A memory for 42days   作:ラコ
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拾う者と守る者


客足が途絶えた昼過ぎに、私は休憩時間を利用してスーパーへ買い物をしに行った。
買い物リストは牛乳と食パン。
近場のコンビニで済まそうと考えたが、最近の経営状況を思うに少しでも損出は少なくしたい。
そのため、私は遥々一本139円の低脂肪牛乳ゲットするためにスタコラ脚を働かせたわけで。


問題はその帰り道に起きた。


問題の提起に為す術なく私は解を求めて頭を巡らせた。
どうすれば最善の策に辿り着くのか。
この場で出せる判断は間違っていないか。
幾重にも連なる思考の連鎖に、私はその問題を喫茶店へと持ち帰ることに決めた。


先輩、ごめんなさい。


あなたに嘘をつく私を許してください。



……

.



手に掛けた扉が抵抗なく開かれると、客足を教える銀色の呼び鈴がなった。
その音に反応したのは先輩だけ。
正確に言うなら、喫茶店に居たのは先輩だけだから。


「一色、遅かったな。物は買えたか?」

「……え、えぇ。買えましたけど?」

「あ?何で入口で固まってるんだよ」

「私がどこで固まろうと私の勝手ですよね。はい、買って来た物はここに置いておくんで」

「いやいや、せめて店内まで持ってこいよ。そこに置いたらお客さんが通れないだろ」


私はとある”物”を背中に隠しながら、牛乳と食パンが入った袋をカウンターへ無造作に置いた。
怪訝そうに睨む先輩の眼光から目を逸らさぬよう、私はゆっくりゆっくりと後ろ歩きで扉へ向かう。


「……?ん、……、この臭い」

「な、何です!?」

「いや、なんか”あいつ”と同じ臭いが……、って、一色、おまえ背中に何か隠してないか?」

「背中!?背中ですか!?ブラのホックぐらいしかありませんけど!?」

「あ、いや、まぁ……。んー、やっぱり臭う、……!おまえ、もしかして……」

「ぐぬぬ!!それ以上その口を開くようなら容赦はしませんよ!!」


「おまえ、背中に猫を隠してるのか?」


バレてしまった。
同時に、賽は投げられた。
これはこの子を守るための戦争だ。
私の背中で震える子猫を守るための戦争なんだ!!


「言っておきますけど、私はこの子を見捨てる気はありませんよ」

「捨て猫なんて拾ってくんなよ。捨ててこい」

「ほぅ、この子の目を見てもそれが言えますか?」

「ウチのバカ猫と同じ目だな。捨ててこい」


私の腕の中でミーミーと泣く声は、きっと私に助けを求めているのだ。
この冷徹な悪魔から僕を救ってと……。


「この寒空の下で放置されたら死んじゃいますよ!」

「見なかったことにすりゃいいだろ」

「事なかれ主義に徹する気はありません!」

「だめだ。この店は食品を扱ってんだぞ?」

「猫カフェにしましょう!」


前に生花を飾ろうと提案したとき同様に、先輩は衛生的なことを気にしているのだろうが私だってそのくらい理解している。
でも、捨てられたこの子と目があった時、どうしてもそのままにしておくことはできなかった。
この子が必要のない存在だと思われたくなかった。
生物学的な相違点はあれど、この子と私は同じ穴の狢だから。
独りで歩く暗闇の暗さを知っている私だからこそ、この子を拾って育てる義務がある。


「……誰かが守ってくれないと死んじゃいます」


子猫の肉球が私の掌を弱々しくパンチした。
どうやら強く抱きしめ過ぎたようだ。


「……」

「……」

「……はぁ。おまえがしっかり面倒を見ること。それで飼うことを許してやる」

「……ぇ、ほ、本当ですか!?」

「厨房には入れないようにしろ。あとは……、保健所で許可もいるな。その他もろもろ、おまえが責任もって守ってやれ」


拾う神は心が寛大のようだ。
先輩は小さく溜息を着き、子猫の首根っこを掴むと自分の顔の目の前に運ぶ。


「本当にウチのバカ猫そっくりだな」

「う、うぅ、…。先輩、ありがとうございます。子猫を救う優しさ程度は持ち合わせていたんですね」

「……おまえなぁ」


「命の輝きを灯させた先輩に敬意を表して、この子の名前は”八幡”にします!!八幡!ほら、おいで!!」


「……」


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