A memory for 42days   作:ラコ
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綺麗な歪みに

 

 

いつもと景色が違う窓。

どこか居心地の悪いレイアウト。

明る過ぎる照明。

 

 

小さく深呼吸をしながら、私はオーダーした紅茶を飲む。

ストレートティーが喉を通ると少し残念な気持ちになった。

 

いつも淹れてくれる紅茶と違っておいしくない。

 

根本的に淹れ方が違うんだ。

 

優しさが入ってないなんて洒落たことは言わないけど、きっと先輩みたいな丁寧さが足りない。

 

お客さんを捌くために淹れる紅茶は美味しくない。

 

お客さんを迎え入れるために淹れた紅茶が欲しい。

 

 

私は落ち着かない気持ちを落ち着かせるように両手を硬く結んだ。

指定した喫茶店に現れるであろう待ち人のことを考えると胸が不安に飲み込まれる。

何を話せばいいかは分からないけど、何を聞かなくちゃいけないかは分かっているつもりだ。

 

 

紅茶に口を付けたとき、待ち合わせの時間から5分を過ぎた頃に彼女は現れた。

 

 

電車の中で考えごとをしていたら降りる駅を間違えてしまったらしい。

慌てて来たのか足下が少し濡れていた。

そんな事もお構いなしに、彼女は裏表のない笑顔で近づいてくる。

変わらないセミロングの髪がふわふわと揺れ、久しぶりに会ったというのにまるでそれを感じさせない。

 

彼女も先輩に救われた1人。

そして、肩身の狭かった私と違って先輩と対等な存在だった女性。

羨ましいと思う反面、勝てないとも思わせる程に彼女は、綺麗で、素敵で、どんなときでも先輩の味方であった。

あの空間の一員で、誰かが代わることも出来ない唯一無にの存在。

まるで隣に居るのが当たり前のように、思い出の空間を彩る彼女の雰囲気。

 

 

 

そんな彼女が、どうして”あの喫茶店”に顔を出さないんだろうか。

 

 

だから、私はこうして彼女を正面に見据えるための会合を開いたのだ。

 

 

 

「……卒業してから、何があったんですか?」

 

 

 

その一言で、彼女は誰が見てもわかるくらいに暗くなる。

あんなに眩しかった笑顔も、今は下を向いてしまって見ることが出来ない。

 

何秒経ったのだろう。

 

彼女は何も言わずに、いや、言えずに下を向き続けた。

 

 

 

「顔を上げてください。過去に何があったのか私には何もわかりません。だけど……」

 

 

 

下を向いていた彼女の顔が上がる。

目には涙が浮かんでいた。

綺麗な瞳に私が映るように、私の瞳にも彼女が映る。

 

 

 

「今の先輩達が良くない状況だってことはわかります。だから、私も手伝いますのでその歪みを解消しましょう」

 

 

 

私はライバルの1人に手を差し伸べた。

 

 

今なら真っ向から勝負を挑める。

 

 

 

「先輩に会ってください……。

結衣先輩」

 

 

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