A memory for 42days   作:ラコ
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特別への献上



読み掛けの本がベットの隅に追いやられていた。
一冊の小説は物語を始まらせ、終わらせるように、私の生きてきた時間、今日と言う一日、これからの未来は、きっと始まることと同時に終わりに向かっている。

そう考えてしまうと、大切な物語を終わらせたくないと言う気持ちが強くなり、佳境に入った小説を手に取る気分ではなくなってしまった。

私は混み時を過ぎた喫茶店でちびちびとアイスティーを飲みながら先輩を眺めてみる。

彼の手にはコーヒーカップ。

どうせお砂糖を沢山入れた先輩仕様なのだろう。
何を考えているのか分からなそうで分かりやすい先輩の顔は、今日もこれといった目的もなく一点を見つめている。

目線の先には棚に飾られた睡蓮花模様のティーセット。
使わられないティーセットは店の雰囲気を醸し出すための演出なのか、それとも使えないほどに大切なのか。

しばらくして、先輩の足元に擦り寄って居た八幡(猫)がミーミーと泣き出す。
それを合図に先輩は八幡(猫)を抱き、私に目線を送った。


「飯が欲しいだとよ」

「お、流石は八幡バイリンガル。八幡のことは先輩が1番分かってますねぇ。ほら、八幡。ご飯の時間だよー」

「……名前変えろ」

「ねぇ八幡ー。今日もお客さんが来なくて暇だねー。散歩でも行こうか」


私は先輩から八幡(猫)を受け取り、餌をあげる。
美味しそうに食べると思いきや、半分程残してどこかへ行ってしまった。


「はぁ、本当に散歩でも行ってこようかなぁ」

「散歩はまた今度にしろ。それよりもおまえ、今どんな服持ってる?」

「唐突ですね。この制服と適当に買ったインナーとアウターとスラックスくらいですけど」

「……だよな。なら買いに行くぞ。さっさと準備しろ」

「え!?買ってくれるんですか!?やったー!!」

「勘違いすんな。明日着ていく服だよ」

「明日?……、雪ノ下先輩のお母さんとご飯食べる約束の?」

「あぁ。俺はサイゼが良いって言ったんだがな。あの人のお口には合わないらしい」

「そりゃ、雪ノ下先輩みたいなお金持ちの口には合わないかもしれないですねぇ」


私はせっせと準備をし、お店の外にクローズの看板を置いた。
お店が位置する路地裏から国道に出てタクシーを停める。
先輩に続いて乗り込むと、タクシーは先輩が指定した行き先へと走り出した。
20分程走り、目的地に着いた私達は送ってくれたタクシーを見送りながら大きなショッピングモールに入っていく。
決められた道を行くように、並んだお店に目もくれずに先輩は歩いていった。

到着したのはフォーマルスーツが並ぶフォーマルファッション店。


「……?」

「ビジネスフォーマル系があの人の好みだとさ。ほれ、自分に似合ってるの探してこい」

「えぇっと……、こうゆうの良く分からないって言うか、話が急過ぎるっていうか」

「ドレスコードがあんだよ。あの人の行きつけは」

「え!?すごい高級そう!!」

「だから俺らもそれなりの服装で行かないといけないわけ」

「なるほどねー」


淡白な説明を受け、私は再度店内に飾られたスーツを眺める。
スーツとは言えビジネスフォーマルともなると選択の幅がすごく広い。
正直、良し悪しも分からない。


「いらっしゃいませ。お客様、何かお探しですか?」

「えっとぉ、偉い人とご飯食べるときの服装ってどんな感じですか?」

「そうですねぇ、偉い人にも種類がありますから。どのような御用途で?」

「えっと……、勝負?」

「バカ。……知人に常識的だと思わせるくらいの服装でいいんだよ。あまり固すぎない程度で」

「あら、彼氏様ですか?…あ、もしかしてご結婚のご挨拶に着ていく服装でよろしいのでしょうか?」


店員さんは幸せそうに私と先輩を交互に見つめた。
笑顔に悪気はまったくなく、本当に他人の幸せを喜んでいる表情だった。


「はい!」

「違う。上司との会食だと思ってくれたらいい。適当に選んできてください」

「ふふふ。お幸せそうで。では、こちらのフィティングルームまでお願いします」


店員さんに促され試着室に向かおうとすると、先輩はフラフラとお店の外に出ようとする。


「ちょっと!どこ行くんですか!?」

「あ?おまえの試着を待ってる間に本屋でも行ってこようと」

「バカですか?先輩が選んでくれなきゃ誰が選ぶってんですか!!」

「……店員さんかおまえが選べよ」

「はぁーーー。……、いいですか?常識的に考えてください」

「まさか、おまえに常識を諭される日が来るとはな」

「こうゆうのは色々試着しながら2人で決めるのがお約束でしょ?」

「ほう、そんな約束は知らんな。だったらおまえと店員さんの2人で決めてくれ」

「バカかよ!!」

「……。」


「あ、あの、2人とも落ち着いてください。彼女さんの言い分を肯定するわけじゃありませんが、少しくらいご選択のお手伝いをしてみてはどうですか?」


私と先輩が睨み合ってる間を取り持つように、店員さんは小さな声でその場を宥めてくれた。
店員さんに言われて少し堪忍した先輩は、重そうな足取りで試着室まで着いて来る。

これと言って特別な物を買うわけではないが、、私が着る服や付けるアクセサリーは先輩に選んでもらいたい。
それを贈り物と言うにはふてぶてしいかもしれないが、少なくとも先輩が選んでくれた物なら何だって特別になるから。


「じゃぁ、まずはこれから着るので一緒に選んでくださいね」


「2番目に着たやつでいいんじゃない?」


「まだ1着も着てませんけど!?」


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