絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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どこでまで続けようか


第二章
14話 お金持ちの友人をもつ一般人


 事件から1カ月ほどが経過した。

 

 ゼノンが王女誘拐事件の主犯であると大々的に報道された影響で、王都ブシン流の生徒数は大幅に減少した。それでも7部まであるので十分多いと言えるが。

 

 屋上での一件から、僕は実技科目の授業でアレクシアと組むことが多くなった。

 といっても、あまりやり過ぎると僕のボッチとしての学園生活に支障が出そうなので比較的多いというくらいだが。

 

 アレクシアの剣は日に日に良くなっていく。

 僕の剣もシド(シャドウ)のスタイリッシュ剣技を参考にしている部分があるので、手合わせの度にそこから何かを学び取っているらしい。

 少しずつだけど着実に技のキレが増していっているのがわかる。

 

 アイリス王女は鍛練に力を入れつつ、新しい騎士団を設立したそうだ。

 数こそ少ないが団員全てをアイリス王女が直々に指名したらしく、うちの姉やクレアなんかも卒業後はそこに入団することが内定しているらしい。姉さんから聞いた。

 

 僕もアレクシアに卒業後の進路として紹介されたけど、適当に聞き流しておいた。

 僕は将来、死亡扱いになって『絶対的な強者』シヴァとして自由に生活するつもりなので、卒業後の進路とか正直どこも変わらないのだ。

 

 

 そんなこんなで夏に差し掛かったある日。

 僕は放課後、一人で街中を歩いていた。

 

 夕方のメインストリートは人で溢れていて、どこのお店も繁盛している。中でも群を抜いて繁盛しているのが、僕の目的地である『ミツゴシ商会』だ。

 

 ミツゴシ商会という名前自体は入学当初から聞いてはいたが、最近になってよく話題に上がるようになってきた。なんでも最近発売された『チョコレート』なる甘いお菓子が、今王都で大流行しているらしい。

 

 そんな話を聞いたので、僕は今日ミツゴシ商会へと足を運んだ。

 この世界でチョコなんて初めて聞くし、僕たちと同じ転生者がいるかもしれないと思ったからだ。まぁ転生者じゃなかったとしても、ただ単にこの世界のチョコがどんなのか気になったっていうのもある。

 

『おーい、サイー!』

「ん?」

 

 お店の前の待機列に並ぼうと思った時、後ろから声を掛けられたので振り返るとシドたち3人組がいた。声を掛けてきたのはヒョロだ。

 

「サイもミツゴシ商会でナンパ準備か?」

「あーうん、そうそう」

 

 ヒョロが何か意味のわからないことを言ってきたので適当に流しておいた。

 

 話を聞いてみると、女子をナンパするために噂のチョコを買いに来たらしい。よく知らない人にいきなりチョコ渡されるとか軽くホラーだな、という言葉は直前で吞み込んだ。

 それから特に断る理由もなかったので一緒に買いに行くことになった。

 

 お店の前にはプラカードを持った制服のお姉さんがいて、「現在80分待ちでーす」と声掛けをしていた。

 

「すごい人ですね、寮の門限には何とか間に合いそうですが」

「ここまで来たんだし並ぼうぜ」

 

 ジャガとヒョロがそう言って列に加わりに行った。

 

「シドは転生者だと思う?」

「可能性はゼロではないかなってくらいだね」

 

 チョコという甘いお菓子と、どこか懐かしいモダンな雰囲気の豪華建築。現時点では可能性は半々といったところだ。

 ヒョロに呼ばれたので、僕とシドも列に並ぶため歩き出した。

 

「お客様、失礼ですが少しお時間をいただけますか?」

 

 列に並んですぐ、プラカードを持ったお姉さんに後ろから声を掛けられた。

 ダークブラウンの髪に同色の瞳、落ち着いた上品な顔立ちのかなりの美人だ。

 

「え、僕?」

「はい、すぐ済みますので。そちらの最後尾の二名のお客様にアンケートのご協力お願いします」

 

 シドの問いかけに笑顔で応えるお姉さん。アンケートなんてこの世界で初めて聞いた。

 

「いいですけど……」

「僕も別に」

「ありがとうございます」

「ぉ、お、俺も協力します!」

「じ、自分もです!」

 

 ヒョロとジャガ、渾身のアピール。

 しかしお姉さんは先ほどと何も変わらない笑顔のまま。

 

「お二人様で結構ですので」

 

 取り付く島もないとはまさにこのことだろう。

 僕とシドがお姉さんについて行く後ろで、ヒョロとジャガが絶望の表情を浮かべていた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 お姉さんに連れられてやたら豪華な店内を進む。

 

 表面的な華やかさは抑え目で、かわりに細部までこだわり抜き落ち着いた雰囲気を出している。素人目にもセンスの良さがわかる、やはりモダンな雰囲気を感じた。

 

「これは確定かな」

「激しく同意(どーい)

 

 売り場にある商品を見て僕はシドに耳打ちする。

 

 前世の百貨店のような店内にチョコをはじめ、珈琲やら石鹸やら化粧品まで。この世界で初めて見るものばかりだ。さらには服やアクセサリー、靴、下着までデザインが全て洗練されていて目新しくも美しい、現代日本の粋を結集したような商品ばかりだ。

 

 転生者以外ありえない。

 僕とシドはそう確信した。

 

 従業員用の扉を抜けて廊下を進むと豪華客船で見たような階段が現れ、それを上るとレッドカーペットの広く明るい廊下が続き、そして突き当りには優美な彫刻の彫られた光り輝く巨大な扉があった。

 

 扉の前には美しい女性が2人立っていた。彼女たちは僕たちに礼をしてゆっくりと扉を開ける。

 

 その先には巨大なホールのような空間が広がっていた。

 

 ギリシャ神殿のような円柱が並び、大理石の床は輝いている。

 そして奥へと続くレッドカーペットの左右に美しい女性たちがずらりと並んでいた。

 

『へ?』

 

 僕たちが一歩室内に入った瞬間、彼女たちは一斉に跪いた。

 

「あの、アンケートは……?」

 

 シドの声が空間に響く。

 

 部屋の最奥に玉座のような巨大な椅子が2つ並んでいた。

 空席のその椅子の隣に藍色の髪の美しいエルフが立っていた。モデルのようなスタイルに、妖艶な黒いドレス姿の洗練されたひときわ美しい女性。

 

「ご来店を永らくお待ちしておりました、主様、シヴァ様」

 

 僕はそれを聞いて色々察した。

 

「ここって君のお店だったんだ、ガンマ」

「はい、主様方よりお聞きした神の如き知識のほんの一片を微力ながら再現させていただきました」

 

 そう、『最弱』の二つ名を持つ『シャドウガーデン』の頭脳担当、ガンマのお店だったのだ。

 

 僕たちは味噌や醤油を再現してみせたガンマに、他にも再現してくれないかな、と前世の知識をこれでもかと聞かせたことがあった。それを必死にメモするガンマの姿に感化されて、調子に乗ってもはや商品に関係ないことまでペラペラ話した気がする。

 

 正直驚きだ。

 僕らの前世の知識なんて虫食いもいいところで、チョコなんて『苦い豆に砂糖をぶっかけて固めれば美味いもんが出来るぜ』程度のことしか言っていない気がする。やはり頭の出来が違うのか。

 

 ガンマは優雅なモデルウォークで歩いてくる。

 情欲的に腰を動かしながら、カツ、カツ、とかっこよくハイヒールを鳴らす歩き姿は、とても様になっている。

 

 しかし……。

 

「ぺぎゃッ!」

 

 何もないところでコケた。

 

「ひ、ヒールが高いわね」

 

 そしてヒールのせいにした。

 さすが最弱のガンマ。運動能力は相変わらずのようだ。

 

 ガンマが鼻を押さえて立ち上がると、周りのお姉さんがシュバババとヒールの低いパンプスを用意する。鼻血も丁寧に拭き取ってあげていた。慣れているのだろう。

 

「さ、さて。主様方、どうぞこちらへ」

 

 何事も無かったかのように僕らを巨大な椅子へ案内するガンマ。

 僕たちも、敢えて何事も無かったかのように椅子に座る。女性の恥は見ないふりをするか、あえていじるかの二択だ。そして僕たちは見ないふりをする派だった。

 

 シドは脚を組んで座り、僕は椅子の上にあぐらをかいて、左手で頬杖をついた。

 そこから見える景色はまさに圧巻だった。

 

 巨大な吹き抜け空間、天窓から降り注ぐ茜色の陽、レッドカーペットの脇に跪く美女たち。それを少し高くなった場所から見下ろす僕たち。

 上位者っぽくてすごく良い。シドもこの光景には満足していることだろう。

 

 不可視の魔力体を糸状に伸ばしてシドにモールス信号を送る。

 シドの頬に触れて離れてを繰り返して咄嗟の展開でも打ち合わせを可能にしたのだ。視線を横にしてアイコンタクトで会話するなんて折角の雰囲気を壊してしまうからね。

 僕の方からしか送れないデメリットもあるけど、シドはこういう時アドリブで合わせるのが得意だし問題ない。

 

 魔力体を霧散させ、僕は右手を少し掲げて指を鳴らす。

 

 パチンっという音と共に僕は部屋全体を薄い魔力体の膜で覆い、光の入る量を調整して疑似的な夜を作り出した。ガンマを含めた美女たちが驚いて顔を上げる。

 

「褒美だ、受け取れ……」

 

 シドがすかさず青紫の魔力を手から天に放った。

 青紫の光はそのまま天井近くまで打ち上がり、そこから無数に分裂して雨のように室内全体へ降り注ぐ。

 

 Excellent(エッッックセレント)!!!

 シドはやはりわかってる。やはり暗い空間にシドの青紫色の魔力は相当映える。

 

 みんな幻想的な光景に体を震わせ、中には涙を零す人もいた。案内してくれたお姉さんはグスグスと音を立てて泣いている。演技指導も完璧で言うことはない。

 

「今日という日を、生涯の宝に致します」

 

 みんなに演技指導したのはガンマかな? とても誇らしそうだ。

 

「フッ……それでこの店、結構稼いでる感じ?」

「はい、現在国内外の主要都市に店舗を展開し、僻地には通販で影響力を拡大しています。活動資金も10億ゼニーほどなら即座に運用可能です」

『じゅッ……!!?』

 

 先ほどのプレイの余韻に浸りながら魔力体を霧散させてシドたちの会話を聞き流していると、10億ゼニーという単語が聞こえてきて思わず声が出てしまった。

 意識を現実に戻すとガンマの後ろに、台座に乗せられた金貨の山が夕陽に照らされて輝いていた。

 

「っ! 少なかったでしょうか? 直ちに追加の用意を……」

「いや、いい」

 

 僕たちの知識を使い、いつの間にかガンマは大富豪になっていた。10億で少ないって何するつもり? 世界征服? いや、しなくても遊んで暮らせるでしょ。

 

 まぁたしかに、僕たちの遊びに付き合うためだけにこんな大掛かりなセットを造る余裕があるのだ。10億なんて、はした金程度の認識なんだろう。お金持ちの友達を持った一般人の気持ちはこんな感じなんだろうか。住む世界が違う。

 

「それと、主様方が来訪された理由は察しております。例の事件についてですね」

えっ……ああ」

 

 例の事件って何? 10億の衝撃が抜け切らない僕に代わってシドが返事をしてくれた。でも、シドもたぶんわかってない。

 

「王都に現れた人斬り。漆黒の衣を纏い、『シャドウガーデン』の名を騙る愚者ども。現在捜査を続けていますが、未だ犯人は捕らえられていません。ですが、必ず我等の手で仕留めてみせます」

「ふむ……」

 

 シドとガンマの会話を聞きながら、僕は訳知り顔で目を閉じる。

 

 フッ……この顔マジ便利。

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