絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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21話 準備は着々と進む

 王国の子息子女が通う王都最大級の学園への襲撃事件。

 その報せを受けたいくつもの騎士団が既に学園を包囲していた。校門前では駆けつけたそれぞれの騎士団をまとめる騎士団長が一箇所に集まり、作戦立案の会議が行われていた。

 

 その中には、新設された紅の騎士団団長であるアイリス・ミドガルの姿もあった。

 

「現状の報告を」

「はっ! 現在、学園の包囲は暁の騎士団が中心となって既に完了しております。しかし依然として敵の正体、及び目的は不明。敷地外からの監視を続けていますが、敵の影すら確認できていない状況です」

「学園敷地内での魔力妨害については?」

「未だ継続中です。技術班によると魔力を吸収する『アーティファクト』が原因ではないか、との報告が」

 

 一番地位の高いアレクシアが会議を進める。

 

 現状、一番の問題点は魔力を封じる『アーティファクト』の存在だろう。

 魔剣士は魔力を使って戦う。その大本の魔力を封じられれば魔剣士は無力だ。

 

 紅の騎士団は魔力に頼らない戦闘訓練を積んでいるが、敵の正体がわからない以上、むやみに突入することもできずにいた。

 

 アイリスは今の自分では手も足も出ない強者を知っている。

 シヴァのような強者が何人もいるとは考えたくもないが、敵の正体が不明な今、最悪の事態も考えられる。魔力が封じられた状況下で事を構えるのは現実的じゃない。

 

「(グレンたちがシェリーさんと共に脱出できていればあるいは……)」

 

 シェリーは『アーティファクト』の知識に長けている。

 彼女の知恵を借りられれば、魔力妨害の『アーティファクト』の対策法もわかるかもしれない。

 

「アイリス様、どうなさいますか?」

「……敵の正体と目的が不明瞭な中、下手に突入して相手を刺激するわけにもいきません。引き続き学園の敷地外からの監視を続けて――」

 

 ――チリンッ

 

「ッ!?」

 

 アイリスは音の発生源へと視線を向けた。

 それを不思議に思い集まっている面々もアイリスの向けた視線の先を見やる。

 

「ッ救護班、急いで!」

 

 そこには先ほどまでいなかったはずの血まみれの騎士が2人倒れていた。

 いち早く状況を確認したアイリスが周囲に呼びかけながら駆け寄る。

 

「グレン、マルコ!」

 

 倒れていたのは、シェリー・バーネットの護衛に就かせていた紅の騎士団の団員だった。

 

 アイリスが顔を青くした2人の騎士の脈を確認する。

 どちらも生きてはいるが出血多量で脈が薄く、危険な状態であることが分かったため、急いで傷口の止血を試みようとした。しかし……。

 

「っ!? これは……」

 

 2人は無傷だった。

 服が裂けて斬られたような跡が残っているのに、その下の肌には傷ひとつ付いていなかったのだ。

 

 まるで斬られた後に治療されたかのように。

 加えて先ほど聞こえた鈴の音。

 

「(まさかシヴァが……? だとしたら何故……?)」

 

 アイリスの中で次から次へと疑問が溢れて出てくる。

 『シャドウガーデン』の目的は一体何なのか、何を成そうとしているのか、敵なのか味方なのか……。

 そしてアイリスはシヴァの言っていた言葉も思い出した。

 

『――真の敵を見誤るな』

 

「この王都で一体何が……」

 

 アイリスは不気味なほど静まり返った学園内を見据え呟いた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 学園関係者が集められた大講堂。

 全ての出入り口は黒ずくめの男が塞いでおり、生徒たちを隙なく監視していた。

 

 そして大講堂全体を見渡せる舞台の上には、一人の男が立っていた。

 黒ずくめの男たちとは違う銀製の全身甲冑を着込んだその男は、ただその場に立っているだけでも他とは一線を画す実力者であると察せられた。

 

「レックスの奴は何を遊んでいる……」

 

 男は苛立っていた。

 『アーティファクト』の回収を命じたレックスがいつまで経っても帰ってこず、報告も途絶えていたからだ。

 

 男はレックスの性格からどこぞで遊んでいるのだろうと思っていた。

 実際は逃げたくても逃げられない拷問を受けているのだが……。

 

「や、『痩騎士』様、ご報告が……」

「……なんだ?」

 

 『痩騎士』と呼ばれた男から発せられる怒りのオーラに怯えながら、黒ずくめの男の一人は報告を続けた。

 

「げ、現在、見回りに出た者の消息が次々と途絶えており、大講堂から一歩も外に出られない状況です」

「なに……?」

 

 黒ずくめの男の報告に『痩騎士』は訝しげに視線を向ける。

 詳しく聞けば、校舎内に出た者は例外なく消息が途絶えてしまい、大講堂の外の状況がまったくわからない状態だという。外に出た者を大講堂の中から見張っていても、一瞬で姿が見えなくなってしまうとのこと。

 原因は不明で、神の御業だと騒ぐ者もいるとか。

 

「(『シャドウガーデン』か……? 何か特殊な『アーティファクト』でも所持していたか……)」

 

 『痩騎士』は何らかの『アーティファクト』の効果によるものだと結論付けた。

 

「……構わん。適時外に人員を送り込め」

「し、しかしッ――!」

「私の命令が聞けないのか?」

 

 『痩騎士』から発せられた殺気に当てられ、黒ずくめの男は口を噤む。

 『痩騎士』は『アーティファクト』の効果であれば、いずれ込められた魔力が底をつくだろうと考えた。

 

 レックスが『アーティファクト』の何らかの効果でやられたと想定しても、相手は非力な小娘1人と魔力の使えない騎士が2人。そして同じく魔力の使えない『シャドウガーデン』……チルドレン3rdと2ndだけで十分対応可能だと『痩騎士』は結論付けた。

 

 黒ずくめの男がその場を離れていくのを確認した『痩騎士』は、懐から禍々しく光る『アーティファクト』を取り出し、怪しい目つきで眺める。

 

「もう少し、もう少しだ……これで私はラウンズへと返り咲ける」

 

 クツクツと不気味な声で男は笑い続けた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 ひどく荒らされた研究室の一室。

 その部屋の入口の前で、学術学園の制服に身を包んだニューは立ち尽くしていた。

 

「何してるの、ニュー?」

「しゃ、シャドウ様」

 

 突然、背後から声をかけられたニューは振り返るとそこには、血だらけの制服を着たシドがいた。

 ニューの背後から部屋の中を覗き込むシドに、ニューは道を開け頭を下げた。

 

「うっわ~、ナニコレ」

「おそらくですが、シヴァ様によるものかと……」

 

 シドが部屋の中の有様を見渡して顔をしかめた。

 ニューはその様子に心底同意しながら、改めて部屋の中を観察する。

 

 部屋の中は一面赤色に染まっていた。

 床一面に広がる血の池には人の体の残骸と思われるものがいくつも散らばっており、そのほとんどが左腕のものだった。軽く数えただけでも左掌が5つ、シワの形から何まで全く同じものが血の池に沈んでいた。

 

 そして血で染まった壁面には、体の五体を切り離された死体が磔にされていた。

 特徴から見て『叛逆遊戯』のレックス……()()()()()。両脚と胴は壁に半分ほど埋まっており、両腕は肘部分に突き刺さった剣で固定されていた。そしてその両手は器用に組まれ、手の平には表情を悲痛に歪めたレックスの頭が乗せられていた。

 

「やっぱサイってドSだよね」

 

 そう呑気に言いながら棚を開けて何かを探すシド。

 ニューは少し遅れてシドの傍らに立った。

 

「シャドウ様、遅くなりましたが報告いたします」

「うん」

「現在『シャドウガーデン』は学園の周囲に潜伏し待機しております。ご指示があればいつでも動けます」

「うん」

「ただ、魔力が制限された状況下での戦闘はリスクが伴います。普段通り動けるのは『七陰』の皆さまくらいですが、現在王都にいるのはガンマ様だけです。それで、あの……ガンマ様はあまりこういったことが得意ではないというか……」

「センスゼロだね」

「あの…………はい」

 

 シドの頭の中で何もないところでこけて鼻血を出すガンマの姿が浮かぶ。「デルタの知力よりかはまだ未来があると思う」とはサイの言だ。

 

「げ、現在ガンマ様が全体指揮を執っています。魔力が制限された状況は、そう長くは続かないとガンマ様は予想しています」

「うん」

「教団側には動きはありません。主力と思われた『叛逆遊戯』レックスが殺されても動きがないことを考えると、教団の主力は別にいると思われます」

「だろうね」

 

 サイはボス戦を夜まで残してくれているはずだ、とシドは信頼していた。

 

「ご指示がなければ、動きがあるまで待機ということになりますが……」

「うん……あっ、ちょっと待った」

 

 シドはここで初めて視線をニューに向けた。

 

「探し物があるんだ。ミスリルのピンセットと地竜の骨の粉末と、それから灰の魔石の……」

 

 シドが次々と挙げる器具や素材を、ニューは戸棚からテキパキと取り出していく。

 

「ありがと、いやー助かったよ」

「いえ、とんでもないです。あの、何に使うか伺ってもよいですか?」

「『アーティファクト』の調整をしているんだ」

「『アーティファクト』の……!?」

 

 あっけらかんと答えたシドにニューは驚愕した。

 『アーティファクト』を調整するには国家最高峰の知識がなければ不可能だ。まさかそのような知識まで持っているとはニューは思いもしなかった。

 

 ニューの驚くような演技に気分を良くしたシドは、つらつらと先ほどシェリーから聞いた話をそのまま語る。

 

「魔力の阻害をしているのは『強欲の瞳』という『アーティファクト』でね。今は強欲の瞳を一時的に無効化する『アーティファクト』の最終調整段階なんだ」

「なんと……さすがです」

 

 既に魔力阻害の原因を解明し、その対処法まで準備していると語るシドにニューは戦慄した。

 

「日が落ちる頃には完成すると思うよ」

「では、我々はそれに合わせてすぐ動けるように準備します」

「うん、じゃ、またあとでね~」

「はい」

 

 器具を抱えて出て行くシドを見送ったニューはその場で振り返り、誰もいない空間に向かって頭を下げた。

 シドがこの場を去る直前、自分の後ろの空間に視線をやっていたのをニューは見逃さなかったのだ。

 

 ――チリンッ

 

 ニューしかいない廊下に綺麗な鈴の音が響いた。

 その音を聞いたニューは一度胸をなでおろし、頭を上げる。

 

 目の前には相変わらず誰もいなかったが、ニューは気にすることなくその場を後にした。




【暁の騎士団】
王都に存在する騎士団のひとつ。
所属団員数は王都一であり、主に王都内の治安維持を担っている。

(稲荷狐心のコメント)
紅の騎士団だけ名前付いてて他の騎士団が可哀そうだったので、オリジナルの名前を付けてあげました。
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