『シャドウガーデン』設立から3年ぐらい経った。
僕とシド、アルファは13歳に、僕の姉セイ・キョーシャとシドの姉クレア・カゲノーは15歳になった。貴族は15歳になると3年間王都の学校に通うことになるのだ。
だから今僕の膝の上に顔を埋めて不貞腐れている我が家期待の星は、明日になれば王都に旅立たないといけないということだ。
「……行きたくない」
「姉さん、学校ではちゃんとしないとダメだよ? 時期当主なんだから」
「……サイがいないと何もできない」
姉さんがグリグリと頭を擦り付けてくるので、頭を撫でてやる。
姉さんの灰色のくせ毛の髪を撫でていると前世で飼っていた犬を思い出すから、僕は割と気に入っていたりする。
この世界は魔力を使えば女でも強いから、女が家を継ぐことも割とよくあるそうだ。だから僕は家のことは姉に任せて思う存分『絶対的な強者』を目指し続けるつもりだ。
姉さんは基本だらしがない。
放っておけば寝ぐせのまま一日を過ごすし、寝間着のまま外に出る。ご飯も食べずに一日中寝て過ごして医者にかかったことだってある。
姉さんは奇行がよく目立つ。
たまに領内の路上ゴミ箱を巡回するし、領内のホームレスの人たちと仲良くなって定期的にボードゲーム大会を開いている。ちなみに参加すると食料や衣類が貰える。
そんな傍若無人を体現したかのような姉さんだが、いわゆる天才というやつだ。
座学はよくサボるのに毎度高得点を取って家庭教師泣かせだし、剣術も同年代と比べて特出している。礼儀作法はやろうと思えばやれる
姉さんは目が良いから一度見ればある程度は相手の動きを模倣できてしまう。
そのため僕は姉さんの近くで訓練をするときは、力を出し過ぎないように心掛けている。だけど咄嗟に出てしまう受け流し技術はとうに模倣されてしまっていた。僕はシドのように完璧なモブを装うことはできないのだ。
「王都はキョーシャ領なんて比べ物にならないくらい発展してるんだろうなー」
「…………」
「ってことは、ゴミ箱の数もそれはもう数えきれないくらいいっぱいあるんだろうなー」
「……(ピクッ)」
「姉さんが探してるって言っていた金のゴミ箱なんかもあったり……」
「見つけたら絶対持って帰ってくるから待っててね!」
姉さんはゴミ箱にあり得ないほどの執着を見せている。
先ほどまで嫌々だった王都行きが一瞬で反転した。
金色の瞳をこれでもかと輝かせて今にも飛び出して行きそうだ。
そして始まった姉さんのいつものゴミ箱談義を聞き流しながら、ある意味姉さんは僕とシドの同類なのではないかと感じていた。
◆◇◆◇◆
「クレア様が攫われました」
「…………そうか」
姉さんたちが王都に出発する日、シドの姉のクレアが行方不明になったらしい。
報告に来てくれたのはガンマ――藍色の髪に聡明な顔立ちと、髪と同色の理知的な瞳をした美少女エルフだ。
この3年間でアルファが捨て猫拾うみたいなノリで<悪魔憑き>を連れてくるから『シャドウガーデン』のメンバーは今も増え続けている。
ガンマは3人目の『シャドウガーデン』メンバーだ。
『シャドウガーデン』内で一番頭が良く、僕とシドが前世の知識を『陰の叡智』とか言って話してあげていたら、ゼロから醤油や味噌を作り出してしまうくらい頭がいい。
懐かしき日本の味に思わず抱きしめてしまったね。
ただし天は二物を与えずとも言うべきか、並外れた知能の代わりに運動能力を全て犠牲にしてしまったようで、『シャドウガーデン』内で最も最弱の存在だ。
どうにか改善できないかと、シドと一緒に頭を悩ませたのは懐かしき思い出だ。
「他のみんなは?」
「アルファ様はクレア様の痕跡を探っています。ベータはシャドウ様にご報告を。他のメンバーは救出準備に取り掛かっています」
現在『シャドウガーデン』は僕とシド(シャドウ)を除いて7人。
その子たちを第一席~第七席までの『七陰』と名付けて、シャドウの下に付く幹部として扱っている。ちなみに僕は『番外位』と呼ばれる最高幹部で、位置づけとしてはシャドウと同等かちょい下くらい。懐刀感あって気に入ってる。
「クレアはまだ生きてる?」
「おそらく。そして救出には万全を期すため、主さまやシヴァ様のお力をお貸しいただければと」
「ほぅ……」
アルファたちは正直言ってもう相当強い。ガンマ以外。
そんなアルファたちが助力を請うってことは、なかなかの実力者がいるってことか? ちょっと楽しみになってきたかも。
僕は『絶対的な強者』ムーヴに切り替える。
「少しは愉しめそうだな……」
顎に手をやって不敵に嗤い、魔力をオーラのように放出して大気を震わせる。
特に意味はないが、昂ってる感を演出するエフェクトだ。
ガンマも驚いて「さすが……」とか呟いてくれるし気分がいい。
それに最近はアルファやベータがかなり設定を煮詰めてきているから、やっているこっちも盛り上がるんだ。
「犯人はやはり『ディアボロス教団』の者です。それも幹部クラスで間違いありません」
「何故クレアを?」
「クレア様に英雄の子孫の疑いを掛けているのかと」
「クハッ、せっかちなことだな」
こんな感じ。
果ては資料とかも集めてきて「やはりあの言葉に間違いはなかった……」とか「この石碑にはディアボロス教団の痕跡が……」とか言っていた。資料には古代文字が書かれていたけど、僕は読めなかった。
たぶんシドも読めてないけど「やはりか……」とか意味深なことを呟いていたので「奴等も随分と詰めが甘い」ととりあえず乗っておいた。
「こちらの資料をご覧ください。我々が調査した敵のアジトと見られる……」
「良い良い。恐らくシャドウの奴がもう既に見つけておるだろう」
「えっ!? ま、まさかそんな……!」
「さすがでございます、シヴァ様!」
ガンマが膨大な資料を並べようとしたのを事前に止めた。
だって資料の半分以上古代文字だし、わけわからん数字やら何やら説明されてもこちらは何も言えないのだ。
それにこういう資料を使っての頭脳戦は僕のやりたい『絶対的な強者』ムーヴとは正反対のプレイだ。
僕がやりたいのは『蹂躙』。
作戦など不要の圧倒的力で、敵の思惑の悉くを片手間に蹂躙する。そういうプレイがしたいのだ。
室内で黙々と資料に目を通す『絶対的な強者』なんていないのだ。
とりあえずでシャドウに丸投げしといたけど、まぁなんとかなるだろ。
とか思っていたら、僕の部屋に新たな訪問者が現れた。
「……イプシロンか」
「はい、シヴァ様! 追加のご報告があって参りました!」
「なっ! イプシロン、離れなさい!」
現れたのは5人目の『シャドウガーデン』のメンバーであるイプシロン――透き通った湖のような髪をツインテールにし、それより少し深い色のした瞳を持った、これまた美少女エルフだ。
彼女は『シャドウガーデン』の中で僕の次に魔力の扱いが上手く、少し自尊心が高い性格を気に入った僕がよく構ってあげていたら、非常によく懐いてくれた子だ。
会う度に腕を絡ませてくるのでよく他のメンバーと喧嘩している。
今回もガンマと喧嘩になりそうだったので「良い」とピシャリと言い放つ。
すると先ほどまでの言い合いが嘘かのように一瞬で部屋が静まり返った。こういう一言だけで場がシンってなるの絶対者っぽくて好き。
そして未だ腕に抱き着いているイプシロンに視線をやる……いつまで抱き着いてるの、この子?
ガンマがイプシロンを睨み続けているのをまるで意に介さず、それどころかドヤ顔で見つめ返してから報告を始めた。
「シヴァ様が仰られた通り、主さまが敵アジトの場所を突き止めました」
「……ほぅ、やはりな」
すごいなー、主さま。尊敬しちゃうわ。
というのは冗談で、たぶん最初から敵アジトの場所は判明していて、イプシロンがアドリブで話を合わせてくれたのだろう。優秀な演者に育ってくれて僕は嬉しいぞ!
「さて、肩慣らしくらいにはなってほしいものだな」
それにしてもクレアはどこに行ったのだろうか? 大方、弟と離れたくなくて家出でもしているのだろう。引くほどブラコンだし。
うちの扱いやすいブラコンを少しは見習ってほしいものだ。
その家出理由の濡れ衣を着せられる盗賊団……哀れだね。
アルファたちにかかれば、ただの盗賊も誘拐犯兼教団に早変わりなのだ。
さて、今回はどんな『絶対的な強者』プレイをしようかな。
僕はガンマたちのキラキラした尊敬の眼差しを感じながら、今夜の盗賊狩りに思いを馳せた。
シドの認識
→クレアが盗賊団に攫われてしまった。
サイの認識
→クレアは誘拐されておらずただ家出しただけ。丁度いい盗賊団もいたから雰囲気付けとして濡れ衣を着せた。
※姉のイメージは某銀河打者ちゃんです。あくまで別人なので、予めご了承ください。