超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
半魔とは、自身の中に妖魔の因子を持って生まれた人間だ。
何故半魔が人の中から生まれてくるのかと言えば、それには封魔師が妖魔を”封魔”することに根本的な理由が在るのだが、そこは一度割愛する。
大事なのは、一般人の中から人のそれとはかけ離れた特徴を持つ赤子が時折生まれてくるということ。
当然ながらそんな赤子が生まれたら、周囲は大騒ぎになる。
封魔師はそれを聞きつけてその場に現れ、周囲の人物の記憶処理と認識阻害を行う。
そして、半魔の子供が物心ついた頃に、どうしてその子に半魔として生まれてきたのか説明するのだ。
かくして、半魔の子供は封魔師の世界へ足を踏み入れることとなる。
半魔の子供に選択肢はない。
半魔の子供が人として生きて行くには、封魔師の認識阻害が必須。
更には、半魔には常に”暴走”の可能性がつきまとう。
一度暴走したが最後、人に戻ることは出来ない。
ただ、それも封魔師の技術が発展したことで、そうそう暴走の危険はなくなっているのだが。
どちらにせよ、半魔の子供が生きて行くには、封魔師の存在が必要不可欠だ。
そこで問題になるのが、封魔師の部外者へ排他的な姿勢だ。
基本、封魔師は半魔に対してあまり良い感情を抱いていない。
結果として封魔師の中で半魔はときに、ひどい扱いを受けることもあった。
流石にそれで暴走されても困るから、封魔師は対策として半魔を一つの場所に集め、半魔に対して反感を抱いていない封魔師に管理を任せる体制を作ったのである。
これが、鬼之木学園だ。
結果として、封魔師と半魔は基本的に交流が断絶している。
どころか、お互いを敵視する状態にあったのだ。
根っからの巨人ファンと阪神ファンの関係、と思ってもらえばいい。
そんな封魔師と半魔の関係に変化が起きたのは、今から少し前のこと。
その中心人物は――言うまでもなく曽田ナリヒトとその妹、曽田コノリにあった。
まず、コノリは非常に優秀な半魔だった。
何せ
結果として、誰にもコノリが半魔であると気付かれることはなかった。
唯一、ナリヒトを除いては。
正確に言うと、ナリヒトもコノリが半魔だと気付いたわけではない。
ただ、その類まれなる身体能力は、五感を通してコノリが何となく他の人とは違うことを感じ取ったのである。
第六感で直感した、と言っても良いだろう。
だからナリヒトは、普段からコノリのことを気遣っていた。
妹なのだから当然である、という考えもあり、ナリヒトは随分とコノリをかわいがったといえる。
――そこで問題なのが、コノリの人格形成だ。
コノリは本来、生まれた時から半魔であることを隠せる半魔だ。
それは警戒心が強く、また半魔の中では特別妖魔に近い存在であるということ。
生まれつき暴走している、と言い換えることもできるだろう。
が、そこにナリヒトは劇物すぎた。
まず、前提としてナリヒトは妖魔にとって魅力的すぎる存在だ。
生命力に溢れ、霊力を持たない。
そんな余りにも理想的すぎる存在が、自分を特別扱いしてくれるのだ。
コノリの脳は焼かれ、性癖は歪み、親愛の情はタガが外れた。
超絶弩級天下無双のブラコンが、ここに誕生したのである。
コノリはナリヒトを封魔師に接触させるつもりはなかった。
もしナリヒトが封魔師と妖魔の存在を知れば、きっとナリヒトはその世界に関わるだろう。
ナリヒトは強さを誇示したいというありふれた欲求と、他人を見捨てられない善良さがある。
どちらを加味しても、妖魔を見過ごす選択肢はないのだ。
そしてコノリはナリヒトを独り占めしたかった。
だからナリヒトが妖魔と関わらないよう、曽田家周辺で発生した妖魔案件を片っ端からコノリは片付けた。
故に生命力が豊富すぎるナリヒトが、この年になるまで妖魔と関わることがなかったのだ。
まぁ、最終的にはふとした瞬間に異界へ迷い込み、全部破壊し尽くしてナリヒトの存在は露見したが。
――その瞬間の興奮を、コノリは一生忘れないだろう。
最初のうちは慌てた、愕然ともした。
だけど、だんだんと異界がボコボコにされていく中で、それは興奮に変わったのである。
あまりにも、壮絶だった。
これまで、ただ身体を鍛えることしかしなかった兄が、その力を解放する様は。
あらゆる妖魔が一撃で屠られ、あの特級の妖魔ですらまともな戦闘を成立させるだけで精一杯。
ナリヒトは最強だったのだ。
コノリが想像していた以上に、強靭で、無敵で、最強だった。
だからコノリは方針を変えた。
ナリヒトの存在を、世界に知らしめるのだ。
手始めに、コノリは正体を隠すのをやめた。
もともとコノリが正体を隠せていたのは、周囲に封魔師がいなかったからだ。
近づかれてしまえば、すぐに体内に宿る妖魔の気配――妖力でバレてしまうだろう。
半魔であれば、誰もが持っている力なのだから。
故に、隠す理由も方法もなくなったことで、コノリは自身の髪色を黒から元に戻した。
美しい、銀髪に。
ただ、半魔としての身体的特徴は表に出さない。
アレを表に出すと、封魔師は自分を受け入れないだろうと本能的に解っていたからだ。
加えて本来ならありえない突然の覚醒も、兄のせいでゴリ押しした。
兄がいなければ、かなり狡猾で策士なのがコノリである。
兄がいると究極超絶ブラコンと化すが。
それからコノリは、鬼之木学園に進学した。
もともと高校の進学先に迷っていたので、割と鬼之木学園に通えるのは都合が良く。
更にはそこにこれから自分が”導く”べき存在が無数にいると解っていたからだ。
自分以外の半魔である。
コノリの目的は、ナリヒトの存在を世に知らしめること。
そのために、ナリヒトを肯定的に受け入れてくれる集団を形成する必要があった。
半魔は生命力に惹かれるという特性上、ナリヒトに対して好意的になってくれる素養が強かったからだ。
特に、半魔のとある特性上、コノリほどナリヒトの生命力に惹かれる存在は半魔にはいない。
いても鬼之木学園には存在しない。
せいぜいが「あの人、ちょっといいなぁ」くらいのもの。
だからこそ、コノリを中心にナリヒトを信仰するコミュニティを作るには、うってつけの場所。
――だと、コノリは思っていた。
コノリは策士である。
本来であれば、もっと周到に色々と準備をして、事件を起こすことだってできるだろう。
しかし長年ナリヒトから注がれ続けた生命力と優しさによって、コノリはポンコツと化していた。
本人はうまくやっているツモリなのに、どこかでズレているから肝心なところでミスしてしまうのだ。
ナリヒトが封魔師に関わってしまった件だってそう。
コノリはナリヒトをうまく誘導して説得するべきだった。
だというのにそれをせず、妖魔と悪霊の退治にばかりこだわったのである。
そして今回は――半魔の本能的な側面を軽視していた。
半魔は、人であると同時に動物などの身体的特徴を有している。
正確には妖魔であるが、その妖魔の多くは動物型だ。
結果として、半魔には動物的な本能が備わっている。
それはすなわち――弱肉強食。
強いものがすごく、やばい。
そんな単純極まりない本能が、普通の人間よりも強いのだ。
だからもしそこにナリヒトという最強を放り込んだら――
ナリヒトこそが、生態系の頂点に立つ存在だと誰もが認めるだろう。
結果が、あの全員が一斉に襲いかかる模擬戦だ。
ナリヒトこそが王であると認め、それを叩き込んでもらう儀式。
無論、半魔達も勝とうとは思っている。
しかしそれ以上に、王の圧倒的な姿をその目に焼き付けることが、彼等にとっては至福なのだ。
かくして、ナリヒトは鬼之木学園という生態系の頂点に到達する。
コノリは半分諦め、半分信仰の気持ちでそれを受け入れた。
ああ、多くの半魔を従える姿、まさにそれは――森の賢者が森を支配したかのようです、と。
妹が本来主人公だったのかラスボスだったのかは誰にもわからない……