絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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31話 テンプレは受け継がれ続けたロマンである

 ――ビシッ!

 

「ん?」

 

 僕たちが入って来た入口の方から音が聞こえた。視線を向けると、先ほどまでなかった光の裂け目のようなものが出来上がっていて、それは次第に大きくなっていく。

 

「あれ何かわかる?」

「さあ……わからないわ」

 

 ヴァイオレットさんもあの現象に見覚えはないみたい。

 早くも英雄の直系の主人公登場か!?って一瞬テンションが上がったけど、裂け目の中から出てきた人の姿を見て一瞬で冷静さを取り戻した。

 

「なんだサイか」

「なんだとはなんだ、なんだとは」

 

 サイは僕の姿を確認すると、身に纏っていたスライムスーツを解いて普段着に戻った。

 

「えっと、あなたは……?」

「あぁ、紹介するよ。この人は僕の友達のサイ」

「どーもー」

「で、サイ。この人は古代の戦士ヴァイオレットさんだ」

「あれ、そんな名前だったっけ?」

 

 ヴァイオレットという名前を聞いてサイが首を傾げる。そういえば本名聞いてなかったな……と隣で何とも言えない目を向けてくるヴァイオレットさんを見て思った。

 

「それより、サイはなんでここにいるの?」

「あぁ、聖域の中に入ったはいいけど迷子になっちゃってね」

「サイが迷子なんて珍しいね。初めてじゃない?」

「普段魔力探知に頼りきってる弊害が出たよ」

 

 サイが常時展開している魔力探知の仕組みは、魔力を薄く広く伸ばして周囲を把握するというものだ。学園襲撃の時よりも強力な魔力吸収が発動しているここでは、さすがのサイも維持できなかったのだろう。薄くする以上どうしても魔力密度を抑えないといけないしね。

 

「で、魔力の吸収先を辿ってみたらここに着いたってわけ」

「なるほどね」

「そっちは?」

 

 僕は扉の奥にある聖域の核を破壊したいこと、それには聖剣が必要不可欠なこと、その聖剣は英雄の直系にしか抜けないことをサイに伝えた。

 

「なるほどね。封印を破壊するには英雄の直系にしか抜けない聖剣が必要と……古き良きテンプレってやつだ」

「敢えて王道から外れないのも、それはそれで味があっていいよね」

理解(わか)る」

 

 僕たちの会話の意味がよくわからないのか、ヴァイオレットさんは少し困惑気味だ。

 

「そうだ、サイならあの鎖断ち切れるんじゃない?」

「ん~、できると思うよ」

「えぇっ!?」

 

 ヴァイオレットさんが驚きの声を上げた。

 

「っていうか、シドもあの盛大自爆でいけるでしょ」

「自爆とは失礼な。あれにはもう少し時間がいるの」

 

 僕の最高にして最強の必殺技を捨て身特攻みたいに言わないでもらいたい。

 

「あなたたちには考えがあるのね……」

「そ、あくまで時間の問題だよ」

 

 できることのないヴァイオレットさんは僕たちのことを信じるしかないのだろう。渋々といった感じで頷いた。

 

「とりあえずここが最奥なんだったら、しばらくすればアルファたちも来るだろうし、待ってようよ」

「え、アルファたちも来てるんだ」

 

 聞けばアルファたちも今回の黒幕と一緒に聖域の中にいるらしい。ついでにネームドキャラ筆頭であるアレクシアとローズ会長も一緒に。

 

「アレクシアたちもいるのか……何かできないかな?」

「無理でしょ」

「だよね」

 

 何か『陰の実力者』っぽいことができないか考えてみたけど、魔力が使えない状態ではできることは少ない。サイはともかく、今の僕ではシャドウの姿に変身することすらできないのだ。

 今回はアレクシアたちネームドキャラの覚醒イベントとして消化するしかなさそうだ。

 

「おっ、噂をすれば……」

 

 サイが入口の方へ視線を向けた。僕とヴァイオレットさんも釣られてそちらに視線を向けると、そこにはサイの時とは違い、赤黒い魔方陣が空中に展開していた。

 アレクシアたちが来る前に魔力が使えるようになったら『陰の実力者』っぽいムーヴをしようと思ってたけど、どうやら間に合わなかったようだ。

 

 魔方陣の奥からアルファ――によく似たエルフの美女とハゲたおっさんが現れた。

 

 …………。

 

 ……。

 

 ハゲ!?

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「ハゲ?」

 

 ヴァイオレットさんが呟いた。

 

「悪者が先回りして主人公を妨害するパターンかな?」

「もしくは後ろのエルフさんが主人公ってパターン?」

 

 サイと今後の展開を予測する。後ろのエルフさんはアルファにちょっと似ていたけど、骨格や歩き方、癖などがまるで違った。

 

「ほう……アウロラを連れ出したか」

 

 ハゲのおっさんがヴァイオレットさんを見て言った。

 

「知り合いのハゲ?」

「さあ? 見覚えのないハゲだけど……私の記憶は完全ではないから、どこかで会ったハゲなのかも……」

「たしかアルファたちが連れて行った悪いハゲだよ。司教を殺したとか何とか」

 

 僕らがコソコソと話していると、ハゲのおっさんが「ブハハハ」と下品な笑い声を上げた。

 

「残念だったな、その扉は貴様等には開けん!」

 

 サイが何とも言えない顔でハゲを見る。うん、サイならいつでも開けられるもんね……そういう顔にもなるよ。

 

「そこの小僧共も残念だったな!」

「言われてるぞ、シド」

「“共”って言ってるしサイも入ってるでしょ」

 

 呑気に会話する僕たちを無視して、ハゲのおっさんは続ける。

 

「どこの迷子か知らんが、魔女に誑かされたせいでお前たちは死ぬことになる。このオリヴィエに切り刻まれてな!」

 

 ハゲの命令でエルフの美人さんが前に出た。僕も腰の剣を引き抜いて前に出る。

 

「ダメよ、彼女は……!」

「わかってる、強いね」

「逃げないと……!」

「なんで?」

 

 ヴァイオレットさんはあのエルフさんを知ってるみたいだ。血相を変えて僕を引き留めようとする。サイは僕に順番を譲ってくれるようで静観していた。

 

「恨むなら私ではなくその魔女を恨むが良い。それと、愚かな自分をな……!」

 

 オリヴィエさんが聖剣そっくりの剣を構える。

 

 ピリピリとした緊張感が場を支配した。

 読み合いは無い。

 

 オリヴィエさんが仕掛けた。

 

 ――ドゴォォォン!!

 

 凄まじい衝撃音と土埃が上がった。

 

 吹き飛ばされたのだ。

 ()()()()()()()()

 

 えぇー……。

 

「譲ってくれるんじゃなかったの?」

 

 僕は目の前で片足を蹴り抜いた態勢のまま立っているサイに声をかけた。

 

「シドはもう楽しんだからいいじゃん」

 

 サイは態勢を崩さず顔だけをこちらに向けて、悪戯っぽく笑いながら言った。

 

 サイが言っているのは十中八九『女神の試練』のことだろう。

 まぁ確かに、「あいつはいったい何者なんだ!?」ってプレイはぶっつけ本番とはいえ完遂できた。聖域の破壊に関しては僕に任せてくれるらしいし、ここは譲ってあげるか。

 

 そう思って僕はサイに自分の剣を投げ渡した。

 サイが剣を受け取った瞬間、砂埃の中から飛び出したオリヴィエさんがサイに斬りかかった。

 

 ほんの一瞬だけ刃を交えたが、すぐにサイが後方へ跳んで衝撃を逃す。

 オリヴィエさんがすぐ追撃を仕掛けるが、サイは的確に聖剣に力を加えてその軌道を器用に逸らしていく。

 

 正直、受けの技術だけでいえばサイは僕より巧い。

 

 サイは「相手の攻撃を全て受けて圧倒的な実力差を示した方が『絶対的な強者』っぽいでしょ」と、受けの修行は前世の頃から特に力を入れていたらしい。

 スタイリッシュに敵を倒す『陰の実力者』とはまた違った魅力があっていいよね。

 

「オリヴィエ、何をしている! 早くその小僧を殺せぇ!!」

 

 ハゲのおっさんが怒声を上げた。戦況的には互角くらいだけど、速すぎて見えてないのかな?

 僕はそんなことを思いながらヴァイオレットさんの傍へ戻った。

 

「彼は……いったい何者なの……」

 

 ヴァイオレットさんは呆然と呟いた。目の前で繰り広げられる戦いを見て、信じられないといった表情を浮かべている。いいね、いい表情だ。サイが見たら絶対テンション上がるだろうな……あ、こっち見た。

 

 オリヴィエさんの横薙ぎの一閃を顔を逸らしながら避けるサイの目線は、しっかりとヴァイオレットさんに向けられていた。

 口元に笑みを浮かべたサイはオリヴィエさんの空いた胴に剣を叩き込んだが、オリヴィエさんはその一撃を驚異的な反射神経を駆使して聖剣で辛うじて防いだ。パキィン!と音を立ててサイの(僕の)剣が砕ける中、咄嗟に受けたことで衝撃を上手く受け止め切れなかったオリヴィエさんはハゲの方へ吹き飛ばされたけど、軽々とした身のこなしで綺麗に着地した。

 

「なんだその顔は……どうして貴様は笑っている!?」

「あぁ……ごめんごめん。ちょっと気分が良くてね」

 

 サイは笑顔のままだった。

 ヴァイオレットさんの表情が相当お気に召したらしい。いいな、羨ましい。

 

「立場を弁えない人間ほど不快なものはないな。貴様がまだ生きているのは、ただ運が良かっただけだッ!」

 

 ネルソンが手を払うと、オリヴィエさんが再び動いた。

 

 彼女はいとも簡単にサイの背後を取り、聖剣を振り下ろした。

 反撃も、防御も、回避も、全てが間に合わない速度……。

 

 ――ドゴォンッ!!!

 

 しかし、サイにとっては全てが遅すぎる。

 

『なッ……!?』

 

 ハゲのおっさんとヴァイオレットさんの驚愕の声が重なった。

 

 オリヴィエさんが振り下ろした聖剣は、サイの人差し指と中指によって受け止められていた。衝撃の大きさはサイが立っているすり鉢状に陥没した地面を見れば容易に想像できるだろう。その中心にサイは直立不動の姿勢のまま立っていた。

 

「ば、馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァア!!」

 

 ピクリとも動かない聖剣を見て、ハゲのおっさんが声を上げた。

 

「あ、ありえんッ! オリヴィエ、英雄オリヴィエだぞ!? 貴様のような小僧が敵う相手ではないッ!!」

「残念ながら、現実はいつだって非情なんだよワトソン君」

 

 サイが態勢をそのままに、顔だけをハゲのおっさんに向けて哂った。

 

 いいね、凄くかっこいい!

 やっぱり剣を指で受け止めるのはロマンだ!




原作にありそうでなかった素手vs剣のテンプレ
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