絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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28話 陰は光があってこそ

「見たっていったい……」

「あの一瞬で何が……?」

 

 イプシロンが残した言葉の意味がアレクシアとローズにはわからなかった。

 

 ヴェノムと呼ばれた男は、確かにイプシロンに斬りかかった……はずだ。

 しかし、次の瞬間にはイプシロンは無傷のままその場に立っていた。傍にヴェノムだったと思われる肉塊を残して。

 

「あぁ~れぇ~」

「ナツメ先生!?」

 

 未だ状況が呑み込めずにいる二人を置いて、ナツメを抱えた黒ずくめの女が扉に吸い込まれていった。

 気付けばその場には、既にローズとアレクシアの二人しか残っていなかった。

 

「ッ! 扉が……!」

「閉じていく……?」

 

 光の扉は徐々にその光を失わせていた。

 それを視界に収めたアレクシアの脳裏に、かつて聞いたシャドウの声が響いた。

 

 ――『関わるな』

 

「ッ! お断りよ……!」

「アレクシアさん!?」

 

 アレクシアは貴賓席の塀に足を掛け、扉へ飛び込んだ。

 しかし扉が完全に閉まり切るまで時間がなく、扉までの距離を考えると間に合うかは半分運次第であった。

 それでもアレクシアは迷うことなく、扉へ向かうことを選んだ。

 

「そうだ、お前達には知る権利と義務がある」

『なッ!?』

 

 声が聞こえると同時に、アレクシアは空中で、ローズは貴賓席でそれぞれ黒い触手のようなものに腕を引かれた。

 そして二人は抵抗する間もなく、もの凄い膂力で閉まりかけている扉へと放り投げられた。

 

「お前達の役目を果たせ」

 

 扉に吸い込まれる直前、そんな声が聞こえた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

『うわぁぁぁあ!』

「一班と二班は……うわあぁぁあ!」

 

 突如、空中から姿を現したローズとアレクシアは、そのすぐ下にいたナツメ(ベータ)を下敷きにして頭から着地した。

 

「お二人とも……大丈夫ですか?」

「ローズ先輩、早くどいて」

「アレクシア様、変なところを触らないでください」

「ブヨブヨの肉まんじゅうなんか触りたくないわよ!」

「フフッ、負け惜しみですか?」

「お二人とも、喧嘩は……あっ」

 

 ローズが声をかけてようやく、3人は自分たちに周囲の視線が集中していることに気が付いた。

 

 そこは薄暗い吹き抜け空間だった。

 周囲には黒ずくめの女たち。その中にアルファ、イプシロン、そして捕らえられたネルソンの姿もあった。

 

「あの、えっと……」

 

 立ち上がったローズは、とりあえず敵意がないことを示すため両手を上げた。

 敵に囲まれている状況下で下手に相手を刺激しては、ナツメ先生どころか、自分の身すら守れない。

 慎重に行動しようとしたローズだったが、その隣からズイッとアレクシアが前に出た。

 

「ごめんなさい。私たちは逃げるつもりだったけど、黒い触手に無理やり扉に放り込まれてどうしようもなかったの」

「黒い触手……」

 

 アレクシアの言葉を聞いたアルファは、少しだけ考える素振りを見せた。しかしそれはある一言によって中断され、長く続くことはなかった。

 

「シヴァさまの匂いがするのです!」

『ッ!』

 

 その言葉を聞いた黒ずくめの女たちが、皆一様に驚愕した表情を浮かべた。

 ローズの脳裏にも、先のテロリストによる学園襲撃時、桁違いの魔力と存在感を放っていた存在の姿が頭に浮かんだ。

 

「そう……彼は何か言っていたかしら?」

「……姿を見たわけじゃありませんが……『お前達には知る権利と義務がある』『お前達の役目を果たせ』と」

 

 アルファの問いかけにローズは正直に答えた。

 アルファという目の前の女性とシヴァの関係は不明だが、黒ずくめの女たちを指揮している共通点から、近しい関係であるとローズは仮定した。

 

 今では指名手配になっているが、ローズはあの時確かに命を救われた。

 その経験からシャドウやシヴァの指揮する『シャドウガーデン』が、悪しき存在であるとは到底思えなかったのだ。

 

「そう……あなた達は知るべきなのかもしれないわね」

 

 アルファはそう言って踵を返し、黒ずくめの女たちに指示を出していく。

 その様子を見て、アレクシアとローズは胸をなでおろした。

 

 

 一通り指示を出し終えたのか、アルファを先頭に聖域の奥へ移動を開始した。

 

「こんなことをして、何のつもりだ?」

 

 イプシロンに拘束されたネルソンが、前を歩くアルファを睨みつけた。

 それを意に介すことなく、アルファは軽く微笑んだ。

 

「この地は英雄オリヴィエが打倒した魔人ディアボロスの残骸、その左腕が封印した地と伝えられている」

「それがどうした。お伽噺を頼りに腕でも探しに来たか」

 

 ネルソンは嗤った。

 

「それも楽しそうだけど……私の知りたいのは『ディアボロス教団』のことよ」

 

 アレクシアが『ディアボロス教団』という言葉に反応した。視線を強くするアレクシアを、ローズは横目でしっかりと捉えていた。

 

「何の話だ……?」

「答えられないのはわかっているわ。だから直接見に来たの。最初から全て、歴史の闇に葬られた真実を探しに」

 

 アルファは背を向けて、大きな石像の前に歩いていく。

 その像は聖剣を抱えた美しい、戦乙女のような神々しさを放つ()()の像だった。

 

「……英雄オリヴィエの像」

「英雄オリヴィエ……? 彼は男性のはずでは?」

 

 ローズの言う通り、広く知られている常識として、英雄オリヴィエは男性だったと伝えられていた。

 

「我々はおおよその事は理解している。歴史の真実、教団の目的、そして……」

 

 そう言って振り返ったアルファの黒い外套が溶けて、その素顔が明らかになる。

 

「なッ……!?」

「エルフ……?」

 

 驚愕の声を上げたのはネルソンただ一人だった。

 アレクシアとローズはその美しさに息を呑み、同時に気付いた。

 

 彼女の顔は、英雄オリヴィエと瓜二つだったのだ。

 

「貴様はエルフの<悪魔憑き>……! だが、適応できず死んだはずでは……!?」

「やはり知っているな……!」

「うグぎッ……!」

 

 ネルソンの言葉を聞いたイプシロンが拘束の力を強め、痛みによりネルソンがうめき声を漏らした。

 

「我等は<悪魔憑き>の真実は知っている。今の秩序を維持したい教団にとっては、さぞかし邪魔な存在でしょうね」

 

 ネルソンは俯き、何も答えなかった。

 

 ローズは彼らの話がまるでわからなかった。

 しかしアレクシアは多少理解しているようだし、アルファがでたらめを言っているようにも見えなかった。

 

 これほどの力を持つ組織が、趣味で考古学をしているわけではないだろう。何か、大きな理由があるのだ。

 『シャドウガーデン』。そして、『ディアボロス教団』。

 

 ローズの脳裏によぎったのは、先の学園襲撃事件。あの事件も無関係ではないはずだ。

 

 強大な2つの組織の抗争が人知れず繰り広げられている。

 その事実にローズは戦慄した。

 

 もし、この先彼らの争いが激しさを増したとき、何も知らない国がそれに対応できるとは到底思えなかった。

 

「教団の目的が単なる魔人の復活ではないことも察している。しかし、まだ確信はない……だからみんなで直接見に行きましょうか」

 

 アルファはそう言って、石像に魔力を込めていく。

 その尋常ではない魔力量に、ローズとアレクシアは背筋を凍らせた。

 

「嘗てこの地で大きな戦いがあり、幾多の命が散った」

「バカな……! 何故起動する……!?」

 

 石像が魔力に反応し光出し、像の奥の壁面に古代文字が浮かび上がった。

 

「魔人と戦士たちの魔力が渦巻き、その魔力の渦に行き場をなくした記憶が封じ込まれた」

 

 石像が消え、奥の壁が割れてその隙間から眩いまでの光が漏れ出す。

 

「ここは、古の記憶と魔人の怨念が眠る墓場」

「バカな……まさか……!」

 

 漏れ出ていた光はやがて周囲に広がり、世界を白く染め上げる。光を背後に振り返るアルファの隣に、彼女と瓜二つの英雄オリヴィエが現れた。

 

「オリヴィエぇぇぇえええ!!!」

「さあ、お伽噺の世界に旅立ちましょう」

 

 光り輝く世界の中で、アルファの声が最後に聞こえた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「よし、こっちは完璧」

 

 僕は人っ子一人いなくなった競技場で黙々と作業を進めていた。

 

 アレクシアとローズ会長はアルファたちが消えた『聖域の扉』とやらに放り込んでおいた。

 『シャドウガーデン』はあくまで第三者であり、物語の重要な場面にちょくちょく現れる陰の組織だ。陰は主人公という光がいるからこそより輝けるので、現状主人公っぽい2人をアルファの近くに置いておくことにしたのだ。

 

「それにしても、まさかあのハゲが今回の黒幕だとはね〜」

 

 アルファから軽く聞いただけだが、あのハゲは聖教の司教を殺害し、その立場に成り代わった『ディアボロス教団』の幹部だという話だ。

 犯行は昨日の夜中に行われており、防ぐことができなかったと言っていた。

 

 正直、それ自体はどうでもよかった。

 僕も昨夜はデルタと遊ぶのに夢中で聖地内の魔力探知を怠っていたので、計画に支障はないと聞いてちょっと安心したくらいだ。

 

 閑話休題。

 今はこっちに集中しよう。

 

「ここは確か……こうだな」

 

 現在、僕は何をやっているかというと、聖域の扉の再現である。

 

 あの扉は魔力の塊だ。といっても僕が使う魔力体みたいなものではなく、仕組みとしては、刻まれた魔力回路や魔術文字によって様々な効果をもたらす『アーティファクト』に近い。

 何らかの条件で現れる『異世界版認証ロック付き扉』といったところか。

 

 僕は今そのロック付き扉を解除している最中だ。

 扉の魔力構造自体は一度この目で見ているので、可能か不可能かでいえば再現自体は可能だ。ただし、めっちゃ大変だし疲れる。

 

 簡単にいうと、『扉が開いた』状態の魔力構造を完璧に再現して、新しい入口を作ろうとしているのだ。もっと簡単にいうと、ドラ〇もんの高次元ポケットの中に入るためにスペアポケットを作ろうとしている。

 

 しかも魔力だけで回路を空中に描く以上、太さや形、込める魔力量を常に維持しておく必要がある。繊細且つ正確な魔力操作を要求されるこの作業には、さすがの僕も神経をすり減らしているのだ。

 

「実物があれば、まだ楽なんだけどな~」

 

 扉は僕の記憶を頼りに再現しているので、頭も常に使っていて余計疲れる。実物が近くにあればそのまま模写すればいいだけだから楽なんだけどね。

 

 正直、こんなちまちま作業するのは『絶対的な強者』としては間違っていると思うけど、これに関しては仕方ないか。あの場面でアレクシアたちを先に行かせたことには後悔はないし、即興にしてはいい感じのことが言えたと思う。まあ、演出の代償だと思って快く受け入れるとしよう。

 

 僕は一度伸びをして頭をスッキリさせてから、再度作業に集中することにした。




原作でイプシロンや『シャドウガーデン』のメンバーが聖域からの脱出用に簡易的な扉を作っていますが、それは聖域に干渉するための鍵の役割を持つ『アーティファクト』等を発見したためだと仮定しました。
なんだかんだドラ〇もんの例えが一番わかり易いかもしれん。
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