修学旅行。
カルマに誘われ、4班に入った朝陽。当日である今日、皆と京都の街を巡っていた。渚の解説も面白かったし、度は順調だ……と思っていた矢先。
「……やっべ、はぐれた。絶賛迷子やんワロタ」
やらかした。躓いて転んだほんの一瞬の時間に人混みに流され、あっという間に皆とはぐれてしまったのである。取り敢えず班の誰かに連絡しなければとスマホを取り出し、操作しようとしたら、そのタイミングで充電が切れた。何たる不運。
「やばい詰んだ☆」
どうしたものか。公衆電話を探そうにも、見つけたとて電話番号など覚えていない。
そこで思い出す。そうだ、あの嘘みたいに分厚い修学旅行のしおりには、確か先生達の連絡先が記載されていた筈。班のメンバーの電話番号は分からなくとも、先生に連絡を取れば何とかなるかもと思い至った。早速公衆電話を探す為、一歩踏み出した時。
朝陽に声をかける者がいた。
「渡辺じゃないか。何やってんだ一人で」
「あっ、カズくん!!皆!!丁度いいところに!!」
そう、元クラスメイトである進藤達、B組の生徒である。
「他のE組の奴らはどこ行ったのよ」
小沢がキョロキョロと辺りを見渡す。当然、班のメンバーは既にその場にはいない。恐らく向こうも今頃いなくなった朝陽に驚き、捜しているかもしれない。
「それがねー、転んで人混みに流されて気づいたらはぐれちゃったんだよ〜」
朝陽が説明すれば、「ああ……いつもの」と納得した表情になる元クラスメイト達。
「ナベちゃんってばホントツイてないよね〜」
「というかE組の奴らもしっかりしろって感じだよな。渡辺の体質くらい知ってるだろうにさ」
「いやいや……しょうがないよ〜。皆楽しんでるのに寧ろ心配かけるから申し訳ないわ」
「渡辺ちゃんってば本当にイイ子だよね。ホント、E組なんかには勿体無いわ!」
フンスフンスと鼻息荒く言う小沢に、あはは…と苦い笑みを浮かべる。そんな朝陽に、進藤が再び質問を投げかける。
「ところで渡辺、スマホ……はもしかして」
もうすっかり馴染んでいる朝陽の体質。今どういう状況なのか、何となく察しがついてしまっていた。
「お察しの通り……バッテリー切れですよ……」
「うわぁ……」
心菜があからさまに気の毒そうな顔をする。まぁ、切れてしまったものは今更仕方がないのだ。今度からはモバイルバッテリーを持ち歩くべきだな、と朝陽は考える。
「仕方ねぇな。E組の奴の連絡先なんて杉野くらいしかないわ。取り敢えず杉野に連絡取ってみる」
「あ、そっか!カズくんとトモトモって野球部で一緒だったんだっけ。丁度良かったー!!私トモトモと同じ班なんだ〜」
「な、何……!?す、杉野と……!?」
「良かった〜、カズくんがトモトモと友達で!!」
不幸中の幸いとは、まさにこの事だ。班のメンバーとの連絡が取れるとわかり、朝陽は安堵した。
進藤は自身のスマホを取り出し、杉野へ連絡を取り始める。何度かコール音が鳴って、杉野が着信に応答した。
「…………杉野か」
『進藤、どうしたんだよ急に電話なんてしてきて。こっちは色々トラブルが……』
電話口では、明らかに焦った杉野の声がする。
「お前、渡辺とはぐれたろ」
『え!?何で知って……もしかして一緒にいるのか?』
「ああ、そうだよ。全く……お前、こいつの体質くらい知ってんだろ。しっかりしろよな」
『いやほんと……ゴメン。って進藤に言ってもしょうがないか』
朝陽が進藤達と共にいる事が分かり、ほっとしたらしい。声色が落ち着いた。が、すぐにハッとしたように告げる。
『あ!そうだ進藤!もしお前らさえ良ければ、暫く渡辺のことそっちで預かっててくんね?』
「は?」
『実は俺ら今ちょっと他校の高校生とトラブっててさ……班の女子二人が拉致られたんだよ』
「は!?」
どうして旅先でそんなトラブルに巻き込まれるんだ、と進藤はツッコみたくなった。まぁ、トラブルなんて何の前触れもなく起こるものなので仕方ないのかもしれないが……それにしたって運が悪すぎる。
『今合流すると、渡辺を危険に巻き込んじまうし……解決するまで一緒にいてやってくれないかな。進藤達が一緒なら安心だしさ。本当に申し訳ないんだけど……』
「……よし、わかった。一応うちの担任にも伝えておく。多分了承してくれるだろうから大丈夫だと思う」
進藤達にとって、朝陽と共に行動出来るのは願ったり叶ったりだ。二つ返事で了承した。
『すまん、ありがとう進藤!!渡辺にも申し訳ないって伝えておいて欲しい』
「ああ。渡辺のことなら任せとけ」
『じゃあ、解決したらまた連絡するよ!!またな、進藤』
「ああ、またな」
そこで話は終わり、通話ボタンを切った。進藤が通話しているのをじっと見ていた朝陽が、「トモトモ、なんて?」と聞く。
「お前の班、今トラブってるらしい。危ないし、解決するまで俺らんとこで預かって欲しいとさ」
進藤は簡潔に状況説明をした。すると、他の元クラスメイト達が目を輝かせた。
「ってことは、渡辺ちゃんと一緒に回れるってこと!?サイコーじゃん!!」
「一応佐渡先生にも連絡して、一緒に行動しても問題ないか確認してみるわ」
「まぁ……佐渡先生なら普通に許可してくれるんじゃない?」
「まぁな。一応だよ、一応」
そこから進藤がB組担任の佐渡へ連絡を取った。佐渡は、「そういう事なら、渡辺さんと一緒にいてあげなさい」とこちらも二つ返事で了承する。
結局、その日の残り時間は元クラスメイト達との京都巡りとなり、最後は佐渡がE組の宿泊する旅館へと送り届けてくれた。
「彼女を保護して頂き、ここまで送迎してくださった事に、担任として感謝します」
表向き担任である烏間が、佐渡へ頭を下げていた。
「いえいえ、彼女は私の受け持つクラスの生徒でしたから。当然ですわ」
「しずえせんせー、ありがとうございました!」
「いいのよ、うちのクラスの子達もあなたと行動出来て随分と楽しかったみたいだから。何かあったらまたいつでも言ってちょうだいね」
「はーい!」
「それでは、私はこれで失礼しますわ」
「しずえせんせー、さよーなら!」
佐渡は柔和な笑みを浮かべ、朝陽に手を振ると、車へ乗りこみ去って行った。それに向かって大きく手を振る朝陽。
「……いやぁホント、ご迷惑おかけしちゃってすみません」
「いや、君の身に何もなかったからよかった。B組の子達との京都巡りでは何も問題は無かったか?」
「はい、とっても楽しかったですよ!なんか私だけ回避しちゃったのはちょっと申し訳ない気はするけど……E組の皆ともそれなりに廻れたし、B組の子達とも廻れたから、何やかんやで今日は一日楽しかった〜」
烏間は朝陽を見て思う。
班のメンバーとはぐれて、元クラスメイト達が保護してくれた上、元担任がそれを快諾する。他のE組生徒が同じ目に遭ったとて、そんな対応をしてくれる本校舎の生徒や教師は果たしてどれほど存在するのだろう。
渡辺朝陽。確かに不運体質でありながらも、いつも前向きでいい子だ。だが、それでも……彼女の何が、彼等をそうさせるのか。
不思議でならなかった。
登場したB組関係者
皆さんご存じ、野球部主将の進藤君。朝陽に特別な感情を持っていたりする。
公式キャラブックにちゃんと載っているキャラ。将来の夢は素敵なお嫁さんだとか。
同上。バチ盛りつけまが特徴的な女子。
同上。野球部の一員。話し方から察するに杉野君とは同級生っぽいなとは思いましたが、何組かは載っていなかったので勝手にB組にしました。
皆さんご存じ、片岡さんに寄生しまくっていた人。
B組担任。生徒からは「大仏」と呼ばれ、母親のように親しまれているらしい。