超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
何とかセナさんから逃げ出した俺は、ヒツギと二人で最後の荷物を抱えて移動していた。
時間にして一時間程度の簡単な作業だったはずなのに、何故かやたら疲れた気分である。
そんな時、俺とヒツギの前にあるものが目に入った。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー」
それは屋台だ。
なにやらいい匂いをさせつつ、旧校舎に堂々と屋台がでている。
いいのか、これ。
そして、屋台には結構な人だかりができていた。
不思議なことに、半魔も封魔師も分け隔てなくその屋台に集まっている。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー」
……というか、声に聞き覚えがあるんだけど。
聞き覚えどころか、聞き馴染みしかないんだけど。
「ちょっとコノリ! アンタまた屋台なんてやってるの!?」
「げぇ、ヒツギちゃん!? そしてにいさままで!? どうしてここに!? 自力で脱出を!?」
いやコノリはそれを言う側じゃないだろ!?
と、内心でツッコミを入れつつ、屋台の店主――コノリの元へと向かう。
ずんずんと歩み寄るヒツギに、コノリは恐れおののいていた。
「まーた無許可で屋台やってるの!? こないだ模擬戦の賭けの胴元やったことを怒られて懲りたんじゃなかったの!?」
「あ、アレはちゃんと反省しましたわ! だからこうして屋台を! 今度はちゃんと許可を頂いてます!」
どうやらコノリは、以前にやらかしたことがあるらしい。
賭けの胴元って、それ完全に悪の奴がやるやつじゃん。
いやコノリならするだろうけどさ。
でも、一つだけ気になることがある。
「……コノリ的には、ギャンブルは胴元より賭ける側の方がよかったんじゃないか?」
「ああ、賭けの胴元を始めてからそれに気付いて騒いでたところをお縄になったのよ」
「そこは言わないでください!」
想像できるなぁ、頭を抱えてゴロゴロ転がってるところをヒツギに捕まったんだろう。
いや、賭けの胴元のことはいいんだよ。
「っていうか、許可は誰から取ったのよ!」
「そりゃあ、生徒会長に決まってるじゃないですかぁ。あの人に許可を取れば問題ないって専らの評判ですよ」
「それはセナ会長が、公明正大で曲がったことを許さないからでしょう。今年入学したばかりのコノリはあまり実感がないかもしれないけど、封魔師と半魔の間で大きく衝突しなかったのは会長あってのことよ」
中等部の頃からセナさんを見てきたであろうヒツギは、どこかしみじみとそう零す。
鬼之木は中高一貫の私立で、セナさんは中学時代から家柄の関係で封魔師を統率する立場にあったそうだ。
で、鬼之木の封魔師と半魔は他の学校に比べてマシな関係性をしている。
他だともっと派閥争いみたいに激しいそうだ。
なんだかんだ、ヒツギはセナさんのことを認めているから、そういうところを見てきているのだろう。
――が、しかし。
「睡眠中のにいさまの腹筋の写真を上げたら一発でオッケーしてくれましたよ?」
「あの変態生徒会長――!」
コノリの賄賂が発覚すると、いつものように憤りを見せていた。
っていうかその話、俺にもちょっと詳しく聞かせてくれないか、コノリ?
「わ、わーわーわー! とにかく、ですよ! 今回は別に賭けの胴元とかノミ屋じゃなくて、普通の屋台です! 焼きそばとたこ焼き、他にも焼き鳥とか揃ってますよ!」
「まぁ、そこが健全であることは、ちゃんと確認してあるんでしょうけど。でもやっぱり結局は賄賂じゃない……まったく!」
結局腹筋写真の件ははぐらかされてしまった。
いや別に、見せろと言われたら見せるんだけどさ。
コノリって俺のこと慕ってる割には自分の欲望のためなら、割と俺に対しても適当やるよな。
……いや、趣味と実益を兼ねているのか?
コノリさん、その撮った写真何に使ってるの? え、答えない? まぁそりゃそうか。
「こほん。まぁ見ていってくださいよ。お客さんもだいぶ捌けてきましたし」
「……まぁ、昼食を確保するのは悪い話じゃないかもしれんが」
ちなみにコノリが俺達の相手をしている間、屋台は他の生徒が客の相手をしていた。
どうやらコノリのやつ、生徒を雇って手広く展開しようとしているらしい。
その時点で既に色々と金の匂いがすごいが、とりあえず話を聞いてから判断してみるとしよう。
ちなみに今日は土日だが、封魔師と半魔は登校が推奨される日になっている。
お金が出るので、出席率は高い。
「えーと、じゃあとりあえず焼きそばを二つと……ヒツギはたこ焼きと焼き鳥、どっちが良い?」
「たこ焼きね、焼き鳥ってコスパ悪いじゃない」
「屋台の料理はコスパで考えるものじゃないと思うけどなぁ」
まあなんとなく、ヒツギがコスパとかタイパとかそこそこ気にしそうなのはわかるんだけどさ。
「はーい、全部で2400円になりまーす」
「……高くない?」
「えー、一個600円だから普通ですわよー?」
屋台基準で言うと500円な気がするし、焼き鳥一本500円は高いし、購買としてやるなら500円でも高いよ!
でも盛大にぼったくっているかと言えばそうではないし、なんとなく雰囲気に流されて買っちゃう値段をしているし!
そもそも旧校舎にいる生徒は普段から封魔師の給料が出てるおかげで懐に余裕があるから、このくらいの値段だと買っちゃうよな!
とにもかくにも言いたいことは多いけど、それはそれとしてどうかと思う値段設定をしている!
「……あの、にいさま、ヒツギちゃん? さっきから凄まじく何かを言いたそうにしているけれど言いにくい顔の百面相はやめてくださいまし?」
「言ってもいいなら、言うが」
「一応生徒会長の許可を取ってる以上、私からは何も言えないだけだけど、言いたいことなら山程あるわよ」
「聞かないでおきますわ!」
しょうがないので、渋々俺達は屋台の料理を買った。
今度からはちゃんと、屋台の料金を見てから買うことにしよう。
ただコノリの奴、俺達が値段を見たら冷静になるからって値段が見えないように遠くで接客してたよな……
と思っていたら、何やら屋台の店員がコノリに話しかけてきた。
「ところでコノリてんちょー、おまけは渡さなくていいんすか?」
「おまけ?」
「……まだなにかあるの?」
「え? あ、いや、な、なーんもございませんですわよ、おほほ」
「――吐け」
「はい」
基本的に、コノリとヒツギは仲がいい。
よく二人で一緒にいるし、コノリから学校でヒツギと仲良くしている話をよく聞く。
――が、それはそれとしてヒエラルキーは明らかにコノリの方が下だった。
「これ……にいさまチケットです……屋台の商品を一つ買うごとに一枚たまります……」
「俺チケット……?」
そしてまた、なんか胡乱なものが出てきたぞ。
俺チケットって……なんか「兄」と力強い筆致の文字が描かれた……クーポンみたいなものをコノリは手渡してきた。
一体今度は何が始まるんだよ……
「十枚溜まると、にいさまグッズと交換できます……」
「俺グッズ……?」
ヒツギと二人で、顔を合わせる。
これはアウトでは? 俺は視線で訴えた。
…………一応最後まで話を聞きましょう。
ヒツギは首を横に振って、そう返した。
その瞳には、既に諦めの二文字が刻まれていたが。
「にいさまのブロマイドや……にいさまの部屋の空気を使った香水とか……」
「前者はともかく、後者はなんなんだよ」
「にいさまの部屋に入って……香水の容器を開けて……空気を取り込みました……」
「詐欺じゃねぇか!」
アウトアウトアウト!
スリーアウトでチェンジだ!
「ヒツギ、連れて行け」
「ひえーん! これはあくまでにいさまのことを布教しつつお金を稼ぎたかっただけなんですー! 出来心だったんですー!」
「前者はともかく、後者は邪な心しかないじゃない!」
「いやまてヒツギ、邪な心がないとコノリはガチで宗教を作りかねない」
「余計悪い!」
わいのわいの。
結局コノリはひっ捕らえられ、屋台は解体された。
売上は購入者に還元されることとなり、どうするか生徒たちの間でアンケートが行われ――
最終的に、俺の部屋の香水が量産されることとなった。
既に手遅れじゃねーか……まぁ、需要があるならしょうがないけどさ。