暗殺教室短編集   作:クリオネf。t

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不運体質オリ主のお話。



不運少女(アンラッキーガール)と鷹岡先生

 7月。

 制服も移行期間に入り学期末も近いこの時期に、新たな体育教師が赴任してきた。暗殺(この)教室へ来るのだから、当然普通の教師ではない。烏間同様防衛省の職員で、彼が空挺部隊にいた頃の同僚でもあるらしい鷹岡明と名乗った恰幅のいい男。

 人好きのする快活な笑顔とその手に持つ沢山の高級ブランド物のスイーツを振る舞う気前の良さに、あっという間に生徒の心を鷲掴みにした。朝陽も「お前も食え食え!」と言われ渡されたスイーツに「ありがとうございます鷹岡先生!!!!」と言いながら遠慮なくかぶりついた。

 

「こりゃまた元気な嬢ちゃんだなぁ…ところでなんでお前だけそんなに傷だらけなんだ?」

 

 顔やら腕やら脚やら、体の至る所に絆創膏が貼りつけてある朝陽の姿はいくら訓練三昧の暗殺教室と言えど流石に異様である。だから突っ込まざるを得なかったのだろう。

 

「いやー、お恥ずかしながら私、なんかよく不運に見舞われるんですよー。怪我の回復自体は普通の人よりもめちゃめちゃ早いんですけど、治っても治っても新しい傷が更新されるから結果的に毎日こんな感じで」

「へぇ…」

「鷹岡先生、信じてないだろ?マジなんだぜ、渡辺の不運体質。歩き出せばすっ転ぶわ、池や噴水に落ちるわ、自転車に轢かれかけるわ、ゴミ箱に突っ込むわ、雨の日は通りかかった車に水をかけられるわ……あげだしたらキリねーよ」

「お、おお…」

 

 前原の説明に若干引き気味の鷹岡。まぁ、それはそうだろう。実際に目の当たりにすると更に引く。というか、よく命が無事だなと最早感心するし、心配になる。それでも本人は至って前向きなので、深刻さは一切感じないが。

 

「あ、でもね、受身は得意だから顔には怪我しないんですよ」

「え、ならその顔の絆創膏は何なの?」

「これはね、顔以外にしか絆創膏ないのはバランス悪いからつけてるの。まぁ、言ってしまえば飾りだね!」

 

 ここに来て衝撃の事実発覚である。確かによくよく思い返せば、彼女は受身を取る事は異様に上手かったように見える。怪我も膝や肘、手のひらが多い。顔面から地面に突っ込んで怪我をするシーンを目撃したことはなかった。頭にバケツを被るシーンや頭からゴミ箱に突っ込むシーンを見た事は何度かあるが。

 

「絆創膏はおしゃれアイテム!!」

「そ、そうか……」

 

 何言ってんだコイツ、と鷹岡は内心思っていた。それでも、この日はそれだけで終わった。多少頭がイカれてようが、たかが中学生だ。今まで通り、計画通りに、痛みと恐怖で支配してやればいい。この時は本気でそう考えていたのだ。

 しかし、そう上手くは行かなかった。

 翌日、10時間目までの時間割を目にした生徒達から抗議された鷹岡は、思惑通りに彼等へ暴力を振るい従わせようとした。そこへ、いつもの如く不運に見舞われ遅刻してきた朝陽が登場する。

 

「おはよーございまーす!!」

「おお、昨日の不運娘じゃないか。いけないなぁ、俺の授業に初日から遅刻なんて」

「あはは、ごめんなさーい。あ、でも初めての鷹岡せんせーの授業楽しみにしてたんですよ!!」

 

 途中から来た彼女は、目の前の鷹岡との会話に夢中でスクワット中のクラスメイト達の異様な空気にまだ気が付いていない。皆の心の声が一致する。「なんてタイミングでやって来たんだ、早く逃げろ」と。

 

「? あれ、なんか皆お通夜みたいな空気じゃない?」

 

 ここでようやく空気を察知したらしい朝陽がそう言った。

 

「鷹岡せんせー、なんで皆こんなに暗いんですか?」

「この際、遅刻した事はいい。スクワット300回…お前も今すぐ参加しろ。あとこれが新しい時間割(カリキュラム)だ」

「ほう…?」

 

 朝陽は鷹岡から受け取った10時間目までの時間割をしげしげと眺め、そして一言。

 

「せんせーがやれって言うなら私はやりますけど、皆にはちょっとこれキツすぎないですかね?」

 

 お前マジか、と生徒全員が思った。「自分はやるけど他の皆にはキツい」という事は、朝陽的には問題無いという事だろうか。本気か。本気で言っているのか渡辺朝陽。

 同時に、危ないと思った。朝陽は「自分はやる」とは言ったけれど、「皆にはキツいのでは」と意見したからだ。

 案の定、鷹岡の拳が容赦なく朝陽を襲う……が。

 

「わっ、ちょっと鷹岡せんせー。いきなりしかけてくるのはやめてくださいよー、危ないじゃないですかー」

 

 朝陽はそれをひらりと流れるように躱した。しかも、朝陽自身は普段通りの反応だ。自分が暴力を受けそうになったなどとは微塵も考えていなさそうな。

 

「てめえこのガキ!!避けてんじゃねーよ!!」

「え?あ、すいません。反射的に…ってあれ?先生、これって格闘技の訓練じゃないんですか?」

 

 はて…と朝陽は考え込む。てっきり格闘技の訓練だと思っていたので、躱すか受け流すかするのが正解かと思ったのに。訓練出ないなら…。朝陽は察する。この異様な空気の要因を。

 

 そうか、この先生が暴力で皆を支配しようとしているのだと。

 

 朝陽はその体質や底抜けの明るさや前向きバカっぽさで忘れられがちだが、決して頭は悪くなかった。

 

「わかりました!今度は避けないんで、遠慮なくどうぞ!」

「あ?」

 

 このクソガキが、威勢のいい事を言いやがって。どうせ次も避けるだろ。本当に受けられるものなら受けてみろと思いながら、鷹岡は再び拳を振るった。

 

 ──朝陽は避けなかった。

 

 モロに顔面に拳を受けた朝陽だが、その体は微動だにしない。よろめくことなくその場に佇んでいる。

 

「ぶったね…2度もぶった…!!親父にもぶたれたことないのに!!」

 

 挙句の果てにはそんな事を言い出す始末で、生徒達はクラスメイトが暴力を受けた衝撃以上の衝撃を受けポカーンと呆けていた。「というか一度目は避けたんだから二度目ではないだろうと」いうツッコミは誰も入れなかった。

 

「このクソガキ…俺をおちょくってんのか…!!」

「鷹岡せんせー!!私がぶたれる事で皆が痛い思いしないなら、私は喜んで先生にぶたれますよ!!人から受ける暴力は中々無いですけど、普段から転んだりぶつけたりするから先生の拳くらいなら大した事無いですもん!!」

 

 ニコニコといつもの笑みを浮かべながら、これまたいつもの明るい調子でとんでもない事を口にする朝陽に鷹岡はたじろいだ。

 こんな人種には出会った事がない。痛みを与えれば、普段から厳しい訓練を受ける自衛隊員でさえも鷹岡に恐怖を抱いた。それだというのに、目の前の少女からは微塵の恐怖も感じられない。

 異常だ。コイツは自分とは相容れない生き物だ。相性が悪すぎると、鷹岡は初めて目の前の相手をそう認識した。

 

「くっ…お前みたいなイカれたヤツなんて相手してられるか!!」

 

 ついに鷹岡は折れた。

 というか、朝陽だけを標的から外したのだ。つまり彼は朝陽に敗北したのである。鷹岡はその後「烏間が選んだ一人の生徒が自分と戦い一度でもナイフを当てられたのなら、自分はここから出て行く」と勝負をしかけたが、そこで烏間が白羽の矢を立てた渚に敗れた。最後には理事長である學峯から解雇通知を渡され、逃げるようにその場を去って行ったのである。

 こうして、これまで通り烏間が体育教師として授業を継続する事が決まった。

 朝陽はと言うと、クラスメイトや教師陣から「無茶をし過ぎだ」と叱られ、流石にバツが悪そうに「あははー」と苦笑いを浮かべていた。




朝陽ちゃんは鷹岡の天敵。
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