A memory for 42days   作:ラコ
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冷たい雨は暖かいコーヒーとなって。

 

 

しとしと雨が降りしきる町を、とある女性が傘も差さずに歩き回る。

周りは彼女が見えないように、見てはいけないように目を背ける。

少し乱れた服は、もはや水に浸しかのように湿っていた。

誰にも見せられない泣き腫らした目を隠し、彼女は町を歩き続ける。

 

 

「………」

 

 

無心で脚を動かしていたのか、彼女にとって見覚えのない場所。

薄暗い建物の裏に迷い込んだと思いきや、とても暖かそうなオレンジの光を溢れ出す一軒のお店が見える。

 

彼女は導かれるようにお店へ脚を向けた。

 

ドアを開ける手に力が入らない。

 

この惨めな姿を誰にも見られたくないからだ。

 

惨めな姿。

 

こんなはずじゃなかった……。

 

23歳にもなって男に騙されるなんて。

 

人生がイージーモードだったのは大学生の時までだ。

 

高校生の頃は人を騙すなんて簡単だったのに…。

 

仮面を着けた私に、健全な学生は皆メロメロだったんだ。

 

 

「……あぁ、1人だけ騙せなかった人居たなぁ」

 

 

あの陽だまりのような空間に居た1人の男の子。

 

変わった部活を3人で仲良くとやっていたあの人達。

 

眩しかった。

 

私は見惚れていた。

 

そう、今目の前にあるこのお店のような暖かい人達。

 

あの時に私がもう少し3人に踏み込めていたらって、今さらながら後悔してしまう。

 

彼女の手に力が込められる。

 

押された扉は抵抗なく開かれ、店内の暖かさに身体が包まれるような感覚に襲われる。

 

……、あぁ、寝ちゃいそう。

 

 

「いらっしゃい。……、おまえ…?」

 

「あ、ずぶ濡れですいません。タオルとか頂けません?あとあったかいコーヒーを……、え」

 

 

彼女の目には信じられない光景が広がっていた。

 

カウンター席だけ設けられた店内はモダンな家具で彩られている。

間接照明が暖く店内を照らし、耳心地良く流れるクラシックメロディが店の雰囲気に合っていた。

一言で言えば居心地が良いと一瞬で思わせる空間。

 

……。

 

 

そして、カウンター内に佇む1人の店員

 

 

「……うそ…でしょ」

 

 

彼女は店員から目が離せない。

 

思わず目から涙が出て来てしまう。

 

こんなに堪えられないことは今迄にあっただろうか。

 

 

「……久しぶりだな。変わった……か?」

 

「……ひっぐ、うぅ…」

 

「……変わってないか。おまえ、いつだったかも電車ん中でずっと泣いてたもんな」

 

 

私は変わった。

 

それも悪い方に。

 

だけど、それは人が大人になっていくにつれて変化する心情というか……。

 

周りが変化すれば私も変わる。

 

高校の頃のように、全てが上手く行くわけではない。

 

なのに、目の前にいる”彼”は何も変わらない。

 

あの時のまま、何も変わらない。

 

 

「あ?何見てんだよ。間違えて惚れちまうだろうが。…タオル持ってくるからそこ座っとけ」

 

 

大きなタオルを持った彼が私にそれを被せる。

無言で受け取る私に嫌な顔せずに彼は接してくれた。

 

 

「……っ、う。ひっぐ」

 

「……、これ飲めよ。身体が暖かくなるから」

 

 

私は適度に温められたコーヒーを啜った。

 

 

「……甘い、です」

 

「買い溜めしといたMAXコーヒーをレンジでチンした」

 

「……なんですか、それ。ここって喫茶店じゃないんですか?」

 

「喫茶店だが?だからMAXコーヒーを提供してやっただろうが」

 

 

本当に変わりませんね。

 

喫茶店ならもう少し凝ったコーヒーを頂きたいんですけど……。

 

……でも、この味が懐かしいなんて思えちゃう。

 

思い出がコーヒーの甘さのようにとろけ出す。

 

涙になってとろけた思い出がカウンターに一粒、二粒と滴った。

 

嫌になっちゃう1日だ。

 

そして、絶対に忘れない1日だ。

 

こんなに気持ちが起伏するなんて。

 

谷の底に居たような冷たい場所が、一瞬にして太陽に手が届くような暖かい場所に変わった。

 

 

「……で?何しに来たの?一色」

 

 

「……、喫茶店に来るのに、理由が必要ですか?先輩」

 

 

 

 

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