めさせて枕にさせてくれ!」
「なんでそうやってすぐに冷静になるのよ、もっと普段のナリヒトらしさを見せてちょうだいよ!」
んで、しまったらすぐに二人して文句を言い出すし。
ヒツギはもう少し取り繕えよ、あと普段の俺を何だと思ってるんだよ。
とはいえまぁ、見ての通りというべきか、なんというか。
仲は悪いけど良い、の典型みたいな二人であった。