絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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3パターンくらい書いてギリギリまでどのルートにするか悩みました。


30話 犬系獣人は狩り上手

 景色が変わった。

 そこはどこまでも続く白い空間だった。空も、大地も、地平線の先も、どこまでも平坦な白が続く。

 

 そんな場所で、アルファとデルタが全身スーツに身を包んだネルソンと対峙していた。少し離れた場所にはアレクシアとローズ、ナツメの姿もあった。

 

「白い……!」

「今度は何……!?」

 

 アレクシアとローズが声を上げる中、ナツメ――ベータは周囲の状況をいち早く確認していた。

 

 アルファとデルタ、そしてネルソンの姿はすぐに確認できたが、それだけだ。先ほどまで連れていたイプシロンを含む『シャドウガーデン』のメンバーたちの姿は見当たらなかった。

 

「分断された......」

「これも聖域の防衛システムというわけね」

 

 アルファは一切動じることなく、正面で下卑た笑い声を上げるネルソンを見据えた。ネルソンは先ほどまでの祭服とは違い、黒と赤のボディスーツを身に纏っており、手には大剣が握られていた。

 

「聖域は我等の領域。教団に牙を向けたこと、その身で悔いるがよい!」

 

 ネルソンの姿が一瞬ブレて、数十人に増える。

 デルタが身を屈め力を溜める。その瞳は獲物を狩る獣のような獰猛さを宿していた。

 

「ウ"ゥゥア"ア"アァァ"ア"ア"ア!!!」

 

 デルタが咆哮と共に、まるで放たれた矢のように駆けた。

 凄まじい衝撃が大気を揺らし、数人のネルソンが一様に血しぶきをあげて絶命した。

 

「ッ!」

 

 狩りの余韻に浸っていたデルタだったが、背後から剣を振り上げて迫る数人の獲物(ネルソン)の気配を察知し、再度駆ける。

 一瞬の内に全てを仕留めたデルタは自身の爪、正確にはスライムボディスーツに視線を落とした。

 

「……?」

 

 眉をひそめて不快そうにするデルタ。その隙を突いて斬りかかるネルソンだったが、デルタの爪にいとも容易く防がれてしまう。

 その感触に違和感を更に強くしたデルタは一度距離を取った。

 

「何かおかしいです……」

「なるほど」

 

 アルファもデルタと同様の違和感を感じていた。そして自身の纏っているスライムボディスーツを観察して得心を得た。

 

 『シャドウガーデン』メンバーが纏うスライムボディスーツは、魔力操作によって如何様にも形を変える万能の魔道具である。度重なる実験により物体に流した魔力が霧散するまでの時間を極限まで延長させているため、一度形を作ってしまえば何もせずとも半日は形を維持し続けられるようになっているのだ。

 しかし現在、スーツに流した魔力が徐々に吸い上げられており、意識的に魔力を留めておかなければ形を維持できなくなっていた。

 

「聖域の中心に近づくほど、貴様等は力を失う。誘い込まれていることに気付かなかったのか?」

「あなたは逆に、中心に近づくほど力を得る」

 

 ネルソンの姿がブレ、再度十数人に増える。

 

「もう少し近づいてから仕掛けたかったが、この辺りでも十分だろう」

 

 ネルソンが笑みを浮かべた。その目には既に、自分の揺るぎない勝利が見えていた。

 

「獲物が……」

 

 対するデルタは身を屈め、己に宿る純粋な狩猟本能を開放する。

 

「いち……」

 

 獣人の中でもとりわけ高い狩猟本能を持つ犬系獣人。その本質は『より多くの獲物を主に献上する』というもの。

 

「にぃ……」

 

 目の前には大量の獲物(ネルソン)。本能が『逃がさず狩れ』『より多く狩れ』と語りかけてくる。

 デルタは本能に従い、逃げられる前に狩るため、そしてより多く狩るために魔力のリソースを全て身体強化に回した。そのあまりの魔力量に、離れた場所で見ていたアレクシアとローズが息を呑む。

 

 そして――。

 

「ッタァぁアァあァクさァアあアアン!!!!」

 

 理不尽なまでの暴力が解き放たれた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 そこはドーム状の場所だった。天井は高く、魔法の光が辺りを照らしている。

 正面奥には巨大な石扉がそびえ立ち、その扉は大量の鎖で封じられている。そして少し手前の台座には一振りの豪華な剣が突き刺さっていた。まさに選ばれし者のみが抜ける聖剣……ロマンだ。

 

「あれって……」

「そう、ここが聖域の中心よ」

 

 ヴァイオレットさんがゆっくり歩き出したので、僕も後を追う。

 

「それで、何を壊せばいいんだっけ?」

「魔力の核よ。その扉の奥にあるはず……」

 

 台座に刺さった聖剣を観察しているヴァイオレットさんを追い越して、僕は扉の前で足を止めた。

 

 その古臭い扉にはどす黒い血の痕がこびり付き、前面に古代文字がびっしりと刻まれている。そして人の胴体より太い鎖が何重にも巻き付いて、扉を固く閉ざしていた。

 こういう原始的で古臭い封印はサイが好きそうだ。もちろん僕も好き。

 

「鎖を斬ればいいのかな?」

「いいんじゃない?」

 

 僕は剣の鍔を押し上げ鎖を観察する。

 

 ……。

 

「うん、この剣じゃ無理だ。どうやったって剣の方が先に折れるよ」

 

 スライムソードだったら別だけど、学園支給の量産型の剣では天地がひっくり返っても無理だ。

 

「あのね……普通鍵があるとは思わない?」

「なるほど、確かに」

 

 十中八九、鍵はこの聖剣だろう。

 

「どう見てもこれでしょ」

「これね……この剣なら鎖が斬れるって書いてあるわ」

 

 刀身に浮かび上がっている古代文字を読みながらヴァイオレットさんは言った。しかし、僕には分かる。いや、理解ってしまっていた。

 

「僕にこの剣は抜けない……」

「えっ……?」

 

 僕は剣に手をかけ全力で引き抜こうとするが、剣はビクともしなかった。

 

「やはりそうか……この剣は、選ばれし者しか抜けないんだ……!」

「なんですって!?」

 

 ヴァイオレットさんは慌てて台座の古代文字を指でなぞる。

 僕は剣から手を離して、自分の両手に視線を下げた。

 

「剣が……拒絶しているッ……!」

 

 ノリで言ったけど、別に拒絶はされていない。

 でも、台座に刺さった剣が選ばれし勇者にしか抜けないのは世界の常識……使い古されたテンプレだ。

 

「聖剣は直系の子孫にしか抜けない……確かに書いてあるわ。暗号化された魔術文字をよく一目で見抜いたわね」

「フッ……テンプレは全て網羅しているからね」

「魔術文字の無数にある暗号パターンをテンプレート化して網羅している……そういうことね」

「たぶんきっと、そういうことだ」

 

 僕は満足気に頷いた。

 台座に刺さった聖剣、そして聖剣で解かれる封印の扉……ベタベタだけど大好きな仕掛けだ。いいね、異世界って感じする。

 

「でも困ったわ……」

 

 ヴァイオレットさんは台座に腰掛け呟いた。

 

「他に方法は?」

 

 僕はヴァイオレットさんの隣に腰掛ける。

 

「書かれていない……」

「そっか」

 

 手がないわけではない。ただ、その方法にはまだ少し準備に時間がかかる。

 さて、どうやって時間を潰すか……。

 

 ――ビシッ!

 

「ん?」

 

 僕たちが入って来た入口の方から音が聞こえた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 どこまでも続く白い地面が次々とひび割れ、盛り上がり、砕け散る。更にはまだ新しい真っ赤な血がこびり付き、まるで新品のキャンバスに赤い絵の具だけを使い、思い思いに絵を描いたかのような様相だった。

 

 その中心で今も尚暴れ回る半裸の黒毛の犬獣人――デルタは、狩っても狩っても湧いてくるを夢中で獲物(ネルソン)を狩り続けていた。

 

 少し離れた場所にいるアレクシア、ローズ、ナツメは、虐殺され続けるネルソンに憐みの目を向けていた。

 

「……ねぇ、『あれ』って本当にシャドウの仲間なのかしら?」

 

 ふと出てきたアレクシアの疑問に、ナツメ(ベータ)はぴくりと反応した。

 

「どういうことですか?」

「戦い方が全然違うわ。私が見たシャドウの剣は究極の技術だった。でも『あれ』、技もへったくれもないただの暴力じゃない」

 

 アレクシアの言葉にナツメ(ベータ)は胸が痛くなった。それに関して何も言い返せないのだ。

 デルタの戦い方に関しては昔、シャドウやシヴァ、アルファが手を尽くそうと努力してきたが、終ぞ改善することはできなかった。一時期シヴァが付きっ切りで指導した結果、出た結論が『長所を伸ばせば幸せだよ。本人も、そして周りもね……』というものだった。その時のシヴァの顔を、ベータは一生忘れないだろう。

 

「強いのはわかるけど、『あれ』でいいのかしら?」

「『あれ』が特別脳筋なだけじゃないでしょうか……」

 

 ナツメ(ベータ)はせめてもの反論として、そう言うことしかできなかった。

 

 ――ピシッ!

 

 デルタが悲鳴を上げる最後のネルソンを仕留めると同時に世界が砕け、その場にいた全員が元いたオリヴィエ像の前に戻された。

 

「何故だ、100を超える分身を何故こうも簡単に……!」

「あなたはきっと研究者だったのでしょうね」

 

 どこか憐れむようにアルファは言った。

 

「コピーがいくら増えても頭脳は1つ。増やした身体を制御するにはとても足りない。たとえ100体いても、まともに動かないのならそれはただの案山子」

 

 剣を持ったアルファが一歩近づく度に、ネルソンは恐怖で数歩後退る。そしてネルソンはオリヴィエ像の傍まで後退し、止まった。

 

「そうだ、オリヴィエ……!」

 

 今のネルソンには分身体を作り出す余力が残っていなかった。だからこそ彼は、聖域を守る最後の番人を呼び出した。

 

「オリヴィエ、来いッ! オリヴィエぇええ!!」

 

 ネルソンの情けない声に応えて紅い光の柱が立ち、その光は一人の女性を形作っていく。

 

「オリヴィエ……」

 

 アルファが呟いた。

 それは英雄オリヴィエだった。しかしそのガラス玉のような空虚な瞳に力はなく、まるで何も映していないかのようだった。

 

「英雄オリヴィエ……やはりあなたは……」

 

 アルファが唇を噛んだ。

 デルタは低い唸り声を鳴らし、ネルソンを護るかのように立つオリヴィエを観察し警戒している。いつ戦闘が始まってもおかしくないほど、ピリピリとした緊張感が場を支配していた。そんな時……。

 

「アルファ様、調査は終わりました」

 

 豊満な肉体の黒ずくめの女性――イプシロンが現れた。背後には先ほど分断された同じ黒ずくめの女たちも引き連れていた。

 

「いつでも出口が作れます」

「結構。なら、私たちはそろそろ帰るわ」

「あぇ……?」

 

 踵を返し引き返すアルファを見て、ネルソンが情けない声を上げた。

 

「ま、待て……! 帰る? に、逃げるつもりか……!?」

「小物にも不確かな記憶にも興味はないわ。我等の目的は力の源を断つことだけ」

 

 イプシロンが手をかざすと、そこに青白い光の魔方陣が起動する。それは聖域を出るための扉であった。

 

「聖域の防御がどんなものかもわかった。またお邪魔するわ。次はこちらの好きなときに」

「こ、このまま、に、逃がすと思うのか!」

「あら、追ってくるのかしら?」

「ひっ! ひぃぃ」

 

 ネルソンはオリヴィエの後ろに隠れた。聖域を出れば防衛システムであるオリヴィエは使えず、1つしかない自分の命が危険だということをネルソンは理解していた。

 

「デルタ、行くわよ」

「ウ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"……!」

 

 アルファの呼びかけに対し、デルタは唸り声を響かせるだけで反応を示さなかった。獲物を目の前にして撤退するという行動が、獣人の本能に従う今のデルタにはできなかったのだ。

 

「はぁ……」

 

 アルファはそれを理解していたが、思わず大きなため息を吐いた。

 切り替えたつもりであったが、今朝の件をアルファは今も少し引きずっていた。どんなに優秀であろうと、彼女もまだ15歳の少女。あるかないかの貴重なひと時を邪魔されたら、嫌な気持ちになるのは当たり前である。

 

 今朝のシヴァとの時間を邪魔されたときのことを鮮明に思い出したアルファは……。

 

デルタ

「っひゃい!!」

 

 今までにないくらい低い声を出した。

 デルタがその声に込められた怒気を持ち前の勘の良さで正確に読み取り、涙目になって……というか半分泣きながら返事をした。

 

「ごめんなさいなのです、アルファさま! デルタは今朝のことも反省しているのです! でもデルタはシヴァさまとのご褒美ゲームで……」

「黙りなさい。行くわよ」

 

 今朝と同じ謝罪(言い訳)をしようとするデルタは、アルファに連れられて扉の奥に消えていった。

 

「皆さんもどうぞ」

 

 黒ずくめの女の一人が新しく扉を作り、アレクシアとローズ、ナツメに脱出を促した。

 どうすればいいか目を見合わせるアレクシアとローズを置いて、ナツメは迷いなく扉へ向かって歩き出す。

 

「私は付いて行きますよ。アレクシア様は残られては? こういう薄暗い場所、お似合いですし」

「はあ? なんで私があんなハゲの隠れ家に残らなきゃならないのよっ」

 

 挑発され、緊張しながらもアレクシアは扉へ歩いて行く。相変わらずな2人を見て、ローズはひとつ溜息を吐いてから自分も扉へと向かった。

 

 そしてその場にはオリヴィエと、その背後に身を隠しながら呆然とするネルソンだけが残った。




〈今朝の一幕〉
デルタ「デルタはシヴァさまとのご褒美ゲームで、アルファさまにタッチしないといけなかったのです……」
アルファ「言い訳をする前に、まずは言うべきことがあるんじゃないの?」
デルタ「うぅ……ごめんなさいなのです……」
アルファ「それは何に対してかしら?」
デルタ「アルファさまへのご褒美を邪魔してごめんなさいなのです……」
アルファ「(ピクッ)」
デルタ「デルタもなでなでを邪魔されたら嫌だから反省しているのです......」
アルファ「(ピキピキッ)」

理解を示されるとそれはそれでなんだかイラッとくる複雑な乙女心。
※デルタはシヴァによって、自分がされたら嫌なことはしてはいけないと懇切丁寧に教え込まれているので、謝るときは大体こんな感じ。
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