絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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期間開いて申し訳ないです。PCの修理と難産が重なってしまいました。
少なくともアニメ版終了までは歩くのでご安心ください。

※16話を加筆修正したので前回の復習がてら読み直すことをお勧めします。(2025/11/19現在)


17話 強制参加は青春の敵

 ブシン祭の学園選抜大会が一週間後に迫ったある日、僕は教師から選抜大会の案内を受け取った。

 エントリーした覚えはないのに何故? と思って質問してみたら特待生は強制的に参加させられるという話だ。いや初耳ですけど。

 

 正直、今回の大会は不参加を決め込むつもりだった。

 『陰の実力者』の組織に所属している以上、あまり実力を示し過ぎるわけにはいかないのだ。

 

 その部分に関しては特に異論はない。

 シヴァとして思う存分『絶対的な強者』ムーヴができているので、シドの『陰の実力者』に協力するのは全然構わないのだ。僕の『絶対的な強者』ムーヴにも協力してくれるしね。

 

 つまり今回の学園選抜に参加するなら僕は適当なところで負けないといけないわけだ。

 うん、はっきり言って我慢できる気がしない。衆人環視の中で格下認定されるのは僕のプライド的にNOだ。どうにかして波風立たせずに棄権しないと……。

 

 うーんと悩みながら一人帰り道を歩いていると、覚えのある魔力を持った女子生徒が近づいて来た。

 併設されている学術学園二年生の制服を着ていて、ダークブラウンの髪を団子にまとめた目立たない感じの眼鏡女子だ。

 

「ニューじゃん、何してんの?」

「変装には自信があったのですが……さすがでございます」

「僕を騙すなら魔力の放出をゼロにしないと」

 

 人が無意識に垂れ流す微弱な魔力を感知できるほど僕の魔力探知能力は高い。それをかいくぐるなら魔力の質そのものを変えるか、魔力放出を意識的にゼロにするしかない。

 

 魔力の質を変えるのはほぼ不可能に近い。体臭そのものを変えろと言われているようなものだ。

 魔力放出の方は魔力制御を鍛えたら案外イケる。と言っても魔力を完璧に遮断するには最低でもイプシロンとシャドウくらいまで魔力の扱いに長けている必要があるけどね。

 

「今日はどうしたの? 何か報告?」

「はい、少しだけお時間いただけますか?」

「いいよ、あそこのベンチでいっか」

 

 下校道から少し離れているベンチには人気がない。

 少し影になっているそこに、僕らは二人で腰を下ろす。

 

「先日シャドウ様が捕らえた黒ずくめについて報告いたします」

「ふむ」

「黒ずくめの男を尋問いたしましたが情報は引き出せませんでした。強い洗脳によって既に精神が壊れていました。その他の特徴からも、黒ずくめの男はディアボロス教団のチルドレン3rdであると思われます」

「ふむ……?」

 

 チルドレン3rd……もう少しいい名前はなかったのか……。

 いい歳した男にチルドレンと名付けるとはなかなか洒落てるね。人斬り相手だけど少しだけ不憫に思う。

 

「『シャドウガーデン』を騙っていたのはおそらく我等を誘い出すためでしょう」

「ふむ」

「しかし目的はそれだけではありません。先日、王都でネームド・チルドレンも確認されました。チルドレン1st『叛逆遊戯』のレックスです」

「ふむ……?」

 

 なんか新しい単語がいっぱい出てきてこんがらがってきたぜ。

 

「教団が何か企んでいるのは確かです。既にご存知のこともあるでしょうが、何かあれば報告いたします」

「いつも通りお前たちに任せる。俺は別件でやることがあるのでな」

「かしこまりました」

 

 早く帰ってチョコでも食べながら選抜大会をどう乗り切るか考えないとな。

 

 僕はベンチから立ち上がってニューと別れた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌日、僕はゆっくりといつもの通学路を歩いていた。

 

 僕は昨日寮に帰ってから穏便に辞退する方法を必死に考えた。チョコで脳に糖分を補給しながら必死に考えた。頭倒立をして頭に血を送って気絶するまで考えた。

 

 それでも、いい案は思いつかなかった。

 

 そもそもミドガル魔剣士学園に特待生として入学するためには、ブシン祭優勝候補の実力を有していることが最低条件である。特待生になれば学食費用の減額や上級貴族が集う寮への入寮など、学園内で様々な特典を得ることができる。

 それらを考えれば、ブシン祭への出場を辞退した時点で特待生を打ち切られる可能性がある。そんなのは嫌だ。僕はもう贅沢を覚えてしまった。今から生活水準を下げろと言われても無理だ。

 

 だからなんとしてもブシン祭を穏便に「――ちょっと!」ん?

 

 誰かに呼ばれて後ろを振り返るとアレクシアがいた。

 まだ怪我は完治していないようで左腕を首から下げたアームホルダーに掛けて固定していた。

 

「さっきから呼んでいるのに無視するなんていい度胸ね」

「そう? ありがとう」

「褒めてないわよ!」

 

 なぜだ、僕は度胸には少し自信があるぞ。

 前世ではどんな状況でも動揺しないようにするため色々やった。紐なしバンジー(身投げ)とか天然ロッククライミング(命綱なし)とか。

 

「で、何の用? 僕今考え事しててさ」

「はぁ……そのマイペースさ、ほんっとやりにくいわね……」

「言っただろう? 僕は人に合わせるのが嫌いなんだ」

「卒業したら貴族社会で苦労しそうね」

 

 安心してほしい。僕は卒業したら死亡扱いになる予定だから貴族社会には入らない。

 

「怪我は大丈夫?」

「ええ、おかげさまで。傷は無事塞がったわ」

「それはよかった」

 

 僕がいなければ失血死で死んでたからね。

 事情聴取のときにアイリス様から命に別状は無いとは聞いていた。見た感じ魔力の流れとかにも異常は無さそうだし、後遺症も残らないだろう。

 

 主人公適正激高な彼女にここで退場されてはたまったものじゃないから安心した。

 

「姉さまから聞いたわ、あなたが私を運んでくれたんですってね」

「買い物帰りにたまたま見つけてね」

「そう……その件について一応お礼は言っておくわ。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 まぁ僕の場合、ただ運んだだけなんだけどね。直接命を救ったのはシヴァだ。そのことには気付いてくれているんだろうか。

 

「それと質問なんだけど、私を見つけたとき、他に誰かいなかったかしら?」

「ん~、誰もいなかったはずだけど……」

 

 あ、これは気付いてくれてますね。よかった。

 

「そう……わかったわ」

「何かあったの?」

「あなたには関係のないことよ……知りたければ、紅の騎士団に入りなさい」

「じゃあいいや」

 

 結構前に断ったはずだけどまだ諦めてなかったらしい。

 前は卒業後の進路にって話だったはずだけど、あの言い方だと即入団可能とも受け取れる。僕が入団するって言ったらどうなっていたのだろうか……いや、嘘でも入団したくないんだけど。

 

 アレクシアは僕が拒否するのはわかっていたのか、やっぱりね、といった風に息を吐いた。

 

「あなた、卒業後のことは早いうちに決めておいた方がいいわよ」

「僕は今やれることを今全力でやるって決めてるんだ」

「あなたのお姉さんは卒業後の入団に承諾したわよ」

「知ってるよ」

 

 ちなみに紅の騎士団への勧誘回数は姉さんの方が圧倒的に多い。一日に2回は勧誘という名の駄々をこねに来る。一番の敵は身内だったわけだ。

 

「いざとなったら入団希望届は私が代筆しておくから安心しなさい」

「やめろ」

 

 この王女は本当にやりそうだから怖い。

 姉さんの場合、僕の嫌がることは絶対にしない。だから毎日必死に説得しに来ているのだ。だが、コイツは僕の嫌がることを平気でやりそうだから怖い。

 

 もし入団の意思があると思われでもしたら大変なことになる。

 紅の騎士団は設立されて間もない小さな騎士団だ。アイリス王女主導とはいえ、実績がないため騎士団としての立場は高いとは言えない。精々アイリス王女が引っ張ってきた重要度の低い調査関係か治安維持のための警備くらいしか仕事もないだろう。

 

 将来性はあるかもしれないけど現段階で入団の意思を伝えるメリットはない。下手したら僕や姉さんたちみたいな特待生の実力者は人手不足で駆り出される可能性すらある。現にアレクシアは騎士団の一員みたいな扱い受けてるしね。

 

「ま、あなたの実力なら来週の選抜大会後に間違いなく騎士団から声がかかるわ。そうなったら嫌でも将来のことを考えさせられる……私に泣きついてくるあなたの顔が目に浮かぶわ」

「あぁ……それもあるんだった……」

 

 僕は天を見上げるしかなかった。

 

 学園選抜大会は学内のイベントではあるものの、生徒と騎士団の観戦は認められている。

 これには将来有望そうな魔剣士見習いに早いうちから目を付ける目的がある。学生からしても就職先が早い段階で決まるのは喜ばしいことであるため、毎回多くの出場者が集まるのだ。

 

 僕の実力(手加減状態)なら間違いなく騎士団から声がかかる。

 前回の選抜大会、準決勝で敗れた姉さんでさえ勧誘のしつこさに音を上げて僕に届く手紙という名の愚痴の量が通常の3倍にまで膨れ上がったのだ。それを思い出して尚のこと出たくなくなった。あんなに弱ってる姉さんは初めてだったな……。

 

「精々頑張りなさい。応援くらいはしてあげるわ」

 

 そう言ってアレクシアは僕を置いて先に校舎へと歩いて行く。

 

「応援って……アレクシアも出るんじゃないの?」

「私だって出られるものなら出たいわよ」

 

 アレクシアは立ち止まって僕の方に振り返り、左腕を見せつけるように軽く持ち上げた。

 

「これのせいで私は棄権になったわ。まぁ自業自得ね……だからあなたも怪我には注意しなさいよ?」

 

 アレクシアはそれだけ言うと、僕の返事も聞かずに再び校舎へ向かって歩き出す。

 

 僕はあまりの衝撃に去って行くアレクシアの背中を呆然と眺めていた。

 

「……それだ」

 

 ポツリと一言だけ漏れた声は誰にも聞かれることはなかった。

 

 しばらく立ち尽くしていると予鈴が鳴ったので、少しだけ急いで校舎に向かう。

 その足取りと表情は先ほどまでとはうって変わって大変晴れやかなものだった。




【時系列】
アレクシアが襲われる(15話)

事情聴取(16話加筆修正済)

アレクシアの目が覚める(16話冒頭)

ニューからの報告(17話前半)

アレクシア事件後初の登校(17話後半)
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