絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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ん? なんか日間二次ランキング乗ってない?
ってなわけでくらえ、癖爆弾ドーン!(ちょっと過激かも)


20話 力を得たドSは恐ろしい

 僕とシドは一度屋上に出て、そこから学園全体を見下ろしていた。

 少し右側に僕があぐらをかいて座って、その左斜め後ろにシドが立っている。どちらもまだ制服だ。

 

 ちなみに僕は右腕を一時的に治療してギプスを外しておいた。サイの出番は終わってこれからはシヴァの時間だ。当然、全部終わったら元に戻すけどね。

 

 大講堂に拘束された学園関係者が集められているのが見える。大講堂は全校生徒余裕で入るでっかいホールだ。入学式とかそこでするし、たまに演劇とか見たり有名人の講演とかやったりする。

 

 学園の外には既に騎士団が集まってきている。しかし魔力を阻害されているため突入を躊躇っているようだ。アイリス王女と検診の影響で昼から登校予定だったアレクシアの姿も見える。

 

 校舎内にはもうほとんど人の気配がない。テロリストたちが隠れている生徒がいないか探して回っていた。

 

 僕とシドは学園の様子を眺めながら、ほぼ同時にフッと笑った。

 

 シドもきっと同じ気持ちだろう……これがやりたかった、と。

 襲撃される学園、拘束される生徒、謎のテロ集団、それらを屋上から見下ろす存在。完璧なシチュエーションだ。

 

 

 さて、まずは何をしようか。

 

「シドは夜までどうする?」

「ここでスナイパーごっこ……はちょっともったいない気もする……ん?」

 

 シドが辺りを見回してからある一点で止めた。

 その視線の先を辿ると桃色の髪の少女がいた。

 

「占拠された校舎内を堂々と走る桃色髪のおバカ……」

「シェリーじゃん、何してんだろ?」

 

 シドがつい最近仲良くなってしまったと言っていた学術学園のネームドキャラクター、シェリー・バーネットだ。

 キョロキョロと辺りの様子を窺いながらどこかに向かっているが、バレバレである。

 

 案の定、シェリーに気付かれないように黒ずくめの男が後方から接近していた。

 シドもそれに気付いてスライム弾の狙いを定め……放った。

 

 ――ピシュンッ

 

 黒ずくめの男の頭が弾けた。

 

「ナイッショ!」

「フッ、ミッションコンプリート」

 

 シェリーはそのまま何事もなかったかのように僕たちの視界から消えていった。

 

 ふむ、迷いのない足取り……明確な目的地がある感じだ。一体どこに何の目的で向かっているのだろうか。

 

「占拠された学園内をテロリストに見つからないようにどこかに向かうネームドキャラクター……クライマックスに向かうための準備段階ってところか」

 

 僕は今ある情報を精査してシェリーを取り囲む状況をある程度予想した。

 

 僕は魔力探知で、少し前からシェリーに騎士団の護衛が付けられていることは知っていた。

 その護衛に就いていた騎士は現在、離れた場所でそれぞれテロリストと交戦中だ。練度は低いが、騎士たちの魔力に依存しない戦い方には少しだけ興味をそそられる。あとで観に行ってみよう。

 

 圧倒的不利な状況でテロリストに立ち向かい、希望を胸にみんなで道を切り開くとか王道中の王道展開だ。

 

「もう一度訊くけど、シドはどうする? ってのは愚問か」

「フッ、当然、メインシナリオのサポートに行くよ。クライマックスはゆずれないからね」

 

 うん、シドに任せておけばいい感じに夜までシナリオを引き延ばしてくれるだろう。ニューとかも学園内にいるし、舞台づくりに関しては心配ない。

 

 僕はその間、テロリスト相手に無双を楽しむとしようかね。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 ミドガル学術学園のとある研究室の一室。

 一介の研究者が羨むほど様々な資料や機材が揃うその場所では、現在、その場に似つかわしくない音が断続的に鳴り響いていた。

 

 部屋の中で繰り広げられる二人の死闘。

 その内の一人、紅の騎士団所属のグレン・ガートラントは全身から血を流しながら剣を振るっていた。

 

 対して対峙していた無傷の男――レックスは一度距離をとる。

 

「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたぁ? もうボロボロじゃねぇか」

 

 片膝をつき、剣を支えにして今にも倒れてしまいそうなグレンを見て、レックスは心底愉快そうに嘲笑う。

 

 グレンがいくら魔力に依存しない戦い方を訓練しているにしても、その技術はまだまだ発展途上。長年の経験からくる予測で何とか急所を逸らすことはできていても、完璧に受け流すことはできず体を少しずつ削られていた。

 

「(チッ、血を流し過ぎたか……!)」

 

 今のグレンは魔力を練ることができず、傷口の止血も満足にできない状態。いくら致命傷を避けているといっても、出血量が許容量を超えれば人は死ぬ。

 現にグレンは、意識の混濁や体の震えといった失血症の症状が出始めていた。

 

「このレックス様相手によくここまで耐えたもんだぜ。死ぬ前に自慢できることが増えたなぁ、ハハハッ!」

「ハァ……ハァ……」

 

 満身創痍で何も応えることができないグレンに、レックスはゆっくりと近づき剣を振り上げて笑う。

 

「俺様は優しいからなぁ、一撃で仕留めてやるよ。じゃあなぁ!」

「(もはやこれまで……無念ッ)」

 

 グレンは悔しそうに瞳を閉ざし、くるであろう衝撃に備えた。

 

 

 ――ズガンッ!

 ――バァンッ!

 

 

「…………は?」

「!? 何が……!?」

 

 不可解な衝撃音にグレンが目を開けると、そこには二の腕から先のない右腕を振り下ろした態勢のまま呆けているレックスの姿があった。

 

「な、なんだこりゃああぁぁあ――ア”ア”ッ!?

 

 叫びながら右腕を押さえて数歩後ずさるレックスだったが、急に態勢を崩し仰向けに倒れた。

 

「ああア”ぁあ”ぁアア”ぁぁア”ぁああ”!!!」

「いったい、何が……?」

 

 レックスが仰向けのまま、腿から先が失くなった左脚を左手で押さえて叫ぶ。

 グレンは目の前で次々と起こる不可思議な現象に困惑していたが、ある違和感を覚えて窓の外に視線を向けた。

 

「なっ!?」

 

 グレンは驚愕して目を見開いた。

 

 部屋の外は夜だった。

 つい先ほどまで昼間だったにも関わらず、まるで時間が一瞬で飛んでしまったかのように夜空には満月が浮かんでいた。

 

「これは、いったい……!?」

「なに、少し舞台を整えさせてもらっただけだ」

「ッ!?」

 

 グレンは声のした方を振り向く。

 そこには金の刺繍の入った黒いコートを肩に掛けた黒づくめの男が机にあぐらをかいて座っていた。頬杖を軽くつき目深に被ったフードからは鈴の付いた異国の耳飾りと愉快そうに歪めた口元が覗く。

 

「(なんという魔力密度……!)」

 

 グレンは漆黒の男を見上げ、アイリスすらも凌駕する魔力量の多さに驚愕する。

 

「ふむ、そこの騎士。まずは名を名乗れ」

「て、めぇッ……! こんなことしてッ、許されるとぉッ……!」

 

 ――ズガンッ!

 ――バァンッ!

 

「ッがア”ア”ぁぁぁあア”あ”!!」

「許可なく吠えるな、駄犬。貴様の処理は後だ」

 

 痛みに耐えながら悪態をつくレックスだったが、床に斬撃痕が発生すると同時に右脚の腿から先が切断され、その切断面が内側から爆ぜた。

 痛みに歯を食いしばるレックスを確認すると、男はグレンに視線を戻した。

 

「さて、邪魔が入ったな。改めて名を聞こう」

「……グレン・ガートラント」

 

 絶対に逆らってはいけない上位者。

 長年の経験と生物としての本能からそれを感じ取ったグレンは訊かれたことに対して正直に答えた。

 

「お前の受け流し、それは独学か?」

「……基礎は独学だ。しかし我等紅の騎士団は団長の意向により、魔力に左右されない戦い方の訓練を行っている」

「ほう、なるほどな」

 

 そう言って男は頬杖をついたままグレンに左手をかざした。

 グレンの脳裏に何もできずに手足を切断されたレックスの姿が過り身を固くする。

 

 しかしそれを嘲笑うかのように、男の左手から溢れ出した金色の魔力はグレンの体を優しく包み込む。

 その魔力のあまりの温かさに気が緩み、一気に意識が持っていかれそうになる。必死に意識を繋ぎ止めようとするグレンだったが、緩急の差が激しすぎたため抵抗する間もなく意識を手放した。

 

「アイリス・ミドガル、なかなか面白い事をしてくれるな」

 

 力尽きた()()()()()()状態のグレンを見下ろして男は愉快そうに嗤う。

 

 

「さて、駄犬。次は貴様だ」

 

 男は地を這うレックスに視線を移す。

 フードの下から覗く男の表情に先ほどの笑みは欠片も残っていなかった。

 

 レックスは出血と痛みで意識が飛びそうになりながらも、怒りの感情だけで意識を無理やり繋ぎ止めていた。

 男はそんなレックスの様子を観察し、頬杖をついていた右手で自身の顎を撫でた。

 

「ふむ、あまり反省の色は見えんな」

「誰がするかァッ! ぜってぇブッ殺してやるからなッ……!」

 

 レックスは男を睨み上げる。

 その目からは、とてつもない怒りと殺気が感じられた。

 

 それを見た男は「キヒッ」と不気味な笑い声を漏らす。

 

「そうか、そうか。ならば、俺も暇潰しがてら付き合ってやるとするか」

 

 瞬間、膨大過ぎる魔力が男から溢れ出す。

 先ほどのものとは違い、絶大な殺気を含んだ漆黒の魔力。あまりの魔力圧に大気は軋み、レックスの体は震えだす。

 

遊戯(ゲーム)をしよう。今から貴様の体を少しずつ刻んでいく。丁度、腕が一本残っているな……それを使うか」

「ガハッ!」

 

 男の肩に掛かっているコートから数本の触手がレックスに伸びていき、レックスの残った左腕を無理やり伸ばして床に張り付けた。そして残りの触手はレックスの傷口を物理的に塞いで床に押さえつける。

 まさにまな板の上の鯉。レックスは勢いよく床に押さえつけられた衝撃で声を漏らした。

 

「途中で死なんように止血だけはしてやる。これで存分に遊べるな、感謝しても良いぞ?」

 

 レックスはこれから自分が辿るであろう未来を予見し、恐怖で顔を染めて奥歯をガチガチと鳴らす。

 

「この俺を殺すと吠えていたな……では、左腕が全て失くなるまで死ななかった場合は貴様の勝ちとし、一度だけチャンスをやろう」

「ま、待てッ! 俺が悪かった! 俺の負けでい――ッ!?」

「まぁ待て、今話してる」

 

 レックスの懇願の叫びはコートから伸びた新たな触手によって無理やり中断させられた。

 

「貴様が勝てば俺が貴様の全ての傷を癒し、万全の状態でこの俺に挑む権利をくれてやる」

「ン――! ン―――!」

「最後に、この部屋は俺の魔力で覆っているためいくら叫ぼうが決して外に声が漏れることはない。外の連中はこの部屋に接近することすら困難だろう」

 

 その言葉を聞いてレックスは、絶対に助けは来ないのだということを悟った。

 そして自分が生き残るためには今から行われるであろう拷問に耐え、万全の状態でこの部屋から脱出するしかないのだと結論付けた。

 

「キヒッ、覚悟はできたようだな」

 

 レックスの心情を正確に察した男は愉快そうに嗤う。

 

「簡単には死んでくれるなよ?」

 

 口を塞いでいた触手が離れると同時に、レックスの左手首が飛ぶ。

 

「――――――――――――!!!」

 

 誰にも届かないレックスの叫び声を唯一聞いたその男は、声高々に嗤っていた。




【獅子髭のグレン】
獅子(門)、グレン(領)ときたらこれしかないだろう! というノリでガートラントの家名を付けられたおっちゃん。
作中で「魔力だけがすべてではない」と言っていたので、元々魔力が上の相手と戦い慣れていたのではないかと予想。そんなおっちゃんに紅の騎士団バフが加わったらさすがに死なないだろうという感じで生存ルートを勝ち取りました。
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