34話 成果にご褒美はつきものです
ブシン祭の季節がやってきた。
僕とシドは賑やかな王都の街を並んで歩く。
普段から人通りが多い通りだけど、今はより一層人でごった返しているから一緒にいても全然目立たないからと一緒に行動している。
この季節になると王都には世界中から様々な腕自慢たちが訪れる。人種も国籍も職業もバラバラだけど、皆ブシン祭を楽しむという目的だけが一致している。話したこともなければ、今後話すことは一生ない人々の中に、奇妙な一体感が生まれる。
お祭りとはそういうものだ。
そして僕とシドはこの空気が嫌いじゃない。
「「乗るしかない、このビッグウェーブに!」」
隣を歩いているシドも全く同じことを思ってるらしい。
王都を代表する一大イベントであるブシン祭。
僕はこのイベントを待ちわびていた。
なぜなら正体を隠してさえいれば好き勝手に『絶対的な強者』ムーヴを実行できる最高のイベントだからだ。
シヴァの姿は現在指名手配中なので、シヴァとしては大会に出場できない。まあそこは普段とは違うタイプの『絶対的な強者』ムーヴができるいい機会だと前向きに捉えよう。
変装に関してはガンマたちに相談するつもりだ。ガンマの天才的頭脳があれば何かいい考えが浮かぶだろうしね。
そんなこんなで、僕とシドはお互いの今回のムーヴを共有しながらミツゴシ商会王都支店に向かっているというわけだ。
ちなみにシドは実力を隠して大会に出場し、最初は観客に「オイオイオイ死ぬわアイツ」と思われていたのが段々「いや、アイツ強いぞ……!?」ってなり、そして最後は「アイツはいったい何者なんだ!?」ってなるアレをやるらしい。
そんなこんなで僕たちはお互いに協力できそうな展開はないかと話し合いながらウキウキ気分で歩き続けた。
◆◇◆◇◆
ミツゴシ商会に着いた僕たちは順番待ちをしている列のすぐ横をすり抜けてお店の中に入った。
シドは少しそわそわしながら僕の後ろを付いて来た。僕? 僕はめちゃくちゃ堂々としている。僕は定期的にチョコを貰いに来ているので慣れているのだ。むしろ列に並んでる人からの視線を感じながら歩くこの瞬間が一番好きまである。この優越感は一度味わったらやめられない。
ブシン祭の影響か繁忙期特有の慌ただしい店内だったが、ほぼ顔見知りになりつつある綺麗なお姉さん店員がいち早く僕たちに気付いて案内をしてくれた。
「いつも悪いね」
「とんでもございません。私共一同、ご来店を心より嬉しく思っております」
「サイって毎日来てるの?」
「最後に来たのは3日前くらいだね」
「正確には2日と19時間6分前でございます」
めっちゃ覚えられてる~。え、要警戒客リストとか載ってたりしないよね? もうちょっと控えようかな……チョコ全制覇までもう少しだったんだけどな……。
そんなこんなでいつもの別館に通された。
ちなみに、ガンマいわくここは『陰の間』と呼ばれる僕とシド専用のVIPルームみたいな場所らしい。至れり尽くせりで笑っちゃうね。
「失礼します」
サービスドリンクを飲んでしばらく待っているとガンマがやって来た。
「ご来店ありがとうございます、主さびゃッ!」
いつも通りにこけるガンマを横目に、出されたクッキーに手を付ける。
僕が来る度にこけているので、最近は簡単なスタンプカードのようなものを作ってみたのだが、そろそろ一枚目が埋まりそうだ。もし全部埋まったら何かご褒美でもあげてみようか……いや、この場合僕があげる側なのか?
閑話休題。
「ひとつ頼みがある」
「勿体ないお言葉。何なりとお申し付けください」
シドが足を組んで話を始めた。僕はその隣で邪魔にならないようクッキーを食べている。一昨日、次来たら貰おうと目を付けていた商品だったので嬉しい。
「正体を隠してブシン祭に出場したい」
「正体を? それは、何故でしょうか……?」
シドがアイコンタクトを送ってきたので、仕方ないから僕も参戦する。
「悪いが、まだ明かす訳にはいかん。許せ」
「っ! 差し出がましい真似を……申し訳ありません。ただ、主が望むがままに」
ガンマが跪き顔を伏せた。
雨の日に捨てられた子犬みたいな顔をしていたので、スタンプカードが埋まったら可能な範囲で何かしてあげようと心に決めた。なでなでとかでいいかな?
◆◇◆◇◆
ガンマが指示を出すと、様々な衣装や剣、仰々しい機械までもが次々と運び込まれてきた。
ガンマはクリームのようなものが入った容器を持って、僕たちに見せてきた。
「これは?」
「主様方の神の如き『陰の叡智』を参考に改良したスライムです。魔力を通すと、本物の肌と遜色ない質感に変わります」
「へぇ……」
凄いな。つまり誰でもイプシロンスライムってことか。
綺麗な女性店員さんが僕とシドの顔にそれぞれスライムを塗っていく。
「誰でも使えるってのはいいね。これもガンマが?」
「違う、私」
僕のすぐ隣から声がしたのでそちらに顔を向けると、白衣を着た今にも寝てしまいそうな茶髪のエルフが無表情で「ぶい。」とピースをしていた。無表情ではあるが心なしか誇らし気に見える。
「あぁ、イータか。久しぶり」
彼女の名前はイータ。7人目の『シャドウガーデン』メンバーにして、『七陰』の第七席、『天賦』のイータである。
彼女は僕とシドの話した『陰の叡智』の中でも、特に現代科学技術に心惹かれた天才科学者だ。昔から寝る間も惜しんで研究や開発を行っており、スライムボディスーツの改良もイータが率先して手伝ってくれた。
「マスター、ご褒美欲しい」
「ちょっと、イータ!」
「前回は僕だったから今回はサイだね」
「うん、いいよ。可能な範囲でね」
基本、イータの発明品が役に立った時には僕かシドがご褒美をあげるようにしている。前回のご褒美はシドがあげていたので今回は僕の番だ。
「解剖させて」
「だーめ」
可能な範囲って言ってるでしょうが。
イータは「発展に犠牲はつきもの」と嘯いて人体実験を平気で実行するマッドサイエンティストでもある。隙あれば僕とシドを解剖する機会を狙っている。血とか肉程度なら治るから別にいいんだけど、解剖まで行くとさすがの僕たちでも死にかねない。
「血ならいいよ」
「じゃあ遠慮なく」
「そのデカい注射器をしまいなさい」
「……わかった」
イータが抱えられるくらいの注射器を取り出したのでしまわせた。用意が良すぎるから最初から解剖は断られると踏んで次善の策を用意していたのだろう。やり方が悪徳セールスのそれだ。
一般的な大きさの注射器でイータに血を吸われていると、ガンマが申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ございません。イータにはきつく言っておきますので……」
「いいよいいよ。実際助かってるしね」
たかが血や肉で便利アイテムを開発してくれるなら僕たちからしても都合がいい。今回みたいに活用できる発明品もあるしね。
スライムを付け終わったのか、ガンマが鏡を見せてきた。
「このままじゃ、ただ顔に粘土を貼り付けただけって感じだ」
「ここからスライムを削り、塗装して別人に仕上げます」
シドの疑問にガンマが答えた。なるほど、そのための機械か。
「どのようなお顔に致しますか?」
ニューが僕とシドに色々な人の顔写真が載っている卒業アルバムみたいなカタログを見せてきた。
「なんか弱そうな感じで」
「僕はできるだけ人目を惹く容姿がいいな」
ガンマとニューは少し考えてから、それぞれに合った人物を挙げてくれた。
僕に紹介されたのはビモク・シューレイという青年。輝かんばかりの真っ白な頭髪と宝石のように輝く碧眼が特徴の神秘的で美しい青年だった。
「とある田舎村出身の平民で、住んでいた村が盗賊団の襲撃に遭い壊滅。生き残りはおろか、自給自足の排他的な村だったため村の存在そのものが人知れず歴史から姿を消しました。ですので身元が割れる心配はございません」
確かに、この容姿は一度見たら忘れられないだろうから身元がバレないで済むなら都合がいい。
そんな人どうやって見つけてきたのか興味本位で訊いてみると、偶然見つけた廃村に記録だけが残っていたとのこと。住居の荒廃具合から相当昔に壊滅したのは確かなようで、もし生き残りがいたとしても既に亡くなっているだろうとのことだ。
ならいっか、ということで僕はビモク君に決めた。
ちなみにシドは経歴から容姿まで何一つ特徴の無いジミナ・セーネン君に決めたようだ。
「では、始めます」
ガンマがそう言って機械のスイッチを入れた。
上から機械が下りてきて僕たちの顔を包み、『陰の間』にゴゴゴッと機械音が鳴り響く。
そしてさほど時間はかからず完了した。
女性定員さんが僕とシドをそれぞれ鏡で映してくれる。
そこには先ほどの写真で見たまんまのビモク君が映っていた。
「「おぉ!」」
僕とシドは同時に感嘆の声をあげ、ガンマはその様子を見て安心するように、そして嬉しそうに笑みを浮かべた。ちなみにイータは僕の血を抜き去った後、ほくほく顔で研究所へと戻って行った。
あまりの満足度に僕はスタンプが全部埋まったら無理のない範囲で、しかし少しだけ頑張れば無理できそうな範囲でガンマの要望を叶えてあげようと心に決めた。
【ビモク・シューレイ】
見た目のイメージは呪術廻戦の五条悟。