超成長スキルを持って転生したけど、生まれる場所を間違えた 作:ニクニク
「――――はっ! ここは……」
「あ、ようやく起きましたね、おはようございますですヒツギちゃん」
「コ、コノリ……そうだナリヒトは!? あいつ、またやらかしたのよね! 記憶が曖昧だけど!」
「……多分、思い出したらまた気絶しちゃいますよ」
慌てるヒツギを、コノリはなだめる。
起こってしまったことは、起こってしまったことだ。
またヒツギが気絶して大変なことになると、コノリとしても困る。
まぁ、見た感じナリヒトが生み出した異界はドッタンバッタンギッタンバッコンしているようだから、心配は要らないだろう。
そのうちナリヒトが何とかして出てくるはずだ。
「それにしても……本当にナリヒトってなんなのよ。悪霊は変態成仏させる、妖魔は無理やり引きずり出す、挙句の果てにゴリラでポン! どうかしてるわ!」
「ゴリラでポンはおかしくないですか?」
「いやあってるでしょ……」
「まぁそうですね……」
コノリはナリヒトを信奉しているが、ゴリラでポンなのは否定できない事実だった。
「……にいさまは、特別な人なのです」
「それは解るわよ、普通の人間があんな馬鹿力持ってるわけ無いし」
「特別なのは能力だけではないのですわ。その精神性も、人とはかけ離れております」
「まぁ、突然おかしなことを始めるものね……」
それに、とヒツギは続ける。
「それに、あいつって割と変よね。強さを誇示したいのに、人前でそれを見せつけようとはしないし」
「にいさまは公明正大ですから、自分の力でアスリートとして活躍するのは”ズルい”と思っているようですわ」
「……やっぱりあいつの力って、”普通”じゃないわよね。それに、もう一つ疑問があるの」
「と、いいますと?」
「あいつって強さを誇示したい承認欲求は人並以上にあって俗なのに、やってることは善良なのよね」
方法を抜きにすれば、常にナリヒトは誰かを守るために行動している。
悪霊を成仏させるのも、悪霊の被害を出さないためであり、同時に悪霊になってしまった人に来世という救いを与えるためでもあるのだ。
だからこそ、承認欲求の俗さが変に見えることもある、とヒツギは考えていた。
「ふふ、コノリはわかっています。――同じなんですよ、ヒツギちゃん」
「……同じ?」
「承認欲求も、誰かを守りたいという思いも、根底にあるのは同じものなのです」
それこそ、ヒツギにはわからない話だった。
どうして、その二つが結びつくのだろう。
コノリはそんなヒツギに、にこりと微笑みながら続けた。
「だってにいさまは――生命力に満ち溢れ、健全な肉体を持つ――そんな方なんですもの」
そんな会話が繰り広げられる中、異界は時折振動している。
ヒツギはその事実から目を逸らし、現実逃避をしながら、コノリの言葉に耳を傾けるのだった――
◇
――カタリ天狗は、理不尽と不条理に怒り震えていた。
作戦はもうまもなく成功するはずだったのだ。
しかしそれが、突如として発生したイレギュラーによって全てご破算となった。
眼の前の男、盛り上がった筋肉、溢れ出る生命力――間違いない、こいつが噂の殺人ゴリラだ。
そいつが異界――カタリ天狗は殺界という通称は縁起が悪いので採用していない――に突如として現れて、全てを滅茶苦茶にしてしまった。
こんな……こんな理不尽がゆるされていいのか!?
『ぐおおおお! い、如何に戦闘が得意でなくとも、特級の我が……この異界で強化された我が……!』
今のカタリ天狗は、特級を超えた存在だ。
八王には届かなくとも、ただの特級よりは間違いなく強い。
その自分が――眼の前のマッチョの、拳を振るうだけという単純極まりない攻撃を――
『ただ耐えることしか出来ぬなど……!』
――これが、強い封魔師の封魔術であれば、まだ解る。
強力な半魔の能力であれば、頷ける。
しかしこれは、ただの拳だ。
霊力を持たない、半魔でもない、普通の人間が妖魔を圧倒するなど、あって良いことではない……!
『なんなのだ、何故貴様は我の前に現れた! もうまもなく野望が成就するはずのこの状況で……!』
「何故も何もあるか、お前が人々を傷つけようとしてたから、俺はそれを防ぐために戦ってるんだろ!」
実に善良な回答だ。
しかし、カタリ天狗だけを狙っているわけではないのだろう。
だったらよりにもよってこのタイミングじゃなくてもいいだろ! カタリ天狗はまじで切れそうだった。
切れてもどうにもならないので諦めるが。
それよりも、指摘するべきことがある。
『――ハ、それだけではないだろう! お前は決して、そんな善良な理由だけでは戦っていない!』
カタリ天狗は、策を弄する天狗だ。
同時に、人の心を弄ぶ天狗でもある。
だから人の心を見透かすことができるし、眼の前の筋肉がただ人を守るために戦っていないことも解る。
故に指摘した、が――
「いや、そりゃそうだろ」
バッサリ。
あっけなくゴリラは同意した。
「俺は強さを誇示したい。こうして鍛え上げた肉体を、見せつけたい。そういう気持ちも確かにある」
『く……それを臆面なく話すか!』
「――別に、後ろめたく思う必要はないだろ?」
理解した。
この筋肉は――健常すぎるのだ。
メンタルが強い。
善良さも俗さも併せ持ち、その上でそれを当然のことだと受け入れている。
健常なメンタルであれば、そう考えるのは普通だろう。
そして、健常なメンタルを作るうえで、果たして何が必要か――
『肉体を鍛えて、生命力に溢れた怪物め……!』
健全な精神は健全な肉体に宿る、全くもって当然の答えだ。
忌々しいほどに、このバケモノは健全すぎるのだ――!
「なぁ妖魔。……そもそもどうして、お前達は人間を襲うんだ?」
『それが……どうした! 別におかしなことではないだろう。人が人を襲うことだってあるというのに、人と敵対する妖魔が人を襲って何がおかしい!』
「たとえば、妖魔が人から住む場所を奪われて地獄に押し込められたのか?」
『そんなことはない! 我らは地獄で生まれ、現世を蹂躙する存在である!』
「だったら、ようするに――」
健全すぎるのに変態じみた実力を誇る変態の拳が、更に勢いをましていく。
まだ全力ではないのか? ふざけるな、とカタリ天狗は忌々しげに筋肉バカを睨んだ。
その感情に――
「――悪意で、人を害そうってわけだ」
――純然たる悪意を載せて。
それをムキムキが察した時、カタリ天狗もまた察した。
このムキムキ山には――悪意がない。
健全で、悪意を抱くことがないから、俗だろうと善良だろうと構わないのだ。
人を傷つけないのであれば、どれだけ俗でも他者を攻撃することはない。
そして妖魔は――悪意によって人を害する。
それは何故か。
カタリ天狗は理解していた。
妖魔にとって、人は餌でしかないからだ。
飢えを満たすために、弱者をいたぶり踏みにじるのが妖魔の在り方である。
しかし、故に、だからこそ。
拳を連打され続け、バケモノの生命力が叩き込まれ続けたカタリ天狗は――
『ふざけるなよ……貴様が健全な変態だろうと、我は妖魔だ! 特級妖魔、カタリ天狗であるぞ!』
感化されていた。
ムキムキマッチョマンの生命力に、そこから溢れ出す活力に。
カタリ天狗は気付いていない。
本領が詐術であるはずのカタリ天狗が、正面から筋肉ダルマを打倒しようとしていることに。
それこそが、この筋肉の塊――
『――名を問おう! 人間!』
「ナリヒト……曽田ナリヒトだ!」
ナリヒトと対峙するということの、本当の意味だ。
ナリヒトは悪霊を成仏させる。
妖魔すらも、屠ってみせる。
それは何故か。
膨大すぎる生命力で、妖魔を満足させてしまうからだ。
ナリヒトの拳は、一撃で妖魔を消し飛ばす。
その原理は、その拳にやどったパワーで圧倒され”負けた”と思わされたタイミングで膨大すぎる生命力を浴びるからだ。
そうすると、何が起きるか。
『曽田……ナリヒトォオオオオ!』
「カタリ……天狗ゥウウウウウ!」
――ガードを解いたカタリ天狗が、ナリヒトに殴りかかる。
同時にナリヒトもまたカタリ天狗へ殴りかかり――決着がついた。
『ぐ、ぅ……完敗……か』
カタリ天狗が、その場に倒れる。
その表情は、ありありと一つの感情を物語っていた。
――満足だ、と。
そう、生命力溢れるナリヒトに感化されて拳を交わすことで、妖魔は満足してしまう。
殴り合うことができなければ、その実力差に諦めてしまう。
結果――
『ああ――我は……成仏するのか』
――妖魔は、成仏する。
偉大すぎる筋肉へと挑み、そして敗れたことで。
『だが…………悪くない、気分だ……』
カタリ天狗は、殺界を生み出した当初の目的も、ナリヒトと最初に出くわした時の警戒心も完全に忘れ去り――消滅した。
「……いい拳だったぞ」
ナリヒトはそんなカタリ天狗のキャラ変なぞ知る由もないから、誰も気付かない。
いい雰囲気を出しているけれど、カタリ天狗の人生を賭けた策は台無しになったし、ナリヒトは外でやらかしたことをしったヒツギが凄まじい形相で待ち受けていることを。
しかしそんなことなどどうでもいいと言わんばかりに、なんかいい話風にこの場はまとまるのだった。
というわけで一区切りです。
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