アレクシア王女誘拐事件は無事解決した。
なんと一連の事件の犯人はゼノン先生ってことになっていた。新聞でそのこと知ってコーヒー吹いたよね、さすがに。
アイリス王女に犯人扱いされたから「真の敵を見誤るな」って言っといたんだけど、まさかゼノン先生が犯人になるとは……貴族社会の闇を感じたね。
アレクシアの言ってた『時間稼ぎ』ってこのためだったんじゃ……?
閑話休題。くわばらくわばら。
僕の目標であった『アイリス王女弟子化計画』は、今回なかなかの滑り出しをみせた。
王国最強に力の差を見せつけ、道を示してやる謎の『絶対的な強者』ムーヴができて非常に満足だ。
懇切丁寧に原理を説明してあげたからとりあえずは大丈夫だろう。
最後の方楽しくなって街壊しまくったからアルファに叱られるかもとも思ったけど、ほとんどアイリス様が壊してたし大丈夫でしょ。僕受け流しただけだし。
シドも核撃って地面もろとも蒸発させてたから、それと比べると僕なんて微々たるものだ。
ちなみに今回僕が治した<悪魔憑き>は、あの後『シャドウガーデン』の拠点に運び込んだらしい。
今は魔力も安定して眠っている。教団の度重なる実験と僕の治療で体力が底をついたそうで、いつ目覚めるかは不明とのこと。
アルファにああ言った手前、死んだらマジでかっこ悪いから早いとこ目を覚ましてほしいところだ。
アレクシアは事件の翌日、寮には戻らず城に帰った。
一週間弱とはいえ、何するかわからないストーカーと一緒にいたのだ。精神が擦り減っていてもおかしくない。数日間家族との交流を密にして心を癒すのだろう。
と思っていたら、なんとそのさらに翌日、つまり今日には学園に復帰するらしい。あの子、タフ過ぎない?
そういえば、シドとアレクシアの偽装恋人関係はどうなるのだろうか。
僕はアレクシアがシドに惚れていると思い込んでいたけど、実際のところはわからない。
ゼノンが死んで、偽の恋人関係を続ける利点はなくなった。それでも尚、シドとの偽の恋人関係を続ける意思があるのなら、惚れていると考えていいかもしれない。今後の動向に注視しよう。
そんなこんなで、今日も寮の食堂へ向かおうと部屋を出ようとした。
そこで、扉に手紙が挟まっているのを見つけた。
シンプルな便箋だったが、僕はそれを見たとき察した。
手紙での呼び出しイベントだ、と。
青春を彩るうえで欠かせない手紙での呼び出し。手紙の内容にもよるが、そのどれもが物語に於いて重要なターニングポイントだ。
僕は基本誰とでも仲良くするようにはしているが、これといって恋愛感情を向けられた覚えがないから、僕とそんなに関りのない人だろう。この場合、遠目からの一目惚れルートの可能性が一番高い。
告白だったら付き合おう。人にもよるけど、できれば付き合いたい。師の『喰らえ』の意味が少しでもわかるかもしれないのだ。逃す手はないだろう。
そして僕は手紙を手に取って、裏面を見る。
――『アレクシア・ミドガル』
僕は察した。
コレ、コクハク、チガウ……。
◆◇◆◇◆
早朝。
まだ誰も登校しようとは思わないような時間。
僕は一足先に寮を出て学園の屋上へと向かった。
天気は雲一つない快晴のはずなのに、僕の心は厚い雲に覆われていた。
屋上の扉を開けると既にアレクシアがいて、白銀の髪を風に揺らしていた。
「遅かったわね」
「君が早いんだよ」
喧嘩別れしたとは考えられないほど、穏やかな空気が流れた。
「あなたに言っておきたいことがあって」
アレクシアの言葉に僕は身構えた。
「あなた前に、私の剣が好きって言ってくれたでしょ? 遅くなったけど、ありがとう」
「いいよ、別に」
「ようやく自分の剣が好きになれたの。あなたのおかげじゃないけど」
「ふぅん、シドとか?」
「違うわ。別の人よ」
アレクシアから笑みがこぼれた。
風になびく銀髪を手で押さえるその姿は、恋愛ゲームのスチル並みに映えていた。
「へぇ~、まぁ、好きになれたならよかったね」
「ええ、そうね。あなたの気持ちが、少しだけだけどわかった気がするわ」
アレクシアは憑き物が落ちたかのように微笑んだ。
僕のどの気持ちがわかったのかはわからなかったけど、それがいいことだというのはわかった。
「ふぅん、それだけ?」
「えっと、その……これは提案なのだけれど」
アレクシアは赤い瞳をキョロキョロさせ、手で白銀の髪をくるくると弄りながら続ける。
「あなたの剣からは、学べることが多いと思うの」
「光栄だね」
「だから、その……たまにでいいのだけれど、鍛錬に付き合ってもらえないかなって……」
少しずつ小さくなる声でアレクシアは言った。
「いいよ。ただし、条件がある」
「条件?」
僕は手に持っている剣を抜いた。
入学と同時に学園側から支給される量産型の剣だ。
「僕はこれでも忙しい身でね。誰彼構わず付き合ってあげられるほど暇じゃないんだ」
そう言って、剣先をアレクシアに向けた。
「僕を認めさせられたら、いつでも付き合ってあげる」
「ッ、上等……!」
アレクシアは獰猛に笑って剣を抜いた。
正直こっちの顔の方が僕好みだ。
そんな感じでアレクシアと何手か斬り合った後、僕はあることに気付いた。
正直、技術的な成長はあまりない。
多少技のキレが上がった程度で、目新しいものはなかった。
ただし、明確に違う部分もあった。
入学当初の彼女の剣は、攻撃から攻撃、攻撃から防御に移る際、繋ぎの部分に癖のような無駄な動きがあった。それが少しずつではあるけど、改善されていた。
動作の繋ぎが滑らかになり、次の一手がより早く、より鋭くなっていた。
そして、節々に感じる確かな既視感。
僕はアレクシアの目標とする剣を察した。
僕はアレクシアから一度距離を取って、剣を鞘にしまう。
「何? もうへばったのかしら?」
「ううん、もう十分わかったからね」
同じく剣をしまうアレクシアに笑いかける。
「道は見えたみたいだね」
「ええ、これで同じ土俵よ。すぐに追い抜かすから待ってなさい」
アレクシアが挑戦的に笑った。
僕はその顔を見届けて、踵を返す。
「残念、僕は人に合わせるのが嫌いだから、待つなんてしないよ」
「あら、紳士としてそれはどうなのかしら?」
「僕らは魔剣士見習いだ。実力がないと話にならない。だから……」
そう言って屋上の扉に手を掛けて振り返る。
「僕は先に行ってるから、精々頑張って追いついてきてね」
アレクシアを置いて僕は先に教室へと向かった。
途中、背後からもの凄い勢いで迫ってくるアレクシアの気配を感じたから走って逃げた。
教室へは僕が先に着いて、後からやってきたアレクシアを「不意打ちで勝負しかけといて負けるなんてザッコ~」的に煽ったら斬りかかられた。
まぁ、その悉くを避けつつ煽り続けたんだけどね。
少しだけ、アレクシアとの距離が縮まったように感じた。
◆◇◆◇◆
シドとの定例会。
僕はシドに、アレクシアとの関係はどうなったのか訊いた。
どうやらシドは昼休憩の時に、アレクシアに呼び出されてその話をしたそうだ。
アレクシアから関係の継続を申し込まれたと聞いた僕は心の中でガッツポーズした、のだが……。
「断ったよ」
「断ったんだ」
「そしたら斬られたよ」
「斬られたんだ……」
シドが申し出を断ったらしい。
まぁシドならそう言うか、と納得した。
とりあえず僕は、これからはシドを断れない状況に追い込む方針で行こうと心に決めた。
その第一歩として……ん? 斬られた?
「アレクシアに斬られたの?」
「そうそう、あれは致命傷だったね。僕でないと死んでるよ」
「…………斬殺系ヒロイン……?」
「それただの殺人鬼だよ」
アレクシアにもテコ入れが必要なのかよ……うん、めんどくさい。シドだけでも手一杯なのにアレクシアまで誘導するってなると、はっきり言って僕の手に余る。
これは今後の進展は望み薄かな……残念。
「そういえば、アイリス王女の件はどうなったの?」
「第一段階成功ってところ」
アレクシアにアイリス王女についてそれとなく尋ねてみたら、アレクシアはアイリス王女に普段の剣の鍛練方法を訊かれたらしい。
僕の教えた技術は地道な積み重ねがものをいう技だ。
それに気付いて同じく地道に鍛錬を続けるアレクシアに教えを乞うたのだろう。
鍛練方法を変えただけでも第一段階はクリアしたと言える。技の大切さをこれでもかと示した甲斐があった。
「どのくらい強くなるのか楽しみだなー」
「今は受け流しだけなんだっけ? 魔力の扱いはどうするの?」
「受け流しの鍛練をするうえで魔力制御も自然と身につくでしょ。魔力で強化し過ぎたら受け流しが成功したかどうかすらも判断できないしね」
「一石二鳥ってやつだ。さすが、よく考えられてる」
わざわざ少ない魔力量で戦ってあげたんだから、その意図を見抜いてほしいものだ。
技を極めれば、極論、ただの木の枝でも頑張れば受け流せるのだ。正直、その域までは求めてないけど。
「直近のイベントはブシン祭の選抜大会か」
ブシン祭――それは2年に1度、国を挙げて行われる剣術大会。
その本選の舞台に、学園から選抜された生徒が1名だけ出場できるのだ。
その出場枠を決める選抜大会まで2カ月を切った。
「サイは出るの?」
「んー、今回は見送りかなー」
「その心は?」
「舐められたら本気出しちゃいそう」
「あー、納得」
サイ・キョーシャとして出る限り、色々と制限がかかる。そんな状態で相手に舐められでもしたら、思わず制限を無視してしまいそうなのだ。
『陰の実力者』の懐刀でいる以上、僕の力がバレるわけにはいかないのだ。
「シドはどうするの?」
「僕も出ないよ。本選でやりたいことがあるからね」
「ほぉ……して、そのやりたいことは?」
「フッ、よくぞ聞いてくれた。それは……」
それから僕たちは、今後やりたいことを語り合った。
互いの意見を聞き、助言し合い、より理想を高めていく。
それぞれの目標のために、僕たちは今日も進み続ける。
切りのいいところまで書いたら、またポンポンします。
それまで、シーユー!