「で、僕の忠告をガン無視して喧嘩して、見事に嫌われて収入源を失ったと」
「喧嘩じゃない、あれは事故だ。仕方なかったんだ」
「昨日絵画追加したんでしょ? 生活費大丈夫なの?」
「困ったときはヒョロとジャガから巻き上げるさ」
僕とシドは珍しく一緒に登校している。たまにこうして2人で登校することもあるが、頻繁にはない。
ちなみにシドのモブ友達であるヒョロとジャガはいない。今朝は用事があって一足先に行ってしまったらしい。
昨晩はシドが闇市に『陰の実力者』コレクションを買い付けに行っていて恒例の情報共有兼鍛錬ができなかったので、登校中に話を聞いていた。
話によれば、昨日の帰宅中アレクシアの地雷を見事踏み抜き、喧嘩別れのようになってしまったそうだ。あれだけ忠告したのに意味なかったみたいだ。
この調子じゃ今日の内に別れ話を切り出されるだろう。
偽装恋人は別れるというのか? 契約解消? ま、いっか。
そんなこんなで他愛のない会話をしていると、学園の前に騎士団が数名たむろしているのを見つけた。
その内の一人、金髪イケメンが僕たちに気付いて近づいて来た。
「少しいいかな」
そう、JKに結婚を迫っている我らがゼノン先生である。
「僕たちに何か?」
「ああ、もう聞いているかもしれないが、アレクシア王女が昨日から寮に戻っていない」
もちろん初耳である。
でもきっと家出だ。喧嘩した相手と次の日顔を合わせづらいというのはよく聞く話だ。ましてや偽とはいえシドは恋人だ。一人の時間が必要なときだってある。
「今朝から捜索したところ、これが見つかった」
ゼノン先生が取り出したのは片方だけのブーツ。アレクシアの物だ。
「付近には争った形跡もある。騎士団は誘拐事件と見て捜査を始めた」
『そんなっ……!』
僕とシドは悲痛な叫びを上げた。
現場に残された片方だけの靴、偽恋人という関係、イケメン婚約者との望まぬ結婚……つまりそういうことか!
僕は色々察した。
「容疑者を絞り込んでいく中で最後にアレクシア王女と接触した人物が浮かび上がった」
そう言ってシドを見据えるゼノン先生。このままではまずい……!
「騎士団が君に話を聞きたいそうだ。協力してくれるね?」
「ま、待ってください! シドはそんなことするような人じゃありません!」
ゼノン先生に向かって僕は声を上げた。
このままではシドは連れて行かれてアレクシアを探しに行けなくなってしまう。
間違いない、アレクシアはシドに惚れてしまったのだ。
偽の恋人関係を続けていくうちに惹かれ始め、気付けば偽物の関係に満足できなくなっていったアレクシア。そんな中で起こった昨日の喧嘩別れ。アレクシアは今の関係が壊れることを恐れた。
だからこそ誘拐を装い行方不明になることで、シドの心の関心を引こうとしたのだろう。
アレクシアの狙いはシドが自分のことが心配で頭から離れなくなり、自分という存在の大切さを自覚すること。所謂『失ってからわかる大切さ』を再現しようとしているのだろう。
僕はシドと違ってこんな感じの展開は網羅している。
前世で青春を学ぶため少女漫画を片っ端から読み漁った僕に死角はない。
シドがアレクシアと本当の恋人関係になれば、師の言った「喰らえ!」の意味もわかるかもしれない。
シドには悪いが、僕がもっと強くなるためだ。
裏でバレないように付き合えば表ではギリモブとしていられるし、悪いがそれで納得してくれ。
「君は確か、サイ・キョーシャくんだったね。悪いが抵抗したら拘束しなければいけなくなる。わかってくれるね?」
優しく笑いかけてくるゼノン。
あ”ぁ”? コイツ、今僕を諭したのか……? こっちが下手に出てりゃ舐めたモノ言いしやがって……! てめぇなんざ魔力なしでもいつでも殺せんだぞ、クソ雑魚がッ……!
「サイ、大丈夫だよ。無実を証明して帰ってくるからさ」
目の前の似非イケメンをどうやってバレずに殺そうか悩んでいると、シドが僕の肩に手を置いて前に出た。どうやらシドは僕の僅かに漏れた殺気に気が付いたのだろう。
ミスったな……自分より弱い奴に舐められるとつい我慢できなくなってしまうのは僕の悪いクセだ。気を付けよう。
シドがゼノンたち騎士団に連れて行かれるのを眺めながら、僕はアレクシアとシドをくっつけるためのルートプランを練り始めていた。
◆◇◆◇◆
そんなこんなで特に何事もなく日々は過ぎていった。
ある女子生徒が毎日のように騎士団に乗り込もうとするのを生徒会長が取り押えたり、ある女子生徒が行方不明になって「王女に次いで新たな犠牲者か!?」と噂されたが、翌日には寮内のゴミ箱の中で寝ているところを発見されたりと……本当に、特に何事もなく過ぎていった。
そして、アレクシアが行方不明のまま迎えた5日目の夕方。
授業が終わって部屋に戻ると、学生服に身を包んだ1人の少女がいた。
「久しぶり、イプシロン。それ似合ってるね」
「お久しぶりです、シヴァ様! お褒めいただき光栄です!」
魔剣士学園の制服をきっちり着こなし、いつものツインテールをおさげツインの三つ編みにしたイプシロンがいた。
全体的に少し芋っぽい格好だが、元の素材の良さも相まって前世でいうお忍びアイドルみたいな雰囲気を醸し出している。伊達メガネも掛けているので、より一層そう感じる。
イプシロンからまぐろなるどバーガーを受け取る。
学生の外出禁止令が出て買いに行けなかったから嬉しい。
そのまま左腕に抱き着くように身を寄せてくるイプシロン。
前会ったときよりさらに成長したスライムボディを左腕に感じながら、ベッドに腰掛けてバーガーにかぶりつく。
「そっちは最近どう?」
「教団の調査は順調です。<悪魔憑き>の治療ができるメンバーも増えてきたので、組織の拡大と強化も問題なく進めています」
彼女たちは普段普通に生活してるんだろうけど、たまに僕とシドの設定に付き合いに来てくれる。
最近は6人目の『七陰』のゼータが僕の補助をしてくれていたけど、ローテが回ったんだろう。
ローテが回る頻度は彼女たちの仕事の都合で変化するらしく、ほとんどランダムだ。忙しくても付き合ってくれる優しさに謝謝。
「王女誘拐の犯人は教団の者です。目的は濃度の高い『英雄の血』かと」
「さすがに命まではとらないでしょ」
「はい、その可能性が高いです。なので作戦は王女救出を主目的として現在計画中です」
「そこら辺の段取りは任せるよ」
「はい、お任せください!」
自信満々に言う彼女の頭を撫でてやる。
こういう舞台づくりは僕やシドより彼女たちの方が上手く、適当に任せておけば勝手にいい感じに整えてくれるのだ。
ちなみに、僕は今回の騒動はアレクシアのかまってちゃんが原因だと4日くらい前まで本気で思っていた。
ルートプランを練るうえでアレクシアの居場所がわからないでは話にならなかったので、とりあえずアレクシアを見つけようと僕は魔力探知を王都全体まで広げた。
大方、どっかの宿屋にでも引き籠ってるだろうと思っていたら、あら不思議。なんとアレクシアは地下で拘束されていたのだ。いや~、最初見つけた時はミルク吹いたよね。
それからしばらくアレクシアの様子を観察して状況を察した。
これ、監禁プレイじゃん、と。
毎日毎日、拘束されているアレクシアと接触する見知らぬ魔力を持つ男。たぶんこいつがアレクシアのストーカーだ。アレクシアの腕を握ったり何かを食べさせたりしてたから間違いない。
そしてアレクシアの近くにはもう1人、女の魔力反応があった。こっちはたぶんストーカー男の元恋人か何かだろう。男がアレクシアに近づくたび魔力が乱れていたので、嫉妬しているのかも。
ストーキングからの拉致監禁プレイだけでは飽きたらず、昔の女に新しい女(アレクシア)を世話している様子を見せつけるとは、度し難い性癖の持ち主である。
そんな感じで全ての真相を看破した僕は今回、愛のゲームマスターから『絶対的な強者』にシフトチェンジすることを決めたのだった。
とりあえずバーガーも食べ終わったので、イプシロンの頭から手を離して何やら呆けている隙に腕を振り解いて立ち上がった。
「……ハッ! シヴァ様、どちらへ行かれるのですか?」
「シドのところにちょっとね。こっちも色々詰めときたくてさ」
「っ! なるほど、行ってらっしゃいませ。準備は全てこちらにお任せください」
「うん、頼んだよ」
僕はイプシロンに見送られながらシドの寮に向かった。
◆◇◆◇◆
「やっほー誘拐犯、元気ー?」
「んー、中世サイコーって感じ」
シドの部屋に窓から侵入したら、シドは部屋の模様替えをしていた。
「何してるの?」
「明日アルファたちが作戦を伝えに来るから、その時『陰の実力者』っぽいことするための前準備。サイには明日伝えようと思ったけど、丁度いいし手伝ってよ」
「いいよ、楽しそう」
僕たちはああでもないこうでもないと、シドの『陰の実力者』コレクションをいい感じに配置していく。途中、つい最近手に入れたというヴィンテージワインを自慢された。今度こっそり呑んでやろうと僕は心に決めた。
飾りつけをしながら、今度の作戦での立ち回りを話し合う。
「てなわけでアレクシアと主犯は地下にいるけど、シドそっち行くでしょ?」
「もちろん。囚われの王女とかメインシナリオ度高すぎるからね。進行シナリオに陰ながら介入する『陰の実力者』……楽しみだなー」
「僕は王国最強さんにマウント取ってくるよ。王都に突如として現れた、王国最強の魔剣士でもまるで歯が立たない謎の『絶対的な強者』。どんな顔をするのか愉しみだ」
「王国最強かー。でも、この世界のって頭文字が付くからあんまり期待できないなー」
「そんなとき役立つのが僕の上位者ムーヴだよ。戦いながら「ここが甘いぞ?」とか「そうだ、良いぞ」とか片手間に稽古つける感じで僕たち好みに誘導する」
「へぇー、いいね。『陰の実力者』は「関わるな……」とか言って圧倒的な後ろ姿見せつけるくらいしかできないから、サイがやってくれるなら少しは楽しめるかも」
「直近の舞台だとブシン祭になるかな? でも、シドも出るなら間に合う自信がない」
「やりたいこともあるし出るつもりだよ。あ、それならさ……」
「でもそうしたら……」
そうして王都デビュー戦前日の夜は更けていった。