対戦よろしくお願いします。
1話 神様と一つになる(物理)
きっかけが何だったのかは覚えていない。
ただ物心がついた頃にはもう『絶対的な強者』に憧れていた。
隔絶された力を持ち、何にも縛られることなく己の快・不快のみで物事を判断する。天上天下唯我独尊を体現したかのような、そんな『絶対的な強者』に僕は憧れた。
小さい頃から色々な力を求めてきた。
空手や合気などの武術、ボクシングや総合格闘技、果ては武器術まで……思いつく限りの力を身につけ、その実力を隠し続けた。
世界最強じゃない半端者の状態では、『絶対的な強者』とは名乗れなかったから。
学校では青春を謳歌した。
目指すべき内の一人である某霊長類最強が『強くなりたくば喰らえ!!!』と言っていたから。本当は鍛錬がしたかったが、毎日学校に通い続けた。
正直、何をどう喰らえばいいのかわからなかったが、その時を信じて学校に通い続けた。
しかし、一日はたったの24時間しかない。その内の8~9時間もの間拘束されるのが、どうしても耐えられなかった。
だから僕は学校でもできるうる限りの鍛錬を行った。
逆立ちで登下校、授業中は空気椅子、教室移動はうさぎ跳び、校舎壁面ロッククライミング、火災扉抜き手……何度か停学処分を下されたが、その停学期間は全て鍛錬に費やした。
それが僕の青春だった。
だけど時が経つにつれて不安が押し寄せてきた。
いくら体を鍛えようと拳ひとつでビルを倒壊させることはできないし、生身で刃物や銃弾は弾けない。核ミサイルなど使用されれば抵抗もできずに蒸発するだろう。
それは至極当然なことであり、それが生物としての限界だった。
武装した集団に成す術なく無力化される『絶対的な強者』……ただの間抜けだ。
僕が目指すのは圧倒的なまでの力で破壊の権化と化し、誰も逆らうことなど考えもしない『絶対的な強者』なのだ。
だから僕には生物としてとは別の、異なる力が必要だった。
そう、魔力、マナ、オーラ、気、何でもいい。そういった未知なる力に目を付けた。
この世界にはまだ魔力の存在を証明した人はいない。でも魔力が存在しないと証明した人もまた、いないのだ。
それからの修行は困難を極めた。
魔力の習得方法など確立されていないのだから全てが手探り状態だった。
座禅を組み、滝に打たれ、瞑想し、神に祈り、精霊を探し、果ては黒魔術や降霊術にまで手を出した。
そして無情にも時は経ち、魔力の存在を知覚できないまま高校最後の夏を迎え、僕は『絶対的な強者』になることなくその一生を終えた。
◆◇◆◇◆
結果として、僕は魔力を手に入れることができた。
目が覚めて空気中に漂う光の粒子を知覚した時の僕の心境といったら筆舌に尽くしがたいものだっただろう。
記憶に残ってる最後の修行は仏像を喰らって神との一体化を図る修行だったから、たぶんそれで魔力が発現したんだろう。6体目くらいから記憶がないが些細な問題である。
あ、ついでに転生して今の僕は赤ん坊だ。
鍛え上げた肉体を手放すのは少々勿体ない気もしたけど魔力の代償と考えれば些細なものだ。今度はもっと効率的に鍛えられる自信もあるし何の問題もない。
転生先は中世ヨーロッパのような世界観で周りの大人たちの言葉は全く理解できなかった。
情報収集も困難な状態でやることも限られていたので、とりあえず体内に感じる魔力で色々遊ぶことにした。
今までの自分に無かったものを知覚するのは簡単だったから、あとはそれをこねこねしたり体の外に出したり……あ、ウ〇コ出た。
「オギャアアアア!(ママー!オムツ替えてー!)」
◆◇◆◇◆
転生してから10年くらい経った。
その間、肉体を鍛えながら魔力の実験も行った。
魔力はすごい。
人間の限界を軽く超えた動きができるのだ。
岩とか簡単に砕けるし、馬の倍速で走れるし、家より高く跳べる。
まさに僕の追い求めた超常の力であった。
そうそう、僕の生まれた家は貴族だったらしい。
魔剣士と呼ばれる、魔力で体を強化して戦う騎士を代々輩出する家系で、僕はこの家の長男として生活している。ちなみに爵位は一番下の男爵家。
家族構成は両親に僕と二歳年上の姉を加えた四人家族で、僕は少しだらしのない姉の世話を焼く面倒見のいい弟としての立場を確立していた。
実力は将来有望な姉の少し下くらいをキープしている。10回やって4~5回勝てる程度。
この世界の強さの最高値が不明瞭な今、力を示しすぎるのは良くないと思ったからだ。自領に閉じこもってるだけじゃ、そういった話は噂話程度しか入ってこない。直接自分の目で見て確かめる必要がある。
どちらにせよ『学園生活で青春を謳歌する』という目標が僕にはある以上、学園を卒業するまでは実力を隠して力を蓄えるつもりだ。
まぁその隠した状態でも剣術の教師によれば、同年代ではかなりの上澄みらしい。同年代に負けるつもりはないし、ちょうどいいかと思っている。
まぁ手を抜いてるとはいえ、魔剣士見習いの修行はなかなか役に立っている。この世界の魔力を使った戦い方を学ぶことができるし、僕自身の戦い方を見返すいい機会になった。
技術的な話をするなら、はっきり言ってこの世界の技術は前世と比べて洗練されていない。
その最たる原因はやはり魔力の有無だろう。
魔力があれば人くらい片手だけで持ち上げられる。そうなると寝技とかそもそも成立しない。
人には人の戦い方があって、ゴリラにはゴリラの戦い方がある。そういうことだ。
他にも踏み込みの速度とかステップインの距離、攻撃のリズムも前世とまるで違った。
何もかも魔力で強化できるのでそれらを掴むのに随分と時間がかかった。
間合いは馬鹿みたいに遠いし、魔力で強化したフィジカルにものをいわせてくるのでリズムが読みにくい。
いやほんと色々惑わされたけど、最近ようやく色々固まったからよしとしよう。
さて、そんな感じで僕は毎日家の訓練をこなしている。
午前は貴族として必要な座学やマナーを学び、午後は魔剣士見習いとしての修行を行う。
二歳上の姉は少しだらしのないところはあるが実力は同年代と比べて特出しており、隣領のカゲノー男爵家のクレア・カゲノーと日々研鑽に励んでいる。実力も同程度で、所謂ライバルというやつだ。
クレアは初対面の時、僕にも勝負を挑んで来たから適度に力を抜いて負けてあげたら煽ってきたので、二戦目はボッコボコにして逆に煽り返してやった。
それ以来何度も勝負を仕掛けてくるようになったけど、その都度姉さんに泣きついてなすりつけた。他にも弟のシドくんが呼んでたよ、的なことを適当に言っておけば追い払えた。
そんなこんなで昼間は貴族としての勉強や魔剣士見習いとしての稽古に時間を費やし、夜中には魔力の実験や剣の鍛錬を繰り返す毎日を送っていた。
必然的に睡眠時間を削ることになるが、僕は魔力による超回復と瞑想を組み合わせた独自睡眠法により超ショートスリーパー化しているので快適だった。
◆◇◆◇◆
夜遅く、みんなが寝静まったのを確認してから家を抜け出して領内のとある廃村へ向かう。
この場所は盗賊狩りをしていたときに偶然見つけて、以来僕の実験所兼鍛錬場として使わせてもらっている。
最近は専ら『魔力の物質化』に熱中していた。
この世界の魔力の使い道は至ってシンプル。それは強化だ。魔力を使って体や武器を強化して戦うのが魔剣士だ。
けれど魔力を物に流すとどうしてもロスが生まれてしまう。
例えば、普通の鉄の剣に魔力を100流しても実際に伝わるのは精々10程度。最高級のミスリルの剣であっても50伝わればいい方で、実に無駄である。
だから僕は考えた。
魔力の無駄を無くすにはどうすればいいか、と。
そして僕はある考えに至った。
――魔力で出来た物に魔力を流せばロスなんて生まれないのでは?
魔力そのものを物質化してしまえば魔力伝導率なんて100%以外あり得ないのだ。
しかしこの方法には最大の欠点があった。
この世界の魔力は肉体から離れるとすぐに制御を失い霧散する性質がある。それを抑えるためには拡散しないように強固に練った魔力と、その魔力を肉体と離れても制御し続ける高い魔力操作技術が必要だ。
簡単に言えばめちゃくちゃ難しいのである。
例えるなら空気中の水蒸気を氷にしろと言っているようなものなのだ。
だから鍛えた。
死に物狂いで魔力コントロールを鍛えに鍛えまくった。
ダイヤモンドができる過程を参考に魔力を限界まで圧縮して結晶化を試みたり、筋繊維の要領で魔力が体内を通る道――魔力回路を意図的に傷付けて修復してを繰り返し、一度に使用できる魔力量を増やして単純に母数を増やしたりと、思いつく限りの鍛錬を積んだ。
そして、長年の研究と鍛錬の結果、僕は魔力のみで構成された剣を作り出すことに成功した。
魔力伝導率100%、大きさ・形状・色は自由自在、不可視化可能。その場で検証できるだけでもすごい性能だった。
ちなみに、今日はこれからこの剣の試し斬りに行く予定だ。
どうやら隣のカゲノー男爵領で大型の盗賊団が現れたらしい。急いで行かないと間に合わなくなるかもしれない。
そうして僕は研究小屋にしまってある目出し麻袋を持ってカゲノー男爵領へと向かった。
短いですかね?
※2026/01/31修正済