超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた   作:ニクニク

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二 霊力を持たず生命力に溢れた最高の肉体

 俺の前世は、特に語るほどのこともないので、ただの社畜オタクだったとだけ記しておく。

 要するに、異世界転生にそれなりに明るい前世を送ってきたというわけだ。

 だから超成長なんて、わかりやすく強そうなスキルにワクワクしない訳が無い。

 だっていうのに、生まれた当初俺は一般家庭の一般通過ゴリラだった。

 鍛えれば鍛えるだけ強くなり、体も大きくなり、ムキムキになっていく身体を育てるのは楽しい。

 けど、それを使う先がないのだ。

 余りにもチート過ぎて、競技の世界に身を投じるのは憚られ。

 かといって、これだけ見た目が強そうなら喧嘩を売ってくる不良もいない。

 おかげで俺は、この肉体を持て余したまま育ったのだ。

 

 そんな俺が、封魔師と妖魔の戦いに巻き込まれたのは高校一年のこと。

 ある時、突然異界に放り込まれたのだ。

 突然始まった非日常、この世界にもファンタジーは存在したんだ。

 ついに俺の眠っていた魔力も目を覚ますのか?

 

 

 ――なんてことを思いながら、結局襲い来る妖魔を全部拳でなんとかして、俺は異界を脱出した。

 

 

 なんというか、こんなはずじゃなかった。

 俺はもっと劇的かつダイナミックな展開で事件を解決できると思っていたんだ。

 現れる敵は俺の超成長でも多少は苦戦するような強敵で――多少、というのがポイント――最後には拳だけじゃなんともならない敵が出現。

 それまで使われていなかった魔力が覚醒し、敵を撃退する。

 そんな光景を、俺は思い描いていた。

 しかし待っていたのは、拳一つでダウンする妖魔達。

 ボスらしき存在すら連打をぶち込めばなんとかできてしまい、結局最後には異界が崩壊して俺の戦いは終わった。

 

 ただまぁその様子を封魔師に見られていたことで、俺は封魔師と関わる事となる。

 封魔師。

 この世界の裏側で、地上を狙って地獄から侵攻してくる妖魔を封魔する者たち。

 退魔ではなく封魔なのがポイント。

 どういうことかは長くなるのでいまは割愛。

 そんな封魔師は、俺が完全なる一般人であったことに困惑しているようだ。

 一応、一般人の中から”魔”――封魔師と妖魔を纏めて呼ぶ呼び方――の力を持って生まれる人間も存在するらしい。

 霊力を持ってたり、妖魔の生まれ変わりだったり。

 でも、そういうのは”魔”に関わる力を持っているのが当然だ。

 しかし、俺にはそれがない。

 

 そう、俺には霊力がないのだ。

 魔力は死ぬほど成長しているはずなのに、霊力は超成長の成長範囲に含まれていなかったのである。

 この世界では霊力がないと、妖魔に出くわしただけで酷いデバフを受けてしまうという。

 しかし俺は超成長により、溢れんばかりの生命力を有している。

 だからちょっとのデバフ程度では影響を受けず、妖魔と戦えてしまう。

 物理だけで妖魔を殴り倒すという、異常事態が発生してしまうのだ。

 

 んで、これによる問題はただ霊力がないというだけには収まらない。

 個人的には霊力を持っていないせいで、封魔師のかっこいい少年漫画みたいな技が使えないことが大問題なんだけど。

 それ以外にも、結構大きな実害が存在していた。

 

 

 ◇

 

 

 学校が終わって、特にすることもないので自宅へ帰ろうと歩いていると、不意に気配を感じた。

 建物と建物の間、狭い隙間になにかこう、いる気がするのだ。

 それは決して物理的な視線ではなく、第六感的なものに訴えかけられているのである。

 

『こっちへこい、こっちへこい』

 

 ――と。

 俺はその感覚に敢えて逆らわず、ふらふらと建物の隙間に入り込む。

 ぶっちゃけ、健全すぎる俺の肉体をもってすれば、こういった誘いは何時でも拒否することができる。

 しかし、そのうえで俺は誘いに乗るのだ。

 理由はとても単純。

 

『おいで……おいで……』

 

 ふと、どこからともなく声がする。

 薄暗い路地の隙間に入り込んだ俺は、不意に後方から気配を感じた。

 しかしそこには誰も存在せず、俺は視線だけでそれを確認してから奥に進む。

 

『おいで……おいで……』

 

 それからも、時折視界の端に変なものが映ったり、唐突にジャンプスケアみたいな感じで”何か”が現れる。

 一言で言えば、それはホラー映画で被害者が犠牲になるときの流れだ。

 俺はそれを理解したうえで、誘われるがままに奥へ進んだ。

 歩いていると、ふとあるところで気づくのだ。

 この建物と建物の隙間は、こんなに深かったか? と。

 もっと狭くて小さな隙間のはずだ。

 隙間にはいったことはないけれど、周辺の立地を考えれば長いはずがない。

 そう思いながら背後を振り返ると――

 

 ――そこには、幽霊がいる。

 

 如何にもホラー映画の怪異っぽい幽霊だ。

 不気味で、あと顔が変形してて怖い。

 同時に、俺の体が動かなくなっていることに気づく。

 金縛りだ。

 幽霊はゆっくりとこちらに近づいてきて、まるで俺を飲み込もうとするかのように大きくなっていく。

 そして――

 

 

「ふん!」

 

 

 俺は強引に腕を動かして、その幽霊の頭を掴んだ。

 

『ぐえ』

 

 幽霊が変な声をあげて、ぷらーんとなる。

 顔がデカくなっても、俺の身長より低いのだ。

 

『…………』

「…………」

 

 沈黙が流れる。

 いや、なんか言えよ。

 

『…………あの、なんすかこれ』

「急に口調軽くなったな」

『聞いてた話と違うんすけど』

「何がだよ」

『ここにいて、待ってるだけで生きた人間を食えるって聞いてたんすけど』

「だめに決まってるだろ――そもそも、()()()()()()()()()よ」

 

 こいつはまぁ、見ての通り幽霊だ。

 死んだあとに成仏できず、彷徨っている霊が悪霊化したのだろう。

 

「そもそも、お前にそれを教えたのは妖魔っていう、お前が成仏できない原因みたいな連中だ」

『え、そうなんすか?』

「お前、心霊スポットに行ったろ。そこで、お前みたいな幽霊にくわれて死んだ」

『詳しいっすね、本職の人? あれ、でもそれならもっと臭いはず……』

 

 この世界の人間は、妖魔や悪霊に喰われると悪霊になる。

 そしてその悪霊もまた、人を喰らうのだ。

 要するに妖魔は人間を喰って、その魂を悪霊にして使役するというわけ。

 妖魔が食べたいのは人間の『肉』だけで、魂は必要ない。

 だからそれを有効活用するための方法が悪霊化。

 

「本職の連中の知り合い。だからこうして、()()()()()()()()()悪霊をおびき寄せてるんだ。本職の封魔師は霊力のせいで悪霊が寄ってこないからな」

『あ、もしかして今まともに会話できるのって、その生命力のおかげ……』

「ああ。普通なら、悪霊になると意思疎通が殆どできなくなるんだよ」

 

 封魔師に限らず、霊力を持ってる人間は妖魔にとって毒だ。

 霊力が神聖なものだから、それを嫌うんだとかなんとか。

 だから妖魔や悪霊は普通の人間を狙う、ホラースポットに肝試しにきた連中を、特に。

 妖魔達が狙うのは()()()()()()()人間だ。

 肝試しをするような行動力のある連中は生命力にあふれている事が多いので、狙われやすい。

 

 ――結果として、この世界にはホラー映画みたいな怪異が実在する。

 肝試しに来た若者とか、配信者が犠牲になるんだよね。

 そして、ここにそんな()()()()()()()()()()()()()人間がひとり。

 ようするに、俺は妖魔や悪霊にとって余りにも魅力的すぎる人間なのだ。

 だからこうして、時折悪霊が襲いかかってくるのである。

 それを捕まえて――

 

「んじゃ、まぁ。成仏しとくか」

『あ、はい。優しくしてくれると……』

「なんか未練とかないか?」

『いや、そりゃ若くして死んだわけだからいくらでも未練はありますけど……人様に迷惑かけてまで叶えたいほどじゃないっす』

 

 というわけで、俺はこの悪霊を成仏させることにする。

 拳で……はしないよ、悪霊は元はただの人間なんだから。

 どうやってやるのかといえば――幽霊は、満足すれば成仏する。

 だから、それを利用するのだ。

 

「きっと次の人生は、いい人生になるよ。俺が保証する」

『はいっす。……なんかすんません、優しくしてくれて。ひさびさにすっげー心が穏やかっす、アタシ』

「んじゃ……またな!」

『あ、あああ! なんか、なんかすっごく救われるー!』

 

 

 具体的には生命力を、更に全開にして()()()()()()()()()

 

 

 生命力は、幽霊にとって浴びるだけで幸福になれる素敵なエネルギーソースなのだ。

 だから超成長によって溢れんばかりの生命力を手に入れた俺は、それを幽霊に注ぎ込む。

 結果として満足した幽霊は、成仏に成功。

 こうして、またひとりさまよえる魂が、天へと還るのだ。

 どうか安らかに、次の人生を送れますように。

 転生という形で、次の人生を経験している俺は、強く心の底からそう祈るのだった。

 

 ――なお、その後このことをヒツギに報告して『アンタまたやったの!?』と電話越しに言われるわけだが、個人的には間違ったことはしていないと思うぞ。




超成長は便利なスキルです。
やってることはホラー映画を拳で何とかするタイプの怪異です。
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