忘れもしませぬ、あれは拙僧がデビルハンターだったころ…   作:S・DOMAN

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やっとこさ書けたナリ


第二話

 

 

 

 仄かな光源によって照らされた奈落の悪魔の姿を形容するなら、一番近い生物は……ペガサス?……いや。これが馬なら、やけに胴長で角張った馬もいたものだ。

 見たままの姿を述べるなら、蘆屋の三倍はある背丈をした、昆虫と馬の間の子のような姿と言うべきか?五、六本目の後ろ脚はバッタにも似ているし、外骨格や尻尾は大小さまざまな、寛骨のような形状の肉でもって構成されている。

 

 しかし全くもって予想外だ。予想外の遭遇に脂汗が止まらない。

 奈落の悪魔は文句無しのビッグネームであり、同じく根源的恐怖である落下の悪魔や闇の悪魔とも親しい。人ヅテ―――悪魔ヅテに聞くところによれば、二千年ほど前は主従の関係でもあったとか、今は力量が逆転したそうだが、それでも良好な関係を続けているとかなんとか。元上司と元部下が退職後も親しい関係を続けると表現すれば、人間であればなんとも心温まる話ではあるが…

 

 …いかん。思考がそれた。ひとまずここは逃走を―――

 

 

 なにゆえ きさまは たつのか ぶれいぞ

 

「いやこれは失敬。菓子折りの一つでも持ってくるべきで―――おっと」

 

 

 瞬間、両脚が消失。超常現象によって消失したのではない。薙ぎ払うように振り抜かれた尻尾によって、物理的に消し飛ばされたのだ。

 埒外の威力で振るわれた尾は、平安の大妖怪たる蘆屋道満をいとも容易く這いつくばらせた。

 

 

「ぐッ、フ、フフ、ンフフフフフ……そうですな。御身は落下の悪魔殿と懇意にされているだけあって、礼儀作法に大変お詳しい御方なれば。拙僧に地を舐めさせるなんぞ赤子の手をひねるようなもの!」

 

 わらえぬ つまらぬ つかえぬ どうけめ

 

「ンンン―――ッ、ちゃ、番はよい、と、ォ、ォオオオオ!?」

 

 くどいわ

 

 

 そうして這いつくばる蘆屋の背に、奈落の悪魔は容赦なく尾を突き立てる。腹部に開いた穴の大きさから助かる見込みは限りなくゼロに近いだろう。少なくとも胃袋と腸の全摘は免れない。

 苦しげに血を吐く蘆屋の顔は、奈落の悪魔の機嫌を少しだけよくしたのだろうか。巨大な肉塊の着いた尾を、何もないかのようにぶんぶんと振り回し、再び地面に落とす。

 

 

「フハハハハ……甘露、甘露……とはいえ、少々、はしゃぎ過ぎたようですなぁ……拙僧もここまでのようで…」

 

 うそつき

 

「………………ええ、まあ、ハイ。気付きますか。御明察!この拙僧は式神ゆえ!如何様にも扱っていただいて結構ですぞ?」

 

 おまえは のろまよ

 

「はあ。いまいち要領を得ませんが……何がです?」

 

 のろまで あるゆえ わたしと らっかと

 ほろびと ばつのは まちくた びれたわ

 きしらを おとせい ここまで おとせい

 

「ソソソソソ……そうそう簡単にはいきませぬと何度も申し上げておりますでしょう?事を急きすぎると地盤が疎かになりますぞ?」

 

 まちきれ ぬまちき れぬわは ようせよ

 あといち ねんのみ じかんを やろうぞ

 

「それは些か早すぎると―――いえいえいえ!分かりました、分かりましたとも!御身のお望みのままに。それで宜しいでしょう?」

 

 

 うせよう せようえ へともど るがよい 

 

 

「ええ。それではこれにて失礼をば…」

 

 

 別れの挨拶を口にした瞬間、蘆屋の意識は掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――死にましたな。ソソソくわばらくわばら…」

 

 

 意識共有が切れ、ぱちり、と、事務所内の私室で目を覚ました。どうやらマンション内の異界に送り込んだ式神が死亡したようだ。

 まあ無理もない。あそこに送り込んだ式神の能力では、奈落の悪魔を前にして生き残る事などまず不可能。

 というか今の自分の能力では奈落の悪魔相手に五分も持たない。それゆえに一刻も早く依頼を遂行し、契約を完了させねばならないのだが…

 

 

「しかし、これでは計画を根本から修正せねばなりませんな」

 

 

 天井に向かってそう呟く。

 

 蘆屋が奈落の悪魔と結んだ契約の対価は『“四騎士”と称される悪魔“支配”“戦争”“飢餓”“死”の四体を奈落の悪魔の下まで招待する』というもの。

 

 四騎士といえば漫画、アニメ、ゲームでもよく登場するペイルライダーが有名だろうか?聖書においてこの四者には、地上にいる人間の四分の一を殺害する力が与えられたそうな。

 

 ここ数年、蘆屋は仕事の傍らこの四つを象徴する悪魔を探し続けていた。

 

 とはいえ当てもなく探し続けるほど蘆屋は愚かではない。

 もともとの計画*1は、圧倒的な『死』の象徴である『アンゴルモアの大王』が降臨する1999年7月にオールインするというものだった。

 

 アンゴルモアの大王。16世紀頃に活躍したとされる大預言者ノストラダムスが、自身の預言書の中で言及した存在である。

 なぜそんな予言、というか与太話を根拠として計画を立てられるのか、疑問に思うものもいるだろう。

 

 理由は単純だ。ノストラダムスは過去『未来の悪魔』の契約者だった。そして、その中で唯一、悪魔のもたらす予言そのもの(・・・・)に着目した人間だったからだ。

 彼の晩年については詳しい事は不明だが、的中率百パーセントの予言を数多く残したというその功績から現在も多くの人間に英雄視されている。

 

 蘆屋は予言の時刻に『死』が降臨すると予想していた。

 すなわち、『アンゴルモアの大王=死』である、そして、そのタイミングで他の騎士も同時に降臨する、とヤマを張っていた。

 もしもこれで『“アンゴルモアの大王”の悪魔』が降臨したら、その時は笑ってごまかそうと考えていたのだが……そうも言っていられなくなった。

 

 

「ソソソ……ぷらんB……ぷらんBですか…」

 

 

 プランB、行き当たりばったり。世界中のあらゆるところ、山の中森の中海の中便所の中まで、草の根かき分けてしらみつぶしに探し出す。

 

 

「―――ンンンそれがやりたくないから“アンゴルモアの大王”に全掛けしたというのに!!おのれおのれおのれェェェ!!!!」

 

 

 鬱憤を晴らすように部屋の中で暴れまわるが現実は変わらない。自らが一番嫌う、一番面倒臭いモノが蘆屋道満に残された唯一の手法なのだ。

 さて、そうなれば、この四体を探し出さなければならないが…

 

 ……………もし……もし、蘆屋の予想がすべて正しかったとしよう。つまり、『アンゴルモアの大王=死』&そのタイミングで他の騎士も同時に降臨、が正しいとする。

 

 その場合、今そもそもこの世界に四騎士はいない事になってしまう。四騎士が揃うのはどうあがいても1999年7月以降、それ以前に現世にいる理由はない。だからこの場合を考える意味はない。

 

 それで、それでだ、次の予想だ。聖書になぞらえて、支配→戦争→飢餓→死の順で降臨する場合も考えられる。

 

 たしか、聖書の記述にはこの順で封印が解かれるとあったはず。最後の『死』のみ1999年7月に降臨するが、それ以外は一年か二年前倒しでやってくるパターン。

 この予想が正しければ、一番初めに降臨する『支配』をエサに交渉ができる可能性がある。だがそれでは目的を達成できない。あくまで次善のプランだ。

 

 であれば三つ目。現世には既に全ての騎士が降臨しており、予言のタイミングで暴れ出そうと現世に潜伏している。これが一番望ましい。これならば、全員を同時に奈落に落とすことができる。では、

 

 『支配』『戦争』『飢餓』『死』がいそうなところって、どこ?

 

 

「ンンンンンンンンン!!!!!!当世において飢餓なぞどこにおるというのか!?阿弗利加しか思い浮かばぬわ!!!!」

 

 

 そらそうである。というか、(悪魔)が降りてくるというのなら、自らが最も恐れられる場所に降りてくるのが筋というものだ。

 大物(有名な悪魔)は皆に恐れられているから大物なのであって、であればどこで降臨したって恐ろしいハズ―――

 

 ―――いや、事態は案外、もっとシンプルなのかもしれない。どんな場所で降臨したとて結局人類を滅ぼすのなら、最初にありったけ恐れられる方がいい。

 単純に人がたくさんいるところに出現するとするならば…

 

 

「……東京?もしや、いや、ありうる…?」

 

 

 東京。1964年に人口2,000万人を突破し、世界で初めての2,000万人都市となった、世界最大のメガシティ。ここに住む全ての人間が一人残らず死に絶えたら、それは―――

 

 

「ンンン……それならふぁーすと・いんぷれっしょんは抜群でしょうな」

 

 

 そう。第一印象は最悪(最高)のものになるだろう。では……既に全ての騎士が降臨しているとして、東京で、九年後*2まで潜伏するとしたら、どこに隠れるのだろう?

 

 

「……フム。他の三体は分からぬが、支配のみならば見当もつく……国の中枢に入り込んでおろう」

 

 

 『支配』の悪魔なのだから支配を好むだろう、という単純な予想だが、当面の活動の方針は立った。

 とりあえず政府の要職を片っ端から洗っていくことにしよう。

 

 

「ンフフフフ!思いがけず何とかなりそうで!ああ!そろそろデンジ殿が帰宅なさる時間ではありませぬか!一刻も早く夕餉の支度を済ませねば!」

 

 

 慌ただしく部屋を出ていく蘆屋の目には迷いはなかった。さあ、今日の夕飯はカレーライスだ。

 

 

 

*1
計画と呼べるほど大層なものではないが

*2
およそ十年後




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どっちもたくさんあるとS・DOMANが気持ちよくなれるのでください
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