僕の家が統治するキョーシャ領にも悪人はいる。
裏路地に少し入れば釣り堀に撒き餌をしたかのように悪人の方からやって来てくれる。読んで字のごとく掃いて捨てるほど湧き出て来るので実験には困らない。たまに財布もドロップする管理不要の天然湧きスポットである。
ただし残念なことに、一度に出てくる敵の量も少ないし質も悪いので、自主練の延長くらいにしか使えないのだ。
そんなお悩みを解決してくれるのが、年に1~2回くらい湧いてくる盗賊団である。
奴等は村などを襲う習性があるため、そこらのチンピラと比べて比較的腕の立つ場合が多い。
しかも略奪品を貯め込んでいた場合、正義の名の下にその略奪品を全て徴収することができるのだ。一種のボーナスタイムである。
ちなみに王都などの中央ならともかく、ここみたいな田舎では割と私刑がまかり通っていたりする。
そんなわけで報告があった廃村に到着。
深夜だというのに灯りがついており、どうやら商隊の襲撃に成功して宴会をしているようだ。たまに到着したときには既に何者かに襲われて壊滅している場合もあるんだけど、今回は間に合ったようだ。
乱戦でいろいろ試したいから敵陣の中心に思い切り飛び込んだ。
『ヒャッハー! ッッ!??』
反対側の茂みからほぼ同時に飛び出して来た、真っ黒いコートとフードを目深にかぶった同年代くらいの少年と見つめ合う。
周りの盗賊たちは突然の出来事に驚愕し、状況が上手く把握できず呆然としていた。
ちなみに僕は身バレ防止のため、悪人狩りをするときは決まって目の部分に穴を開けた麻袋を被るようにしている。
「半分でどう? 報酬は山分けで」
「いいね、乗った」
試しに提案してみると快く了承してくれた。
それから盗賊たちが「なんだこのガキども!」と怒鳴りながら剣を抜くが、僕は構わず実験を開始する。
僕はまず魔力剣(仮)で盗賊の一人の剣を切り払うと、相手の剣が粉々に砕け散った。そのまま即座に相手の右胸に魔力剣を突き入れると、相手の体が一瞬で爆散した。
「びっくりしたー。今のは魔力暴走かな? 魔力剣から一瞬で膨大な魔力が流れ込んで魔力回路が爆散したのか」
「へぇ~、その剣どうなってるの? 後で教えてくれない?」
「いいよ、その装備の秘密教えてくれたらね」
「もっちろん♪」
実験結果を観察していると黒い少年から声をかけられた。
どうやら彼も何かを実験しているようで、彼の着ているコートから触手みたいなものが伸びて盗賊たちを次々に切り刻んでいった。
何アレ、かっこいい! と思ったのでとりあえず後で教えてもらうことにした。
「な、なにしやがったクソガキ!」
「さぁ次だ、かかっておいで」
「ッ! 舐めやがって……!」
軽く挑発してやると今度は複数人で襲い掛かって来たので、次の検証に移る。
様々な角度から迫る刃は、僕に届くことなく寸でのところで崩壊した。
「なっ!? なにが……!?」
「魔力体で盾を作ったんだよ。決して壊れることのない純粋な力の塊さ」
魔力剣製作の副産物として、色々便利なものも完成した。その内の1つがこれだ。
物質化するほど高純度・高密度に圧縮された魔力は、破壊することはほぼ不可能な物質となる。それを盾として形作ることで絶対に破られることの盾になるのだ。
ちなみにわかりやすく盾にしているだけで形は自由に決められる。
「お次はこれ。ちゃんと避けてね♪」
「は――――」
言い終える前に襲い掛かって来ていた数人の盗賊の首が一斉に宙を舞って切断面が内側から爆発した。
魔力体は作ったそばから上手く制御しないとすぐに霧散してしまう。そのデメリットを力技で克服したのがこの技だ。
魔力を固めて刃を作り、それを高速で飛ばすことにより魔力の形状維持時間を大幅に短縮した。つまり、霧散する前にぶっ放せばいいじゃない、ということだ。
速度重視で雑に放つから単調な軌道になるデメリットはあるけど、ノーモーションで放つのがかっこよくて僕は結構気に入っている。
ポケットに手を入れたまま相手を蹂躙するの、めちゃくちゃ上位者っぽくてすごくいい!
魔力剣のような、全身爆散!とまではいかなかったけど威力は十分だ。やはり、魔力体が体内の魔力回路に触れることで、局地的な魔力暴走を瞬間的に引き起こしているのだろう。
爆発した局部を見ると魔力回路がズタズタになっていた。あれではもう魔力は一生流せないだろう。
最後に手の平大の大きさの斬撃を複数生み出し、立ち尽くしたままの盗賊たちに向けて放って体の端から丁寧に刻んでいく。
それから十秒も経たずに盗賊たちは全滅した。
「同時に生み出せるのは20か……牽制目的なら3桁は欲しいな」
「そっちは終わった?」
こちらの殲滅が終わったのを見計らって黒い少年が声をかけてきたので、一緒に戦利品を漁る。お金はいくらあっても困らないからね。
その間、気になっていた黒コートの秘密なんかを訊いてみることにした。
「え!? それスライム!?」
「そうそう、元が魔法生物だから魔力伝導率がものすごく高いんだ。なんと驚異の99%! しかも形や色まで自由自在の攻防一体の超便利スーツ、またの名をスライムスーツ!」
「おお!」
僕は早い段階で武器に見切りを付けたから気付けなかった。魔法生物の死骸を再利用する手があったとは驚きだ。
しかも触手のように伸ばすことができる点も強い。
僕の魔力体は生成してからもその維持に気を使わなきゃいけない性質上、形を一度決めたらなかなか変えられない。それよりも新しく生み出す方が断然早いし楽だ。
だけどスライムスーツは魔力の霧散を防がなくていいから、その分自由に形を変えられる。魔力伝導率も申し分ないからさぞ扱いやすいことだろう。いいな~僕も欲しい。
詳しく聞いてみると、コアを破壊したスライムの亡骸にミスリルなどの魔力伝導率をさらに高める素材を調合し、限界まで魔力のロスを無くしたものらしい。目から鱗とはまさにこのことだ。
興奮冷めやらぬ中、僕も自分の研究成果を黒い少年に自慢した。
「魔力の物質化! いいね、すごく興味深い!」
「でしょ! 魔力体はデフォで高密度、高純度の文字通り力そのものだから既存の武器だとほぼ100%粉砕できるし、魔力剣は魔力を持つ物質相手だったら魔力回路に触れさえすれば即爆散させられる。まだ試してないけど理論上では放出系のアーティファクトも無効化できるかも」
誰かにこうやって自分の成果を伝えることはしてこなかったからめちゃくちゃ楽しい。
気が付けば、戦利品そっちのけでお互いの技術に対して質問し合う意見交換会のようなものに発展していた。
「ねぇ、僕と組まない?」
話もひと段落ついたところで黒い少年が言った。
「僕にはどうしてもなりたいものがあるんだ。主人公でもなく、ラスボスでもなく、物語に陰ながら介入し実力を見せつけていく存在。そんな『陰の実力者』に僕はなりたい」
そう言って少年は立ち上がり、僕に向かって手を差し出した。
「『陰の実力者』にはそれを一番近くで支える存在が必要なんだ。僕と同じ目をしている君にしか頼めない、サイ・キョーシャ」
僕の名前が飛び出してきたことで思わず笑みがこぼれた。それと同時に確信した。
僕は麻袋を脱いで素顔を晒し、『陰の実力者』の手を取って立ち上がる。
「天上天下唯我独尊。『絶対的な強者』になるにはそれ相応の力を示せる舞台が必要なんだ。『陰の実力者』の懐刀、最強に次ぐ最強の切り札。いいね、燃えてきた!」
『陰の実力者』も笑みを浮かべてそのフードを取って素顔を晒す。
予想通りの人物が出てきたことでさらに口角が上がった。
「よろしくね、サイ」
「こちらこそ、シド」
◆◇◆◇◆
それから僕たちは改めて戦利品を漁り始めた。
現金は約束通り山分け。絵画や芸術品はそれぞれ欲しいものを順番に選んでいって、被ったらその都度交渉するというのを繰り返して物品を捌いていく。
商隊の人と思わしき遺体に黙禱を捧げていざ帰ろうとした時、シドが馬車の中に檻のようなものを見つけた。
僕も一緒になって檻の中を覗くとそこには腐った肉塊が転がっていた。
「生きてるね、意識もあるかも」
「明らかに反応したね。シドはこれ何かわかる?」
「たぶん<悪魔憑き>だと思う」
<悪魔憑き>という言葉には僕も聞き覚えがあった。
普通の人として生きていた人間の肉体が、ある日を境に突然腐りはじめる病。放っておけば直に死ぬが、教会は生きた<悪魔憑き>を買い取って浄化と称して処刑しているらしい。
やってることは病人を虐殺しているだけだが、それを民衆は平和が護られたと教会を讃えている。
まさに中世ファンタジーって感じでテンション上がる。
教会がやってるっていうのもポイント高いね。
「この波長、魔力暴走なのか……?」
「あ~確かに。言われてみれば僕も何回かなりかけたことあるわ」
まだ魔力回路が貧弱だった頃、一度に流す魔力量をミスって爆発しかけたことが何度もあった。
その時はどうにか制御に成功したけど、失敗していたら僕もこんなになっていたかもしれないのか……怖すぎて草。
でもさっき魔力暴走を引き起こさせた盗賊は爆発するだけだったから、何らかの条件次第で<悪魔憑き>になるのかな? 気になる。
「サイは治せる?」
「他人のはまだ経験ないけどたぶん大丈夫。あっそうだ、僕がやり方教えるからシドがやってみなよ。魔力制御のいい練習になるよ」
「え、いいの? やったー、いいもん手に入ったね。さすがに最初から自分で試すの嫌だし」
そうして僕たちは近くの小屋に肉塊を運び込んで、魔力制御の練習を開始した。
魔力暴走の制御は簡単に言うと絡まった複数の糸を解いていく感覚に近い。
そもそも魔力暴走とは、その人の魔力回路が耐えられないくらいの膨大な魔力が流れ込み、その制御を失うことで魔力回路が破損し、魔力の流れに淀みが発生する。それはダムのように魔力の流れを堰き止め、いずれ限界を迎えて破裂する。
それが魔力暴走の原理だ。
だが詳しく見たところ<悪魔憑き>は少しだけ違うようだ。
魔力は普通、魔力回路から肉体に、そして肉体から物に流して強化する。
しかし<悪魔憑き>を見てみると、肉体が勝手に魔力回路から魔力を吸い上げていた。それにより魔力回路が破損し、魔力暴走と似た現象を引き起こしていたのだ。
そして行き場を失うはずの膨大な魔力は、肉体に全て吸われ続けて重度の魔力過多を引き起こし、肉体の方が原形を留められなくなってしまっていた。このままいけば強化され続ける肉体の方が先に限界を迎えて死に至るだろう。
高い魔力量と貧弱な魔力回路、魔力を勝手に吸い上げる肉体の性質が合わさって<悪魔憑き>を発症する。
それが、僕なりに考えついた<悪魔憑き>のメカニズムだ。
それだけわかれば治すのは簡単だ。破損した魔力回路を強化修復してやればいい。
魔力回路から勝手に魔力を吸われるのなら、吸われないようにより強固にすればいい。しかも、より頑丈な魔力回路も手に入って一度に扱える魔力量も増加する。まさに一石二鳥というやつだ。
ちなみに、過去に僕は自分の魔力回路を傷つけて修復してを何度も繰り返して扱える魔力量を無理やり増やしまくる鍛練をしていた。
肉塊エンドを迎えなくてほんとによかったね。怖スンギ。
そんなわけで、夜中に廃村の小屋を訪れてはシドに魔力制御のやり方やコツなどを教える毎日。
シドは楽しくなってきたのかあり得ない量の魔力を流し込み、魔力回路を補強して魔力の流れを無理やり誘導したりしていた。
楽しそうだったので僕も時々参加して一緒になって肉塊で遊んだ。面白いくらい魔力吸収するからつい、ね。
そんなこんなで、魔力制御の練習を始めて2週間くらいが経過したある日、ついにシドが魔力暴走の制御に成功した。
Q.二人はどのタイミングでお互いの正体に気付いた?
シド「姉さんとの戦いで少しだけだけど前世の技術を使っていたから、元々同じ転生者だっていうのには気付いてたよ。後は声と喋り方かな、普段と全く一緒だったし」
サイ「シドが盗賊と戦ってるのを盗み見て、転生者っていうのはすぐわかったよ。声のトーンが少し違ったから確証は持てなかったんだけど、僕の名前を知ってたから確信した。同年代で交流がある男子ってシドしかいなかったしね」
Q.魔力関連の話について
完全にボクの妄想です。そもそも原作では魔力回路自体出てきてないと思います。
できるだけ自分でも原理や法則を固めてはいますが、矛盾があったりしたらごめんなさい。指摘されたらカバーできる範囲はカバーしていきたいと思います。(全部とは言ってない)
なんでこうなるのかわからないといった質問にもできるだけ答えようと思います。
【魔力回路】
体内にある魔力の通り道。
アニメでシャドウがアトミックを放つ際、体に走る細い線のようなもの。
普段は見えないが、シャドウの膨大過ぎる魔力によって一時的に可視化されていると解釈。
【魔力暴走】
膨大過ぎる魔力に魔力回路が耐え切れず、行き場を失った魔力が魔力回廊を破裂させる現象。
アニメ2期-第3話でクレア(アウロラ)がアトミックを放とうとした時、肉体が耐え切れず右腕が内側から破裂する場面から着想を得た。
クレアの魔力回路がアトミックを放てるほどの強度を持っていなかったと解釈。