世界征服を企みたくて!   作:バクテリオファージ卍

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#1 鍛えれば髪の毛で歩くことも出来る

 私ことギスター男爵家が長子、レコン・ギスターの朝は早い。

 

 それは決して規則正しい健康的な生活を心がけてのものではなく、個人的な趣味によるものである。というのも毎朝起きるのは朝の4時。早起きというには早すぎた。

 私自身出来ればこんな早起きなど勘弁願いたいのだが、しかし私にはやらねばならぬことがあった。

 

 それは相手を支配すること。

 

 森羅万象を己が膝元に傅かせること。

 

 即ち――世界征服を。

 

 私は趣味には全力を尽くすタイプだ。前回は全力を尽くしすぎて()()()()失敗してしまったが、それでひるむ私ではない。挽回の機会をこうして与えられたのならば、()()全力で世界征服を企むのが道理だろう。

 

 そう、私はかつて世界征服を企み――失敗した。

 

 脳天にバールを叩きこまれて、あっけなく昇天。しかし何の因果か再び生を賜り、今の私はレコン・ギスターを名乗っていた。

 

 要は異世界転生したのである。

 

 ――前世の敗因について、考えない日はなかった。

 まず第一に、警察と公安に目を付けられたこと。これが結構痛かった。彼らの追跡から逃れるために戦力を日本各地に分散し、拠点を転々としていたのが敗因の一つなのは間違いない。

 原因は明白で、悪の秘密結社過ぎたこと、組織力の欠如、そして何より狂人を想定できなかったこと。

 悪事を働けば公権力や裏社会から目を付けられることは避けられない。

 これを回避するためには組織を巨大化し、各界に工作員を潜り込ませるのが必須だったろうが、しかし前回はそうした“政治”に無頓着すぎた。

 そしてこうした弱い組織は、たった一人の狂人を前に瓦解する。「これだけの準備があれば大丈夫だろう」という慢心と、想定の不足が結果として前回の組織崩壊につながったと言えよう。

 

 うん、反省しよう。

 

 私は反省の出来る男だから、自らの過ちを認め不足を補うことが出来るのだ。

 

 その“狂人”本人が指摘していた構成員のフィジカル不足こそ、慢心と想定不足の際たるものであると――不本意ながら認めることだって、出来る。

 

 そして事は早起きに帰結する。

 

 今世において未だ組織を持たぬ私が今できることは、フィジカルを鍛えることに他ならない。

 朝四時起きは全てフィジカルのため。朝から晩まで野山を駆け、諸々の特訓の後素手で岩を殴り熊との死闘を経て就寝に至る。おかげで齢12歳にして隠しきれない筋肉と傷跡をその身に纏うことになったが、幸いなことに今世の両親は「男の傷は勲章」な田舎の蛮族貴族だったので特に問題にはならなかった。

 もっとも、只人がどれだけ鍛えようとも素手で岩を砕けるようにはならないし、熊をステゴロで相手取るようなことなんて不可能であることは承知の上である。

 しかしここは前世とは異なった法則が支配する正真正銘の異世界。

 

 素手のみで岩を砕くことは出来ないが、《魔力》を込めた拳なら話は別だ。

 

 《魔力》――それはこの世界に存在する不可思議な力。人はこの力を体内に取り込んで、肉体を強化したり武器に魔力を纏わせたりすることで人の域を超えた能力を発揮することが出来るのだ。理論上、限界まで鍛えた筋肉の、そのさらに上を目指すことも《魔力》を用いれば不可能な話ではない。実際、そうやって魔力で肉体を強化して戦う“魔剣士”なる者が存在するのだし。

 しかし残念ながらこの世界の住人は、魔力を扱いながらも《魔法》の発見には至っていないらしい。体外に放出した魔力をコントロールするのは至難の業だから、中々発見に至らないのも当然ではあるが……ちょっと残念だ。世界征服の暁には世界中の科学者を集めて魔法研究に従事させようと心に誓う。

 

 閑話休題。

 

 ともあれ魔力を用いての超人的特訓は一定の成果を出しつつあった。(私は結果の伴わない努力を嫌う質なので、結果が出るのは当然のことであるが。)

 

 最近は体内魔力量も凡人の域を脱して達人クラスにまで成長できた感があるし、手ごろな岩くらいなら素手で破壊できるし年老いた熊一匹ならワンパンで倒せるレベルになったので成果は上々。今の実力なら並みの魔剣士相手に負けることはないだろう。

 だがしかし、それでは“狂人”相手には勝つことなどできない。

 

 ――あの“狂人”がもしこの世界に転生してきていたら?

 

 そんな想定は無意味かもしれない。

 しかしこの世界に“絶対”なんてことはない。

 最悪を想定してそれに備えることは世界征服をする上では必須事項だ。

 

 なんせ、私の夢はこの世界を征服した程度で終わることなどないのだから。

 

 いつか《魔法》を完成させ、“こちら”と“あちら”を繋げてやる。そうして私は前世の地に降り立ち、かつての同志たちと誓った世界征服を完遂させるまで、私の夢に終わりはこない。

 

 そのときにまだ地球であの“狂人”が生きていたら?

 

 どちらにせよ、アイツは私の夢を阻む障害となり得る――まさに宿敵とも言える相手。 

 

 故に、私の特訓に果てはない。

 いずれ組織を作ったときには、その構成員全てに私と同じトレーニングを受けてもらうつもりだ。少なくとも構成員の実力は、最低でも武神祭優勝レベルに揃えることを目標にしよう。

 

 だって、世の中にはそのくらいじゃないとエンカウントしたら終わりなエネミーが沢山いるんだもの。

 

「備えあれば憂いなしっていうもんね」

 

 私は言うと、黒ずくめのフードを被った男の胸に深々と右手を突き刺した。右手は胸を貫通して背中を抜け、その手中には心臓が握られていた。

 そうだ、胸を貫かれた男の心臓だ。

 

「ギュポッ!」

 

 胸から腕を引き抜くと、男はそれだけを言い残して絶命。地に伏した。

 

「3rdとはいえチルドレンがこんなにもあっさりとッ!? 化け物がッ」

 

 そう叫んだのは誰だったのだろうか。

 丑三つ時の森の奥深く。

 今日も今日とて特訓に勤しんでいた私の周囲には、先ほど死んだ男と同じく黒ずくめのフードを被った男たちが20人程。その手には殺意の高そうな鋭利な剣が握られていた。

 彼らこそ武神祭優勝レベルでないと真面に太刀打ちできないエネミー。

 

 その名を、《ディアボロス教団》と言った。

 

 彼らはその組織の下っ端だが、それでもなかなか一般人相手では難しい相手だ。まったく、私も集団戦にはまだあまり慣れていないのだけど、しかたないね。

 

 だって、彼らも世界征服を目論んでいるみたいなんだもの。

 

 ライバルだというなら、見つけ次第狩り取っておくのが吉だからね。最近は狩りすぎて向こうから来るようになっちゃったけど、それはそれで特訓になるから良し。

 

「残念だけど、世界を取るのは私達だ! さあ、世界征服レースと行こうじゃアないかッ!!!!」

 

「ッ――あいつを殺せェ!」

 

 私の宣言を合図に、一斉に武器を抜刀し襲い掛かってくる彼ら。その一糸乱れぬ動きと黒い服装が相まって、どことなくクローンヤクザめいていた。体のあちこちを弄られている彼らはそれに近い存在というのもあるだろうが。

 

 うーん、良い。

 

 前世はヒョロガリインテリ研究職に過ぎなかった私も、今世は筋肉ムキムキマッチョマン。有り余るテストステロンが私を戦闘狂に変えてしまった。

 要は、殺し合いが楽しくて仕方がないのさ!

 

「君たちはどんな死に方を望むかい? 望みがあるなら言うといいよ。その通りに殺してやるだけの余裕というものが、今の私にあるということをその胸に刻み込んで死ね!!!!」

 

 私の抜き手が連中の間を駆け抜けるたび、血と臓器と脳漿が舞う!もちろん私のモノではなく、その全てが彼らのものだ。

 

「目だ」「ぐわ」

 

「耳だ」「うえっ」

 

「鼻!」「ギャッ」

 

 次々と急所を突かれ、為す術もなく崩れ落ちるディアボロス教団構成員たちを尻目に、猪突猛進ばりに突っ込んでくる奴が一人。

 

「2ndや3rdを倒したくらいで粋がってんじゃねえぞこのガキあッ!!!!チルドレン1stである《激震のイノリプス》様が格の違いという奴を教えてやるッ」

 

 黒ローブを脱ぎ捨てた彼――イノリプスは名乗りもそこそこに幅広のグレートソードを私の頭蓋めがけて振り抜いた。

 躊躇なく急所を狙う、良い判断だ。

 

「だけど、()()の失敗を反省した私相手に頭部を狙ったのは失敗だったね」

 

 ガキンッ

 

 剣戟を躱す素振りも見せない私の頭部に、確かに彼の剣は届いた。しかし彼の手に響いた感触は人間の頭を砕いたものではなく、鋼鉄を叩いたそれに近かっただろう。

 それを証明するかのように、余裕気にニヤついていた彼の顔から余裕が消えた。

 

「お前、本当に人間かッ!?」

 

 イノリプスの叫びももっともだったろう。

 なんせ彼の剣をもろに受けた私の頭は、凹むどころか傷一つ負うことなどなかったのだから。

 

「もう一度聞こう……好きな死に方は?」

 

「狂人がッ」

 

 失礼な奴だ。

 

 失礼な奴には失礼で返すのが私の信条だ。故に、イノリプス君のことはその猪突猛進ぶりにちなんで、豚と同じように屠殺してやることに決めた。

 

 足の腱を指の爪で切ってやると、途端に彼は動けなくなる。

 

 人体というのは不思議だ。

 

「ぎゅぽろろろろっ」

 

 足首を縛り木に吊るした彼の首を、彼の愛剣で撫でてやった。

 

 人間死ぬときは呆気ないもんだ。

 まるで知性を持った生き物だったとは思えない反射だけの動きをするイノリプスを前に、私は人生の悲哀を感じていた。

 森の奥でゆっくり腐っていってね!

 

 さて、種明かしをしよう。

 

 何故私はイノリプスの剣を頭で受けて平気だったのか?その秘密はやはり“魔力”にあった。

 最近は魔力コントロールに限っては達人の域を超えてきた気配があり、その精度は魔力だけで肉体を動かすことが出来るようになるほど。要は∀ガンダムだと思ってもらえばいい。Iフィールドビームドライブっぽいことを魔力で実現したのだ。

 今回のは、その応用だ。

 髪の毛の隅々にまで魔力を廻らせた私は、髪の毛の一本一本に身体強化をかけた。やったことはただそれだけだ。

 常人なら髪の毛に魔力を廻らせるのは至難の業だろうが、私にはできる。

 さらに効果を高めるために髪の毛で白刃取りみたいなことも一緒にやってみたけど、あんまり必要はなかったかな。相手が弱すぎて。

 

 いつもは午前三時頃に就寝するように心掛けているのだが、今日はディアボロス教団の尖兵に襲撃されたせいか夜は深まるどころか明けてきていた。

 魔力コントロールの応用で瞬間睡眠(脳を操作して瞬間的に睡眠を完了させる技)を獲得している私を前に睡眠時間のロスなど些事……と言いたいところだったけど、今週は瞬間睡眠のし過ぎで脳に負荷がかかり過ぎてるし、ちゃんと寝たいんだよね。このままじゃ世界征服の前に脳味噌が溶けちゃうよ。

 

 ――さっさと戦利品を回収して帰ろう。

 

 ディアボロス教団尖兵の馬車に繋がれた馬が暴れるのでサクッと殺して、荷台にある金目の物を物色し始める。敗者の財を略奪するのは勝者の当然の権利だ。回収した金品は将来の秘密結社運営に当てたいと思う。

 がしかし、中々金目のものは見当たらない。

 当然と言えば当然の話で、連中は私を殺しに来た襲撃部隊。山賊ってわけでもないから貴重品は最低限しか積んでおらず、その殆どが食料品ばかり。

 食うに困っているならありがたかったんだろうが、私はこれでも貴族の子息だからね。食料には事足りてる。

 

 そうやってがさごそと荷台を漁っていると、鋼鉄の檻を奥から発見。

 

 中ではグロテスクな肉塊が蠢いていて不気味だ。

 

「うげー、連中も趣味が悪いな。いや、前世では私も同じようなことはしていたか。実験体4号くんは元気かなぁ」

 

 相模湾に解き放ったクラゲと人間の合成生物《実験体4号》のことを思い出し懐かしくなった私は、その肉塊に実験体9号(ノイン)の名前を与えて育てることにした。

 

「よーしよしよし、家に帰ったらお前用の小屋を作ってやるからな! 一緒に世界征服しような!」

 

 肉塊、もといノインは私の言葉にフルフルと身を震わせて応えた。肉塊過ぎてその意図は読み取れなかったが、私は世界征服を目指せることが嬉しいのだと解釈した。

 

 仲間ひとりゲットだぜ!




レコン・ギスター……主人公。世界征服の為にフィジカルを鍛えている。現時点では15歳アルファより強いくらい。雑に超科学を使ってくる。見た目は新ゲの隼人みてーな雰囲気。

(2025/10/10修正。ゼノンじゃなくてアルファより強いことにしました)
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