絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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3話 怨敵爆誕、ディアボロス教団

 シドが<悪魔憑き>の治療に成功した瞬間、目の前の肉塊が金髪ロリエルフに姿を変えた。

 マジシャンも裸足で逃げ出すレベルのイリュージョン(魔法)である。

 

「いやぁ、驚いたな。まさかあの肉塊が金髪エルフだったとは」

「あの状態から戻るんだね。これで僕とシドのどちらかが<悪魔憑き>を発症しても安心だ」

 

 まだ目を覚まさない金髪ロリエルフを前にしてシドと今後の方針について話し合う。目下の課題はこのエルフっ子について。

 

 シドは最初「故郷へ帰そう」と言っていたけど僕が「元<悪魔憑き>なんて厄ネタ、追い出されたはずの故郷に帰して大丈夫?」と言うと頭を悩ませた。

 結局答えは出ず「本人の意思に任せよう」という結論に至った。

 

 そんなこんなで金髪ロリエルフが目を覚ましそうになったので、『陰の実力者』と『絶対的な強者』による初舞台が幕を開けた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 シドが木箱の上に片膝を立てて座る横で、僕はシドから貰ったスライムを椅子の形にしてその上にあぐらをかいて片肘をついた。

 

「目が覚めたか」

「……ここは……はっ! 私の体、元に……!」

 

 シドが声をかけると意識が覚醒し、金髪ロリエルフは自身の体を隅々まで確認すると同時に驚愕した。

 そら不治の病として有名な<悪魔憑き>が跡形もなく完治していたら驚きもする。

 

「君の体を蝕んでいた呪いは解かれた。晴れて君は自由の身だ」

「呪い……? それはどういう……?」

「それを答える前に、お前に問うておかねばならんことがある」

 

 予め僕とシドで考えておいた設定を話す前に、先ほど話し合った質問を僕から投げ掛けてみる。シドは目を瞑り、少し俯いて訳知り顔で微笑んだ。いいねその表情、僕も後でやろう。

 

 金髪ロリエルフの顔がこちらに向いたのを確認して指を立てながら話を続ける。

 

「お前には2つの選択肢がある。1つ、何もかもを忘れて新天地で新たな生を謳歌する。2つ、世界の闇と戦う覚悟を決め、俺らと共に征く。2つに1つだ」

「世界の、闇……」

 

 そして少しの沈黙の後、エルフっ子はぽつぽつと語り始めた。

 

「私はもう、故郷へは帰れない……。醜く腐り果てるしかなかった私を救ってくれたのはあなたたち……だから! 救われたこの命、あなたたちと共に在ると誓うわ!」

「キヒッ……良い目をしているな、気に入った」

 

 てなわけでお仲間が一人増えましたとさ。

 裏切りそうにないし、頭良さそうだし、なんか無駄に有能そうな雰囲気があるし。エルフの精神が早熟って話は嘘じゃないみたいだ。

 

「フッ……だから言っただろう? 何も心配はいらないと」

「クハハッ、そうだな。賭けは俺の負けにしといてやる」

 

 一度、上機嫌に両手を広げてから自然な流れで再度片肘をつき、先ほどシドがやっていたように訳知り顔で俯き瞼を閉じた。

 

 つい先ほどまで「故郷へ帰そう!」などと宣っていたシドの華麗な手の平返しには適当に合わせておいた。エルフっ子の名演技っぷりに感激でもしたのだろう。

 

「てなわけで、君は今日からアルファだ」

「わかったわ」

 

 僕は改めてアルファと名付けられたエルフっ子を盗み見る。金髪、青目、色白、美人、典型的エルフだ。アルファ……ギリシャ文字か、いいね、洒落てる。

 僕も自分の活動名を考えておかないと。

 

「僕たちの目的は、魔人ディアボロス復活の阻止だ」

「魔人ディアボロス……? それって有名なお伽噺の……?」

 

 きた、ここだ! 僕のパート!

 僕は瞼を閉じたまま語り始める。

 

「遥か昔、魔人ディアボロスによって世界は崩壊の危機に曝された。だが、人間、エルフ、獣人の3人の勇者により魔人は倒された……しかし」

 

 「しかし」の部分で両目を開けてアルファを真っすぐ見据える。僕のあまりの真剣な表情にアルファは生唾を呑み込んだ。

 少しだけ溜めてから続きを話す。

 

「……ただでは死ななかったのだ」

「そう、勇者によって倒されたディアボロスは死の間際、3人の勇者に呪いをかけた。それが……」

 

――<ディアボロスの呪い>

 

「<ディアボロスの呪い>? そんなの聞いたことがないわ」

「<ディアボロスの呪い>は実在する。<悪魔憑き>……お前の身を蝕んでいた病のことだ」

「え、そんな……」

 

 僕の衝撃的な回答に驚愕して目を見開くアルファ。

 

「魔人ディアボロスを倒した英雄の子孫たちは、長らくこの病に苦しめられた。しかし、昔は<ディアボロスの呪い>は治せるものだった。君のようにね」

 

 つい先ほどまで<悪魔憑き>であったことが信じられないほど、傷一つ無い肌を取り戻したアルファの存在。それこそがシドの言葉が正しいことの動かぬ証明となる。

 大嘘だけど。

 

「<悪魔憑き>は英雄の子孫の証明だった。世界を救った者の子孫として大切に保護され、感謝され、讃えられていた……昔はな」

「だけど今は、感謝されることはない。それどころか……」

「蔑称、迫害、公開処刑。果ては民衆に感謝までされているときた」

 

 アルファが顔をしかめて言葉に詰まるが、代わりに僕が心底下らないといった風に吐き捨てた。

 

 真実を知らない民衆を小馬鹿にするように嘲笑を浮かべ、頬杖を付いていない方の腕を蚊でも払うかのように振るう。

 こういう上位者っぽい振る舞いマジで気持ちいい……! どんどんやってこう。

 

「何者かが歴史をねじ曲げたんだ。英雄の証明であることを隠し、呪いの治療法も隠し、それどころか<悪魔憑き>などと蔑まれる存在に」

「ッ……! いったい誰が!」

「それこそが魔人ディアボロスの復活を目論む者達だ。<ディアボロスの呪い>に蝕まれる者は、例外なく魔力が高く英雄の血を色濃く受け継いでいる。つまり人類にとっては貴重な戦力であり、奴らにとっては邪魔な存在だ」

「だから、<悪魔憑き>と称して始末する……」

 

 アルファが少しだけ俯いて考えを巡らせる。

 これまで受けた仕打ちを思い返しているのだろうか、顔に怒りの表情が読み取れる。

 

「『ディアボロス教団』。それが僕らの敵だ。奴等は表舞台には決して出て来ない。だから僕らも陰に潜むんだ。陰に潜み、陰を狩るんだ」

「……表舞台に姿を現さずにそれほどの影響力を持つ存在ね。となると敵は権力者……真実を知らずに操られている人達も沢山いるはず……」

 

 シドが鷹揚に頷いた。

 

「困難な道のりだろう。だが、僕らが成し遂げなければならない。協力してくれるね?」

「あなたたちがそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして咎人には、死の制裁を……」

「ケヒヒッ……相も変わらず良い目をするものだ」

 

 アルファは青い瞳で僕たちを見据え、不敵に笑った。幼くも美しいその顔は、覚悟と決意に満ちている。

 

 若干僕が人の目を見て気に入るか、気に入らないか判断するキャラになりつつあるが、心配ご無用。あと2人、3、4人くらいにしか言わない……たぶん。自分のボキャブラリーの少なさが恨めしい。シドマジ尊敬。

 

「我等は『シャドウガーデン』……そして、我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……」

「俺の名はシヴァ。破壊と再生を司る者」

「シャドウ……シヴァ……」

 

 今日この瞬間、シャドウガーデンが設立され、世界の敵ディアボロス教団が誕生したのであった。

 いつか気付かれて怒られたりとかしないよね? そのときはシドを置いて逃げよう。

 

「ま、とりあえず魔力制御鍛えつつ剣の練習しますか。メイン戦闘は僕らがやるけど、君も雑魚戦はやってもらうからそれなりに強くなってね」

「わかってる。敵は強大、戦力の底上げは必須ね」

「そうそう、そんな感じ」

「他の英雄の子孫を探し出して保護する必要もあるわね」

「え、あぁ、まぁほどほどにね」

 

 ……ほんとに大丈夫だよね? バレないよね? もしバレても笑い話になるよね?

 アルファが想像以上にガチ過ぎてシドの方が若干引いちゃっているじゃん。

 

「ま、ひとまずは強くなることに集中しようか」

 

 それから僕たちは剣と魔力制御の訓練を開始した。

 

 最近まで素人だったとは思えないほど鋭いアルファの剣をシドがびっくりしながらも受け止める。センス良過ぎでは? うかうかしてたら抜かれそうだから僕も気合を入れなおさないとな。部下に負ける世界最強とか絶対嫌だからね。




【悪魔憑き】
 原理は魔力暴走と酷似。しかし膨大な魔力が体外に出ることなく全て肉体に吸収され、重度の魔力過多によって人の形を失いただの肉塊のようになってしまった存在。
 一般の魔力暴走との違いは、魔力を勝手に吸い出す肉体の有無。
 この肉体の性質を<ディアボロスの呪い>として解釈。
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