絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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18話 耐久力さえあれば負けはない

 学園最強の魔剣士は誰かと問われれば、一昨年まではアイリス・ミドガルであった。しかし彼女が卒業するとミドガル魔剣士学園に絶対王者不在の時代が訪れる。詳しくは三強と呼ばれる三つ巴の時代が訪れ、最強論争が勃発した。

 

 その中でも最有力と呼ばれる存在がローズ・オリアナ。

 芸術の国オリアナ王国からの留学生であり、オリアナ王国の第一王女様でもある。

 

 オリアナ王国はミドガル王国の同盟国であるが、芸術を尊ぶ国柄上剣術は野蛮なものと蔑まれることが多い。そんな中でも剣術を高水準で納め、異国の地で最強候補の一人に名を連ねる彼女に、僕は尊敬の念を抱いている。

 

「ローズ会長~! 頑張ってくださ~い!」

「対戦相手誰、アイツ?」

「知らね、白服だし一瞬でしょ」

 

 そんなヤジが飛び交う中、ローズ生徒会長と対戦相手の男子生徒が闘技場に姿を現す。何を隠そうその男子生徒とは我らがシド・カゲノーである。

 真剣な顔で見つめ合う両者を、僕は観客席から呑気に眺めていた。

 

「それにしても残念でしたね、サイ殿の実力なら優勝も狙えたでしょうに……」

「そうだね~、僕も残念だよ~」

 

 隣に座る騎士団長の娘さんから気遣わしげに声をかけられたので、僕は何でもないように応える。内心ウキウキだ。

 彼女の視線は僕の右腕に注がれている。その右腕は先日のアレクシアと同様にアームホルダーに掛けられていた。

 

 そう、僕は無事棄権することができたのだ。

 

 

 アレクシアから着想を得た僕は、その日の放課後ミツゴシ商会で時間を潰した。個室に通されて次々と商品を持って来てくれるのはVIP待遇っぽくて気分が良かった。

 それから門限ギリギリに到着するくらいの時間帯に店を出て、道中の適当な裏路地に入った。

 

 そこからは迅速且つ慎重に行動した。

 

 まずは魔力を変質させて自分とは全く違う魔力の残滓をその場に残す。これにより現場検証をする騎士団の目を誤魔化すことができる。魔力制御から三段階くらい上のこの技術は、今のところ僕にしか使えない。

 

 次にガンマたちから受け取っていた先日捕らえた人斬りの血液をいい感じになるように地面にばら撒く。そしてそのまま血液を垂らしながら屋根に上る。こうすることで、あたかも負傷した敵が逃走したように見えるのだ。

 

 しばらく屋根を伝った先で残りの血液を全てぶちまける。更にまた別の魔力に変質させてその場に残影を残した。これで第三者が参入して襲撃者を仕留めたように見えるだろう。

 

 最後の仕上げに最初の路地裏に戻って来て、自分の腕を斬りつけたら工作完了。

 

 完全犯罪という名の自作自演。

 放課後、ミツゴシ商会に寄って帰っている途中に何者かに襲われて負傷してしまった。という筋書きだ。

 

 騎士団からの事情聴取は少し面倒だったけど、選抜大会に出場することと比べるとまだ我慢できた。

 人斬りの犯人がまだ捕まっていないのと、アレクシアが襲われたときに僕が近場にいたことから口封じのために襲われたと認識されたようだ。

 

 傷はすぐ塞がったけど動かせるようになるまで1ヵ月くらいかかるらしい。もちろん、治そうと思えばすぐに治せる。

 

 怪我をした翌日アレクシアから何とも言えない目を向けられたが問題ない。

 現場には5人分くらいの魔力痕跡を残しておいたので、アレクシアのときより多い襲撃者に遭遇したが、アレクシアより軽傷で済んだ。という僕の実力をある程度裏付ける展開に持ち込んでおいた。

 3人で死にかけていたアレクシアは文句を言えないだろう。

 

 何はともあれ、僕は選抜大会を無事スルーすることができたのだった。

 

 

 閑話休題。

 

 

 闘技場の舞台では両者共構えをとっていた。

 武器は学園支給用の一般的な両刃剣。ローズ会長はレイピアみたいな細身の剣を持っていた覚えがあるけど、ブシン祭ルールで使用武器はある程度統一されている。

 

 しかし、使い慣れていない武器だからといって学園最強候補の一角が弱くなるというわけではない。ましてや相手は実力低クラスの白服。

 まず間違いなく、この試合の勝者はローズ・オリアナだ。それはこの場にいる全員の共通認識だろう。

 

 ジャイアントキリングなんてものは起こらない。

 そもそも僕はシドが負けるところを観に来たと言っても過言ではないのだ。

 

 審判が両者の準備が整ったのを確認して試合開始の合図を行う。

 

「ローズ・オリアナ対シド・カゲノー、試合開始!」

 

 両者同時に距離を詰める。

 一歩目で剣の間合いまで接近して両者同時に剣を振り抜く。この世界の典型的な戦い方だ。

 

 ここから剣同士をぶつけて鍔迫り合いに持ち込むか相手の剣を避けて先に当てるかの選択肢が生まれる。しかしその選択肢は、相手の剣の動きを捉えられる動体視力があってこそ生まれるものだ。

 

 当然、下級クラスに属しているモブのシドにはローズ会長の剣を捉えることはできない。

 ローズ会長の剣は吸い寄せられるかのようにシドの無防備な土手っ腹に叩き込まれた。そしてそのまま血を吐きながら宙を舞い、遥か後方に頭から無様に着地。

 一泊おいてゆっくりと立ち上がり、再度口から大量の血を吐き散らした。間違いなく致命傷。

 

 と、僕以外の人にはそのように見えたことだろう。だが、僕の目はしっかりと一部始終を捉えていた。

 

 シドは剣を振り抜いた直後、手に隠し持っていた血液袋(シドの血)を口に放り込んだ。そしてローズ会長の剣がシドに直撃する寸前、コンマ1秒のタイミングを合わせて足の指の力だけで後方へと跳んだ。

 空中で口内の血液袋を破いて吹き出しながら、アホみたいな腰の力で体に回転を加えて宙を舞う。着地はより無様に見えるよう頭から落ちて、お尻を対戦相手に突き出す。

 

 モブ式奥義『きりもみ回転受身【ブラッディ・トルネード】』である。

 

 仕上げに別の血液袋を破いて吐血に見せかける。

 力量差をより演出するモブ式奥義『鮮血のマーライオン』である。

 

 普通に考えて致死量の血を流しているけど、本人は大勢の前でモブっぽいムーヴができるとあってテンションがブチ上がってるようだ。笑顔を我慢しているのが見えた。

 

 

 そこから先の展開は言うまでもない。

 

 文字通り血反吐を吐きながら向かって来るシドをローズ会長が一刀で撃退して吹き飛ばす。しかしシドは数秒もしない内に立ち上がり、再度ローズ会長に向かって行く。

 

 致死量を超える血を流しながら死にものぐるいで立ち向かうシドの姿は狂気そのものだ。

 

 シドが吹き飛ぶ度に上がっていた歓声は、撃退回数が二桁を超えた今ではもう、完全に鳴りをひそめている。ローズ会長の顔も困惑や恐怖で染まっていた。可哀想に……。

 

「凄まじい気迫ですね……何が彼をあそこまで駆り立てるのでしょうか……」

 

 隣に座る騎士団長の娘さんも軽く引いてる。

 

「どうしてもゆずれない想いがあるんだよ」

「ゆずれない想い、ですか……?」

 

 溜め込んでいたモブ式奥義を全て披露するためだよ、とは流石に言えなかったので、適当に濁して伝えた。

 

「心は時に肉体を超越して限界以上の力を発揮することがあるんだ」

 

 僕とシドは想いの力だけで肉体を動かしていると言っても過言では無い。肉体の苦痛よりも心の強さの方が勝っていたからこそ、ここまで折れずにやってこれたのだ。

 

「にわかには信じがたい話ですが、実際、彼は何度も立ち上がっています。私も負けてはいられませんね」

「うん、頑張ってね」

 

 何を隠そう、この子の対戦相手はうちの姉さんだ。十中八九姉さんの勝ちだろうけど、そんな野暮なことは言わない。頑張る人を軽んじるのは僕が最も嫌悪することの一つだ。

 

 まぁ正直言って、100%姉さんが勝つとは限らない。

 姉さんの弱点は持久戦だ。割と大雑把な姉さんは魔力制御能力が低く、魔力量も同年代と比べてそこまで多いわけではない。魔力切れ狙いで持久戦に持ち込めば、他の三強と比べると勝つ可能性は十分ある。

 

 では何故、そんな明確な弱点のある姉さんが三強と呼ばれているのか……それは、誰も姉さん相手に持久戦へ持ち込むことができないからだ。

 

 姉さんの強みは何と言ってもその目の良さだ。姉さんは持ち前の動体視力と観察眼でフェイントを全て見破ってくる。しかも相手の重心や呼吸を見切って相手の一番嫌な位置やタイミングで打ち込んでくるのだ。

 

 相手の剣を崩して無防備な急所に強力な一撃を入れる――研ぎ澄まされた見切りの剣。それが姉さんの基本戦術だ。だからといって速攻を仕掛けようとも、僕から吸収した受け流しの技術を使ってカウンターを決めにくる。

 

 つまり姉さんに勝つためには、何度打たれても立ち上がる尋常ではないほどのタフネスさが必要になってくるのだ。

 

 …………うん、ちょっと姉さんを強くし過ぎてしまった感は否めない。

 

 姉さんとは長期休暇の帰省のタイミングで何度も打ち合いをしていた。

 姉さんとの戦いはこの世界では珍しく繊細な駆け引きが存在する。それが楽しくて姉さんと打ち合いをしていると、姉さんは僕からどんどん技術を吸収していった。

 

 あれ、なんか強くね? と気付いたときにはもうほとんど手遅れな状態だったのだ。まぁ後悔はしていない。だって楽しかったし。

 

「勝者、ローズ・オリアナ!」

 

 そんなことを考えていると審判の宣言が聞こえた。

 あれ、もう終わり? 早くない?

 

「待ってくれ! 僕はまだ……!」

「ダメだ、これ以上は危険だ! 担架を急げ!」

 

 審判に無理やり押さえつけられているシドを見て察した。

 確かに傍から見ればシドの怪我は致命傷だ。出血量も致死量を遥かに超えている。そりゃ止めるよね……。

 

「嫌だあああ! 奥義はまだ23も残っているんだあああ!」

 

 担架に縛り付けられて強制的に退場させられるシドを眺めながら、僕も少しだけ残念な気持ちになった。

 

 シドのモブ式奥義の習得には僕も全面的に協力したので、その成果をこの大舞台で披露できるのを少しだけ楽しみにしていたのだ。

 特に意図的に仮死状態を作りだすモブ式奥義は特に力を入れたので、実戦投入したところを見てみたかった。その技の性質上、順番を最後に回さないといけなかったというのは理解しているが、少しだけ残念だ。いつか披露する機会は訪れるのだろうか……?

 

「あの怪我でまだ勝つことを諦めていないとは……あの執念は尊敬に値しますね」

「ね~」

 

 モブは騎士団長の娘さんから一目置かれた。まぁ今のところ接点ないし大丈夫でしょ。

 

「それでは私は自分の試合に備えて準備をしてきます」

「うん、僕の分も頑張ってきてね」

 

 姉さんの試合を観てないのがバレたら後が面倒なので、僕は今日この場所から動くことができない。

 あわよくば騎士団長の娘さんが勝って、僕をこの場所から解放してくれることを願いつつ、僕は笑顔で彼女を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ結局、その日は準決勝まで駒を進めた姉さんを見届けてから寮に戻った。




騎士団長の娘さんは通常一発でダウンするセイ・キョーシャの剣を5回以上受けても立ち上がる奮闘ぶりを見せましたが、惜しくも負けてしまいました。彼女のゆずれない想いは一体何だったのか……。


【魔剣士学園三強】
●ローズ・オリアナ
 スピードを活かして相手を翻弄するのが特徴。舞踏特有の足運びを参考にした独特なステップで敵の攻撃をかわして素早い突きで有効打を与える。

●クレア・カゲノー
 圧倒的な魔力量を活かした力強く攻撃的な剣。シドの助言により力任せに剣を振るうのではなく、しっかりと基礎を固めているため隙がない。持ち前のタフネスも相まって崩すのは難しい。

●セイ・キョーシャ
 持ち前の目の良さを活かした見切りの剣。構えから攻撃に移る一瞬の隙を突いてくるため、相手は何もさせてもらえずただのサンドバッグと化す。


【三強の相性】
・ローズ > クレア
 クレアの剛剣をかわしながら少しずつダメージを蓄積させる。魔力量はほぼ互角なので、長期戦に持ち込まれるとダメージを受けているクレアの方が先に力尽きる。

・クレア > セイ
 文字通りクレアがサンドバッグになるが、クレアの魔力量と耐久力をセイが崩せず長期戦になり、魔力量の少ないセイが先に力尽きる。

・セイ > ローズ
 ローズの相手を翻弄する素早い攻撃を全て見切って強烈な一撃を与える。耐久力はクレアに劣っているため、セイの魔力切れを待たずして先に力尽きる。
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