絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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23話 他人を過信することなかれ

 学園の至る所から炎が上がって視界が制限される中、騎士団は学園内に突入し生徒たちの捜索を行っていた。

 

 しかし学園外から生徒たちの姿を確認できなかったことに加え、突如上がった火の手に阻まれて捜索は難航していた。

 

「アイリス様! こちらにはいません!」

「こちらも見ていない! 一体どうなっている……!?」

 

 学園内は全て確認したが、未だ生徒たちどころか、敵の報告すら挙がってきていない状況に、アイリスは焦りを感じていた。

 

 時間をかければかけるだけ火の手が回り、移動すら困難になってしまう。

 もしも怪我をして動けない生徒がいた場合、救出にはそれなりに時間を要してしまうのだ。

 

「一体どこに……ッ!?」

 

 アイリスを含めた騎士たちは、突如とてつもない違和感に襲われた。

 全員が混乱してその場に立ち尽くす中、アイリスだけがいち早く駆け出した。

 

「大講堂だ! 急げッ!!」

 

 今の今まで忘れていた。

 というより、巧妙に隠されていたような感覚。

 

 先ほどまでヴェールで隠されていたものが、ゆっくりと姿を現したかのように感じた。

 

 原因を考える暇もなく、アイリスは肉体に魔力を存分に込めて駆けた。

 

 

 校舎を出て、大講堂の入口に視線を向ける。

 

「なッ!? これは……!」

 

 大講堂の入口に生徒たちはいた。

 それはいい。

 

 しかしその手前、校舎と大講堂の間にあるそこそこ広大なスペース。

 そこに異様な光景が広がっていた。

 

 ズラリと並べられた大量の首無し死体。

 大講堂の入口に向かって首無き頭を下げる死体の前には、切り落とされたと思われる男の頭が置かれていた。

 それはまるで、自身の頭を自ら差し出して赦しを乞うているかのように見えた。

 

 そしてそれらが向いている大講堂の壁面には血の文字でこう書かれていた。

 

 

『名を騙る不敬 死を以て断ず』

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「いや~、楽しかった。シドは?」

「もちろん、楽しかったよ」

 

 今日も今日とてシドとの深夜の鍛練。

 シドは全身包帯グルグル巻きで、僕は右腕を再度斬りつけたので、今日はあまり動かなくてもいいスライムスーツでの軽い打ち合いをしている。魔力操作の鍛練には丁度いい。

 

 キンキンキンキンッとまるで金属同士がぶつかり合うような音を聞きながら、先日の襲撃事件での事を思い出す。

 

 今回は『不敬を働いた咎人を圧倒的な力で蹂躙する絶対強者』というのが僕のテーマだった。

 『シャドウガーデン』の名を騙るという丁度いい理由もあったし、めっちゃ怒ってるよムーヴを心掛けた。

 

 その過程で必要以上に痛めつけたり、磔にしたり、謝罪オブジェ作って並べてみたりと色々した。

 まぁ拷問は相手の反応が思った以上に良くて気持ちよくなっちゃっただけなんだけど……5回目くらいで気絶して叫ばなくなったときは、音の鳴る玩具が壊れたときのようなちょっと残念な気持ちになった。名前何だっけ? 確か……セ〇クス? まぁそんな感じ。

 

 それにこのムーヴには、『シャドウガーデン』を名乗った襲撃犯とは別組織ですよっていう印象を与える目的もあった。

 あんな美的センスのない連中と一緒にされちゃたまったものじゃない。

 

「っていうか、結局襲撃の理由は何だったの?」

「あ~、それはね……」

 

 シドが言うには、ルスラン・バーネット副学園長が危険な『アーティファクト』の回収のために企てたものらしい。

 魔力探知で黒幕の正体は知っていたけど、そんな理由だったんだ……。

 

「え、それだけ?」

「みたいだよ」

 

 もっとこう、学園の地下に埋められた強力な兵器の回収とか、学園の生徒を生贄にとんでもない怪物を呼び出すためとか……そういう世界規模の話を期待してたんだけどな~。ちょっと拍子抜けかも。

 

 そしてシドは副学園長との戦闘中、『陰の実力者』っぽい台詞を言えたことでテンションがブチ上がったらしい。曰く……。

 

「世界の罪を全て引き受けよう。だが何も変わらぬさ。それでも我らは我らの為すべき事を為す」

「かっけぇ!!」

「フッ、当然だ」

 

 シドのこういうアドリブに強いところめちゃくちゃ憧れる。

 僕の場合雰囲気で押し切ってるところあるし、そういう名言っぽいことなかなか言えないんだよな~……僕も何か考えとこうかな、事前に考えてたら言えるかも。

 

「指名手配されるのはなんかかっこいいし大歓迎なんだけどさ、TPOもわかってない連中と一緒にされるのは嫌だな~」

「大丈夫でしょ、色々やっておいたし」

 

 大講堂ではローズ会長に聞こえる声の大きさを心掛けたし、血文字も残しておいた。

 ここまでして騎士団が気付けないようなら、それはもうバカとしか言いようがない。

 

「そっか、じゃあ指名手配はまたの機会か」

「うんうん、さすがにそこまでバカじゃないでしょ」

 

 大丈夫……だよね?

 まぁ紅の騎士団のグレンとかいう髭のおっちゃんもいるし大丈夫か。

 

 

 

 

 

 翌日、街に出回った手配書を見て、僕は盛大にジュースを噴き出した。騎士団ぇ……。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「王国も仕事が早いものね」

 

 手に持った一枚の紙に視線を下げて、美しい金髪のエルフ――アルファは言った。

 

「王国の怨敵シャドウ。無差別殺人、監禁、放火、強盗……なんて悪い人なのかしら」

 

 その言葉とは裏腹に、アルファは魅惑的な笑みを浮かべていた。

 傍に控えていたガンマは、もう一枚の手配書をアルファに差し出した。

 

「こちらの『シャドウガーデン』の手配書にはシヴァ様の名前もあります」

「あら、てっきり私の名前もあるものと思っていたわ」

 

 王都に点在する教団アジトへの襲撃時、アルファはシヴァと共にアイリス・ミドガルの前に姿を現している。シヴァが手配されたのであれば、共にアルファの名前も挙がっているはずなのだ。

 

 考えられるのは、シヴァの名前が挙がったのは今回の件が初めてで、アルファの存在自体知られていないという可能性。その場合、情報を意図的に止めているのはアイリス・ミドガルということになる。

 

「フフッ、舞台に上がってくるつもりかしら」

「アルファ様?」

「なんでもないわ」

 

 そう言って、アルファは改めて視線を2枚の手配書に戻す。

 

「でも残念ね。報せを受けて急いで戻って来たのに、着いたらほとんど終わっていたなんて」

 

 ガンマ以外の『七陰』は全員、運悪く王都を離れていた。

 残念そうにするアルファを励ます意味も込めて、ガンマは感慨深くアルファに語りかけた。

 

「主様は仰いました。『世界の罪を全て引き受けよう。だが何も変わらぬさ。それでも我らは我らの為すべき事を為す』と」

「いい言葉ね……」

「はい♪」

 

 アルファは手配書を暖炉の火で燃やしながら呟いた。

 

「私は心のどこかで、正義の立場にあると思っていた。だけど彼らはそうじゃなかった」

 

 揺れる炎に照らされた美貌は陰影を変え、その表情に異なる印象を与える。

 

「彼らの覚悟に我々も応えなければならない」

 

 振り返ったアルファの強い意思の込もった瞳がガンマを捉える。

 

「手の空いている『七陰』を集めなさい」

「はっ、直ちに」

 

 ガンマは見惚れるほど美しい所作で頭を下げた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 王都の大通りを駆ける一台の馬車。

 青髪の年若い騎士が御者を務めるひと際豪勢なその馬車には、二人の少女と一人の大柄の男が乗っていた。

 

「この馬車には盗聴防止用の『アーティファクト』が埋め込まれているので、外に声が漏れることはありません」

「あ、アイリス様、これは王族専用の馬車では……? そのような物に私なぞが乗って本当によろしいのでしょうか?」

 

 少女の一人、アイリス・ミドガルから馬車の説明を聞いて、恐る恐るといった感じで大柄の男――グレン・ガートラントは問いかけた。

 

「あら、王族2人のお客様ですもの。あなたほどこの馬車に相応しいお方もいないでしょう」

 

 悪戯っぽく笑みを浮かべるのは、アイリスの隣に座る銀髪の少女――アレクシア・ミドガルである。

 

「アレクシア、あなたがどうしてもと言うから同席を許可したのですよ。話の腰を折らないでください」

 

 アイリスは呆れたように一度息を吐いてから、改めてグレンに視線を向けた。

 その視線の真剣さを感じ取ったグレンは、今一度姿勢を正す。

 

「先日の学園襲撃事件について、あなたの話を聞かせて下さい」

 

 そしてグレンは、覚えている限りのことをアイリスに話した。

 レックスという男が『アーティファクト』を狙っていたこと、レックスに止めを刺される寸前でシヴァが乱入して来たこと、シヴァがレックスを一方的に蹂躙する様子を、全て見たまま感じたままに伝えた。

 

「私と戦ったときは、不可視の斬撃など使ってきませんでした。殺そうと思えばいつでも殺せたということですか」

「恐らくシヴァは、何らかの指標を基に行動しています。治療前にされた質問とアイリス様との戦いの様子を考慮すると、魔力に頼らない剣の技量が何らかの判断基準になっている可能性が高いと思われます」

 

 確かに、シヴァはその場にいたグレンだけでなく、離れた場所にいたマルコにまで治療を施している。

 グレンが答えた『紅の騎士団は魔力に左右されない戦い方の訓練を行っている』という言葉を聞いたことで、同じ騎士団に所属するマルコにも治療を施したと考えると納得がいった。

 

 未だわからないことは多い。

 シャドウ、シヴァ、そしてアルファが所属する『シャドウガーデン』……彼らと敵対関係にあると思われるゼノンが所属していた『教団』と呼ばれる組織の正体とその目的も。

 推測すらできないほど、圧倒的に情報が足りていなかった。

 

「引き続き情報を集めるしかありませんね。そして今回の件で確証を得られました」

「確証、ですか?」

 

 今朝方配布された手配書。その内容に違和感を覚えたアイリスは秘密裏に、ローズ王女に話を聞きに行った。

 

 ローズは事件後、騎士団による事情徴収を受けたらしく、そのとき話した内容をそのまま聞かせてくれた。しかしその内容は手配書の内容と何一つ合致していなかったのだ。

 

 取り調べ調書にも目を通したが、ローズ王女の証言は手配書の内容通りに改竄されていた。

 

「アレクシア誘拐を企てたゼノン同様、騎士団内にはまだ敵が潜んでいます」

「『教団』……」

 

 ぽつりと呟いたアレクシアに否定の意を込めて、アイリスは首を横に振った。

 

「そこはまだ分かりません。存在する組織が『シャドウガーデン』と『教団』の2つだけとは限りませんから」

「なるほど、どこに敵の耳や目があるか分からない。それを警戒してのこの馬車でしたか」

「その通りです」

 

 ローズ王女の聴取を行った騎士2人と調書を付けた騎士1人。少なくともその3人は確定している。加えて、他の生徒の証言も同様の改竄が行われていた場合、敵は予想以上に多く潜り込んでいるかもしれない。

 

「我々紅の騎士団は今後、騎士団内に潜り込んだ敵の炙り出し及び警戒を第一に行動します。そしてそれを敵方に悟られないよう、秘密裏且つ慎重に進める必要があります」

「長年苦楽を共にした騎士を疑いたくはありませんが、そうも言っていられませんな」

「敵組織の規模も目的も不明の今、警戒し過ぎるくらいが適切です。それからアレクシア」

「はい」

 

 アイリスは隣で黙って話を聞いていたアレクシアに視線を向けた。

 

「今回の学園襲撃事件、明らかに学園内部から敵を手引きした者がいます」

 

 学園の主力である三年生が学園を離れたタイミングでの襲撃。警備員が巡回している広大な学園内部を短時間で占拠した手際から見ても、学園内の情報が襲撃犯に漏れていた可能性がある。アレクシアが通報しなければ、襲撃にすら気付けなかったかもしれない。

 

「紅の騎士団団長として、あなたに学園内の調査を命じます」

 

 本当はこんな危険なことを最愛の妹に頼みたくはない。

 

 しかし騎士を学園内に常駐させるには他騎士団への共有や申請が必要になってくる。『アーティファクト』の回収でシェリーさんを的確に狙ったことを鑑みても、事前に申請した『アーティファクト』調査の護衛という内容が敵側に漏れていた可能性がある。

 理由をでっち上げて学園内に騎士を送り込んだとしても、警戒されて徒労に終わってしまうだろう。

 

「紅の騎士団に名を連ねる一人の騎士として、力を貸してください」

 

 そして何より、共に剣を交える中で知った。

 

 アイリスの後ろを付いてくる護られるだけの妹はもういない。

 今のアレクシアは愚直に小さな努力を積み重ね、自身の理想に向かってただひたすらに突き進む一人の騎士だ。

 

 だからこそアイリスは命じた。

 共に戦う騎士として、一人の仲間として。

 

 その意思が伝わったのか、アレクシアは嬉しそうに、そして力強く「はいッ!」と返事をした。

 

 

 その様子を対面に座るグレンは静かに見届けていた。

 幼少の頃から知っている目の前の姉妹が同じ方向を向き、共に並び立つ姿を幻視して、グレンは目頭が熱くなるのを感じた。




はい、今回で二章完結です。ぱちぱち~★

三章でやりたいことはいくつか決まっていますが、正直まとまり切ってないです。
何話分か書き溜めして流れをある程度決めてから放出しようと思っているので、少し期間が開くかもしれません。さすがに2カ月は開かないと思う……うん、開けて1カ月半。

期間が開き過ぎたら息抜きに書き溜めしてる別の二次作品の投稿も考えています。良かったらチェックしてみてください。
まぁ期間とか開かなくても出す可能性あるけど……。

そんなわけで、ではまた、シーユー!
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