絶対的な強者になりたくて!   作:稲荷狐心

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36話 ビモク・シューレイは目立ちたがり

 ブシン祭で普段よりも人通りが多くなった王都の大通りを、僕とアンネローゼさんは共に歩いていた。

 

 シド――もといジミナと別れてからブシン祭への受付を済ませた後、僕がアンネローゼさんに王都の案内をお願いしたのだ。

 その理由は大きく分けて2つある。

 

 1つ目は設定上の都合だ。

 

 今の僕の容姿は人目を惹く、というか惹き過ぎる。一目見たら忘れられない容姿だからこそ、人知れないド田舎の村出身とした方が色々と都合がいいのだ。無名の超美形魔剣士が初出場のブシン祭で活躍したら色々と詮索されるだろうし、その対策も兼ねている。

 今の僕は排他的なド田舎村から初めて王都に出て来た超美形魔剣士という設定なのだ。

 

 2つ目の理由は目立つため。というか、正直こっちが本命である。

 

 実はジミナがアンネローゼさんに声をかけられる少し前から気配を消して出るタイミングを見計らっていたのだ。その時に聞こえてきた周囲の噂話から彼女がそこそこの有名人であることは分かっていた。

 言われてみれば確かに『女神の試練』で見たことあるような、ないような……といった感じだった。

 

 いくら見目が整っているからといって、今の僕は無名の魔剣士だ。シドのやろうとしてる「オイオイオイ死ぬわアイツ」から「アイツはいったい何者なんだ!?」ってなるプレイであれば徐々に注目度を上げていけばいい。しかしシドと違って僕は初っ端から注目されて、できるだけ大勢に自分の実力を魅せつけたいのだ。

 

 ブシン祭は予選トーナメントが3日間、その次の週に本戦が2日間行われる。注目されるのは本戦からであり、予選から観に来る観客は精々が賭けの下見をする人か熱心なファンのみ。

 

 折角何も気にせず暴れられる絶好の機会なのに、たった2日間しか注目されないなんて勿体ない。

 

 だから僕は今の内から顔を売って注目度を上げておき、予選の試合を観に来てくれるファンを増やそうと思ったのだ。その為の人目を惹くこの容姿である。

 

 実際、この作戦は今のところ上手くいっている。

 

 僕たちが歩いている周りを取り囲むようにして、周囲の人の目線が僕の容姿に注がれているのがよくわかる。アンネローゼさんが王都について色々と説明してくれているのを聞き流しながら周囲の人の会話に耳を傾けてみると、より作戦の成功を実感できた。

 

「あれってアンネローゼ・フシアナスじゃねぇか?」

「隣にいるのは……うおっ、スッゲェ美形。もしかして彼氏か?」

「ウホッ、イイ男♡」

「見て、あの人超かっこいい!」

「女魔剣士でも強ければ男は選び放題って話よ」

「私も強くなってあんな人と付き合ってみた~い」

 

 何か変なのも混じっていたけど概ね期待通りの反応だ。

 少し前を歩くアンネローゼさんはポーカーフェイスを心掛けているようだが、僅かに耳が赤くなっているのが見て取れる。どうやらアンネローゼさんはこんな感じに注目されるのは慣れていないようだ。

 

 まあ正直、色恋に繋げてくれるのは僕としても都合がいい。

 

 噂は噂でも色恋沙汰の噂というのは不祥事と同じくらい広がりやすい。僕たちを見た人が噂を広めて僕の姿を一目見ようと予選会場にまで来てくれれば万々歳だ。

 そういった意味ではアンネローゼさんが女性で良かったとも思う。

 

 意識を周囲からアンネローゼさんへと戻す。

 

 実力自体は周りの魔剣士と比べてちょっとだけ強い、かな? くらいの実力だが、根が素直で真面目なのか演技指導も無しに僕とシドのやり取りを百点満点のリアクションで装飾してくれたとってもいい人。まさに才能の塊と言ってもいい。

 

 シドもなかなかいい人材を引き当てたようだ。

 あんなに上手く「ある一部の人は本当の実力に気付いた……!?」みたいなプレイができるとは思わなかった。シドも僕もめちゃくちゃテンション上がって楽しかった。

 

 今回のブシン祭は彼女を積極的に巻き込むのもいいかもしれない。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 案内がひと段落した頃、いい時間になったので一緒にお昼を食べることになった。

 

「王都ならおすすめしたい場所があるわ」

 

 そう言って案内されたのは前世の某大手ハンバーガーチェーン店を思わせるお店だった。

 

「王都名物『まぐろなるど』よ。知ってたかしら?」

「うん、まあ、噂くらいならね」

 

 何を隠そうガンマ、というかミツゴシ商会が経営している代表的な飲食店の一つである。

 

 僕とシドはガンマに前世で食べていた料理を思いつく限り話した。二度と食べられないと思っていた料理も醬油や味噌を再現したガンマなら何とかしてくれるんじゃ? という淡い期待も込めて話したのだが、ガンマは見事いくつかの料理を再現してみせたのだ。

 その内のハンバーガーは食べ歩きにも向いていたため屋台販売を開始し、見事『王都の新名物』とまで言われるくらいにまで事業を拡大した、という訳だ。

 

 ちなみに、この話は僕も最近になって初めて聞いた。なんせ僕とシドから離れた後に起こった出来事だったため、完成した事自体は昔から知っていたが、そこまで大成功しているとは思ってもみなかった。

 さすがガンマ。略して『さすガンマ』と言ったところか。

 

 そんなことを思いながら入店すると当然のように店中の視線が僕の容姿に注目し、皆一様に動きを止めた。少し顔が良いくらいならすぐに話の話題になるが、ビモク君くらいの神秘的な美貌を持つ人であれば脳の処理に時間がかかるのだろう。大通りを歩いてる時もみんなこんな感じのリアクションだった。

 

 店中の視線を感じながらも何事も無かったかのように注文を済ませて空いている席に着いた。

 

 ここでポイントなのが、不特定多数に対してむやみやたらにファンサをしない、ということ。不特定多数に向けてのファンサというのは前世のような情報化社会だったからこそ有効なものだ。一人一台映像媒体を持っている現代日本だからこそ、カメラ目線をすればそれだけで『個人』に対してのファンサが可能だった。

 

 要は熱狂的なファンを増やすためには私だけを見てくれた、という『特別感』を与えることが大切なのだ。

 

「お、おおおおおおお待たせしました!!」

 

 しばらく待っていると、半分声を裏返しながらガチガチに緊張した女店員さんが出来上がった商品を持って来てくれた。

 ガタガタと商品を落としそうになりながらも、ゆっくりと着実にテーブルに商品を乗せてくれた。

 

 ――今だ、ここ!

 

「ハハッ、ありがとう」

「っぁヒュ……ッ!」

 

 店員さんに優しく微笑んでお礼を言うと、店員さんは顔を真っ赤にして後ろに倒れてしまった。

 

 フッ、計画通り……!

 

 テレビなどの映像記録媒体が無い異世界に於いて、不特定多数に向けてのファンサなんて効果が薄い。

 

 ならばどうするか?

 簡単だ。

 

 不特定多数の目がある場所で『個人』に向けてファンサをすればいい。

 

 こうすることによってファンサを受けた個人に『特別感』が生まれる。ここで重要なのは一緒に行動しているアンネローゼさんではなく、今初めて会って初めて会話した店員さんに向けてファンサをすることだ。

 

 アンネローゼさんに向けてファンサをした場合、親しい間柄だからこその『自然』だと思われる可能性が高い。対して初めて会った店員さんに向けた場合、それは『偶然』となるのだ。

 

 周りの人はその偶然を羨ましく思い、「偶然ならもしかしたら私にも起きるかも……!」と期待を膨らませる。だから周りはその偶然の確率を少しでも上げようとアピールをし出すのだ。アイドルのライブで『こっち見て!』という団扇を振っている人をイメージすると分かりやすいかもしれない。

 

 題して、『アピールしたいなら予選会場まで会いに来てね作戦』である。

 

「美しいってのは罪だね~。参っちゃうよ、ほんと」

「ニコニコしながら言っても説得力皆無ね……。まあ、美しいっていうのは否定しないけど……」

 

 ヘラヘラしながら対面に座るアンネローゼさんを見ると、僕からあからさまに視線を逸らした。

 薄々気付いていたけど、彼女は僕の目を見て話ができないらしい。耳が少し赤くなっていることから目が合ったらまともに話せないと察しているのかもしれない。

 

 それぞれ注文したバーガーを食べながら、僕はブシン祭について訊こうと思っていたことをアンネローゼさんに訊いてみることにした。

 

「そういえば、今回のブシン祭の注目選手って誰?」

「私も詳しくは知らないわ」

 

 そう前置きしてからアンネローゼさんは何人かの名前を挙げていった。その中にはアイリス王女やローズ生徒会長の名前もあった。所謂優勝候補というやつだそうだ。

 

 僕は挙げられた名前を全て記憶していく。注目選手との試合は当然注目度が他の試合とは段違いなので、勝ち方を事前にしっかり練っておかないと折角の見せ場が台無しになってしまうからだ。

 

「――……こんなところね」

「へぇー、思ったより退屈せずに済みそうだ」

 

 それを聞いてアンネローゼさんがピクリと反応し、真剣な顔を向けてきた。

 

「……ブシン祭には世界中から腕に覚えのある魔剣士達が集まってくる。そうやって油断していると足元をすくわれるわよ?」

 

 軽く見られたことにプライドを傷付けられたからか、忠告の意味も込めて視線に僅かに殺気を込めてきた。

 でも残念。シヴァを『君臨する絶対的な強者』とするなら、今の僕――ビモク・シューレイは『降臨した絶対的な強者』だ。自分以外の全てを暇潰しの玩具程度にしか認識しておらず、格下からの殺気も『猫が少しおいたをした』程度にしか認識しない。

 

 そして、そんな『おいた』には当然『しつけ』が必要になってくる。

 

「大丈夫。僕、最強だから」

「ッッ!!」

 

 ほんの一瞬、0.1秒にも満たない刹那の間、この場にいる全員を容易に皆殺しにできるほどの殺気をぶつけてやると、アンネローゼさんはガタッ! と大きな音を立てて椅子から立ち上がり、剣の柄に手を掛けた。

 

 店中の視線が何事かとアンネローゼさんに集中するが、今の彼女の全神経は僕の一挙手一投足に注がれているので周りの様子に気付いてすらいない。冷や汗がダラダラと流れるのも気にせず、視線を僕に向けたまま荒くなった息をフーッ、フーッと必死に整えている。手足も震えていて、鎧がガチャガチャと音を立てていた。

 

 イイ! やっぱり彼女には才能がある! 100点どころか120点の最高のリアクションだ!

 

「じゃ、僕はそろそろ戻るよ。案内してくれてありがとね」

 

 僕は内心を表情に出さないよう必死に抑え込みながら、何事も無かったかのように立ち上がって店を出た。

 アンネローゼさんは僕がお店を出ても変わらず、僕の姿が完全に見えなくなるまで臨戦態勢を解くことはなかった。

 

 ちょっとビビらせ過ぎてしまった感は否めないけど、ジミナの異常性に唯一気付いた彼女には丁度良かったとも言える。僕の強さをアピールしておけば、「あれだけの殺気を放てるビモクが気にかけていたジミナという青年は、一体どれほどの力を持っているのだろうか……?」という風にジミナにより一層注目するはずだ。

 

 僕は圧倒的実力をアピールできて嬉しい。

 シドは一部の実力者に、より一層注目されて嬉しい。

 

 まさにWin-Win。我ながらいい仕事をしたと思う。

 

 僕は自分のシゴデキ具合に満足しながらルンルン気分で帰路についた。




規格外のバカ×2に目を付けられたアンネローゼさんに敬礼。
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