暗殺教室短編集   作:クリオネf。t

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暗殺教室の二次小説であまり見かけない他校設定のオリ主のお話です。



自由気まま。

夏の日の邂逅。

 

「にゅやーッ!!!」

 

 普通の姿──と思っているのは本人のみだが──に変装した謎の超生物、通称殺せんせーと呼ばれるその人物は、とある店舗の前で膝をついて打ちひしがれていた。膝と言っていいかどうかは定かではないのだが。

 

「まさか即完売だなんて……一生の不覚……!!」

 

 彼は超がつくほどの甘党であった。この日は幻の一日限定スイーツを目当てにその店を訪れていたのだが、目の前で即完売したのである。そのあまりのショックに、普段マッハ20で移動する流石の殺せんせーでさえその場から動けずにいた。

 

「もし、お兄さん」

 

 そんな殺せんせーに、一人の少女が声をかける。彼女の手には、件の店の袋が下げられている。恐らく彼女も限定スイーツ目当てに訪れたのだ。そして、幸運にもそれを手に入れたのであろう。

 

「お兄さん、よかったらこれ、いります?」

 

 そう言って少女は手に持つ袋を差し出して来た。確かに限定スイーツが手に入らなかったことは何よりのショックである。

 

「にゅやっ!?しかしそれは貴方が並んでやっと購入したものでは?」

 

 自身の生徒と変わらぬ歳頃に見える少女。もしこれが自身の受け持つクラスの生徒であったなら、「いいんですか!?」とでも言いながら即食いついていただろう。しかし目の前の少女は、自身の生徒ではない為、それも憚られる。

 

「この近くにスイーツを食べるのに丁度いい場所があるんですよ。よかったら、そこで一緒に頂きませんか?」

 

 にこりと笑みを浮かべて、少女はそう言った。

 

「むむ…しかしそれはおひとり様ひとつだけのはず…分けて食べると、あなたの分が減ってしまいますよ」

「何をおっしゃいますか、こういうのは美味しさを共有する相手がいる方が倍美味しいんですよ」

 

 中々気配り上手な少女だと、殺せんせーは思った。ここまで言われてしまうと、断れない。スイーツを食べたい気持ちも強いし、殺せんせーは彼女の言葉に甘えることにした。

 

「そこまで言われるも断るのも野暮ですねぇ…ここはお言葉に甘えさせて頂くことにしましょう。どこのどなたかは存じませんが、ありがとうございます」

 

 少女は殺せんせーの言葉に対して穏やかに微笑み返す。

 

「では、行きましょう」

 

 

 

 

親切な少女に連れられて来たのは、飲食スペースのある長閑な公園だ。なるほどこれは確かに、食事を摂るのに丁度いい場所である。

 

「それにしてもお嬢さん、中々の気配り上手ですねぇ。まだお若いのに、感心です」

 

 うまうま、とスイーツを頬張りながら、殺せんせーは少女に言った。

 

「ありがとうございます。お兄さん、学校の先生っぽいですね〜」

 

 少女は微笑みながら、確信をついてきた。驚いた殺せんせーは一瞬彼女の顔色を伺うが、悪意や敵意という感情は見受けられないので、善良な一般市民だろう。

 

「にゅや、よく分かりましたね〜」

「意外と得意なんですよ〜、こういうの」

 

 少女は自慢気でもなく、かと言って謙遜しているわけでもなく言う。そんなところに好感が持てると感じた。恐らく彼女は他人の本質を見抜くのが得意なタイプだ。E組の中だと赤羽業に近いタイプの人間だろう。

 

「しかし不思議ですねぇ。お嬢さんとは今日会ったのが初めての筈ですが、そんな気がしません」

 

 殺せんせーが初めから抱いていた印象だった。彼女と会ったのは、正真正銘今日が初めてだと確信している。しかし、どこか既視感があるのだ。

 

「あ、もしかして、椚ヶ丘の先生だったりします?」

 

 彼女がそう言った瞬間に、この既視感が何なのか理解した。

 

「!! なるほど、もしやお嬢さん、浅野理事長の娘さんですね」

「ふふ、正解です。父がいつもお世話になってます〜」

 

 既視感の正体は、椚ヶ丘学園の創設者である浅野學峯だった。恐らく彼女の方も、殺せんせーが「初めて会った気がしない」と言ったことで椚ヶ丘の教師であると察したのだろう。彼女自身に自覚があるほど、理事長の面影があるのだ。

 

「いえいえこちらこそ…」

「自己紹介が遅れてごめんなさい。私、浅野学実(まなみ)といいます。よろしくお願いしますね、先生」

「どうもご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。私は……そうですね、生徒には『殺せんせー』と呼ばれています」

「『コロ先生』?先生の丸くてコロコロした雰囲気に合うかわいい名前ですね。生徒さんがつけられたんですか?」

 

 事情を知らない者には、そういう風に捉えられるらしい。まぁ、普通は先生の愛称で『殺』なんて発想はないだろう。

 それにしても、目の前の少女…学実は、父親である理事長にも、その息子である学秀にもよく似た顔立ちをしている。しかし、彼女の方が何となく雰囲気が穏やかだし、今話している限りでも気さくで明るい、父にも兄弟にも似ていない性格をしていることが窺える。

 元々E組は別校舎であり、殺せんせー自身も国家機密なので本校舎に寄りつくことはない。だから彼女の姿を見たことがないというのは当たり前だ。しかし、兄弟である浅野学秀の方は定期テストで毎度学年一位という首席で、生徒会長でもある為E組の生徒の中でも割と名前が上がるが、彼女の噂は全く耳にしたことがない。ということは、恐らく彼女は椚ヶ丘学園の生徒ではないのだろう。

 

「理事長の娘さんということは、3年の浅野くんとはご兄弟ということになりますね」

「ええ、学秀は双子の弟ですよ。元気にやってますか?」

「私は別校舎で担任をしてまして、本校者の生徒である浅野くんとは関わったことがないのです」

「ああ、確か特別強化クラスがありましたね」

 

 パンフレットにもE組の存在は大分暈してはいるものの、記載はあるのでそこは知っているようだ。しかしながら、弟が元気でやっているか聞いてくるあたり、もしかすると疎遠なのかもしれない。

 

「浅野くんから話を聞いたりしないのですか?」

「そうねぇ、あの子私と顔を合わせたがらないから、あまり話さないんです」

 

 そう口にする学実は、あまり寂しそうな様子は見受けられない。彼女の方は別に弟を避けようとは思っていなさそうな感じである。

 

「学実さんは、お父様の経営する学校に進学しなかったのですね」

「ええ。中学受験はせず、市内の公立中学校に通ってますよ」

 

 椚ヶ丘市内の公立中学校はたくさんあるが、理事長の自宅の校区内の学校だと桜台中学校だろうか。

 

「失礼を承知で伺いますが…それは、お父様と上手く行っていないからですか?」

 

 打算ではなく、純粋な気遣いで自分に声をかけてくれた彼女は、父親とも弟ともその在り方が違う。歳頃の少女だ、それが理由で中学受験をしなかったという可能性もある。勿論、ほとんどの人間は中学受験をしない者も多いので、完全にそうとは言い切れないが。

 しかし彼女は、あっけらかんと言い放つ。

 

「え、そういうのじゃないですよ」

 

 どうやら杞憂だったらしい。彼女の表情に翳りは全く見られなかった。

 

「単純にそっちの方が私に合う場所だと思ったからです。勉強は楽しいことです。でも、他にも楽しいことはたくさんある。どうせ楽しいことをするなら、自分がいいと思った場所の方がいいでしょう?」

「ふむ…確かにそうですね」

「まぁ、直感でもあるんですが」

「にゅ…直感ですか」

「そうそう、こう、ビビッと!まぁ、お父さんと思想が合わないことは事実ですし、そんなお父さんの経営する学校だから、校風が私には合わないな〜って思うのもまた事実なんですけどね。それでも、椚ヶ丘にビビッと来ていれば行ってた可能性はありますが…残念ながら来なかったので」

 

 なるほど、口ぶりから察するに彼女は父親に対しても壁を作っているような感じではなさそうである。

 

「なるほど、貴方は直感を大切にするタイプなんですね」

 

 しかし、行き当たりばったりという訳ではなさそうだ。そう感じるのは、話しているだけでも彼女が聡明な子であることがよくわかるからだ。自分の意思をはっきり持っていて、自分がそうしたいからそうする。是非とも自身のクラスに欲しい逸材である。

 

「それにしても、あの教育熱心なお父様がよく許してくださいましたね」

 

 言うことといえば、これに尽きる。椚ヶ丘じゃなくとも、せめて進学校に進めたいと考えていそうなものだと思うのだが。

 

「ああ、お父さん、意外とすぐ折れますよ」

「にゅやっ!?そうなのですか…!?」

 

 浅野親子は父親も息子も有無を言わさぬ威圧感がある。自分の意思を譲らないところもよく似ていた。そんな學峯がすぐに折れるなど、想像し難い。

 

 

「勿論、最初は考え直せと言われましたけど」

「そこからどうやって許してもらう流れに…?」

「嫌だとはっきり言いました。最後に『学費諸々はよろしく』と言って返事は待たずに部屋を出ました。そこからはもう何も言われず、無事に桜台中学校に進学して今に至る、って感じですね〜」

 

 この子は自由なのだな、と思った。何モノにも縛られない性格であるからこそ、家族のしがらみを気にせずに接する。學峯はそんな彼女を理解しているから、何を言っても無駄だと半ば諦めているのだ。あの學峯が、である。だからこそ、弟の学秀も彼女と関わろうとしないのかもしれない。どう足掻いたところで、彼女が誰かの意のままになどならないということが明らかだからだ。

 

「…ふぅ、ご馳走様でした。あなたのお陰でもう二度と食べられないかもしれないスイーツにありつけて、先生幸せです」

 

 気がつけばすっかり話し込んでいた。学校関係者以外の人物とこうやって他愛もない話をすることは中々ないので、新鮮でとても楽しいと殺せんせーは感じた。

 

「ふふ、私も楽しかったですよ。先生は甘いものが大好物なんですね」

 

 父や弟とよく似た、しかしどこか温かみのある色を宿した瞳を細める。

 

「ええ、それはもう」

「私も大好きなんです。もしかしたらまたどこかのお店で出会うかもしれませんよ。そうなったら私たち、『スイ友』ですね」

「ヌルフフフ、それは『スイーツ友達』ということですか?いいですねぇ、私、大切な生徒たちや同僚はいますが、職場以外の場所で好きなものを共有し合える友人は少ないもので」

「じゃあまたどこかで会いましょうね、"コロちゃん先生"」

「にゅやっ、その呼び方は初めてですが、いいですねぇ」

 

 その日はそうやって別れた。しかし彼女の言った通り、その後も何度か偶然鉢合わせる機会があり、それが殺せんせーにとって密かな楽しみのひとつとなったのである。

 


 

喫茶店にて。

 

 その日は興味本位で、渚含む5名は磯貝のバイト先である喫茶店へ訪れていた。

 椚ヶ丘中学校は、本来アルバイト禁止である。それでも、母子家庭で裕福とは言えない磯貝は、少しでも家計の足しになるようにとバイトをしていた。それが彼がE組に落とされた原因である。

 磯貝は人が良く、顔立ちも良かった。故に、一同は彼の働きぶりを眺めながら「イケメンだ…」と感嘆している。

 

「イケメンにしか似合わないことがあるんです…磯貝くんや先生にしか…」

 

 何だ貴様!と全員の声が一致した。

 

「ここのハニートーストが絶品でね〜、これに免じて、磯貝くんのバイトには目を瞑ってます」

 

 殺せんせーはもぐもぐとハニートーストを頬張りながら、

 

「でも皆さん、彼がいくらイケメンでも、差程腹は立たないでしょう?それは何故に?」

「あの子とてもいい子そうだもの、きっとそういうことでしょうね」

「そうそう。単純にいい奴だもん、アイツ。それ以外に理由いる?………って誰!?!?」

 

 この会話の中に自然と混じる人物。それは殺せんせーの向かい側の席に座り、同じハニートーストを美味しそうに頬張る少女。渚たちが見たこともない少女だった。

 

「ああ、彼女は…」

 

 殺せんせーが彼女を紹介しようとした丁度その瞬間にカランカランとドアベルの鳴る音がして、磯貝は「いらっしゃいませ〜」と接待する。

 

「おや〜?おやおや、情報通りバイトしている生徒がいるぞ?」

 

 運の悪いことに、それは生徒会五英傑であった。渚たちの顔に翳りが浮かぶ。

 

「これで二度目の重大校則違反。見損なったよ、磯貝君」

 

 最悪だ、と誰もが思った。しかし、今度は渚たちの奥の席…殺せんせーの座っている席に目をやった学秀の方が顔を引きつらせる。

 いつも余裕の表情を浮かべる学秀がそんな表情をするのは珍しい。

 

「な…何故お前がここにいるんだ」

 

 どうやら殺せんせーの向かい側に座っていた少女を見て浮かべた表情らしかった。黙々とハニートーストを咀嚼していた少女──学実は、その声に学秀の方へと振り返った。

 

「あら〜、学秀。家の外で遭遇するなんて珍しいわね〜」

 

 振り返った彼女を見て、渚たちは勿論、学秀以外の五英傑メンバーでさえ驚愕の表情を浮かべた。

 そっくりなのだ。

 髪の色も、瞳の色も形も。学秀が女であったならこうだろう、という想像をそのまま写したかのようなその顔。

 

「何故、なんて言われても、たまたまとしか言い様がないわね〜。私、甘いもの好きだから、こうやって美味しい店を巡っているのよ」

 

 そう言いながら、何事も無かったかのように再びハニートーストを食べ進め始める学実。何とも緊張感がない。渚たちはそう感じた。

 

「ところで今日は生徒会のお仕事?忙しそうねぇ〜」

 

 嫌味な感じではない。至って普通の態度で彼女は言葉を発する。そう、普通なのだ。普通に家族や友人と会話をするかのように、彼女は話していた。学秀相手に、だ。

 

「邪魔なんてしないわよ〜。その子に用事があるなら、私のことは気にせず外で話してくるといいわ」

 

 明るく、親しみやすい話し方。一言で表すならばこれに尽きるだろう。学秀はどこか忌々しげな顔をしながら、磯貝へ外へ出るよう催促する。どうせ店の中でするような会話でもないし、第一このまま中にいるのは店にも迷惑がかかる。磯貝は大人しく外へ出て、渚たちもそれに続いた。

 そんな彼らを見守りながら、相変わらずハニートーストを頬張っている学実であった。

 

 

 

 

「えーっ、双子!?」

 

 学秀たちとの話を終えた渚たちは、どうしても先程の少女のことが気になって、一度店の中へ戻って話を聞いてみることに。

 そして告げられた事実に、一同が驚愕した。學峯は椚ヶ丘学園を創立10年程で名門校にした程の手腕の持ち主。それなりに有名であり、妻子持ちであることも知られている。息子の学秀もその椚ヶ丘の中等部特進クラス3年A組である上、学年一位の成績や生徒会長という立場であることから、他校の生徒からも割と名を知られている。勿論、同じ椚ヶ丘の生徒ならば知らない者はいないと言っていいだろう。

 つまり何が言いたいかというと、學峯に子どもがいること、そしてそれが息子と娘の二人だという情報を知っている者は多いということである。

 しかし、それだけなのだ。學峯には娘もいる。当然学秀の姉か妹であることは想像に難くないが、どれくらい歳が離れているのか。姉なのか、はたまた妹なのか……その辺りについて知る人物はいなかったのだ。

 

「それがまさか双子の姉とは…」

「浅野学実よ、よろしくね」

 

 親しみのある笑みを浮かべながら軽く自己紹介をする姿。顔立ちは学秀と瓜二つであり、当然學峯の面影もある。しかし、どことなく学実の方が温かみのある顔をしていると皆思った。

 

「浅野さんって、椚ヶ丘の生徒じゃないよね」

「ええ。私は桜台中学校に通っているわ」

 

 やはり興味が湧くのだろう。渚たちは学実に質問をして、根掘り葉掘り聞こうとしていた。

 学実は嫌な顔ひとつせずに、ひとつひとつ質疑応答していく。

 

「桜台って公立の中学校だよね」

「ええ、そうよ」

「へぇ…受験しなかったの?」

「ええ。そっちの方が楽しそうだと思ったから」

「まぁ、確かに自由度は圧倒的に高いよな」

「ちなみにスリーサイズは…!?」

「お〜か〜じ〜ま〜く〜ん?」

「知りたいの?うふふ、でも残念。秘密よ」

 

 どこか落ち着いた雰囲気もあるが、茶目っ気のある学実。渚たちと馴染むのにそう時間はかからなかった。寧ろ、すぐに馴染んだ。

 

「学実ちゃんは浅野と仲悪いの?」

 

 先程の学秀の表情を思い返し、前原がそう問うた。誰もが思ったことである。

 

「何とも言えないわね。まぁ、学秀が私と距離を置いていることは確かよ。同じ家に住んでいるのに朝食の時以外滅多に鉢合わせないし、会っても碌に会話せずに素通りされるから」

「めっちゃ嫌われてない?それ…」

「まぁねぇ…これに関しては仕方ないわ」

 

 先程の学秀の表情を思い返せば、そうだろうということは一目瞭然だ。嫌われている、と言われても学実は特に気にすることなく、優雅にコーヒーを啜っている。学秀そっくりの彼女は当然美少女であり、その姿はとても絵になっていた。

 

「何かしたの?」

「私個人としては別に何もしてないと思っているけど…あの子からしたらそうじゃないってことでしょうね」

 

 何でもないことのように返答を続ける学実に、何となく学秀が距離を置く理由がわかった気がする渚たち。

 学実はこうやって話していても、裏表がないことが窺い知れた。話し方の節々から聡明さも感じ取れるが、ユーモアもある。「いい人」と一言で言い表せる人物だろう。學峯のような威圧感も、学秀のような支配欲も感じられず、話しやすい。

 要するに、根本的に性格が合わないのだと推察する。学実の方はあまり気にしていないからか壁を作らず普通に接しているようだが、プライドの高い学秀はそうもいかないのだろう。

 

「そう言えば殺せんせーとはどういう…?」

 

 一番の疑問点はそこである。彼女は浅野家の人間ではあるが他校に通っているし、殺せんせーは本校舎へ立ち寄ることはほぼない。接点は無いと言ってもいい筈の二人が、どうして同じ座席で向かい合ってハニートーストを食しているのか。

 

「スイ友よ」

「スイ…友…??」

「スイ友とは」

 

 頭に「?」を浮かべる渚たちに、「スイーツ友達、ってこと」と学実が説明した。

 

「いやー実は、先生この前一日限りの幻のスイーツを求めてお店へ出向いたはいいものの、見事に即完でしてねぇ…彼女には落ち込んでいたところに『一緒に食べないか』と声をかけて頂いたのです。お陰で限定スイーツを食べることが出来ました」

 

 その時のことを思い返しているのか、どことなく嬉しそうな表情を浮かべている殺せんせー。

 

「へー、一日限りの幻のスイーツ…気になる…」

 

 同じく甘党である茅野が『幻のスイーツ』という単語に食いつく。しかし、一日限りのスイーツなので再び食べられるかどうかは定かでない。

 

「そこから今日までの間に、何度か店で遭遇してね。今日もたまたま一緒に居合わせた、って訳なのよ」

「凄いなそれ…」

 

 偶然でそこまで店が被るものなのかと渚たちはある意味感動を覚えた。

 

「ねぇ浅野さん、連絡先交換してもいいかな?私も甘いもの大好きなんだ。それに、浅野さんと仲良くなりたいな」

 

 茅野がスマホを取り出してそう言った。学実は「勿論」と言って茅野と連絡先を交換する。その流れで、その場にいた全員と連絡先を交換することとなった。

 

「まさかお父さんの学校の子たちとこうやって友達になるなんて思わなかったわ。人生って何が起こるか分からないものね〜」

 

 そう間延びした口調で話す学実からは、學峯や学秀のような陰険な雰囲気は一切感じられないと、改めてそう感じた渚たちであった。

 


 

去った後の五英傑

 

 学実と顔を合わせた後の学秀は、明らかに不機嫌そのものであった。ここ最近E組との対決で敗北した時も相当不機嫌そうではあったが、また少し違うものを感じる。

 

「なぁ、浅野。さっきのあれってお前の…」

 

 そう声をかけると、一瞬だけギロリと睨まれ、瀬尾は「あ、いや、すまん…」と思わず萎縮した。

 

「……そうだ。アレは一応僕の姉だよ。双子のね。二卵性だが、忌々しいことに顔立ちがよく似ているんだ」

 

 学実と容姿がよく似ていることは紛れもない事実であり、学秀もそれは自覚している。心底気に入らないが。

 

「似てるって言うか…浅野君が女の子だったらまさにあんな感じなんだろうなという容姿をしていたね。凛とした顔立ちが美しかった」

「……蓮。それだと僕が口説かれているような気分になるから辞めてくれないか」

「おや、悪いね」

 

 ブレない榊原に、思わず溜め息を吐きたくなる気分であったが堪えた。

 

「随分と嫌っているようだけど、仲悪いのかい?人の良さそうなお姉さんだったね」

 

 荒木は喫茶店で出会った時に感じた率直な感想を口にする。本校舎の生徒であっても、「人が良さそう」という雰囲気は感じ取れるようである。

 

「人が良さそうに見えて実はめちゃくちゃ悪いとか」

 

 眼鏡をくいっと持ち上げながら小山がギシシ、と笑う。

 

「…いや。アイツに裏表は無い」

 

 学実には打算がなかった。困っている人がいれば自然と声をかけ、嫌なことは嫌とキッパリ言う。自分の感情に素直な性格をしているのだ。だからこそ、学秀には気味が悪いものに思えてしまう。

「お姉さんはどこの中学校に通っているんだい?」

「…桜台だ」

「普通の公立校じゃねえか。浅野の姉貴だからてっきり別の難関校でも行ってんのかと思ったのに、拍子抜けだぜ」

「落ちたのか?ギシシ」

 

 学秀の姉。學峯の娘。椚ヶ丘学園でなくとも、どこか難関校に在籍しているものと誰もが思っていた。それが受験せずとも自動的に進学出来る普通の中学校であると分かった途端、例え浅野家の人間であっても劣等生になるのだと感じた瀬尾や小山が、少し見下したような態度を取る。

 彼らはてっきり、「ああ、アイツは出来が悪いからな」とでも返ってくるものだと思った。しかし、違った。学秀は瀬尾たちを鋭い目つきで睨んだ。先程の睨みよりもずっと冷たく、ゾッとしてしまう。

 

「わ、悪かったよ浅野。いくら出来が悪くても一応家族なんだ、いい気分じゃねえよなっ…」

「……アイツは、全国模試1位だ」

「……は?」

 

 まさかの応えに、皆固まった。

 

「アイツは普通の中学校に行っているから、進学校に通う僕らのように頻繁に全国模試を受けるわけじゃない。だが、たまに受ける全国模試の順位は毎回一位だ」

 

 しかも、毎度全教科満点で1位になる。定期テストで全教科満点1位になることのある学秀でさえ、全国模試では全教科満点一位になどなった試しがないのに。

 

「たまに浅野が2位の時って、そういうことだったのか…」

 

 そう。学実が全国模試を受けた時だけ、学秀の順位は二位に下がってしまうのだ。

 学秀が学実に苦手意識を持つ原因のひとつである。彼女は自由奔放で、自身の好きなものを求めてフラッと外出したり、漫画やアニメ、ゲームなど多くの娯楽を嗜む。学秀と全く違う点だ。学秀はサブカルチャーに興味は無い。有名なものはタイトルだけ覚えてはいるが。ゲームに関しては、やったとしてもジグゾーパズルやルービックキューブなど脳のトレーニングになりそうなもの。とにかく勉学に関わることにしかほぼ手をつけないのだ。全ては支配者となるため。

 それなのに、サブカルチャーなどの娯楽を嗜む学実の方がいつも上。いつも遊び呆けている姉の方が、上。学秀には、それがどうしても許せなくて、悔しくて堪らなかった。

 

 何故、遊び呆けている姉が自分よりも上なのだと。

 

 何故、自分の方が努力している筈なのに姉を越えられないのかと。

 

 それは、学秀本人でさえ自覚していない、姉へのコンプレックスそのものであった。

 


 

公立進学が決まった時の話。

 ここで話は3年程前…学実が小学校6年生であった頃の秋に遡る。

 これは、学実が公立中学校へ進学することが決まった時の話だ。この時既に椚ヶ丘学園の理事長としての立場にあった學峯。彼がその日の業務を終え帰宅したその時である。

 

「あ、お父さんおかえりなさい。私、中学校は受験せずに校区内の公立中学校に行くから」

「……何だって???」

 

 挨拶の流れで自然と紡がれた言葉。まるで「今夜の晩ご飯はハンバーグよ」とでも言うような声色。そのあまりにも唐突すぎる話に、學峯ですらも思わず目が点になりそうな勢いであった。

 

「じゃあ、そういうことだから!」

 

 それだけを言い残し、まるで何事もなかったかの如くその場を立ち去ろうとする我が子。

 

「まな、学実…!?待ちなさい学実!!」

 

 思わず動揺を隠さない声で、學峯は学実の名を呼んだ。呼び止められた当人は、不思議そうな表情で學峯を振り返る。

 

「学実…考え直しなさい。我が椚ヶ丘学園でなくともいい、せめてどこか別の進学校を…」

 

 學峯は焦っていた。柄にもなく、この上ない程に焦っていた。それでも学実は、さも当然のように「え?嫌だけど?」と言い放った。別に不機嫌そうな表情を浮かべてはいない。反抗的な態度を取っているわけでもない。けれどそれは、確かな"拒否"であった。

 

「自分がここがいいと思える場所が自分に一番合う場所なのよ、お父さん。他人から決められた場所に行ったって自分らしくいられるかは分からないもの。どうせ行くなら、自分がここだと強く思う場所じゃないとね〜」

「何を馬鹿なことを…」

「お父さんのことは尊敬してるし、大切だと思うわよ〜。でも、それとこれとは別!お父さんにはお父さんの考えがあって、それがお父さんであることは理解してるけど、お父さんの考え方は私には合わないし、好きか嫌いかで言うと嫌いなのよね〜」

「…………」

 

 嘘偽りのない、あまりにも直球すぎる言葉に、學峯は言葉を失う。そんな學峯を他所に、学実は続け様に言った。

 

「でも私、まだ親の庇護下じゃないと何も出来ない年齢だから。学費諸々はよろしくお願いしますね〜、それじゃ!おやすみ〜」

 

 そして学実は颯爽と去って行く。

 學峯はと言えば、呆然とする他為す術はなく。結局、どう足掻いても学実を止められないことを悟り、諦めた。

 学実は昔からそういう子であった。未就学児であった頃から好奇心旺盛で活発な子どもであり、小学校低学年の頃から度々家を抜け出しては學峯の頭を悩ませた。説教しようとしても、「怖いお顔〜!」ときゃらきゃら楽しそうに笑っていて、思わず溜め息が出たのは何度だったか。一々数えていない。

 どれだけ粘ろうとも、今回のようにのらりくらりと躱され、振り回される。

 だからもう、学実に関することは流石の學峯もほぼ諦めているのだ。

 




浅野(あさの)学実(まなみ)
出席番号  1-1(椚ヶ丘市立桜台中学校)
誕生日   1月1日生
身長    163cm
体重    55kg
胸囲    E
得意科目  全教科
苦手科目  特になし
趣味、特技 人生を楽しむこと
所属部活  無所属(色んなことを楽しみたいから)
将来の目標 まだまだ模索中(それも楽しんでいる)
座右の銘  人生は楽しんでなんぼ
学業成績  学内定期試験及び全国模試常時一位

学秀の双子の姉。
落ち着いた雰囲気もあるが、茶目っ気のある性格をしている。好奇心が強く幅広く興味を持ち、何事も全力で楽しむ。そしてそれが結果に繋がるタイプである。
家族のことは大切に思っている。

二卵性だが、容姿は学秀が女の子になったらこんな感じなんだろうなというくらい瓜二つ。ただ、雰囲気は彼女の方が柔らかく温かみがある。髪型はハーフアップ。残った髪を前に流している。
ちなみに名前の読み方が奥田愛美と同じなのは仕様。恐らく「同じ名前」ということで仲良くなる。


浅野学秀
双子の弟。
姉のことは苦手で避けがちなので、同じ家に住んでいるのに朝食時間以外滅多に会わない。
姉が楽しんだことが結果になる「自然型の天才」なら、彼は努力を努力に見せない「努力型の天才」である。
ちなみに将来の目標「全ての人間の役職を決められる立場」に関して、その時の姉(学実)の役職は、「放置」。理由は「自分が学実を支配する未来が見えないから」。「触らぬ神に祟りなし」という感覚がある。


浅野學峯
父。
娘は自由奔放すぎて掴みどころが分からない為自由にさせている(諦めているとも言う)。
息子とはお互い壁があるが、娘は彼に対し壁を作らないので、娘の前だと自然と「父親の顔」になる。しかし自覚はない。


殺せんせー
スイーツ友達。
学実がE組にいたら周りにいい影響を及ぼしてくれるだろうなと思っている。
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