超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
気絶してしまったヒツギは、残念ながら意識を取り戻しそうにはなかった。
とはいえ、出現させてしまった異界をそのままにするわけにもいかない。
完全に今回は俺のせいなので、責任を持って俺が異界をなんとかすることとする。
ヒツギはコノリに任せ、早速俺は異界に突入した。
そこは当然、鬼之木学園の旧校舎側グラウンドになるわけだ。
だが、普段とは少し雰囲気が違った。
なんというかこう、普段の異界はもうちょっと静謐とした空間なのだが、今回は全体的に騒々しい。
ゴゴゴゴ、とか効果音が聞こえるし、風景を照らす謎の光も通常の青から赤に変わっていた。
コレは多分、いつもより難易度が高いのだろう。
気を引き締めなくては。
そう思って、近くにいる妖魔を筋肉探知で探しあて、討伐に向かったのだが――
『い、一体何が起きているんだーーー!』
『うわああああ! たすけてえええええ!』
なんかこう、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
なんで妖魔側がうろたえてるんだよ、……ってそりゃ、この異界が俺の作り出したイレギュラーなものなんだから当然だ。
でも、異界の雰囲気は明らかに危険そうで、俺の直感が今回はいつもより歯ごたえがあると告げているのに。
一体何をうろたえる必要があるのか。
「ふん!」
とりあえず、妖魔が固まっている一帯に着地しながら拳を地面に叩きつけた。
一気に地面が陥没するが、異界の内部の状況は現実に反映されないので問題ない。
妖魔達は――
『ぐえええ!』
『ぎえええ!』
悲鳴を上げながら吹き飛んでいる。
――が、解るぞ。
こいつらは上澄みの妖魔だ。
普通、俺が地面を陥没させながら着地すると、そこにいる妖魔は断末魔も上げられず消し飛ぶからな。
だっていうのに、ここの妖魔は消える気配がない。
最低でも、中級以上の妖魔がここにいる。
普段相手にしているのが下級で、今ここにいるのが中級か上級。
更にその一つ上に特級があるんだったかな。
特級のもう一つ上もあるなんて話も聞いたことはあるけど、いまのところ遭遇したことはない。
「しかし今回は明らかに異界の様子が違う。となると――期待できるんじゃないか?」
俺は、何とか起き上がろうとする妖魔達に視線を向ける。
余波であれば生き残れる者たち。
直接ぶつかれば、おそらく先日戦った上級妖魔のようになってしまうだろうけれど、向こうだってそれは望まないだろう。
『嫌だ……死にたくない死にたくない死にたくない!』
『お、おおおお、おめえが誰だかしらねぇが! 俺達ぁ妖魔だぞ! 死ぬわけねぇだろうがぁああああ!』
彼らもああ言っていることだ、早速ガチろうじゃないか!
超成長のスキルを持って生まれてから、俺はただ思うようになった。
強くなりたい。
強さを世界に見せつけてたい。
俺は最強になりたいのだ。
決して誰にも負けない最強に。
だって、鍛えれば鍛えるほど、俺の体は無限に強くなっていくんだぞ?
ゲームでレベルを上げる快感を、自分の体で得られるようになった。
これほど、人生において潤いを感じたことはない。
生まれる世界は間違えてしまったけれど、戦うべき相手はここにいる。
「いいぞお! もっともっと強くなろう! 俺と戦ってくれ!」
それにしても、この体になってから本当に”戦いたい”という衝動が強くなった。
無論、無差別に人を襲って世界を混乱させたいわけではない。
むしろ大切な人を守りたいと思った時ほど、闘争本能が疼くのだ。
俺は筋肉をパンプアップさせて、探知の精度を上げる。
鍛え上げられた聴覚、視覚、嗅覚、触覚、そして味覚は、類稀なる一つの超感覚として進化した。
それにより、俺の体は遠くにいる強大な妖魔の気配を逃さず察知できるのだ。
そのためには、より筋肉をバルクさせて感覚を研ぎ澄ませる必要がある。
必要なのは運動量、そしてその熱量。
さらなる強敵を求めるためにも、今目の前の敵を平らげるためにも、俺の体は闘争という餌を求めて高まっていた――
◇
それは予てより長年の準備が進められてきた”地獄”だった。
無数の妖魔が妖力を注ぎ込み、構築された特別な異界。
妖魔たちの本拠地である地獄を再現し、妖魔の強さを格段に跳ね上げる特殊な効力を持った異界だ。
正式名称は決まっていないが、妖魔達の間では封魔皆殺し異界――殺界と呼ばれていた。
ナリヒトが中級だと思っていた『余波をやり過ごした妖魔』は実際には下級の妖魔である。
それくらいに、本来であればこれまでの封魔師と妖魔の戦いをひっくり返し兼ねない切り札だった。
ただ、準備にはまだもう少し時間がかかるはずだったのだ。
が、なんか引っこ抜かれた。
結果として、殺界は大混乱である。
そもそもの話、この殺界を生み出すにはどうしても生命力が多量に必要だった。
この世界で生命力が最も溢れているのは某アレを除き――そもそも妖魔の大多数は例のゴリラの存在を知らないが――霊脈だ。
そこから何とか霊力に”汚染”されていない生命力を汲み取り、この殺界は作られてきた。
なお、汚染というのは妖魔にとっての感覚である。
――本来の生命力とは、もっと原初に寄り添う存在だ。
霊力だろうと、妖力だろうと、その存在を包み込むように受け入れる。
そんな包容力に満ちた存在だ。
「おおおおらあああああ!」
こんな風に。
――一見すると、眼の前の光景は包容力とは正反対に見えるだろう。
そこにはゴリラがいた。
そこには生命力の化身がいた。
そこには筋肉モリモリマッチョマンの変態がいた。
そんな変態が、妖魔達をボコボコにメコメコにしていくのだから。
『うわあああああ! 助けてええええええ!』
『いやだああああ! 消えたくないいいい!』
妖魔達は逃げ惑いながら、筋肉の中にある”それ”を感じ取る。
それは生命力の塊だった。
妖魔ならば誰もが思うだろう、これほどまでに溢れんばかりの生命力、味わえば自分が最強になれるだろう、と。
しかし同時に、その生命力は分厚い筋肉に覆われていた。
ああ、筋肉が襲いかかる。
山脈が雪崩のごとく波打っている。
一体、また一体と同胞がぶん殴られてふっとばされていく。
しかし同時に、ふと思ってしまうのだ。
あのムキムキの中には、莫大なまでの生命力が宿っている。
そう感じた時、それを”欲しい”と思ってしまう感覚を、妖魔達は止めることができなかった。
そうして筋肉山とムキムキ合った時、気づくのだ。
それは抱擁なのだ、と。
「おおおおお!」
筋肉は、妖魔たちの前に平等に存在している。
全ての妖魔が、自分に挑むのを待っているのだ。
挑戦を許してくれるそれは、まさに母なる大地。
生命力が霊力や妖力を等しく飲み込むように、妖魔達を抱擁してくれる。
この魅力に、抗える妖魔はいない。
――そしてみんな纏めてめきょっと潰されて終わった。
戦場に、妖魔は残っていなかった。
全員纏めて頭を地面に叩きつけられ犬神家となり、田植えのごとく突き刺さっている。
これもまた、生命の輝きというべきだろうか――いやんなわけねぇな。
というわけで、もはや殺界にはそれを生み出した首魁が残るのみとなった。
『ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな――!』
その妖魔は、一言で言えば天狗だった。
どこか卑屈な雰囲気の、けれども溢れ出る妖力だけは他とは違う雰囲気を醸し出す妖魔。
『役立たずどもめぇ! あんなバケモノ、正面から相手して良いわけ無いだろうが! 追い出すことを考えないかー!』
その様子を、一言で表すのであれば――策士。
あきらかに、前線に立つタイプではない妖魔。
名をカタリ天狗。
この殺界を作り上げた特級妖魔であり――今回の被害者だった。
妖魔の退治時の効果音は配慮してお送りしています。
一応次回一区切り。