忘れもしませぬ、あれは拙僧がデビルハンターだったころ… 作:S・DOMAN
劇場版チェンソーマン面白かったねー
なんならドラゴンの霊圧消えてたのが一番面白かったの
「ヒイィィィィィ!!こ、こんなことになるなんて聞いてねえぞ!?」
「おい!ワタシを置いていくんじゃね―――ぎゃっ」
真昼の大通りを巨大生物が駆ける。
字面だけを見れば怪獣大バトルのように思えるが、実際に行われているのは凄惨極まるスプラッタショーだ。
今しがた四分割された怪生物は最近巷を騒がせていた悪魔だったものである。
『悪魔』とは、読んで字のごとく悪魔である。
とは言えファンタジーやメルヘンなものではなく現実に生きている生命体だ。
ガッツリ戦いもするし血だって流れている。飯を食って糞もする。
そんな悪魔は各々一つの『概念』を有しており、その概念が恐れられれば恐れられるほどより強力になるという性質をもつ。
ゆえに、たとえば『カエルの悪魔』はとても弱いだろうし、万一『死の悪魔』なんていうものが存在すれば、その悪魔こそ最強の存在になるだろうか。
―――だが、今まさに命を散らそうとしている哀れな悪魔は、そんなビッグネームではない。
「なにゆえ的確に食事の悪魔なぞがいるのでしょうね…」
「アシヤ!!ヤバい方が逃げたぞ!」
「ン?ああ。あれならもう殺しておりますぞー。そうれお収め下され!」
そう言い、アシヤと呼ばれた男が指でピッと空を断ち切るような仕草を取ると、路肩に停められている車や標識を破壊しながら逃亡していった悪魔もまた、紫色の血潮と空気を汚す緑粉を、ありったけ撒きながら地に伏せた。
依頼を終えたアシヤが血に塗れたスーツ姿の壮年男性……公安退魔課に所属する
普段から荒事に慣れているのか、衣服に付着しているのはどれも返り血ばかりだ。
「さてさて山田殿。人払いも済んでおるようなので下世話な話をば……この度の報酬についてですが…」
「おう。ちゃんと三分の一はアンタの取り分だ。袋はそっちで用意してくれよ」
「ンンン勿論ですとも!それでは拙僧はこれで。また何かご入用でしたら!どんな怪異も一発除霊!デビルハンターDOMAN!まで、ご連絡あれ!」
去り際にサラッと宣伝をかましつつ、死んだ悪魔の死骸を袋に詰めて走り去っていく大男を、後から来たバディの男が唖然とした様子で見ていた。
天下の往来をあの恰好で、かつあの速度で、あれだけ
「お、山くん生きてたかい」
「あの人何なんです?」
「うちで臨時で雇ったデビルハンターだよ。メッチャ強い。初めて見ると驚くよねあの人、背ぇ超高いしねー」
いやあ気になるところもっと色々あるでしょ、髪長すぎなところとか鈴がうるさいところとか服のサイズ合ってなくてパッツパツでミチィッッッ……してるところとか、と言いたげな視線を向ける後輩を置いて、山田は来た道を戻っていった。
「ああっ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ先輩!そこら辺の喫茶で休憩してから―――」
「バカ言え。カビの悪魔の後処理に清掃依頼に書類作成に……それ以前にまだ四体残ってるぞ」
「ええーーっ!?今のやつで最後じゃないんですか!?」
「俺たちがこいつらにかまってる間に新しく出現したの。最近多いんだよー」
「そんなぁぁぁ…」
「まあ今のが一番手強い奴らだったんだしね。後のはオマケみたいなもん。気楽にいこうよ」
今この瞬間、『世界で最も不人気な職業』のアンケートを取れば、一位はデビルハンターだろう。
強盗事件よりも多く発生している悪魔由来の殺人、被害から、悪魔への脅威や対応の要求が叫ばれる昨今、デビルハンターという職業は十年前と比べてより華々しく、より大々的に日の目が当たるようになった。
深刻な悪魔被害に悩まされている国の中には徴兵制を再開するものもあり、悪魔への恐怖は年々増している。
そんな需要の増大、供給の貧弱さから、デビルハンター業はだいぶ―――金になる。
うっかりミスで命を落としてしまう危険性に目を瞑れば、自営業のデビルハンターでも十分贅沢な暮らしができるくらいの稼ぎが見込めるのだ。
……しかし、そのような金につられて入ってきたマヌケはたいてい三日もしないうちに死んでしまう。
そのため……一年、半年以上デビルハンターで
「おーうドーマーン帰ったぜー」
「ンンン遅いですぞ!まったくどこで道草を食っておったのです。簡単な案件ばかりにしているでしょう!とっとと終わらせて帰って来なさいと常日頃から申しているのに!時間は守らね―――」
「ちぇっ。へーへー分かってるよ」
「夕餉抜き」
「………………すまねえ」
「あ、今日はかれえらいすですぞ」
「ヤッターーー!!」『ワンッ!』
「唐揚げも乗せていいですぞ」
「ヤッターーー!!!!」『ワンッッ!!』
「早う手を洗ってきてくだされデンジ殿ー」
「おう!!!!」『アオーン!!!!』
すっかり日の落ちてしまった午後六時ごろ、事務所に併設されている自宅にバタバタと騒々しい音が満ちている。
廊下の奥へと消えていったボサボサ金髪な赤眼の少年は、名をデンジと言う。
齢十歳*1という若さで悪魔と戦う、(おそらくは)史上最年少のデビルハンターだ。
彼の付き合いはもう三年になる。
蘆屋はかつて、半ば慈善事業と勘違いされるくらいの薄給でデビルハンター業を行っていた時期がある。
その際、ある暴力団からの緊急の依頼を受け、クッソ激烈に強かった悪魔の討伐依頼を達成した帰り。
アフリカの孤児ぐらいやつれていた彼にたまたま遭遇し、報酬代わりに―――むしろこちらから金を払って―――もらい受けたのだ。
当時まだ小学校低学年の年齢だったデンジにデビルハンターとしての技術や、いくつかの特別な経験を積ませたのは、蘆屋である。
「フハハハハ!他愛無し他愛無し他愛無しいいいィィィ!!!!拙僧ほどの料理人ともなれば出来立てのカレーを二日目のカレーに変貌させることなど!赤子の手をひねるようなものォォォ!!」
「洗った洗った!!早く食わせろ!!」『ワンッ!』
「ンンン素早い!!であれば早速いただきましょうぞ!!」
漫画やアニメの中でしか見たことがないようなエベレストと見まごうほどの山盛りカレーが、倍速再生しているかのごとき速度でもりもりと消えていく。
彼のペットのポチタと賑やかに食べるのとは対照的に、蘆屋は黙々と食べ続ける。
「うまッ!!カレーってやっぱウメェー!!」
「デンジ殿。今日のかれえらいすは肉が多めですからな。ちゃんとさらだも食べなされ」
「ん?食うぜ……なんだドーマン、これは俺んだぞ」
「いや拙僧デンジ殿の倍は食ろうておりますからな??」
「トマトうめー」
「聞いてませんな…」
「おっ隙あり。この肉も俺んなー」
「お止めなされ。デンジ殿」
つい先ほどまで、蘆屋の端整な顔に浮かべられていた笑みは、まるで幻のように消えていた。
細く閉じられた目に穏やかなほほえみを湛えたアルカイックスマイル―――ガチギレモードだ。
哀れなデンジ少年。彼は知らず知らずのうちに、どこかに埋まっていた蘆屋の地雷を踏みぬいてしまっていた。
「あ―――す、すまねえドーマン。マジでゴメン……だから…」
「あとで尻叩き百回です」
「ヤダーーー!!ヤダヤダヤダヤダヤダーーー!!」
「はぁ……では二十回で」
「え、マジ?やりぃ!」
「やはり百回で」
「うげェーーー……結局どっちなんだよ?」
「でしたらそうですねぇ。尻叩き二十回と尻叩き百回、どちらが何倍大きいですか?」
「んえ?むー……五倍じゃね?あー……百回のほうがデカい」
「では関係を割合で表すと?」
「一対五だろ?なんだよ急に」
「………………ハア。ちゃんと今週の分も習得しておりますな。であれば今回は見逃しまする。次こそホントに叩きますぞ?」
「マジ?今度はホントのホントか?ラッキー!」
さっきまでの陰鬱な気分を吹き飛ばすような快活さで、残ったカレーを食べ進めていくデンジを、六つの眼が静かに捉えていた。
デンジが彼のペットと夢の中へ旅立った後。
深夜二時ごろ、蘆屋は一人で事務所の外に出ていた。日課となっている、周囲に張り巡らされた結界の点検を行うためである。
入り組んだ路地の奥の奥、という非常に不便な立地に立つ事務所は、蘆屋道満という
潤沢な資金*2を用いて買い占められた街の一区画は、その全てが高度に異界化され、虫の一匹も通さない。魔術工房としても扱うことができるうえ、内部には大量の式神が蠢いている。
デンジや道満が主に使用している事務所はさらにトンでもないことになっている。
大量の式神はもちろんのこと、デンジとそのペットを守るために一層強力な結界が張られている。
というか『怪人“蘆屋道満”が何年も住み続けた』というだけでも、神代の魔力が染みついた、常人には耐えがたい空間に変貌してしまう。*3
「ム、やはり結界が綻んでいる……何者でしょう?この世界に拙僧の術式に干渉できるほどの技術を持った魔術師はいないはず…」
「十年、いえ。あと五年ほどあれば我が悲願も成される。拙僧には時間が足りぬのだ。何者かは知らぬが、拙僧の道を遮るのならば容赦はしませんぞ」
「ああ!ああ!!その時が待ち遠しいですなあデンジ殿!!」
「ポチタ殿を!あの珍妙不可思議なる悪魔を!必ずや取り込んでみせましょう!」