絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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皆様お久しぶりです!
そして、あけましておめでとうございます!

本話から3章開始です!


第三章
24話 そうだ、温泉に入ろう


 あの楽しかったテロリスト事件から数日が経過した。

 この数日間、僕は課外授業から帰って来た姉さんのわがままに付き合ったり、騎士団長の娘さんにチョコのお礼と称して高い肉を奢ってもらったり、『絶対的な強者』っぽい名言を考えたりと、前倒しになった夏休みを割と満喫していた。

 

 そんな折に、アルファから一通の手紙が届いた。

 

『暇なら二人で聖地に来て』

 

 うん、実にアルファらしい簡潔な手紙だ。

 

 聖地リンドブルム。

 この世界で最もポピュラーな宗教である『聖教』の聖地の一つ。『聖教』とは英雄にその力を授けた女神を唯一神と信じる感じのよくある一神教の宗教だ。

 

 実は昔一度だけ行ったことがある。

 確かあそこには源泉垂れ流しの温泉があったはずだ……うん、久しぶりに入りに行こう。

 

 思い立ったが吉日ということでシドを誘いに行ったけど、シドは明日モブらしく列車の普通席で行くとのことだった。

 僕? 僕は早く温泉に入りたいから走って行くよ。

 

 という訳で、僕は一足先に王都を出発した。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「いや~絶好調、絶好調~♪」

 

 僕は木々を跳び移りながら財布の中身を確認していた。

 

 あれから僕は、道中で見つけた盗賊を適当に狩って観光代を稼ぎながら聖地へ向かっていた。

 ほとんどが小規模で大した旨味もなかったけど、2つほど大きな盗賊団を見つけることができた。

 

「なかなか稼げたな~、やっぱこの辺の持ってる奴は結構持ってるね」

 

 地元での盗賊狩りとは稼ぎがまるで違う。

 やはり卒業後は王都や聖地みたいな主要都市で活動するのが一番だな。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていると魔力探知に反応があった。

 

 戦利品整理に結構時間を使ってしまったので、既に日が沈み森の中は真っ暗だ。

 そんな暗闇をものともせず、もの凄い勢いで僕の方へ一直線に向かって来ている荒々しい魔力……。

 

 僕は一度木の上から降りて、そちらに視線を向けた。

 そう、この魔力はたしか……。

 

「シヴァさまああぁぁぁあああ!!!」

 

 暗闇から飛び出して来た一人の獣人を、僕は軽く受け止めた。

 受け止めたと同時に地面がドゴンッと音を立てて陥没したが、そんなことは気にしない。彼女基準でこれは軽い方なのだ。

 

「デルタじゃん、久しぶり」

 

 そう言って、僕の胸に抱き着いて必死にゴシゴシとマーキングをしている獣人の少女に視線を落とした。

 

 この黒毛の犬耳と尻尾を持った獣人の少女の名はデルタ。『シャドウガーデン』4人目のメンバーにして、『七陰』の第四席、『暴君』のデルタである。

 

「デルタはなんでここにいるの?」

「デルタはシヴァさまの匂いがしたから、急いで来たの!」

 

 はっきりいうと、デルタはアホの子だ。

 

 剣術や魔力操作を教えても覚えられないほどの脳筋ではあるけど、戦闘能力は『シャドウガーデン』の中でもピカイチだ。彼女が持つ野生の勘と並外れた膂力は技術の無さを補って余りあるものである。

 

 シド曰く、「脳ミソに欠陥さえなければ、この世界で覇権を握っていただろう」とのこと。

 

「そっかそっか。デルタはなんでここにいるの?」

「デルタは狩りをしていたの! シヴァさまも一緒に狩ろ!」

 

 昔僕は前世で犬を飼っていた経験を活かして、デルタを立派な忠犬に躾けようとしていた時期がある。

 まずは信頼関係の構築からかな〜と思って、僕はデルタの遊びにとことん付き合ってあげることから始めた。結局しばらくして無理だと諦めたけど、その期間が原因で僕はデルタにめちゃくちゃ懐かれたのである。

 

 あれから数年経った今でも、デルタは事あるごとに僕を色々な遊びに誘ってくる。

 普段はアルファが事前に止めてくれるはずなんだけど……。

 

「デルタは何を狩っていたの?」

「盗賊! シヴァさまも一緒に狩ろ!」

「デルタはなんで狩りをしていたの?」

「アルファさまがそうしろって! シヴァさまも一緒に狩ろ!」

 

 ストッパーであるアルファが原因だったか。

 まぁデルタと遊ぶのは前世で飼っていた犬を思い出して楽しいんだけど、今はちょっとな……温泉入りたいし。

 

「よし、デルタ、ゲームをしよう」

「ゲーム! やるぅ!」

 

 デルタは僕に抱き着いたまま、紫がかった瞳をキラキラさせて尻尾をブンブンと勢いよく振る。うん、砂埃が僕にかかってるから止めようね。

 

「今回のゲームは『究極(アルティメット)かくれんぼ』だ」

「かくれんぼ!」

 

 デルタ忠犬化計画の最中、僕は遊びながら学ばせればいいのでは? と考えて知育ゲームをいくつか考案した。

 その内の一つがこの『究極(アルティメット)かくれんぼ』だ。

 

 ルールは至ってシンプル、隠れた僕を見つけるだけだ。

 ただし僕は魔力遮断、魔力残影の偽装やかく乱、ボッチ技能といったありとあらゆる魔力操作技術を使って隠れる。

 

 デルタに魔力探知の大切さや感覚を教えるために考案したゲームだったが、デルタは己の五感や野生の勘だけを頼りに僕を見つけ出してしまった。最初だからと手を抜いていた僕でも、その時はさすがに驚いた。

 

「デルタが近くにある盗賊団を1つ狩り終わったらゲームスタートだ」

「わかった! 狩ってくる!」

「待ちなさい」

「キャンッ!!」

 

 話を最後まで聞かずに走り出そうとするデルタの尻尾を掴んで止めた。

 

「尻尾ダメ!!」

「ごめんごめん。でも、話は最後まで聞くようにいつも言ってるだろう?」

「うぅぅ……」

 

 うんうん、反省はしているみたいだ。

 基本、デルタはいい子だ。頭が壊滅的に残念なだけで。

 

「話を戻すけど、範囲はこの森の中だけ。そしてデルタはゲーム中、盗賊を見つけたら一度ゲームを中断して、盗賊を全て狩り尽くしてからゲームに復帰しなければならない。優先順位はまず盗賊、それからゲームだ。わかった?」

「わかんない!」

「この森でいっぱい盗賊狩ってねってこと。わかった?」

「わかった! 狩ってくるー!」

 

 そう言ってデルタは森の中へと消えていった。

 教えたことを3歩と言わず3秒で忘れるのがデルタだ。鶏もこれにはびっくりだろう。

 

 アルファがどういう目的でデルタに盗賊狩りをやらせているのかわからないけど、僕とシドを呼び出したのなら何らかの舞台を整えてくれているはずだ。その邪魔だけはできるだけしたくない。

 一応狩りに関することだしあのデルタも忘れはしないだろう。なぜか狩りに関することだけはめっちゃ覚えてるし……。

 

 さて、早く行かないとデルタが帰って来てしまうな。

 

 僕は全力で隠れながら聖地へ向かった。

 生半可な隠密では獣人の中でもずば抜けた五感と第六感を持つデルタの索敵は掻い潜れない。だから僕も全力全開で挑まねばならないのだ。なぜなら僕は早く温泉に入りたいから。

 

 幸いにもここは聖地にほど近い森の中。

 範囲を森の中に限定しておいたのはこれが理由だ。聖地にさえ入ってしまえばこっちのもんだ。

 

 じゃあなデルタ……今度いい感じの肉を騎士団長の娘さんから貰っておくから、今日は許せ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 リンドブルムに着いたのは深夜を少し回った頃だった。

 当然、温泉は既に閉まっている……だが、その程度で僕の温泉入りたい欲は収まらない!

 

 てな訳で僕は今、月明かりに照らされた誰もいない温泉にゆったりと浸かっている。

 時偶王城の宝物庫からお小遣いを徴収している僕にとって、ろくに警備もされていない店舗に侵入するなど造作もないことだ。

 

 僕の『絶対的な強者コレクション』からいい感じのお酒を持ち出して、温泉に浸かりながらの月見酒を楽しんでいる。

 風情を楽しむ上位者っぽくてめっちゃいい!

 

「……何用だ、イプシロン?」

「お楽しみ中失礼します、シヴァ様」

 

 気配を感じて声をかけると、洗い場の方からイプシロンが姿を現した。

 いつもの全身黒のスライムスーツとは違って、体にタオルを一枚巻いただけの格好をしていた。

 

「シヴァ様の気配がいたしまして、是非お酌をと」

「クハッ、そうかそうか。良い、同浴を許そう」

「! ありがとうございます!!」

 

 嬉しそうにパァっと輝かんばかりの笑顔を向けてから、イプシロンは「失礼します」と僕の隣に腰を下ろした。

 動く度に揺れる胸やお尻へ自然と視線が惹き付けられる。

 

「相変わらず美しいな、お前の身体は」

「いやですわシヴァ様、そんなに見つめられては」

 

 くねくねと恥ずかしそうにしながらも、しっかりと胸を寄せるイプシロン。

 本物の肉感や重力と慣性による挙動までを織り込んだ微細な魔力操作で再現したそれは、芸術品にも勝る美しさだ。さすがは『緻密』のイプシロン、魔力操作に於いては『シャドウガーデン』随一だ。

 

 差し出した石盃に、イプシロンがお酌をしてくれる。

 月明かりに照らされた温泉で美少女片手にお酒を楽しむ男……裏社会の支配者っぽくていいね、最高!

 

「して、例の計画は順調か?」

「はい。現在、アルファ様が全体の指揮を執って準備を進めています。『ナンバーズ』を含む人員が着々と聖地に集結しており、作戦決行の2日前には皆到着する見込みです。私を含む『七陰』は現在、指示があるまで待機しています。ですからシヴァ様、明日は街のご案内などいかがでしょうか!?」

「ふむ、では頼むとし…………え、デルタは?」

 

 待機どころか遊んでたぞ、あの犬っころ。

 まぁアルファの指示って言ってたし遊んではないのか?

 

 どうやら『待て』ができないデルタは毎度作戦決行日まで、近くの森の中で狩りをさせられているらしい。

 指示がないとどこか遠くまで狩りに行ってしまうし、待機を命じたとしても、『待て』が嫌いなデルタはすぐ暴れ出してアルファ以外手が付けられなくなる。だから指定した範囲内で好きに狩りをさせておく方が、盗賊の処理もできて一石二鳥とのことで、アルファが毎度指示を出しているらしい。

 

 さすがアルファ、デルタの扱い方をわかってる。

 なんだかんだデルタに一番苦労させられてるのはアルファだからね、そりゃ慣れるよ。

 

「ふむ、久方ぶりにデルタと戯れるのも一興か」

「それは……シヴァ様の御心のままに」

 

 デルタは案外単純で、自分より強い者の言うことは絶対に聞く。

 『シャドウガーデン』の中でいえば、僕とシド、アルファの言うことしか聞かない。

 

 だからデルタを制御できる僕が傍にいた方が何かと有難いんだろう。

 イプシロンは自分の欲求を抑え込んでまで、僕の意見を肯定してくれた。

 

 とはいっても……。

 

「なに、心配せずとも、明日はお前に案内を頼むとしよう」

「! はい、ありがとうございます! このイプシロン、シヴァ様に楽しんでいただけるよう、精一杯ご案内させていただきます!!」

 

 数日間デルタの相手をするとなると、さすがの僕も疲れる。

 聖地観光を一通り終わらせてから、暇があったら相手をしてあげるとしよう。

 

 そう思い、僕は石杯に注がれた残りのお酒を呷った。




ああ~デルタかわいい~

 呼び方を「シヴァさま」か「シヴァ」かでちょっと迷ったけど、自分より格上のアルファを「アルファさま」と呼んでいるので「シヴァさま」にしました。
 シドのことを「シド」と呼ぶのは、コミカライズ版での「この姿の時はボスじゃない」「そうでした、ボスのシド!」というやり取りから、シドがそう呼ぶように指定(命令)したから「シド」呼びをしているのでは?と考察しました。

デルタ「強い者に従うのは当然なのです!」
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