超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
封魔師は、この国の安全を裏から守る存在だ。
千年以上前に創られた封魔寮を母体とし、各地で封魔師は戦っている。
そのせいか、封魔師には色々と面倒な因習や柵が多い。
権力構造が一部の封魔師一族に集中し、序列が全てとなった社会。
朱銀ヒツギはそんな封魔師の一族に生まれた少女だ。
幼い頃から封魔師になるため鍛えられ、同年代の中ではかなり優秀な方である。
しかし、その家格はせいぜい中の下といったところ。
それ故に普段から冷遇されがちな立場にあった。
例えば、ヒツギは偵察を任される事が多い。
これは偵察が過酷だが地味で不人気な任務だからだ。
まず、異界の状況がわからないのに中へ突入させられる。
加えて、もしそこで一般人が巻き込まれていたら救助する必要があるのだ。
救助の必要があるのは良い方で、死体を見つけて嫌な気分になることも多い。
その癖、封魔師の花形である妖魔討伐にはあまり関わらせてもらえないのである。
ヒツギ自身は、そのことにあまり頓着はなかった。
もともと自分の家格が低いことはわかりきっていたし、封魔師としての優秀さは認められている。
まぁ、やっかみは受けるし嫌味も山程飛んでくるが。
そのうえで、正直あまり封魔師の仕事に対して熱意を持てていない。
誰かがやらないと一般人が被害を受けるし、家の仕事だからやっているだけ。
それがヒツギのスタンスだった。
――曽田ナリヒトと出会うまでは。
曽田ナリヒト。
霊力を持たないにも関わらず、拳で妖魔を退治してしまう怪物。
封魔師は最初、彼を普通の一般人として対処しようとした。
しかし、記憶処理に失敗したことでそれが頓挫、ナリヒトを持て余すようになったのだ。
日本人特有のコトなかれ主義から、責任の押し付け合いが始まったのである。
結局、最初に発見したヒツギがナリヒトの面倒を見ることとなった。
押し付けられた、ともいう。
ナリヒト自身は、ぶっちゃけかなり面倒な立場にある。
まず、封魔師は選民思想が強い、一般人を『守ってやっている』という意識が強いのだ。
結果として、一般人に対して見下すような感情を持っている者が多く、ナリヒトも最初のうちはバカにされていた。
まぁ、本人はひとりで行動していることが多いから、そういう言葉が彼に届くことはなかったが。
そしてそんな彼が、異界を滅茶苦茶にするというのも封魔師にとっては面白くない。
有益なんだからそのまま続けさせようという封魔師もいれば、あいつは危険だから排除するべきという封魔師もいた。
どちらにせよ、ナリヒト個人に対する気遣いはなく、前者にしてもナリヒトはコマ扱いだ。
しかしそんなこと、ナリヒトには一切関係ない。
ナリヒトは、拳だけでそれを破壊してしまったのだ。
――現在、ヒツギは封魔寮本部のある一室に向かっていた。
そこは封魔寮で最も深部にあり、三人の老人が待ち構えている。
彼等は封魔寮を支配する御三家の当主であり、現在の封魔寮の根幹をいい意味でも悪い意味でも成している存在だ。
若い頃はとんでもなく強い封魔師だったが、今では権力に溺れた老いぼれである。
そんな老人たちの下に向かわなくてはならない、気が重くなるのも仕方ない案件だ。
とはいえ、流石に一年もやってるとヒツギは慣れてしまったが。
あと、最近はそもそも――
「――失礼します」
ノックをして、反応を待つ。
「入りなさい」
しわがれた老婆の声だ。
老獪という言葉がよく似合う声。
ヒツギはゆっくりと扉を明けて中にはいる。
そこでは、三人の男女がいた。
中央に枯れ枝のような――しかしどこか、力強い瞳を持つ――老婆。
その横に、二人の年老いた男。
この三人が、現在の御三家当主にして封魔師の最高権力。
そんな三人はヒツギが入ってくると――
「よく来たね、ヒツギ。お菓子ありますよ、食べますか?」
そう言いながら、老婆がヒツギにかりんとうを差し出してきた。
朗らかに笑って。
「あ、えっと、いただきます」
「おお、ヒツギちゃん。また背が伸びたかい?」
「は、はい」
「ヒツギちゃんも高校生か、時間が流れるのは速いね」
男たちもくちぐちにそんなことをいう。
完全に孫への対応だ。
受け取ったかりんとうを――おばあちゃんの好きそうなお菓子だなぁと思いつつ――いただかないのも悪いので、口にしつつ。
ヒツギは用意された座布団に正座をする。
そして、足は崩しても善いと言われたりしていた。
――そう、この御三家の当主三人、完全になんか普通のおじいちゃんおばあちゃんになってしまっている。
元はこうではなかったのだ。
老婆の力強い瞳がそれを証明している。
元の彼等はなんというか、欲と矜持と、それから生命力にあふれていた。
良くも悪くも、封魔師として古くから生き延びてきた”強さ”があったのだ。
しかし、今はこれである。
理由は単純。
「あ、あの、それでは
「………………え、ええ、頼みます」
原因は言うまでもなくナリヒトだった。
さっきまで朗らかだった老婆達の様子が、引きつったものに変わる。
そして――
「――今年に入って、ナリヒトが成仏させた悪霊の数が
その言葉を聞いた途端、老婆達は崩れ落ちた。
「……………………………………………………せんたい」
「……のう、千体とは……つまり何体だ?」
「せめて百体くらいに……ならないかのう……」
そう、老婆達がこうなったのはナリヒトのハチャメチャのせいだ。
最初のうち、老婆達はナリヒトを警戒していた。
封魔師の伝統をぶち壊してしまいそうな存在だからだ。
伝統こそが自身の根幹である老婆達に、それを耐えられるはずもなく。
かといって、老婆達にナリヒトを止めることはできなかった。
ナリヒトが強すぎたのだ。
まず記憶処理が通用しないところから始まる。弱ければ「一般人だから」という理由で現場から遠ざけられた。
しかしあまりにもナリヒトが強いがために、遠ざける前に事件が解決されてしまう。
更には結果があまりにもハチャメチャすぎるせいで、老婆達の胃はどんどん死んでいく。
「普通……悪霊は……強制的に成仏することはできないのですよ……! それを……それをどうやって……!」
「生命力を注ぎ込んで、無理やり満足させる……と言っていました」
「無理やりと満足で、矛盾しておるだろうが……! 通るかそんなもの……!」
「だが確かに生命力を注ぎ込めばそりゃあ満足するのじゃろう……! 方法としてはおかしくないぞ!」
「気を確かにせい、鷹宮の! 普通の人間の生命力でそんなことできるわけなかろう! ……ああ、あの男の生命力であったな……」
とまぁ、こんな具合に。
ひとしきり阿鼻叫喚になって、老婆達は悶え苦しむ。
ちなみに御三家はそれぞれ富士根家、鷹宮家、那須野家という。
序列第一位の老婆が富士根家であり、以降第二位鷹宮、第三位那須野である。
一富士二鷹三茄子と覚えれば良い。
「……こほん。とにかくわかりました。あいつ……あの野郎……ナリヒト殿のことは変わらず貴方に任せます。何かあったら報告なさい」
「かしこまりました。ナリヒトからは”どうして悪霊が千体もいるんだ”と質問がありましたが、答えても大丈夫でしょうか」
「構いません。本来なら秘匿するべき事実ですが、彼には関係ないもの」
悪霊が大量にいる理由は、封魔師が悪霊を祓えないからだ。
そもそも悪霊は”自己の満足”でしか成仏しない。
そこに加えて、霊力を嫌う性質があるので封魔師には近寄らない。
だから妖魔がそれを回収し、手駒として良いように使うのである。
そんなことが千年以上続き、妖魔の回収した悪霊の数は凄まじいことになっていた。
妖魔が回収しないと、国中が悪霊で溢れてしまうので封魔師としてもこれは許容せざるを得ない。
しかし、増え続けた負債はいずれどこかで爆発するのではないか、と言われていた。
故に不安を煽らないよう、禁忌として伏せられていたのである。
まぁ、それも解決してしまいそうだが。
――それから、他にもヒツギはいくつかナリヒトに関する報告をした。
その度に老婆達は悶え苦しみ、何とかかんとか受け入れていく。
しかしそんなことをしていたら老婆達の精神もなんか変な方向に向かっていくのも致し方ないというもの。
気がつけば、あの欲に満ちていた因習の主はいなくなり、ただの優しいおばあちゃんになっていた。
封魔師そのものにも、どこか諦めの気配が漂いつつある。
時代は変わろうとしているのだ、なんかおかしな方法で。
「では、失礼いたします」
「ええ、次はもっと穏やかな報告を持ってくるのですよ。かりんとうも黒飴もありますから」
「あ、ありがとうございます」
そうして、ヒツギは老婆たちの下をあとにする。
ナリヒトのことを報告するようになってから、ヒツギは少しだけ封魔師をするのが楽しくなってきていた。
それは老婆たちの驚く顔が見れるという、俗な理由も多少はあったが、それだけではない。
封魔師自体が、いい方向に変わりつつあるのを感じているからだ。
しかしここに、一つだけヒツギは勘違いをしていた。
そもそも、彼女はナリヒトに対して元からあまり悪感情を抱いては居ない。
ヤバいヤツだとは思うが、同時に善良な側面も見ているからだ。
ナリヒトは、どこか自分が戦う場所を求めている節がある。
それも自分の強さを確かめたい、という半ば好奇心からくる俗な感情。
危うい、とはヒツギも思う。
しかしそれ以上に、ナリヒトは善良だ。
善良でなければ、幾ら無駄に有り余っているとはいえ悪霊を生命力で成仏させたりしない。
何より封魔師の手伝いをしないだろう。
だからヒツギは、そこそこナリヒトに親近感を抱き、警戒を解いていた。
ゆえにこそ――
「ようやく行ったか。ヒツギめ、あのどうかしているナリヒト殿の報告を、あそこまで淡々と行えるなど――あやつもどうかしているぞ!」
那須野の当主が、ぽつりとそんなコトをこぼしていると、ヒツギは知らない。
「よしなさい。あの子はナリヒトに
老婆が優しくする理由が、ヒツギに将来性を変な意味で見出しているからだと、ヒツギは知らない。
おばあちゃんの味はかりんとうと黒飴と相場が決まっています。